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帰ってきた聖竜ガイウス

いつも読んでくださってありがとうございます。


 狭間の世界から戻ってきたガイウスは、まずグッドルム渓谷でガイウスの帰還を待つネストーレ軍の駐屯地へ戻った。

 そこでロドルフ達と合流し、ゲアトルースを魔道具で拘束した。



「こんな物で闇竜を拘束できるのですか?」

「うむ、心配いらぬ。そもそもゲアトルースの魔力は私が押さえている。今は力の持たぬ子竜と同じだ」



 人間の姿をとったガイウスはロドルフにそう告げると、魔物を捕らえる檻にゲアトルースを入れ、そしてその檻に聖属性の封印を施した。



「これでゲアトルースはここから出られん」

「それはどのくらいでしょうか?」

「しばらくは大丈夫だろう。だが、ゲアトルースも守護竜の一体だ。力が戻れば簡単にここから出てしまう。だからそうならないよう、すぐにでも神殿に戻りアウキシリアの力で強固な封印をしなければならん」

「ではガイウス様は先にお戻りになるんですね」

「そうだ。お主達もご苦労だった」



 そう言うが早いかガイウスは竜の姿に変化する。

 そしてゲアトルースの入った檻を掴むと、上空に飛び立った。



『ロドルフよ、王都で待っているぞ』



 バサッと大きな羽音を立ててガイウスが飛び去る。

 その姿を見てロドルフや他の兵士達は安堵の息を吐いた。



「聖竜ガイウス様がご無事で良かったですね」

「そうだな。ガイウス様の無事を確認できたのだから、もうここに用はない。魔物の解体もほぼ終わっているな?」

「はい。全ての討伐した魔物の解体作業は終了しております。血肉は燃やした後、土に埋めておきました」

「では撤収だ。一時間後には出発する。皆に撤収作業に入るよう告げろ」

「はっ!」



 部下に命令した後ロドルフも身の回りを片付けだす。

 ようやく王都に戻れる事にホッとするが、帰路も警戒を解く訳にはいかない。

 カロレッタからの連絡によれば、ドラウ族達がイルナを狙って王都に忍び込んでいるらしいのだ。



「早く戻らねば」



 逸る気持ちを押さえながらも、ロドルフは撤収作業に取り掛かった。





 ※※※




 一方王都にある聖竜の神殿では。



「イルナ、ロドルフ様が戻って来るわ」

「え、本当ですかお母様!それではガイウス様もお戻りになるんですね!」

「ええ。ゲアトルースを連れてね」

「え」



 最後の一言にイルナが目を丸くする。

 ゲアトルースを連れて来るとはどういう事なのだろうか?

 勿論ゲアトルースとの戦いに勝ったというのは分かるが、捕縛したという事か。



「魔力を奪って拘束しているそうよ。ここに戻ったらその捕縛を強固なものにしたいから、イルナの力を借りたいと言っていたわ」

「え、それって手紙か何かに書いてたんですか?」

「まあ、違うわよ。聖竜の巫女である私はガイウス様と念話できるのよ。直接お聞きしたわ」

「念話…お母様ってやっぱりすごいんですね…」



 改めて聖竜の巫女に選ばれたカロレッタを尊敬する。

 よく考えなくてもルキウスが聖竜の男巫に選ばれるまで、誰もカロレッタの後継となる者は現れなかったのだ。そのせいで人よりも長い任期を務めている。

 ルキウスは素質があると言うよりも、ガイウスの血族だからこそ選ばれたような所もあるので、そう考えれば色んな意味でカロレッタの力はすごいのだろう。



「でもようやく戻って来られるのなら、ルキウス様も一安心ですね」

「そうねぇ、ずっと竜の姿で過ごしていたから、ベッドで眠りたいとか呟いてたわね」

「まあ」



 それは何となく同情しそうになる。

 いくら聖竜の後継者とは言え、20年近く人間として過ごしていたのだから、ベッドの一つや二つ恋しくなるだろう。

 何だかそう考えるとおかしくなってきて、イルナがクスリと笑みをこぼす。

 するとその時、突然周囲が騒がしくなった。



「…戻られたわ」

「えっ」



 カロレッタが神殿の上空を仰ぐ。

 すると太陽の光を反射させながら、聖竜ガイウスが降臨したのだ。



『今戻った』

「おかえりなさいませ、ガイウス様。ルキウス君が首を長くして待っていましたわよ」

『ルキウスにもいい修行になっただろう。イルナも変わりないようで何よりだ』

「おかえりなさいませ。ガイウス様もご無事でなによりです」



 カロレッタとイルナがお辞儀をする。

 ガイウスはいつもの場所に降り立ち手に持っていた檻をイルナ達の目の前に下ろした。



「ガイウス様、これはもしかして…」

『ゲアトルースだ。今は私が力を押さえてあるが、あまり長くはもたん』



 カロレッタの質問にガイウスがあっさりと答える。

 イルナは驚くようにゲアトルースをしげしげと眺めた。


 黒い小さな竜。



「…可愛い」

『ん?』



 思わず呟いた声にガイウスが訝し気な顔をする。

 けれどイルナは檻に近付き、じーっと子竜姿のゲアトルースを見つめた。



「この子竜がミンストレル国の悲劇を起こした、闇竜ゲアトルース…」

『そうだ。一時的に魔道具と私の魔力でおさえているが、こ奴も守護竜のうちの一体だ。弱っている今のうちにしばらく悪さができぬよう、力を封じておきたい。イルナ、力を貸せ』

「…わかりました」



 コクリと頷き聖竜の元へ近付く。

 そしてガイウスとイルナが共に魔法を唱える。


汝の力を封じる(シジリルムディアボル)

増幅せよ(アンピリフィカティオ)



 パアッと辺りが光り、ガイウスの放った魔法をイルナの魔法が増幅させる。

 そしてゲアトルースを光が包み込んだ途端、ゲアトルースが苦しみだした。



『うああああ!や、やめろ…!!また私を封印する気かあああ!!』

『馬鹿者、封印等せぬわ。お前の力を封じ込めるだけだ』

『それのどこが違うと言うのだ!私の力を封じてしまうのなら、私を封印する事と同じではないか!』

『そんな事をすればあの魔王が黙っていないだろう。それに何も全ての力を封じる訳ではないわ』

『くっ…、こんな屈辱が…!私の力が……闇の力が…!』



 ヨロヨロと体をよろけさせながらゲアトルースが立ち上がる。

 そしてギロリとイルナに視線を向けた。



『おのれ…!お前が増幅術師(アウキシリア)か…!よくも私を…!』

「あ、あの…」

「イルナ、気にしちゃダメよ。これは貴女ではなくガイウス様が決めた事。そして貴女はガイウス様のお手伝いをした、それだけなんだから」

「お母様…ですが…」



 ゲアトルースの見た目が悪い。

 可愛らしい子竜の姿で苦しみ悶えているのは、見ていて辛いものがある。

 そしてイルナ達はミンストレル国の悲劇の真実を知っているだけに、どうしてもゲアトルースに対して悪い感情を持ちきれないのもあった。



「ガイウス様。ゲアトルースはどうなったのですか?」



 カロレッタがガイウスに問いかける。



『ゲアトルースは負の感情を使い力を増やす。だがその能力を封印した』

「つまり…」

『誰かの憎しみや恨み等と言った感情を糧にする事ができなくなったのだ。まあ、そんな事をしなくても元々こ奴は我等と同じく膨大な力がある。それを上乗せする事をできなくしたから、今後ゲアトルースを恐れる事はなくなるだろう』



 要するに力を増大させるものを封じてしまったので、今後は他の守護竜達と力加減は対等だそうだ。

 勿論聖竜ガイウスには敵わないが、世界の脅威としての存在ではなくなったと、ガイウスはカロレッタに説明した。



「でも封じたのであれば、それを解く事もできるのでは?」

『いい質問だが、その点は大丈夫だ』

「え?」

『ゲアトルースのソレは、魔王が解決してくれるだろう』

「魔王って、ヴァルデマーですよね?え、でも彼はエミール王国に連行されたのでは…」



 普通に考えてこんな事態を起こしたのだから、死刑になるはずだ。だがそれをガイウスは阻止したらしい。

 よく分からないがゲアトルースの今後は、と言うよりも、ゲアトルースと魔王の今後はお互いにかかっているとの事だった。



「…なるほど、そういう事でしたのね」

「え、お母様は分かったのですか?」

「うふふふ、伊達に貴女より長く生きてないわよ?」

「それは知ってますけど…」



 何だか馬鹿にされたようで悔しい気持ちになるが、どうやらカロレッタは謎が解けたらしく満足そうにうなずいている。

 それをイルナに教える気がないのも分かったので、イルナもカロレッタから聞き出すのを諦めた。



『クソッ…ヴァルデマーを助けてやらねばならんのに…!』

『お前がそこまであの人間にしてやる義理はないだろう?放っておけばいいのではないか?』

『このまま放っておけばヴァルデマーは処刑されるだろう!』

『お前は狭間の世界でヴァルデマーが死のうがどうしようが関係ないと言っていたではないか』

『それ以上言うな…!』



 ギリギリと歯軋りをしながらガイウスを憎々し気に睨みつけるゲアトルースを、どこか不思議な気持ちでイルナは眺めていた。

 元々ミンストレル国の悲劇の真相をツェツィリアから聞いていた時から思っていたが、こうして対峙してみてしみじみと思う。



「とても、情の深い方なんですね」



 思わずポツリと呟くと、ギロリとゲアトルースに睨まれた。



『アウキシリアのお前にそのような事を言われたくはない!それよりも、私の封印を解け!!』

『無駄だ。イルナは私の魔法の補助をしただけだ。封印は聖竜である私によるもの。即ちそれを解除できるのは私を上回る力のある者だけだ』



 そんな人はこの世にいないだろう。

 何しろ守護竜の頂点に立つ竜なのだ。


 その時、バタバタと慌ただしく走る足音と共に、ウィクトルとユリウスが神殿に現れた。



「ガイウス様…!ご無事で…!」

「ガイウス様!お帰りなさいませ!」



 ウィクトルとユリウスが口々に告げると、ガイウスはコクリと頷く。



『うむ、留守中色々とあったようだが、イルナが無事で安心したぞ』

「ガイウス様の心配ってイルナ様限定ですか」

『アウキシリアだからな。イルナに何かあれば困るのは人間達だけではないだろう』



 それは豊穣の精霊達が大陸全てから加護を失くすと言ったアレだろう。

 そこを持ち出されると頷かざるを得ない。



「ウィル様、ユリウス様、お疲れ様です」

「イルナ、もしかしてコレは…」



 イルナに駆け寄りその目の前にある巨大な檻に視線を向ける。

 そこにはヨロヨロとした足取りで必死に立つ、子竜の姿をしたゲアトルースが。



「闇竜ゲアトルースです。今しがたガイウス様が闇の魔力源である『闇の感情を魔力に変換する』能力を封印しました」

「それは…!ならゲアトルースはもう…」

『必要以上の力をつける事はないだろう。だが、それでも6体の守護竜が一体だ。内包する魔力だけでも十分強いがな』



 イルナの説明に付け足すようにガイウスが告げ、そしてようやく諦めたのかゲアトルースがその場にドサッと座り込んだ。



『…クッ、馬鹿馬鹿しい。もうよい、好きにするがいい』



 ほぼ投げやりのように言い放つゲアトルースに、どこからともなく現れたツェツィリアが近付き口を開いた。



『久しぶりに会えたと思ったら檻の中なんて、一体どんな悪さをしたのかしらね?ゲアトルース』

『…ツェツィリアか。言っとくがミンストレル国の事なら謝らんぞ』



 フイッとそっぽを向きながら悪態をつくが、ツェツィリアはクスリと笑う。



『そんな事はもうどうでもいいわ。それに貴女があの国を滅ぼした時はすでに私はあの国にいなかったしね』

『だが短い期間とは言えお前があの国を守護していただろう』

『それこそ気まぐれよ。貴女が()を好きになった時に譲ったじゃない。まあ、ほぼ騙されたような形だったけど』

『ふん』



 人間側からすればとんでもない会話だ。国が一つ滅ぼされたが、それは守護竜達にとって()()()()と言われる程度の出来事のようだったからだ。



『それで、()()()()はどんな人?前のバカな人間の男と違って貴女を大切にしてくれるんでしょう?』

「ちょ、ツェツィリア様…」



 突然現れてこの場の空気を読まずに恋バナを始めるツェツィリアに、思わずイルナが口を挟もうとする。が、ツェツィリアは竜の姿のままイルナに向かって目を細めて頷く。

 そして再びゲアトルースに向かい、話の続きを促した。



『魔王ヴァルデマー。彼に貴女の事をどれだけ話したの?彼は貴女が雌だと知ってるの?人間の姿になってみせた事は?』

『う、うるさい!私は疲れたっ!もうほっといてくれ!』



 そう言い放つが最後、ゲアトルースは寝たふりをして一切口をきかなくなってしまった。

 そこへずっと黙っていたカロレッタが苦笑しながらも全員に告げる。



「とにかく国王陛下のご指示を待ちましょう。勿論ガイウス様のご意向を一番に優先しますけど、とりあえずこの場から退場しましょうね」



 確かにこれ以上ここで騒ぎ立てても仕方がない。

 幸いにもガイウスがゲアトルースを監視してくれると言っているし、その為にガイウスの神殿であるこの場にゲアトルースの檻を持ってきたのだ。


 イルナ達はカロレッタの言葉に従い、聖竜の神殿から退場する事にしたのだった。



 

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