表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/205

迷宮で喧嘩しないでほしい


「全く、マルク達がいないからやりにくいったらないわ…!」



 イルナ達を見失ったディルラバが悪態をつく。実は彼等もディルラバについて迷宮に入っていたが、アルフとボリスによって強制的に外に連れ出されたのだった。

 ディルラバの護衛騎士は10人程いたのだが、見事にのされてしまった。というか、雇った女性冒険者達とボリス達は勿論顔見知りで、ボリスとアルフがSランク冒険者だと知っていたので、彼女達もボリスとアルフの指示に従う行動を取ったのだ。

 結果的に冒険者対護衛騎士の図になり、無駄な争いが嫌いなマルクがカーク達を説得して迷宮から出て行った。その代り雇った女性冒険者達にくれぐれもとディルラバの事を頼んでいた。


 雇い主の指示に従わずにボリス達の言う事を聞いてしまった女性冒険者達は、少々の罪悪感からこの我儘極まりない王女様の言う事を渋々聞いていると言う訳だ。



「見失ったのは仕方がないわね。貴女達、迷宮の道順は知ってるんでしょうね?」

「大方は把握してますが、最深部までは分かりません」

「は!?知らないってどういう事よ!冒険者でしょ!」

「この迷宮はまだ誰も完全踏覇しておりませんので、全てを知る者はいませんよ」

「はあ!?」



 怒りで頭が痛くなる。だがこれ以上怒って彼女達に見捨てられたら元も子もない。発狂しそうだったディルラバだが、どうにか怒りをおさめて溜息をついた。



「……まあいいわ。段々暑くなってきたし、あまり怒ってもいい事ないわね。さっさと行くわよ」

((((アンタが一人だけ怒ってるんでしょーが))))



 女性冒険者達が心の中で同じことを考える。

 そして一呼吸おいて返事をするとディルラバを囲うように陣形を取り、迷宮を進みだしたのだった。







「…行ったみたいですわよ」

「そうですね。あー煩かった」



 ベルカリスとイオアンナが彼女達の様子を静かに伺っていたが、何だかんだと先に進みだしたのを見て安心していた。

 大体迷宮内で大声で叫ぶとか非常識にも程がある。それを分かっていた冒険者の一人がこっそり防音結界を展開していたので、イルナ達もそれ程慌てる事なく対応できたのだ。



「邪魔者もいなくなった事だし、先に進みましょう」

「そうね…と言いたい所だけどシルヴァ、先に進むとさっきの人達とまた出会うんじゃ…」



 先に行ったディルラバ達に出くわすのはごめんこうむりたい。けれどここは炎の迷宮。あまり長居できるような場所でもないのだ。



「それでしたらこの先に隠し部屋がありますので、そこで一先ず休憩しますか?」

「まあ、シルヴァ様。そのような場所をご存知なんですの?」

「一応事前に調査してあるので、この辺の階層のマップは頭に入ってるわ」

「すごいですね!シルヴァ様は頼りになりますよ!」

「イオアンナ様もとても頼りになるわよ」



 実際イオアンナは凄かった。

 魔物相手に引けを取らない戦いっぷりで、殴る蹴るの大暴れで挙句の果てに壁を駆け上がり魔物の頭上に足を振り上げ、踵で脳天に打ち落とすという技を繰り広げている始末だ。

 そして背面ジャンプをしながらの蹴り上げは凄まじい威力で、とにかく蹴り技が多種多様だった。



「パンチ力も素晴らしかったですけど、あの足技は凄かったですわ!」

「えへへ、アレはエスクレイド家の護衛に教えてもらいました。体術が得意な方がいらっしゃったので、色々とご教授いただいたんです」

「まあ、そうなんですね!素晴らしいですわ!」



 実際のイオアンナの力はそれ程強くはないが、これもエサイアスが作った魔道具のお陰でかなり戦闘に役立っている。それとエスクレイド家の護衛が教えた体術も随分と役に立っていた。力のない女性であれば、少々はしたないが足技が効果的だと言っていたらしい。イオアンナに足技を伝授した護衛は、その後上官にめちゃくちゃ怒られたとか。

 うって変わってホクホクとした表情のベルカリスをよく見ると、手にメモを持っていて何やら書きなぐっている。

 こちらはこちらで商魂逞しいご令嬢だ。


 とは言え実は危ない時も何度かあり、その度にイルナがこっそり支援していたのだが、それに気付いている様子もない。あまり大きな支援を秘密ですると、後々自分の力を過大評価しても危険だ。それもあって、少しだけ助けるくらいにとどめている。

 が、イオアンナは元々回復魔法が得意なだけあり、自分の傷や打撲等はすぐさま自分で回復していた。



「さあ、ここが休憩ポイントよ」



 何だかんだ喋りながら歩いていると休憩ポイントに辿り着いたようだ。そこには何もなく、あるのはただの岩の壁。そこを躊躇なくシルヴァが進んで行くと、ぶつかると思ったのも一瞬でそのままスッと中に消えていった。



「えっ!?」

「大丈夫だよ~。コレ、幻術で壁があるように見えるだけだから。さあ行くよ!」

「わわっ、ちょ、キルスティ引っ張らないで!」

「ま、待ってイルナ様!」

「わ、私も行きますわ!」



 慌てて全員がシルヴァに続くと、壁をすり抜けた先には少し開けた空間があった。心なしか涼しい気がする。

 それもそのはず、ここにはギルドの職員が魔道具で冷気結界を張っていたのだ。こういった休憩ポイントは各階層にいくつか用意されていて、冒険者達が危険な状態にならないよう管理されているらしい。

 とは言っても誰かが入った場所でないと設置できない。と言う訳だからこの先こういった場所はもうないだろうとの事だった。



「さっきのご令嬢もここで休憩すれば良かったのにね」

「それはどうでしょう。あの冒険者達がここを知らないはずはないですが、教える気はなさそうでした。察するに早く音を上げて帰る事を望んでいるのではないのかと思いますよ」

「音を上げるって、あのご令嬢が?」

「はい。随分と傲慢な女性のようでしたので、付き添っている冒険者達がうんざりしてるようでした」



 シルヴァは淡々と告げるが、イルナから見ても若干疲れた顔をしていたように見えたので、あながち間違いでもないだろう。

 暑さと疲れで音を上げてくれば、迷宮の攻略も諦めるだろうと踏んでいるのかもしれない。実際迷宮に入るのに、回復薬が足りないなんて初歩的なミスをするとも思えないが、彼女はそう言ってイルナ達から回復薬を買って行ったのだ。

 もしかしたら冒険者達は回復薬があるのを隠しているのかもしれない。



「そうですわね。あの女性、特に怪我をしている様子はないのに、ただ疲れただけで回復薬を飲んでるようでしたもの。あんな調子じゃあ護衛の方達もお困りでしょうね」

「念の為、後で無事を確認してみましょうか。何かあったら大変だし」

「イルナ様はお優しいんですね。ほっとけばいいのに」



 シルヴァが少々辛辣だ。だが出会ってしまったのだから、彼女達に何かあれば助けておけば良かったと後悔するかもしれない。それならばこっそり様子を見ておけば、後悔する事もないだろう。


 それから少しの間休憩をしたイルナ達は、休憩場を出発する事にした。そして先を急いで迷宮を進み続け、とうとうまだ冒険者が足を踏み入れていない領域までやってきた。

 ふいに行き止まりにぶち当たり途方に暮れていたのだが、その時イルナの目の前にサラマンダーが現れたのだ。

 サラマンダーを見たイオアンナがすぐさま構えたが、それをイルナが制止する。



「イルナ様、何で止めるんですか?」

「ちょっと試したい事があるの。少しだけ私に任せてもらってもいいかな?」

「それはいいですけど、危なくなったら下がってくださいね」



 戦う気満々のイオアンナは若干不満そうだ。もう完全に脳筋になりつつある。

 そんな彼女の様子を見てイルナも苦笑を漏らしていたが、気を取り直してサラマンダーに対峙した。



「サラマンダー、お願い。火竜様の元へ行きたいの」

『……』



 サラマンダーはイルナをじっと見つめ、何故か全く動かない。

 イルナもサラマンダーをじっと見つめ、しばらく双方が動かずにいた。



「イルナ様…大丈夫?」

「しっ、イオアンナはまだ動いちゃダメ」



 イルナが心配になったイオアンナが声をかけようとすると、それをキルスティが引き留める。シルヴァもベルカリスもただ黙ってイルナの様子を見ていたのだが、その時甲高い叫び声が聞こえて来た。



「きゃあああ!!もうっ!何なのよここは!!暑いし危ないし、もう嫌よっ!!」

「お静かにしてください!」

「うるさいわね!!早く竜の所に案内しなさいよ!!冒険者のくせに役に立たないんだから!!」

「なっ…」



 お約束のようにディルラバが現れたのだ。

 それも大声で喚き散らしながらだ。ディルラバを護衛していた女性冒険者達は、とうとうディルラバの暴言に耐えられなくなったようだ。突然表情を変え、ディルラバから距離を取る。



「…もう嫌だわ、こんな我儘女の護衛なんて」

「何ですって!?」

「もう嫌だと言ったのよ。人に守られてるだけで何にもできない癖に、文句だけは一人前だなんてホントの役立たずは貴女なんじゃないの」

「なっ、わ、私を誰だと思ってるのよ!?そんな無礼な口をきいてただで済むと思ってるの!?」



 どうやら仲間割れのようだ。だがタイミングが悪い。イルナがサラマンダーと交信中だったが、ディルラバが騒いだせいでサラマンダーが逃げてしまったのだ。



「あ…失敗しちゃった…」

「仕方ないよ。近くであんなに騒がれたら。てゆーか魔物が集まって来てるみたいだよ」

「あれだけ騒げばそうなるでしょうね」



 がっくりと肩を落とすイルナにキルスティとシルヴァが近寄り、周囲を警戒しだす。ディルラバ達とは少し距離があるが、決してそう離れてはいない場所にいる事に変わりはない。

 ベルカリスとイオアンナも集まるようにイルナに近寄り、周囲を注意深く伺っていた。



「どうします?あの人達が騒いでるから魔物が寄って来てるみたいだけど、助けてあげる?」



 イオアンナがイルナに尋ねる。けれどイルナの言葉を遮るようにシルヴァが淡々と答えた。



「無視でいいんじゃないかしら。あの冒険者達も腕利きの人達みたいだし、変に手助けする方が危ないわ。それよりもさっさと先に進んで火竜イグナツィ様を起こす方が重要かと」

「そうですわねぇ…。あのやんごとなきお方にかかわると面倒な事になりそうですし、見なかった事にして先を急ぐ方がいいですわね」

「うーん…」



 シルヴァの意見にベルカリスも賛成する。一応イルナも二人の言う事が正しいのは分かっているが、どうにも放っておくのも気持ち悪い。



「…わかった。じゃあ先に進みましょう」

「いいの?イルナ、気になってるんでしょ?」

「うん、その代り魔印を付けていくわ」

「魔印って、あの魔法印の改良版のアレ?」

「そう。そうすればどこにいるのか気配は辿れるから、最悪助けてあげる事もできるし」

「なるほどね~」



 キルスティが納得したように頷く。が、他の三人は何の事か分からずに首を傾げる。



「魔印…て、何ですの?」



 ベルカリスが尋ねる。イルナはどう説明するものかと考えたが、見せた方が早いだろうと言う事で、魔法を見せる事にした。



魔印(インカタラータ)!』



 イルナの視界に5人を入れ、一斉に魔法で印を付ける。冒険者の一人が一瞬違和感を感じたのか周囲を伺っていたが、他の4人は気付いていないようだ。以前は指をさした対象に印を付けていたが、改良された魔印は視界に入れた対象物全てに印を付ける事ができる。そして、対象物が消滅するまでその気配を辿れるのだ。

 そう説明すると三人が感心したようにイルナを見ていた。



「イルナ様ってすごいんですねぇ。そんな魔法があるなんて知りませんでした!」

「ホントですわねぇ。驚いてしまいましたわ」

「さすがはイルナ様です。やはり秘密のア…」

「はいはい!シルヴァ、ダメだよ!」

「あ、す、すみません…」



 危うく言ってしまいそうになったシルヴァをキルスティが咎める。何を言おうとしたのかイオアンナとベルカリスが知りたそうにしていたが、イルナが困ったように笑うとお互いの顔を見合わせて諦めてくれた。



「とにかくこれであの人達の気配は辿れるから、私達は先を急ぎましょう」

「「「はい!」」」

「そうだね!」



 振り返ると魔物が数体彼女達に襲い掛かっている所だったが、冒険者達が難なく倒しているようだ。多少もめてはいたが、あくまで依頼者とそれを受けた冒険者なのだから、依頼者を放置してしまう事はないだろう。


 とにかく彼女達に気付かれないようにその場を離れ、そうして今度はイフリートを召喚した。

 と言うよりもイルナが「困ったな…」と呟いたと同時にイフリートが現れたのだ。



『イルナよ、何が困ったのか言ってみるがいい』

「イ、イフリート様…!?」



 呼んだ訳でもないというのに、目の前にはイフリートが姿を現して浮かんでいたのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ