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魔王城が完成しました

 その頃魔窟島では魔王城がようやく完成した。それを感無量と言った様子でヴァルデマーが眺めている。隣にはいつものようにギジェルモが立っていて、感動しているヴァルデマーを苦笑しながら眺めていた。



「ようやくここまで来たか…!この島も随分様変わりしたが、それもこれも魔物達のお陰だ!」

「そうだなぁ、よくこんなモノ作ったよ。魔物達の力だけで」

「ちゃんとゴーレムも働いてたぞ?」

「そうだが、お前の才能に驚いているだけだ」



 実際魔物に言葉を教えて教育を施し、統率して指導した結果がこの魔王城だ。しかもこの城に向かう途中には防御用の城塞が作られ、魔物達をも守るようになっている。

 ゲアトルースのいる祠は勿論城塞の中にあり、魔王城の中にはきちんとゲアトルースが鎮座する為の場所を中央に設けていた。



「お前って、建築の才能もあるんだな」

「何をバカな。ある訳ないだろう?ただ自分の希望を魔物達に伝えたらこうなっただけだ。すごいのはあいつ等だ」



 そしてこんな風に自分を評価せずに魔物達を評価する。普通に考えて「悪い魔王」ではなく「いい人」ではないのかと思う。



「ここまできちんとできるようになったから、今後はミンストレル国へ派遣して街の整備もさせようと思ってる」

「…いい領主みたいだぞ、ヴァルデマー」

「魔族にも認められる為だ」



 正直魔族はそこまでヴァルデマーに関心はない。ただ、自分達の生活さえ保障されていればそれでいいそうだ。魔に属する者だとは言え、何も人間が憎い訳でもない。戦争がしたい訳でもなければ、人間の国を乗っ取りたいとも思っていない。



「ミンストレル国は今、ドラウ族が住んでるんだったか?」

「そうだ。他にも色々いるが…サキュバスやインキュバスのような夢魔や、下半身が馬のケンタウロスなんかが多いな」



 巨人族であるオーガやオーグレス、妖精のアンデッドであるシルキー等も住んでいるそうだ。オーガは基本森等で生活しているが、群れの中でも少し知能が高い種が時々現れ、よりよい環境で生活を送りたがる。そういったのが街で居を構えている。



「アンデッドも住んでるのか?」

「ああ。廃教会なんかにいるぞ」

「教会…アンデッドが教会…」

「墓地があるだろ?居心地がいいそうだ」

「なるほど」



 言われて何となく納得した。

 想像してみればみるほど異様な街に思えるが、人間が捨て去った国を魔族が再利用していると思えば不思議と有効的にも感じる。



「とにかく、ギジェルモはあの国での不便な所や不満に思っている所がないか、魔族達に聞いておいてくれ。できる限り対処するようにしよう」

「わかった。しかしヴァルデマー、お前もよくやる」

「何がだ?」

「なぜ人間のお前がそこまで魔族に構う?」



 ギジェルモが真面目な顔をして訪ねるが、ヴァルデマーはきょとんとしていた。そして突然高らかに笑いだし、ギジェルモの肩をポンと叩いた。



「この世界は人間だけのものじゃない。そうだろう?」

「……」



 まさかそんな言葉が返ってくるとは思わず、ギジェルモがポカンとする。けれどヴァルデマーは気にした様子もなく話し続けた。



「私は常日頃から考えていた。人間は魔物や魔族を嫌い、排除しようとする。だが彼らは本能に従い生きるために他生物を襲うが、人間はどうだ?ただ邪魔だと言うだけで、恐ろしいという理由だけで何もしていない魔物までも狩る」

「それは自己防衛だろう?」

「勿論そうだ。だが、共存もできる。そして私は国王に進言した。魔物と共存する方法を、共に同じ国を守る術を。だが相手にされなかった」



 ヴァルデマーはエミール王国の宮廷魔術師時代に、魔物による軍を編成する事を提案していた。勿論魔物は言葉を理解しないので、一蹴されてしまったが。

 だが長年の研究の結果、魔物の知力を上げる事に成功できた。こちらの言葉を理解し、命令も聞く。それを証明しようとしたが、今度は聞きもしなかった。



「人間は自分達の信じる物以外を認めようとしない。新しい試みも受け入れられない。だが私の研究は間違ってなんていない。それを認めさせる為にも私が魔王となり、魔物の軍隊を率いてみせる事を考えた」

「それで、お前の望みが叶ったら?」

「別に何も変わらない。私は魔王としてここでゲアトルース様の為に生きる」

「…そうか」



 何と言うか、やはり「魔王」なんて呼び方は相応しくない男だ。ヴァルデマーの言うエミール王国の国王は、ヴァルデマーが国を出る直前に亡くなったそうだ。その後王太子であった今の王が慌ただしく即位し、王宮内は人事異動や引継ぎ等で誰もが忙しくしていた。

 ヴァルデマーはその混乱に乗じてエミール王国を出て行き、フラフラと旅に出ているうちにこの島に辿り着き、ゲアトルースの封印される祠を見つけたと言っていた。

 眠るゲアトルースに突き刺された封魔の杖を見て、ヴァルデマーはあまりの光景に思わずソレを引っこ抜いてしまったのだ。

 何故ならゲアトルースの姿がミニドラゴンだったせいもあり、あまりにも可哀そうに見えたらしい。そして、しばらく祠に居座ったヴァルデマーは毎日ゲアトルースに回復魔法をかけ続けた。何故そんな事をしてしまったのか、今でも分からない。だが、美しく輝く漆黒の鱗や閉じられた瞳に惹かれ、ただ目を開けて自分を見てほしかった。

 目を覚ましたらどんな反応をするだろうか。ひょっとして自分を殺すかもしれない。そんな事も頭を過ぎってはいたが、どうしても目覚めさせたかった。


 だからこそ、ようやく目覚めたゲアトルースの望む事をしてやりたかった。



「…だが、まだ見つけられない」

「何をだ?」



 ポツリと悔しそうに呟くヴァルデマーにギジェルモが首を傾げる。するとヴァルデマーはぎゅうっと両手を握り締め、空を仰いだ。



増幅術師(アウキシリア)だ」



 ゲアトルースが望む、増幅術師(アウキシリア)の命。

 これだけは必ずやり遂げないといけない。



「ギジェルモ、私はまたアウキシリアを探しに出る。お前はゲアトルース様をお守りしろ」

「それはいいが、一緒に行かなくていいのか?」

「ああ。しばらくは派手に動くのはやめておく。それよりも姿を変えてネストーレ王国に入り、情報を集めてくる。変身の魔法をかけてくれるか?」

「それは構わないが…気を付けろよ」

「ああ、わかっているさ」



 ヴァルデマーが頷くと、ギジェルモがヴァルデマーに魔法をかける。するとヴァルデマーの容姿が変わり、可愛らしい少女の姿になった。



「おい!何故女にするんだ!」

「その方が警戒されないだろう。それよりも似合ってるぞ」

「くそっ、お前絶対面白がってるだろう!男に変えろ!」

「あーはいはい、しょうがないな」



 クスクスと笑うギジェルモをヴァルデマーがギロリと睨みつける。本音を言うと、とてもじゃないがこのまま出かけるのは無理だろう。ただちょっとからかっただけだったのだが。



「ほら、これでいいか?」



 ようやく笑い終えたギジェルモが再び魔法をかけ、美しい少年の姿に変える。ヴァルデマーは元々それ程容姿は悪くはない。だが、とてつもなく目立たないのだ。印象が薄いと言えばいいのか。だが今の姿は美しすぎて目立つ。これはいただけない。



「ギジェルモ、いい加減にしろ。こんな目立つ容姿になってしまったら、情報収集しずらいだろう。普通でいい、普通で。目立たないくらいの顔にしろ」

「注文が多いな」

「遊びに行くんじゃないんだ」

「わかったよ」



 普通美少年に変身させられたら喜ぶと思うが。それに、どうせそこまでヴァルデマーを知っている人間は少ないだろう。この間のネストーレ王国襲撃の際も、騎士団や魔術師団達には見られてはいるが、住民達はそれどころではなかったはずだ。



「ならこれでどうだ?」

「……何だ、できるじゃないか。これでいい」

「全く我儘な奴だな」

「何が我儘だ。子供だと情報収集には向いていない上に見た目が良ければ色々危険だろう。その点この目立たない普通の顔はバッチリだ」

「よく分からないが満足したようで何よりだ。で、何処へ行くつもりだ?」



 ギジェルモが尋ねるとヴァルデマーは少し考えているようだ。うーんと唸りながら沈黙していたが、どうやら行き先が決まったらしい。



「ネストーレ王国のモーテンソン子爵領へ行く。あそこは商業が盛んだから人も集まるだろう。王都からもそこそこ距離があるし、情報収集するには丁度いい」

「なるほど。ではこれを」

「ん?ああ、通信用の魔道具か」



 渡されたのは小さな水晶がはめ込まれた腕輪だ。腕輪から突出している水晶の部分を捻ると、対になっている腕輪の水晶と通話できるようになっている。



「何かあれば俺を呼べ」

「ああ、助かる」



 ヴァルデマーは笑顔で頷き腕輪を嵌める。そしてワイバーンの背に乗りネストーレ王国へと飛び立ったのだった。





すみません、立て込んでて…

そのうち落ち着いたらもう少し頻繁にUPします

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