表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/205

その頃エミール王国では


「よぉ、早かったな」

「「「「………」」」」



 エミール王国のギルドにようやく戻ってきたアルフ達を笑顔で出迎えたのは、先にいなくなっていたビクトールだった。

 ビクトールは依頼も終わったしのんびり帰って来ると思っていたようだが、4人はフラフラと遊ぶ気になれずに寄り道せず戻ってきたおかげで、ビクトールの予想よりも随分早い帰還だった。



「…ギルドマスター、あんたこそ早いな」

「そりゃあ転移して来たからな。おい、こいつらに報酬渡してやれ」

「はーい、かしこまりましたぁ」



 ビクトールに声をかけられた受付嬢がいそいそと報酬を用意し、カウンターにドサッと置く。明らかに大金が入っているであろうその袋に4人が驚き、慌ててビクトールに顔を向けた。



「ちょ、ギルドマスター!これ多いんじゃない!?」

「いんや?正当な報酬だぜ」

「だが…最初の話ではこれ程じゃなかっただろ?」

「そりゃあ色々あったからなぁ。あ、コレにはアトゥアルムの麓でのスタンピード制圧だとか、道中での野盗の討伐の報酬も入ってるぜ」



 ボリスとアルフが慌てて抗議するが、ビクトールは平然としている。ハイダーとエルンストに至っては、未だかつてない程の報酬金額に目が点になっていた。



「そ、それにしたってこの量は…」



 アルフがボソリと呟く。それはそうだろう。周囲にいた他の冒険者達も驚きの表情でこちらの様子を伺っている。アルフ達が上位の冒険者でなければ、ギルドを出た途端に襲われかねない。



「とにかくだ!これは正当な報酬として受け取ってもらうぜ。いらねぇんならギルドに寄付しろよ!」

「いるいる!もらうって!」

「はははっ、ボリスは正直だなァ。で、他の三人はどうするんだ?」

「貰うに決まってるだろ」

「い、いただきます!」

「ありがたく頂戴しますよ」



 全員が返事をし、それぞれが報酬の入った袋を手にした。それを確認したビクトールが満足げに頷く。



「よっしゃ!ならしばらく休めよ。じゃあお疲れさん!」

「え」



 強引に話を切り上げてアルフ達の背中をバシッと叩く。そして自分は踵を返して中へ引っ込もうとしたので、訝し気に思ったアルフがビクトールを引き留めた。



「ちょっと待てよ、ギルドマスター」

「あん?何だァ、まだなんか質問でもあんのか?俺は溜まってる仕事の処理で忙しいんだ。手短に頼むぜ」



 しれっとしているビクトールにアルフは面白くなさそうに表情を歪める。こちらは聞きたい事が沢山あるが、相手はギルドマスターだ。顧客の秘密を簡単に漏らすはずもないし、アルフにしてもそれを期待している訳でもない。だが、どうしても聞いておきたい事があった。



「お嬢絡みの依頼がこれで終わりって事はないだろ?」

「……」



 アルフの問いかけにビクトールは何も答えない。代わりに口元をニイッと歪めて不敵な笑みを浮かべていた。



「次また依頼が来たら、俺にふってくれ」

「何故だ?」

「このままで終わらないだろ?なら、お嬢と面識がある俺達が行く方がスムーズだ」

「それだけか?」

「は?」

「それだけの理由ならお前に振っても構わねぇが……ちっとばかしあのお嬢ちゃんに肩入れしすぎじゃねぇか?」

「それは…」



 そう言われるとそうかもしれない。だが、何故か放っておけないのだ。



「ま、人の気持ちなんてぇのは理屈じゃねぇよ。お前がお嬢ちゃんに好意を持つのも自由だぜ。だが、忘れんな。あの子はネストーレ王国の第二王子妃になる娘だ。間違ってもお前が手を出していい相手じゃねぇぜ」

「俺はそんなつもりじゃ…!」

「なら、いつも通り普通に依頼をこなせ。そのうちお嬢ちゃんから依頼が来るかもしれねぇが、そん時はそん時だ」

「……わかった」



 悔しそうな顔をしたアルフだったが、すぐに表情を引き締める。そして何事もなかったかのようにボリスに「行くぞ」と告げ、ギルドを出て行った。

 アルフが出て行くのを見届けたビクトールは盛大な溜息をつく。そして踵を返して自分の執務室へ移動し、溜まった書類の山を見て再び溜息をついた。



「…全く、若いねぇ…」



 ポツリと呟き苦笑する。あれはどう見てもイルナに好意を持っているのだろう。本人がどこまで自覚しているのかは分からないが、かなう事のない想いだ。可哀そうだがあまりイルナと関わらさない方がいいだろう。



「嫌われ役も楽じゃねぇよなぁ…」



 そう言ってビクトールは机に向かい、書類整理に勤しんだのだった。




 ※※※




 一方エミール国の王宮では、王太子であるテオドールの元へ国王からの手紙が届いていた。内容はイルナが言っていたゲアトルースの力の源についてだ。



「父君からの手紙には何と書いてあったのだ?」

「カーティスか。君も読むか?」

「いいのか?」

「ああ」



 仮にも国王から王子への手紙を見ていいものかと一瞬戸惑っていたが、テオドールが何て事のない様子で差し出すので、結局その手紙を受け取る。そして中身を読み驚愕した。



「おい、これは本当か!」

「本当だろう。わざわざ手紙で冗談を言うような内容でもないしな」

「だが事実であれば…魔王軍と戦うのは悪手ではないのか?」

「そうは言ってられない。事実魔王軍は日々力をつけ、近隣の小国はそれに怯えている。言語を話す魔物も増え、被害も広がっていると聞いている。このまま放置するのは得策ではないだろう」



 実際ヴァルデマーが魔物達に言語を教えてはいるが、全ての魔物を教育するのは難しい。なので色んな場所に出向き魔物を集め、そこで魔法により知能を植え付けて回っているようだった。

 知識を付けた魔物は単に出合い頭に襲うだけでなく、頭を使って人を襲ったり農作物を奪ったりしている。その被害が顕著に出ているのが魔窟島に近い国々だった。



「殿下、発言をお許しいただけますか?」



 テオドールの側近であるキーンが口を開く。テオドールは頷き、話を促した。



「よい、話せ」

「はっ。では僭越ながら申し上げます。まずはゲアトルースの力の源である『負』の感情ですが、これは確かに戦争をすれば今よりも格段に増えるでしょう。ですが現状魔物による被害が拡大しておりますので、普通に過ごしていても『負』の感情は起こりうる状況です」

「それは分かっている」

「ええ。ですので現状が続き人々の不安や不満が日々募りつつあるのであれば、戦争をしかけて一気にカタを付ける方が、短期集中でよいのでは?」

「……一理あるが」



 確かにキーンの言う通りだろう。日々の不安も立派な『負』の感情だ。それをどうやって集めているのかは知らないが、ゲアトルースの力の源になるのは確かだ。そして小さな感情であっても沢山の人々が不安を抱えて暮らしていれば、力が集まるのは早くなる。

 一方で魔王軍と連合軍が戦い、早急に勝利をおさめれば人々の不安も解消され、『負』の感情の蔓延を防ぐことができるだろう。



「それと、こちらは我が妻から私宛に届いた手紙です」

「お前の妻の手紙が今なんの用なんだ」

「まあまあ、焦らないでくださいよ。ルキアの手紙によれば第二王子とルーメン侯爵令嬢の活躍により、地竜アートゥーア様と風竜ツェツィリア様がお目覚めになられたそうですよ」

「何?」

「守護竜様で眠っておられるのはイグナツィ様お一人のみだと言う事です。守護竜様達が目覚めれば、ゲアトルースの力に対抗できましょう」



 どうやらルキアはイルナが帰ってきたと知らせを聞き、すぐにルーメン侯爵家に向かったようだった。そして事の顛末を根掘り葉掘り聞きだし、それをキーンに送る手紙にしたためたようだ。

 キーンの話を黙って聞いていたカーティスは、何かを考えこむように黙り込む。そしてチラリとキーンに視線を向けると、ポツリと疑問を零した。



「…守護竜様達をどうやって起こしたのだ?我々も風の神殿へ赴き、神官(プリースト)上級神官(ハイプリースト)達に回復魔法をかけさせたが一向に起きる気配はなかったぞ」

「さあ…そこまでは妻の手紙には書いておりませんでした」

「テオドール、お前は何か知らないのか?お前の弟であるウィクトルも同行したんだろう?」

「いや、私は何も聞いていないが…」



 父の手紙にはそこまでの事は書いていなかった。ただ、ゲアトルースの力の源が何であるかと、それを踏まえて魔王軍との戦いにエミール王国と情報を共有して備えよとの事だった。



(もしかして父上は…)



 過剰にイルナに興味を示していたテオドールを危惧してこの事を伝えなかったのかもしれない。守護竜を起こしたのが弟と彼女だと聞けば、確かにまた興味を持ってしまうだろう。



(いや、だが父上がそれしきの理由で手紙に書かないはずがない。他に何か理由があるはずだ)



 しばらく考え込んでいたテオドールだったが、ふいにカーティスに視線を向けた。



「カーティス、悪いが少し席を外す」

「ん?ああ、構わんがどうした?」

「父上に手紙を書く。とにかく守護竜を起こした経緯を知りたい」

「そうだな。何か分かったら教えてくれ」

「勿論だ」



 キーンを視線で促しテオドールが謁見室を後にする。そして自身に与えられている客室に入ると、机に向かってペンを取った。

 とにかく守護竜を起こした経緯とその方法、そして何故自分にはそれを伝えてくれなかったのかと少しの苦情を交えて手紙を書く。そして書き終わった手紙をキーンに渡すと、キーンが指笛を吹いた。

 バサリと羽音を立てて窓辺に降り立ったのは、キーンが使役しているイェラキと言う鷹の姿をした魔獣だ。その魔獣に近付くとキーンは頭を撫でる。



「よしよしレジェス、いい子だね。いつものように頼むよ」

「キュイイイイン!!!」



 レジェスと呼ばれたイェラキは一鳴きすると手紙を咥え、ぐるりと旋回してから飛び立った。



「これで今日中には手紙が届くでしょう」

「そうだな」

「では行きますよ」

「は?」



 キーンが不敵に笑う。それを訝し気にテオドールが眺めると、キーンが今度は不思議そうな顔をした。



「は?じゃありませんよ。こっちはこっちで調べないと。て事で冒険者ギルドに行きますよ」

「冒険者ギルド?」

「察しが悪いなぁ。まあ私一人で行って来てもいいですけどね」

「お前…行くに決まってるだろう。時々意地の悪い事を言う癖は治らないのか?」

「治りません」



 まあそうだろうと思いつつもこうもはっきり言い切られると呆れてしまう。だが、王太子である自分に対して気安く接してくれる人物はそれ程多くない。こういう時、有難いと思ってしまうのも事実だ。



「まあ、お前の性格が悪いのは今に始まった事じゃないしな。よし、冒険者ギルドに行くか」

「そうそう、って、別に性格悪くないし!ああもう、行きますよ!」

「その前にカーティスに伝えておけよ」

「分かってますよ」



 護衛騎士の一人に今から外出する事を伝え、カーティスに伝言を頼む。そして数人の護衛を引き連れて、テオドールは街へと向かったのだった。




皆様、インフルエンザにはお気をつけください…マジで…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ