わたしの永遠の故郷をさがして 第4部 『番外編』 第8話
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『第1王女様』は、きらきらと輝きながら、その村に入って行きました。
村長さんと村の司祭様が先頭に立って、村人さんたちは、みな、お迎えに出ました。
『第2王女様』が、その、一番後ろに構えていらっしゃました。
「おお、第1王女様! よくぞお出で下さいました。」
村長さんが、多少震えながら、ややうつむきかげんになって、即興でお迎えの言葉を述べました。
そうして、住民を代表して、今度は、ちょっとぎこちないながらも、無事に『三顧の礼』を行いました。
「皆さま、本日は急にお邪魔してしまいまして、申し訳ございません。もう少しゆっくりやればよかったのですが、まあ、あまり大げさにするのも、どうかと思いましたので。」
美しい民族衣装にきらきらと輝く装飾品をほどよく纏った王女様は、ほんとうにおとぎ話のお姫さま、そのものだったのです。
しかし、それにしても、先に現れていた『第2王女様』と、あまりにそっくりなのは、まあ、良く知られていることとは言え、改めて村人みんなが、びっくりいたしましたのです。
ただ、『第2王女様』は、評判と違って、いささか泥だらけになっておりましたが。
「さて、今宵は、この村の子供たちの中から、わたくしたちの、もうひとつの故郷である東京に、お招きする方を公表したいと思います。実を言うと、半年ほど前から、秘かに選考に入っておりましたのです。それは、この北島に新しいスポーツ文化を導入し、緩やかな改革を行ってゆくための施策なのです。もちろん、強制はいたしません。辞退なさることもご自由ではありますが・・・、しかし、せっかくの機会ですから、ぜひあまり深刻にならないで、参加してくだされば幸いでございます。詳細は、事務方よりご案内いたしますが、今宵は、まずは、選ばれた方をご紹介いたします。全員、ここにいらっしゃればよいのですが・・・」
全員が、すでに、ここにはいない、ということは、まずありえない事だということは、『王女様』はもちろんよくご承知なのでした。
「そのお名前の発表は、あの・・・皆さん申し訳ございませんが、どうかお許しくださいね。本物の『第1王女様』から、申し上げましょう。」
「え~~~!!??」
村人たちの後ろから、「は~~~い!」という声が聞こえました。
新しくやって来た『王女様』が、さっと、ひざまずきました。
「えええ!?」
「え~、みなさま、だましてしまってすみません。とくに、こどもたちのみなさまには、お詫びいたします。実は、これまでに何回かグラウンドに現れた『ナリア』は、わたくし『ヘレナ』と、こちらの『第2王女ルイーザさま』の、両方でした。なかなか予定が上手く立たないので、ふたりで交代でやっておりました。でも、おかげさまで、『第3王女さま』も交えて、候補者の選定にあたる事が出来ました。ごめんなさいね。」
「は~~~。まったく、気が付かなかったなあ。」
ミナナがつぶやきましたが、カスミが「しっ!しっ!」とたしなめておりました。
「では、候補者を発表いたします。」
さっと、緩やかな緊張感が漂いました。
北島の住民にとっては、島から出ると言うこと自体が、すでにもう、大変な大事だったのです。
同じ国内で、南島に渡ると言う事だけも、村人にとって、相当な重大事件なのに、一気に日本合衆国に行くなどというのは、王宮やタルレジャ教会の幹部でもない、普通の住民にとっては、皆さまが『あす急に火星に行くことになったんだよ!』というくらいの、革命的大事だったのです。
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上の双子の王女様から二つ年下の『第3王女様』は、やはり日本合衆国生まれではありましたが、生後すぐに本国に連れて帰られて、純粋に『王女様』として育ちました。
上ふたりの王女様が、東洋と西洋の理想的折衷ともいうべき超美少女で、薄めの輝くような褐色の肌色なのに対して、『第3王女様』は、タルレジャ王国人としての資質をより強く受け継いでいて、かなり濃い褐色の肌色を持つ、しかし、これもまた、姉二人に劣るとも優らない、恐るべき美少女でした。
姉二人が、どうも『日本合衆国びいき』が過ぎると考えていた『第3王女様』は、もっと王国の独自性を育てる必要があると考えていらっしゃましたが、いかんせん、まだ13歳の身でもあり、あまり無理は言わないように自制してもいたのです。
「たしかに、王国の発展にとって、日本合衆国との連携協力は、非常に重要でした。これまでは。南島だけは、確かに大きな発展を見ました。でも、北島は、どうでしょうか?」
『第3王女様』は、侍従長に向かって言いました。
「なるほど、なるほど。」
侍従長さん(上ふたりの王女様は『じい』と呼びますが、『第3王女様』は、『侍従長さま』と、きちんと呼ぶのが常です)は、余計な不必要な口答えはしません。
必要な事は、じっくりと、諭すように言うのです。
「まさに、それが、我が王国政府の政策だったのですから。しかし、それは、『第1王女様』のご意志でそうなったとか、国王陛下のご意志であるとか、そういうことではありません。わが王国は、あくまで民主主義国ですから。国民の政府の政策なのでございます。」
「北島はどうなのですか?」
「北島は、いわば、王室の家庭内なのです。いささか性格が異なります。」
「あなたは、ずっとそう言ってきましたが、わたくしも、13歳になりました。もう、それでは納得できない年齢です。おわかりでしょう?」
「ふむ。そうですなあ。なるほど。」
「ふう・・・でも、ヘレナ様も、ルイーザ様も、まだこうした話題には、きちんと乗って下さらないのです。」
「ふむ。しかしですな、このほど、『G-5サイト』の村の子供たちを、『日本合衆国東京州』に研修に出すことになったのは、貴方様のご意向を受けてのことなのですから。」
「あの村は、もともと『日本対応の村』として作られていたもののひとつでしょう? そういう事から言えば、それが当たり前で、特に特別ということでもないでしょう?それに、そのあたりの詳細も、わたくしには、まだ良く知らされておりませんもの。」
「ふむ。そうですなあ。なるほど、なるほど。まあこの機に、そうした話題も必要ではないか、と、私から『第1王女様』に、申し上げてみましょうか、なあ。」
「はい。侍従長さま、是非にも、お願いいたします。」
侍従長さまには、『第3王女様』の御養育担当としての役割も、いまだ、あったのです。
『第1王女様』と『第2王女様』は、15歳になったのを機にして、『独立期』に入ったとされておりました。
もっとも、実際のところは、『第1王女様』が、最終的に北島の全てを仕切ることが可能なのだ。という構造になっていたことは、間違いがないのですが。
『南島』は、国民の代表である議員が構成する王国政府が、民主的な政治を担っており、国王にも王女様にも、具体的な権限は、ないことになっておりましたが・・・・・。
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「いやあ。洋子さん、ようこそ。よくも、おいでになりました。」
「まあ、おかしなご挨拶ですこと。」
「あの、洋子さんとやましんさんの出会いというものは、なんだったのですか?」
幸子さんが心配して同席しておりました。
「はあ・・それがですねぇ。たぶん、まだ小学生の頃、いとこの家の階段になにげなく置かれていた雑誌の表紙に、もんのすごい、はでな衣装の美女さんの写真が載っておりまして、衝撃を受けたと言いますか・・・その・・・。それが、洋子さん誕生のいきさつでありまして、ひらめいた、と言うか。やはり、この尋常でない弘子さんのお姉さまならば、このくらいでなくっちゃとかですね・・・まあ、そういうことです。」
「ま、わりと、単純。」
「ま、そんなもんですよ。」
「それは、また、どなたのお写真でしたの?」
「はあ、洋子さんに言われますと、困るのですが、実際のところ、わかりません。今となっては。半世紀も前の事ですしねぇ。洋子さんは、いささか最初から、妖しいくらいの、ちょっと裏のお顔がある美女だったのです。」
「まあ・・・あきれた!」
「ふうん・・・・最初から、きと、魔法使いみたいだたんだなあ。やっぱり。その・・・、弘子さんのモデルはいたのですか。」
「はい、まあ・・・・・いました。」
「どなたですの?あの子のモデルって・・・?」
「はあ・・・・まあ・・・・」
言い淀む、やましんでありました。
どこかに、つづく・・・・・・・
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