わたしの永遠の故郷をさがして 第4部 『番外編』 第6話
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パブロ議員の執務室には、『王国南島中央警察』のハーリシュ警部が尋ねて来ておりました。
パブロ議員は、反王政派の大物で、王室制度を撤廃したうえ、君主を持たない共和制への移行を主張しておりました。
しかも、小さな政府の唱道者でもあり、政府は約束を作って、それを監視すればよく、経済は民間に任せるべきだと主張していました。
「大体、今の王室は極めて優秀で、多額の収益をあげる王国最大の企業体だ。王室である理由がどこにあるのか?」
と、訴えて来ていたのです。
同調する人々は、政党をつくり、王室議会上院には3議席を持っていましたが、下院には議席がいまだありませんでした。
それは、王国民の多くが、王室を支持する側にまわっていたからだったのです。
早い話が、彼の政党はいささか行き詰まっていて、何か決定的な打開策が必要だったのです。
それには、王室やタルレジャ教会庁の大スキャンダルを暴き出して、信用を失墜させることが最善の策だったというわけです。
議員自身は、実を言うと王室と古い姻戚関係があったのですが、そこのところは、あまり触れられたくは、なかったのですけれども。
いずれにせよ、彼は生粋の資本主義の支持者であり、自由主義者であり、人道主義者であり、一方で、社会主義、共産主義勢力の台頭には警戒してきても、いたのです。
彼から見れば、『南島』は、まあ、かなりうまくいっていると評価していましたが、『北島』は王室と教会の『独裁地域』で、住民は、無慈悲に『隷属』させられていて、きわめて共産主義的だと、いう事なのでした。
また、そこには、絶対に許せない人権侵害があると睨んでいましたし、その証拠を王室と教会に突き付けたいと願って、秘かな活動を行ってきていました。
「『北島』について、新しい有力な、情報があるんだ。」
議員が警部に言いました。
「ほう? なにか確かなものを、掴んだのですかな。」
「確かさ。」
「『空気』のような証拠では役に立ちませんぞ。なにしろ、このところ王女様がたが、絶好の年齢になってきましたからな。国民の人気は高まるばかりですぞ。国際的にもそうです。うっかり証拠のない批判をしたりしたら、王国民に袋叩きにあいますぞ。私は、くび、あなただって、失脚しかねない。」
「ふん。それを恐れて、真の民主主義を達成できるはずもない。まあ、確かに、あの『第一王女様』はただものではない。わかっていますよ。ほら、これ、・・・・・」
議員は、警部に一冊の書物の、コピーデータを渡しました。
「これは?」
「北島の『大高地遺跡』から出て来た本の写しですな。地層から言って、大体2億年は前の場所です。」
「はあ? ばかな、恐竜さんだって、まだ出始めですぞ。」
「タルレジャでは、恐竜の化石はまだ、出てこない。あそこの遺跡は、あなたがたも入れないでしょうが。」
「まあ、北島は管轄外ですな。」
「そうそう。しかし、ぼくは、特別ルートで、このコピーを入手しました。実物が欲しいが、さすがにそれは、むつかし過ぎる。」
「まあね。で、何と書いてあるか、分かるんですか?」
「いいや。ぼくに、わかるわけがないですよ。しかし、僕の親戚には、ありがたい事に言語学者もいましてね。こいつは、きっと太古の王国語につながる貴重な言語資料だと言うんですな。まあ、内容としては『タルレジャ教』の『経典解説書』、みたいなものらしい。古代の教会幹部の『トラ』かもしれないと。しかし、もちろんまだ一部しか読めていない。現存するもっとも古い経典と比較しながら解読作業をやってもらっているが、簡単ではないと言う。ただ・・・」
「ただ?」
「ここね。ぼくにはまったく、読めないがね・・・、ここは、当時の『女王』に付いて書かれているらしいという。まだ単語の寄せ集め程度だが、『女王は、いまだ、儀式として人間を常食しなければならない。それは、未来永劫に渡って定められた女王の宿命である。』と、書かれているらしい。」
「はあ・・そりゃあ、言い伝えとしては、そういう伝説もありますがな。」
「まあね。でも、この本の最終ページにある、このマーク。これが問題だ。」
「ほう。」
「これは、超古代王国の王室の正式マークだそうだ。3Dマークみたいなものだという。コピーでははっきりしないが。」
「はあ・・・・・・・あのですな、議員。その学者さんが誰かは、大体察しが付く。言語学者としては一流だが、歴史家としては、オカルト派の学者さんでしょう? 証拠にはならんでしょう。」
「そんなことはないさ。いいかい、これは、現実に掘り出されたものなんだ。幻じゃあない。これまでは伝説だったが、一次資料に限りなく近いものだ。きっとね。もちろん、この発掘は、秘密にされているがね。」
「二億年前の『本』だなんて、証明できますか?できたら、確かに、すごいな。」
「ああ、この紙だよ。これは、どうも、ただの紙ではなさそうだ。二億年朽ちずに残ったとしたら、それだけでも、大事だろう。」
「まあ、そうでしょうけれど。だれが分析しますか? いま、どこにあるのですか?」
「さて、実物がどうなったかは、はっきりしない。おそらく、王室に没収されたんだろう。ケイブ・・・北島の『王室警察』にはお知り合いもいるのでしょう?」
警部は、ちょっと、肩を落として答えたのです。
「そりゃあ、まあ。ね。」
「ぼくはね、王女は、今も昔のしきたりを守っていると推測するのだ。」
「そりゃあ、確かに、古いしきたりがあることは、事実でしょうな。王室ですからな。しかし、いまどき生贄は、まさかないでしょう。二億年も経てば、鬼だって人間になりますよ。」
「いや、生贄なんてもんじゃないんだ。自分が食べるんだよ。きっと、そうだよ。いまだに、非公開のあやしい儀式が多数存在し、その中には、何らまったく資料がないものもあるんだ。ぼくはね、いま、秘密裏に北島の住民調査をしている。どうも、不合理に行方不明になってる人が、多数存在するらしいんだ。犯罪の匂いがする。王女だから許されるとばかりは言えないでしょう。協力してください。あなただって、出世したいだろう。」
「ははは。ぼくは、余分な出世欲は持たない主義でね。それに、いまの『第1王女様』も『第2王女様も、まだ15歳ですよ。いささか疑い過ぎでは?」
「いやいやあ、あの人はそんな、なまやさしい方ではないさ。それに、そうはいっても、あなたの、ご家族はどうでしょうか? いち警部さんと、警視さんでは給与だって、雲泥の差がある。あなたは、まったく、惜しい人材ですよ。将来の、長官クラス候補だ。」
「ははは、まさかね。まあ、軽く調べては、みましょう。」
「ええ、だんだん重くしてくださいよ。いま、日本合衆国の、ある警察幹部さんと、つながりを作っているんです。日本でも、松村家の真実については、いささかの疑いを持って調査している部署が、あるんだそうだ。」
「ほう? それは、興味深そうな。」
少しだけ、警部の目が輝いたのです。
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『第1王女様』は、村のすぐ近くにある、地下ホームに到着しました。
北島のあらゆる場所には、この地下高速通路が張り巡らされていたのです。
そうして、こんどばかりは、その訪問が、直前に村に知らされたのです。
村は、もう、大騒ぎになっておりました。
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