わたしの永遠の故郷をさがして 第4部 『番外編』 第5話
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最後に100メートル走を実施したあとは、さすがに元気な北島の子供たちも、いささかダウン状態でした。
お付きの二人も、タイムを計ったりしながら、また一方で、子供たちの体調をチェックしたり管理したりで、大忙しだったのです。
子供たちが、ナリアの正体を見破れなかったのは、無理もない事ではありました。
彼らの意識の中の『王女様』が、どういう存在なのかを鑑みれば、無理もない事だったのです。
それから、ナリアは、たくさん残ったジュース類の入った箱を子供たちに任せ、いっしょに村まで歩きました。
とはいっても、それはせいぜい200メートル程度の距離にすぎません。
子供たちは、まるで、凱旋した兵士のようでした。
農作業を終えた親たちは、直前に家に戻っていました。
作業場などに働きに出ていた人たちも、ぼつぼつ送迎電気バスで帰って来つつありました。
北島では、『残業』という概念は、ほぼありません。
非常に緻密な計画的労働が組まれていて、利潤を限りなくさらに上げる、というような考え方もありませんでした。
それでも、なぜか大変良質な作物が得られ、質の高い軽工業生産物が作られていて、これらは最近は南島にも出荷されて、結構な人気がありました。
それは、『アニーさん』が常に監視をし、必要な対策や改良をしていることと、最先端の農業技術や、生産装置が導入されていたことに、大きな要因がありました。
それは、『教団』や『王室』、さらに『マツムラ・コーポレーション』の支援の結果でもありました。
夕方がやってくる中で、親たちは子供たちを迎え(逆ではないのです)今日1日の幸福を味わうのでした。
村の中では、個別に、あるいは集団で、夕食の準備が始まっておりました。
昔の『日本合衆国』にもあった、とてもなつかしい、夕方の光景が広がっていたのです。
ナリアは、子供たちと共に、そんな村に入りました。
「ほら、この人が、ナリアじゃ。前に話したろ?」
ガキ大将ブアルが、意外とほっそりとした体形の母に告げたのです。
「はあ・・・あの王宮さまにお勤めとかの人じゃね。」
「うん。『やきゅう・・』ていう遊びを、してたんじゃ。ナリアが監督。」
「まあまあ・・・・あの、こちらは?」
お付きの二人を見ながら、その母が言いました。
「王宮の職員さんじゃ。ナリアの・・・まあ、友達なんじゃな。」
「はあ・・・それはご苦労様ですじゃ。」
「いっぱい、ジュースもらった。見たことないのも。」
「もう、暑くてとけちゃいましたけどがね。まだたくさん残ったから、みなさんでどうぞ。」
ナリアが、そう、言ったのです。
「はあ・・・・それはまあ、どうも。」
分厚いサングラスに、大きく膨らんだ水着の胸が、汗でかなり透けて見えている赤いワンピースを着た姿に、ちょっとびっくりしながら、母親は言いました。
北島の住民は、普段はみな同じデザインの、うすいピンク色の貫頭着を着ていますから、これは明らかに通常ではないのです。
ナリアは、一般の『村』の住民ではない、ということを、明らかにしていたのです。
さらに、お付きの人を二人も連れて歩いているという事は、ただ事ではないことを意味しておりましたが、さすがにこれが『第2王女様』であるとまでは、母親も考えませんでした。
おそらくは、教団の『巫女様組』の関係者だろうくらいに思ったのです。
『巫女様組』は、神聖な『巫女様』のお世話をする少女たちの事です。
北島内の、とびきり優秀な美少女が抜擢されるのですが、その実態は住民には、ほぼ『謎』だったのです。
それでも、ブアルの母は、なかなか良い線を考えていたわけです。
そこに、噂があっという間に広まったのか、多数の大人や子供たちが集まってきました。
『第2王女様』にしてみれば、あえて招集をかける必要もなかったというわけです。
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そこに、村役の一人もやってきました。
村を代表して、『教会』や『王宮』とじかに接触のある人です。
ほんのしばらく、ナリアを見つめてから、彼の丸い顔は、急激に赤く膨張し、驚愕に溢れたのです。
「ななな・・・これは、いや、これは。なんと・・・・『王女様』ではございませんか・・・・」
その言葉に、周囲の大人たちは、まるで大きな地震波が、どかんと体に伝わったように震えました。
「いや、まさか、予告もなく・・・しかし、その・・最近お忍びもあるとは、聞いておりましたが・・」
ナリアは、ニコッと笑って、分厚いサングラスを外し、まとめていた長い美しい髪をほぐしたのです。
それは、もう、衝撃的な美しさでした。
「おおおう~~~~~!!」
皆が声を上げました。
北島の住民の頭の中には、巨大なスタンプで押されたように刷り込まれている、『王女様』のお姿と、その強烈なオーラそのものに、まったく間違いありませんでした。
「はは~~~~~『王女様』!」
まるで、『日本合衆国』の有名な某テレビドラマのような光景でした。
「まあ、ばれましたら、しょうがございませんわ。」
ナリアが言いました。
でこぼこのグラウンドでの雰囲気とは、打って変わった、高貴なお姿でした。
お付きの二人の内、女性のほうが言いました。
「『ルイーザ第2王女様』に、ございます。」
「はは~~~~~おそれいりまあす~~~!!」
その場の全員がひれふしました。
あわてて飛んできた村長さんが、代表して『三顧の礼』をし、最後には、ルイーザの裸足の足の親指にキスをしました。
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「あららら。もう、ばれちゃってるじゃないの、情けな~~! アニーさん行くわよ。」
『第一王女様』が、指示を出しました。
『はあい。今夜は、あの村は大事ですなあ。気の毒に・・・蛇に睨まれた『かえる』さんみたいな・・』
「こらあ、バカ言ってないで、さっさと、ちゃんと移送なさいまし。」
『はああああい。』
王宮の地下ホームから、ヘレナの乗った高速移動車が、その村めがけて飛び出しました。
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