わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 『番外編』 第1話
これは『第3部』と『第4部』に挟まれるお話なのです・・・。
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ここは、『タルレジャ王国』。
タルレジャ王国は、『常夏の楽園』とも言われるのですが、民主制をとる『南島』と、『タルレジャ教団』と『王室』の私有地で、外部との交流などはほとんどない、鎖国状態の『北島』とに分かれています。
存在はしてはいても、まったく姿を見せず、直接の発言も一切しない『国王』が、王国全体の君主なのですが、南島に関しては、主権はあくまで王国民が持ち、彼らが選出した議員によって国政が行われています。
立法、司法、行政はそれぞれが独立した権限の元にあって、お互いをけん制し合う体制であり、主要な民主主義国と異なるところは、ほとんど何もありません。
国教は『タルレジャ教』ですが、南島では、信仰の自由が認められていて、また、何も信仰しない自由もあります。
南島に関しては、資本主義の原則が適用されていて、それなりの激しい競争もありますが、『タルレジャ教』の教えに基ずいた社会奉仕の精神が強く存在し、何かの理由で『陥落』した人々には、再起できるまでの官民の無料ケアプランが、かなり充実しているのです。
これは、この地域では他に見られない豊かな地下資源が豊富にあり、また王室自体が大変優秀な『稼ぎ手』でもあったからこそ、可能になっておりました。
ただひとつ、『王国』が他の国と大きく異なるのが、『北島』の存在です。
北島の住民は、全員が『タルレジャ教』の信者でなければならず、『教団』と『王室』に絶対の忠誠が求められています。
就学中や病気などの例外状態以外の人たちは、全員何らかの仕事を持っていて、理論上も、事実上も、失業という状態は、あり得ないことになっておりました。
その代わり、税金の負担はまったくなく、教育も、医療も、住居も、生活費もすべて無料でした。
さらに、北島には、個人所有の概念はありません。
また、住民には、身分や貧富の格差はなく、住居には、みな、ほぼ平等な大きさの住宅が、割りふられています。
お金というものも、事実上必要がありませんでした。
ただし役割分担はあり、各自の能力や貢献度に応じた、現物支給の『お手当』というものはありましたけれど、それは、世界の常識から言えば、ちょっと隔絶したようなものだったのです。
たとえば、『第2王女様』が直に家庭訪問してきて、バイオリン演奏を聞かせてくださる、とか。
しかし、これがどれほどすごい事かは、北島の住民でなければ、ちょっと理解しがたいところはありましたが。
それでも、『第1王女様』、『第2王女様』、『第3王女様』は、タルレジャ王国の『3王女』として、現在猛烈な売り出し中で、世界中でその人気が高まって来てはいたのです。
地元南島と、また特になにかと関係が深い『日本合衆国』では、すでに爆発的人気となっておりました。
上ふたりの王女様は、日本生まれの日本育ちで、現在は日本悪高校生でもあり、日本国籍も持っておりました。
お二人は、二週間くらいずつに、交代で、王国との行き来を繰り返しておりました。
お二人は、王女様としての御勤めの他、『巫女様』としての大事な御勤めもあり、また天才的バイオリニスト、ピアニストとしても活躍中だったのです。
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たしかに、タルレジャ王国は、世界でもまれな、お金持ち国家でしたが、その基盤には、おそるべき技術力がありました。
たとえば、地下資源の掘削能力には、これに対抗できる国がまったくなく、さらに、非公開の様々な未来的技術を所有していました。
人工衛星を打ち上げた実績もないことになっていましたが、実は地球外にいくつも秘密基地を持ち、すでに宇宙の資源開発をしていたのです。
また、絶対に極秘の軍事衛星が、ふだんは地球からは見つからない場所(月の裏側)に隠されており、いざと言う時には、地球の軌道上にやって来て、地球上どこの場所にも、致命的な攻撃ができる能力を確保しておりました。
それは、後日火星人との交戦で明らかになったのですが。
しかし、そのような多くの秘密は、王室や教団が、あるいは、ものによっては、第1王女様とごく限られた側近だけが情報を握っていて、けっして外部には流失しないようになっていたのです。
それが、遥か昔の『火星文明』や『金星文明』、またそれらをも超えた、さらなる彼方の宇宙で開発された、まったく未知の文明の超越的技術を、継続的に持っていたからなのだ、ということは、もちろん完全な秘密だったのであります。
その超越した技術の伝達者が、『火星の女王様』であるということも、やがて少しずつ明らかになっては来るのですが、これから語りますお話は、まだそうしたことになる少し前の、ごく日常的な、世間話しなのであります。
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高校生になったばかりの『第2王女様』は、日本名は、『松村道子』といいまして、本名は、ルイーザ・タルレジャといいました。(本当は、もっと大変に長いのですが、正式な名前を憶えてくれている人は、ごく少数なのでした。)
東京から半月ぶりに王国の北島に戻ってきていましたが、目が回るくらい忙しい日程の中でも、北島内の『お散歩』・・・事実上の視察・・・は怠りませんでした。
北島内の自動車は、すべてがすでに最先端の電気自動車になっていて、有り余る日差しの中で、大変効果的に活用されていました。
ただし、個人所有の自動車はないので、すべて『教団』か『王室』が所有し、北島住民の利用にのために提供しているものだったのです。
運転手は、実はみな精巧なアンドロイドさんたち、だったのですが、これ自体が世界にはまだ秘密の技術でしたし、北島の住民自体が、そうだとは、まったく知らなかったのです。
住居や職場の端末から呼び出せば、すぐにやってきて、行きたいところに運んでくれます。
もちろん、公用と私用は、きっちりと分類され、その利用実態は、確実に記録されています。
『第2王女様』は、『王室』所有のゴルフカートのような小さなオープン車に乗って、お散歩するのが常であり、またお好きでした。
とはいえ、北島も決して狭くはなく、ある程度遠方に移動する場合は、真っ白な、しゃれた『公用車』でお出かけすることもありましたし、場合によっては、地下にある、秘密の高速移動システムを使う事もありました。
この日は、あいかわらず、大変暑い暑い昼間でしたが、彼女は本日お目当ての村のそばまで、例のオープン車で移動し、村はずれからは、歩いて行っておりました。
王女様といえど、こんな中を着飾って歩くようなことはいたしません。
『第1王女様』が独自に開発した、紫外線防止線維を使った、いつもの薄赤いワンピースでお出かけです。
宗教上の理由から、王女様たちは、いっさい履物は使いません。
常に素足での行動です。
道は、特に舗装もしておらず、まったく素肌のままのどろ道でした。
なので、王女様のおみ足は、時にはどろまみれになることもありましたが、それは実は大変高貴で崇高な事である、と見做されていました。
実は、これも宗教上の理由があったからなのです。
しかし、教団はかなり頻繁に北島内の衛生環境の調査や改善を行ってきていました。
そうして、なぜか、常に衛生環境には問題はないという調査結果が出ておりました。
それは、住民の住宅設備環境が、見た目の相当な貧しさよりも、ずっと充実していたからです。
上水道も下水道も、電気通信環境も、医療施設も、教育施設も、実はどの先進国よりも遥かに優れていたのです。
貧しさは、見た目だけだったとも言えるのですが、『第2王女様』は、最近、いささか心配をしていました。
それは、『第3王女様』が、こうした状態を、究めて深刻な事態だと考えていたからです。
そうして、このような人権搾取的な状況は、すぐに改善するべきだと、このところ常に『第2王女様』に強く訴えて来ていたのです。
情報公開も辞さないぞ・・・と。
「わたくしには、『第1王女様』に直訴する権限がまだありませんから。お姉さまにご協力をいただかねばなりませぬ。」
『第2王女様』は、そこらあたりを思い出しながら、村の運動場に差し掛かりました。
そこでは、10人ほどの子供たちが、『野球』らしき遊びをしていました。
日本なら、どこでも見られるような光景でしたが・・・・・
しかし、明らかに服装はかなり貧しい感じがしましたし、この炎天下でも帽子はなく、上着は着ていない子も半分くらいは、いました。
全員が裸足なのは、その宗教上の理由があるからではありますが、確かに外国の人が見たら、いささか疑問を感じるかもしれません。
南島ならば、少年野球チームのメンバーは、だいたいみな、カッコいい立派なユニフォームを身に付けているものです。
宗教上の理由だから、と言って済ませるわけには、もはや、ゆかないでしょう! と、『第3王女様』が主張するのも、まあ、理解は出来るのです。
それに、使っている道具が、どうもすっきりしません。
バットと言っても、どう見ても、ただの太めの木の枝ですし、ボールもどうやら、何かを芯にして、そこに布切れを巻き付けただけ、という感じのものです。
『第2王女様』は、おつきの人、男女二人に向かって言いました。
「あなたがた、ここでお帰りなさい。」
「なんと、そんなことできません。王女様をおひとりにするなどと、許されません。」
「あ、そ。じゃあ、わしはここで彼らと野球をするから、立って見ておるがいいぞ。熱中症にならぬようにお気を付けなさいませ。まあ、ちょっと心配だから、ほら、冷たいお水飲んで。じゃね。」
「あああ。え~~! あの、王女様・・・それはちょっと・・・いかがなものかと。またあの時のように・・・・あああ、いや~~いやいや・・・。」
「なによ! ははあ、やはり、なにか隠してるなあ・・・なんとなく、あなたがた、ここに来るのは嫌がっていたものね・・・ふうん・・・大体見当はつくわよ。あの子たちに、いったい、どなたが野球を教えたのかなあ? たしか、まだ公式にも非公式にも、北島には導入してないはずですわよね。野球は。」
「あああ。あの・・・これは、つまり、『極秘』でして・・・・」
「はいはい。あなたがたが、わたくしに『極秘』というものごとは、この世に、一つしかございませんわ。」
「あの、もしも、御指を痛めたりなさいますと、明日の演奏会に障りますゆえ。」
「大丈夫よ。わたくしを何だと思うのですか。これでもタルレジャ拳法の大師範ですのよ。ヘレナ姉さまとも互角に戦えるのですよ。」
『ヘレナ姉さま』、というのは、『第1王女様』のことであります。
本名は、ヘレナ・タルレジャ。
日本の名前は、『松村弘子』といいます。
「それはもう、お強いのは、よおく分かっておりますが、やはり、ここは・・・自重なさられますように。侍従長様から、またお叱りがありますしです・・・はい。」
「まあ、じいは、大丈夫よ。じゃね。」
双子の『第1王女様』と一緒にいる時は、常におしとやかな態度をけっして崩さない『第2王女様』なのですが、ひとりでいる時は、かなりのおてんばぶりを発揮することがあるのです。
ものすごい速力で、ちょっと土手になっている道をかけ下り、子供たちのところに近寄って行かれる、輝くような薄い美しい褐色の肌を持った、『第2王女様』なのでした。
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「やましんさん、これは、新しい趣向ですか。おとぎ話の感じです。」
幸子さんが指摘してきました。
「いやあ、第1王女様のいいつけだったからさ、まあ、始めてはみたんですがね。本編とは違った趣向が良いとは思ったんですが。何だかまだ不安定で、ひっくり返りそうですね。」
「そうでもない。ここに幸子がきちんと登場すれば、盤石になりますよ。きっと。それと、お饅頭とお酒ぱっくと。」
「はあ・・・・いや、まあ、幸子さんにも出てもらおうとは思ってますが・・・」
「やた! いえ、まあ、当然でしょう。ほほほほ。楽しみ~。」
「はあ、ぼくは、頭が焦げてますよう・・・・・」
「はい、お水。どうぞ。」
「あ、ども。」
「もうすぐお正月ですよ。」
「はあ・・・・最近新年と言っても、なにがいったい目出度いのか、よくわかりません。」
「目出度いと思うから、おめでたいのでしょう。気持ちの問題ですよ。きっと。」
「まあ、・・・・そうですよね。きっとですね。・・・落ちないなあ・・・」
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数日後
「やましんさん、早く続きを書かないと、時間切れになりますよ。」
「いやあ~~、ステントのせいかなあ、ここ数日、トイレに座ってるか、寝てるかのどっちか、が多くてですねぇ・・。ちょっと体調悪くてねぇ。あ、また、トイレが呼んでいる。」
「うわ。タイヘンダ、女王様に相談しなくっちゃ。作者がいなくなったら、どうしたらいいのか・・・」
「まあ、どうぞご自由に。調子よくないので、寝る!」
「ふうん・・・・・・」
幸子さんが、映画のサリエリさんのような眼をしました。
「やましんさんが、ぐずり出したら、CDとかおもちゃを差し押さえるように女王様から言われてますから・・・・とくに、くまさんとか。」
「ややややや、いやあ、あさってあたりにはよくなる様な気がします。はい。」
「ふうん・・・・じゃあまあ、明日まで休暇ということで。」
「あの、できれば、お正月明けまで、休暇下さい。」
「毎日休暇のくせに!」
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