表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/42

#6 いつか、帰って来たら話しをしょう

「!? っつ、着いてしまったのかっっっっ!?」


 彼が狼狽えている様子が、ばっちりとルームミラーからも見えた。

 動揺しているとも思う、だって、この話しは序盤中の序盤に過ぎないんだから。

 腕時計を見て、さらに携帯で電車の時刻を確認しているかのようだった。

 そして、電話をどこかにかけている。


(早く降りてくれ。どうせ、最後まで聞けないんだからさぁ)


 俺は駅の横のタクシー乗り場に並んで、ドアを開けずに待った。

 一刻も降りてもらって、次の乗客を見つけたかった。

 まだ、雨が止むこともないようで、バケツが浴槽に変わるくらいに、それぐらいに大雨になっている。

 ワイパーも止めどなく、動き続いていた。


「……尾田さん。駄目だったよー~~おじさん、がっかりだよぉう」

「? 一体、何がですか??」

「この時間の電車じゃないと間に合わないんだよ。あっちの会議に……」

 項垂れて顔を手で覆ってしまう彼。

 だが俺は、同情とかはしない。初めに長くなる有無を伝えてからの会話だったはずだ。

 それを承知で、彼は聞いていたはずだ。


「これからいいところだって言うのにぃ~~っくぅ~~‼」

 ただ、あまりの凹み具合に、段々と同情も湧いてきてしまう。

「こっちに戻って来た際に、指名をしてくれるようでしたら、続きをお話ししますよ。お客様」


「辞めないっ?! ここのタクシー会社から、他に転職とかしないかい?!」


 かなり必死だな、この人。

 まぁ。転職をする予定もないんだけど。


「あー~~はい。どこまで会議で行くんですか? 日数的に、どれぐらいなんですか?」

「会議は函館だよ。そこから転勤で、……2年は、こっちに戻れないんだよぉう‼」

 ついには泣き出してしまった彼に、かける言葉を、俺は持ち合わせてなんかいない。

 今、何を言ったところで、彼の傷心が治る訳でもないんだから。


「ちょっと。待ってて下さいね」


 俺は腰を上げて、グローブボックスの中を開けた。

 この中には、俺が異世界で買ったものが色々と入っていてぐちゃぐちゃで、欲しいものも、中々と見つけられなかった。だが、俺も、諦めずに手探りで探すと、ようやく指先にそれっぽものが触れた。

 取り出して見ると、目的物が爪先に引っかかっていた。

「これこれっ!」

 それを俺も彼に身体を翻して手渡した。

 受け取った彼は、それを左右に上下に見て――俺を見た。

「これは、なんだい? 尾田さん」

「それは、あっちで販売している土産品なんですよ」

「!? っく、くれるのかいっ?? ぉ、おじさんに‼」

「ええ。差し上げますよ」

 俺が彼に渡したのは、鳥のマスコットキャラクターがついたストラップだ。

 これは、ピチクパチク鳥から作られているんだ。長く押すと、声が出る仕組みになっている。

「じゃあ。お元気で、お客様。いってらっしゃい」

 彼も、携帯のケースに点けて、満面の笑顔になった。

 そして、代金の他にチップとか言って、かなりの額を手渡された。


「2年後に指名させてもらうよ! 尾田さん!」


 雨の中、会釈をし大きく手を振って、駅のホームに足早に向かう彼。

 きっと、あの人は昇進をして、栄転したりなんかして。ここには戻って来ないだろうと思った。

 でも、いつかは戻って来るんだろう。


 ここが彼の故郷(ホーム)なんだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ