#41 いつか新しい芽が息吹き、古い芽が朽ちるときに話しをしょう
会ったら会ったで、なんつぅか。あれだ、あれ。
『こんな感情、自分にもあったんだな』って新鮮な気持ちさ。
娘はいい子だった。
「本当に、俺なんかの娘なのかねぇ」
和泉の気のせいなんじゃないかなって思った。
俺なんかの子どもだとか勘違いしてんじゃないのかなって。
俺の気を引きたくて、俺なんかの娘だって嘘を吐いててくれりゃあいいのにって。
本当に思っちまったわ。
「っはー~~やれやれ……あーダンマルちゃん? ダンマルちゃん。応答を頼むわぁ~~」
片耳のブルートゥスのスイッチを入れて、最愛の弟との連絡を取った。
しかし、応答がない。
「ありゃ? 何? 何々????」
俺も根気よく、何度となく連絡を取った。
「充電でも――」
――『どうでした? 新女王様との対面は』と背後か、どこからかダンマルの声が聞こえた。明らかに感情を押し殺した口調だわ。うん、俺ってば殺されちまうのかな?
「いい娘だったぜ? 本当に、あの和泉の娘かね、ありゃあ本当に、……本当に……」
目頭があっちぃったらねぇし。
本当に俺なんかに残っていたのかと思うくらいに、涙が溢れて零れ落ちちまった。
いい歳した、40手前の男がなんて様だよ。本当に情けないったらねぇよ。
「俺ぁ~~ろくでなしだなぁー~~なぁ、ダンマルちゃん…ダンマル、ちゃ、……んンんっ」
――『そんなの私も、父も知っていたことですから。泣くなんて馬鹿なんじゃないんですか? ったく』
手痛いお言葉に、俺もへらっとなっちまう。
ダンマルは優しい弟だ。絶対に酷い言葉を俺には言わないし、正論でもあって耳も痛いが。
でも、確かに俺を抑えるにゃあ丁度いい塩梅だ。
「っは、っはっはっは。あんまりな言い草なんじゃあねぇの~~お兄ちゃんに向かってよぉう」
親父はこういうときのことを考えて、ダンマルの奴を俺に会わせたんじゃないだろうかって、今さらながらに親父に感謝をしてぇ。
こういうときに1人じゃなくて。
本当によかったって思ったことはねぇわ。
ああ。親父。
「たまんねぇなぁ~~」
フムクロ。
「涙も止まらねぇっつぅの」
もう迷うことはないぜ。
1ミリもだ。
「和泉は? きちんとトンネルは抜けられたかい?」
「ええ」
「そっか……そっかぁ~~」
「お土産も頂けたので。こうして、子どもを奥さんに任せて来ましたが」なんてダンマルが不機嫌に横に立っていた。こうして一緒に《17丁目》の地に立ったのは何年ぶりなのか。
ダンマルが来たがらなかったってのもある。
こいつは未来に向かって歩いているから、戻る必要はなかったんだ。
それに引き換え。俺は昔のことばっかしで、前すら見てなかったのかもしれないな。
「……済まねぇなぁ。馬鹿な兄ちゃんで」
「そんなの、……今に始まったことじゃないですよ。兄さん」
「それはそれで、うん。傷ついちゃうんだけどなぁ~~」
「はいはい。じゃあ、用事も終わったんですから――北海道に帰りましょう」
本当にダンマルにゃあ感謝だ。
俺を前への標識みてぇな存在だとすら思った。
◆◇
『いつか。余も子を授かるであろうときは――主の元に、母王の元に行ってもよいかな? 父上様』
◇◆
とてもキレイに幼いときの和泉みたく微笑んだ。
可愛くも気高い新女王である娘は、俺を父親だと呼んだことにゃあびっくらこいたわ。
だが、嫌な気分もしない。
むしろ、可哀想なことをしたなって思っちまったぐらいだ。
◆◇
『ああ。来たかったら来りゃあいいさ、……電話くれりゃあ、タクシーで迎えに来てやんよ』
◇◆
約束をした。
それは、次の子どもに迷惑をかけることは必死な事案だ。
産まれる前から捨てる前提の話しを俺と娘がしている。
悲劇から喜劇が生まれるのだと、遥か昔の誰かが嗤った。
開幕の鐘が鳴った訳だ。




