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#30 全部、俺が悪いから!

 瞳が光り輝く水科の表情に俺もビビるしかないだろう。

 こんな人の多い場所で、また。ドンパチをおっぱじめるつもりなの。

 あの日の事を知らない、若い世代なのか。

 ひょっとして、ひょっとしなくても。


 俺のことを知らない世代だとしたら、とんでもない。


「え。あンたってさぁ? 喧嘩売る相手、間違えてないかぁ?」


 大馬鹿野郎って称号を与えたいところだ。

 さて、こんな大馬鹿野郎より、どうにも邪魔なのは――漫画家の先方だ。

 思いっきり、人質じゃないか。


「間違ってなんかいないぜ? 尾田藤太さんよぉう」

「おい、先生。あンたの担当編集者は《17丁目》の異界人だぞぉ~~」

「はい、それは知ってますから。どうぞ、そのまま続けて下さい」


「っはぁ?! 何? 本当になんなの⁇ なぁてばっ!」


 もう、俺もこの荷物を下ろしたくもなった。

 もういい、もういいだろう。

 俺は、関わりたくないんだよ。


 面倒事になんかにはな。


「いいから。あんたは、思い出し話しをしたらいいんだよ!」

 がっつん! と運転席を蹴飛ばされた。なんだって、こう足癖の悪い奴ばっかなんだよっ。


「ほら! 早くっ、その続きだよ! 続き‼」


 ◆◇


 俺は慌てて浴室へと駆け足で向かった。

 中からシャワーの音は止まっている。浴槽の中からちゃぷちゃぷと音もする。


「あー~~あのぅ? お嬢ちゃん、ちょっとばっかし。俺の話し、聞いてくれるかい?」

「よいぞ」


(っよ、ぃぞ??)

「あ。ああ、あンたっさぁ? ……貴族? それとも――……王族か?」

 

 ばっしゃあぁ! 


 勢いよく上がる音が聞こえた。

 かと思えば、ノブが廻ると、あの小さな女の子の姿に戻っていた。

 真っ裸に出てくる様子に俺は慌ててシャツを脱いで、女の子の前に跪いてシャツを着せた。

「お嬢ちゃん。私に答えを頂けますか?」

 警戒させないように、俺はにこやかに、優しい口調を極力、接した。


「儂はイズミノミフ王女じゃ。良きに計らえ」


「っは、はははっはっは! 帰るぞ! このヤローっ!」


 俺は、そのまま脇に抱えて、玄関に向かった。

 行き先は、言わずまでもない。《17丁目》に決まっている。

 こんなことになるなんか、俺だって、予想外ってもんだよ。


 予期しないこんな状況下の中で、怒りに震えるダンマルの奴が来た日にゃあ、堪ったもんじゃねぇ。


「っは! 離すのじゃ、無礼な人間がっ!」

「うっせえよ! ガキの分際に偉そうな口を、いっちょ前にきくんじゃねぇよ!」

「煩い! 煩いぃいい~~! 離せぇええっっっっ‼」


 ジタバタと足をバタつかせて、俺の腕に爪を立ててくれるもんだから。

 血が流れるのも分かるよ。

 あと、噛むな。本当に痛かったっ。


「そりゃあ~~王族だもんなぁ! 勝手に出歩くことなんか出来ないもんだから! 俺のタクシーに無賃乗車をしたって訳だよなァ!」


 言い合い、もみ合いながら向かうとだ。

 

 ガッチャン!


「っひ!」


 玄関が閉じる音が聞えた。

 思わず緩んでしまった腕から、イズミノミフが抜け出てしまう。

 俺も、慌ててイズミノミフを追い駆けた。

「っひゃん!」

 しかし、どうやら先にイズミノミフを掴めたようだ。

 俺も、足をゆっくりとさせて、掴えたのはダンマルだと思ったんだ。


「あー~~っと。ダンマルちゃん? あの、っさ? ……は?」


「×●▽$¥」


 ダンマルなんかじゃない。厳つい体躯をしたゴリラ。その大きな拳の中に。

 イズミノミフが握られていた。そして、勢いよく駆け出したゴリラ。しかも、複数体もいた。明らかに狙いは王女(イズミノミフ)だ。金で雇われた傭兵(プロ)の連中。


「あ!」


 思いもしない展開に、俺も、追いかけるタイミングを失ってしまった。

 それでも、俺は追いかかけた。言っとくけど。俺は諦めの悪い馬鹿な人間様なのよ。

 俺の父親が誰なのか知ってんのかい。


「禁忌魔術師の祖のフムクロの息子である! 尾田藤太様の力を思い知らさせて! 後悔をさせてやんぜぇええっ‼」


 禁忌とは言葉の通り、扱ってはいけない危険なものだ。

 しかし、それはときに必要なときもある訳でさ?

 親父も、いつでもその適材適所で扱う許可をくれた。

 ただ、そのときの制御装置(リミッター)は――ダンマルだ。

 今はいなくたって、あとのことはあとで考えよう。


 今は奪還のことだけを考えるんだと、俺に奮起を促した。


「夜でよかったったらねぇな! つぅかっさぁああ! 待てよ!? おいおいおい! なんで来てんだよっ! マクベス? コーリンは!? っはぁ!?」


 普通には、安易に来れないようにするのが番人の仕事だ。

 仕事の放棄も手抜きを絶対にするハズなんかない2人だ。つまりは、どういうことだって。

 言わずとも、想像は悪い方向にしかいかない。


 つまりは、あの(つがい)の番人は。


「っざ、っけんじゃねぇよ‼」


 いや、想像だ。あくまでも想像だと俺は自分を言い聞かせて。落ち着かせようとした。なのに、沸騰した血は収まらない。


 後悔、後悔、後悔、後悔――……


「ぶっ殺すっ!」


 全部、俺が悪い。


 ◇◆


 俺はウインカーを点けて、路の脇に車を寄せた。動悸が収まらない。

 この感じは、あのときと同じだ。

 熱く沸騰するような動悸。そして、興奮。


「何。オレを葬ろうとか、思っちゃってる? 尾田藤太」

「……ほんのちょっとばかしな。指先がいうこと聞かねぇから、ちょっと。メーターそのままで、落ち着かせてもらうぜ」

 俺のメーターはそのまま発言に、

「「いやいやいや!」」

 2人はつっこんだが。


 この話しを聞きたがった。

 あンた達が悪いだろうよ。


 その報いと、対価でもある金を支払うべきだろう。

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