表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

#28 お持ち帰りした彼女が、そこそこヤバい件について

「まとめるたって。その話しは、そんなに簡単なものじゃないんじゃないのかい? 尾田さん」


 俺の言葉に、目を輝かせていたはずの先方も、しゅんっと悲しそうな表情になっている。

 そんな彼の横で、水科が俺に言う。


「まとめる必要なんかないですよ。始まりから終わりまで。きっちりと、話して下さい」


 胆の座った、ものの言い方には俺も苦笑しか出ない。

 どうにも、俺はこの水科には、勝てる気がしない。無理矢理に、ねじ伏せることが可能だったとしてもだ。

 理論的に、という状況下での話しだけどな。


「本当に良い性格した担当編集者だわ。ムカつくね」


 ◆◇


「っはー~~だるっ」


 俺はハンドルを握って首を横に振った。

 嫌でもない現実世界に戻る為に、トンネチの中をひた走る。そんなお疲れの俺の耳に、何か音が聞えた。

 何かが、こう、蠢くような、もぞもぞとした音だ。


「?」


 俺は不審に思って、トンネル内部でウインカーを点けて車を端に停めた。

 向こうからは誰も来ないと分かっていても。万が一とも思ったからな。

 

「おい? ダンマルなのか?? 全く、兄ちゃんを困らせるなっての」


 俺が声をかけても返事はなかった。絶対に、いるはずなのに。返事がないってのは、本当に腹が立った。

 俺は聞えるように大きくため息を吐いてやった。

 そして、俺は運転席から下りた。


 やれやれと、手を伸ばして、後部座席のドアを開ける。


「ダンマルっ!」


「っぴゃ!」


 勢い開けたドアの中、後部座席に毛布に包まった。子供が身体をビクつかせた。多分、ダンマルよりも幼いだろうし。そんなもんだから、俺も誰とも知らない子供に、何をどう怒れば、言えばいいもんなのかを悩んだ。

「……おい。どこの餓鬼だよっ」

 俺は腕を伸ばして、毛布を剥ぎ取った。

「……人間? なのか。あンたは……」

 真っ黒い髪が肩まで伸びていて、前髪もぱっつん、眉毛の長い大きな瞳の中は藍色で。それに俺が映っている。ファッション誌に載る様な、テレビドラマにいそうな。可愛らしい女の子だ。


「うん。ここから出たいのっ。協力をして欲しいのじゃ!」


 どこか上からな口調だったが、このときの俺は気にはならなかったんだな、これが。

 真剣な表情に、にじりよって来て、俺の膝を掴む小さな手。

 しかも、小刻みに震えているもんだ。


「いいけど。金はあんの? 私は運転で金を稼ぐ商売をしていますよ?」


 俺はかまをかけて丁寧に、客に語りかけるように話しかけた。俺はタダ働きはしない主義だ。

 これから家に帰るとしてもだ。払って貰わなきゃわりに合わない。


「っか、カラダで払う! なら、どうじゃ!」

「っか、……らだぁ~~??」

「うむ! そうじゃ‼」


「……――身体かぁ?」


 俺を掴む手は小さいし、伸びてる腕も細いし、明らかに。

 JSでしかない体形だし、体格も未発達も、全部が犯罪に思えた。

 しかしだ。

「うぅん」

 契約はなされたと俺は、ドアを閉めて運転席に戻った。しかしだ、難所はある。

 このトンネルの関所でもある。マクベスとコーリンの(つがい)の番人だ。

(っま。なんとかなるかな)

 アクセル全開で、俺は愛車を走らせた。


「おい。一旦、椅子から下りろ」


「? ん」


 俺はボタンを押した。すると、どうだよ。後部座席が上に開いた。

 中は空間で、何も入ってなんかいない。普段はお土産の品を買って、この中にいれて、密輸をしてたりする。

 今日は、買っていないから、運よくも、空の状態だった。


「で。とっとと入ってくれる? お嬢ちゃん」


 子供は慌てて中に入った。

 それを確認して俺も後部座席を締めた。

 俺も息を整えてバックミラーで、自分の表情を確認をする。

 動揺をしていないか、瞳孔が大きくなっていないか。

 心臓音も、脈も。平静を保たないといけない。

 原則として《17丁目》に入った生き物は出られない。

 いや、出られるが。

 申請やら、理由などといった紙を部署に提出して、許可通行証を発行してもらうことが原則だ。

 それらを全部無視しての、この強行作戦を実施する。

 明らかに、背徳行為であることに変わりはない。


 番人でもある親しくなった奴を――騙すんだからさ。


「よう! 今日はもう帰るんかい? フジタぁ」

「ああ。明日は勤務が早いからさ。ゆっくりと風呂に浸かるさ」

 のんびりと話すのは牡鹿のマクベスだ。フムクロ同様に話しやすい(タイプ)だ。それよりも嗅覚がいいのは女鹿のコーリンだ。今日は、少し興奮しているな。「コーリン。どうかしたの? 顔が真っ赤だぜ?」

「っひ、非常事態が起こっ――!?」

  何かを言おうとしたコーリンの口を、マクベスが手で覆い隠した。顔はにこやかなままなところも、フムクロのような仕事意識の高く、誇り高い戦士。そのものだ。あとは、この状況下は紛れもなくチャンスだ。

 突っ切る為の、何かの力が発動したに違いない。


「何? 何々?? (っなぁああん)っか。やらかしたのか? 《17丁目》の連中共ってば」


「いいから。ほれ、現実世界(あっち)に帰んな。フジタぁ」

「はいはいっと。もしものときゃあ俺を呼びな。辺りを火の海に変えてでも、金次第でやってやるよ。知り合い割引でさ」

 俺も、敢えて話しにノリながら、クラクションを鳴らして、トンネルから出た。

 そこの光景は山中から見える人工的な光りが輝いていた。


 ドン! ドドン‼


「あ。忘れてたわ」


 俺は後部座席を開けてやると、女の子が勢いよく飛び出た。

 全身から汗が噴き出ていて、髪を伝って汗が垂れていく。

「し、死ぬかと……思った、のじゃ~~っつ!」

 そして、車のフロントガラスから、その光景を見た瞬間。

 女の子の動きが強張ったのが見えた。


「何? 帰って来たし、家はどこ? 送るよ」


 俺はバックミラー越しに女の子に聞いた。

 その質問にも、女の子の身体が大きく揺れた。

 どうしてここまで、リアクションがスゴイのかと俺も息を吐いた。

 しかし、それでも、家を教えてくれなきゃどうにもならない。

 こんな女の子を連れて家に帰った日にゃあ。

 こういう日に、やっぱり家から自立するべきだわ、と思っちゃうわな。


「身体をあげるから、一緒にいてくれまいか?」


 ◇◆


「「!?」」


 俺の話しに鼻息が荒くなって、顔を真っ赤にする水科と先方の2人。そりゃあ、そういう反応をするのか。業界的に、エロい展開ってもんだもんな。

 明らかに、そんな感じの雰囲気の。それに男の想像力(エロス)も半端ないってもんだし。

「まぁ。想像に任せますから。野暮なことは聞かないでくださいよ?」

 俺は間にキリトリセンを切れ込んで。そう一蹴した。


 その女の子のせいで、俺の人生は一変をさせはしなかったが。

 敢えて言うなら、女の子の人生が一変してしまった。


 ああ。そうだよ、俺のせいだよっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ