#22 異世界の中の異世界人の小津雄
――『何がって。こう、お前が言うその運転手の尾田ってっさぁーただ。巻き込まれているだけなんじゃねぇの? 異世界の中の異世界の日本人ってなだけだろう。あっちにとって、こっちは――《異世界》そのものじゃんか』
滝澤が僕に笑ながら持論する。そう言われれば、確かにそうだとも思った。
異世界に転生すれば異世界人だろうし。
でも、異世界に自ら行ったのなら、それは異世界冒険者ってことだ。
それを尾田は、仕事にしているって訳になる。
あんな野蛮で、あんなに危険な場所で、車を相棒に。
さらに、ダンマルって奴を片腕に。
――『逆に、どうしてそんな場所で、異世界で仕事なんかしてんのか。聞きたくなんな、その運転手にさ。つぅか、狸寝入りしていた小津雄ちゃんも小津雄ちゃんでしょうに。馬鹿みたいに何をしてやがったんだよ』
それを聞かれると一寸、言い辛いんだよ。
滝澤。でも、あと少し、もう少しでも、お前に時間があるってんなら。
――『あ! 悪ぃ~~ちっとばっかし、クソしてくるわっ! 待ってろよなっ』
「ぁ。ああ、分かった」
◆◇
ギュイィイインンンッッッッッ‼
バン!
『チャーリスぅうう‼』
バン‼
ようやく車が止まったかと思えば。尾田の奴が、運転席から離れて行った。
僕もシートを被ったまま、窓の外をようやくここに至って、見ることが出来た。
(っな、何だよぉうぅうう!? っこ、ここわぁ~~‼)
特撮バリの特殊スタジオみたいな場所で、エキストラの面々は様々なだった。
しかしどうだろうか。明らかに異形だ。動物や妖精、SFっぽい面々が多数いるんだ。
僕はこの光景を携帯で撮りたくなったもんだから、携帯を動画にさせて回した。
あり得ない状況を滝澤に見せようと思ったからだ。
「おい。遅ぇよ、フジタぁ‼」
そう悪びれる様子がないのはチャーリスって奴に間違いがない。
だって、そいつに尾田が、歯を剥き出しに向かって行ったんだから。
あと、チャーリスの容姿はまんま《サイ》だ。
「遅いじゃねぇ! 俺は仕事に来てんのよ?? 何だって、戦場に呼び出されなきゃなんねぇんだよ!? 勘弁しろよっ。坊ちゃんよォー~~っ‼」
「坊ちゃん、言うんじゃねぇや。愚息ちゃんはつれねぇなぁ♡」
「ぁ、あンたにっ。それを言われる筋合いなんざねぇんだけどなァ‼」
「つぅか。一応、戦場で乗りつけるつもりで呼んだんだ。ほら、クルマに乗せやがれよ。フジタぁ」
予約を入れて呼んだ以上は客だし。
呼ばれて向かって行った以上は、職務を全うしなければならない。
つまりは、乗せて走らなければならない。
「っはー~~もう。車もぼっこぼこだよ! ほら! 見ろよ‼」
「御託はいい。ほら、乗せろっ」
聞く耳もないチャーリスは、僕が乗るタクシーに、力強い足取りで向かって来た。
(っひぃいい~~っっっっ)
「そんなに強い相手か? チャーリス」
真剣で聞きやすい尾田の声がチャーリスに聞いた。
「ああ。だから、お前を呼んだんだよ。戦友よ」
肩に大きな斧を乗せて、トントンとリズムを刻むチャーリスに、尾田も首のタイを緩めた。そして、大き口許を歪ませた。そして、上げていた前髪を手で下ろして梳いた。
一気に幼くなった面に、
ごっくん!
僕も思わず息を飲んだ。
「割に合った報酬だろォうなァ~~?? チャーリスぅう?」
「はは! 俺が嘘を吐いたことがあるってのかい? フジタぁ??」
大きな手を拳に固めると。それに尾田も拳で押しつけた。
「親父の名に懸けて誓うか? 兄弟!」
「ああ! 戦友の名に懸けて誓おう! 兄弟‼」
そして、お互いの脇腹を殴り合った。
「「った」」
さらに。お互いが見つめ合って不敵な笑みを浮かべた。
そうだな。
その場面は、映画で例えるならCMで宣伝に使われるような。感動的なものだと思うよ。
タクシーに来た2人に、僕は、また寝たふりをした。
『で? どこに喧嘩を売りに行くんだよ? 場所をナビに入れないと、行けねぇよ。この地域一帯は、荒れ地だからなぁ』
『ダコブだ。反政府勢力があぶれてやがって、好き勝手にのさぼりやがって。残虐非道を尽くしてやがんだってよおう。もう、そこにゃあ国民は居ねぇよ。全員、避難させたからなァ。だから。お前を呼んだのさ。フジタぁ』
『ああ。そいつぁ、有り難てぇなぁ! 久しぶりだから、加減を出来る自信もねぇしなぁ。あ。チャーリス、助手席に座ってく――』
バン!
『!? っふ、フジタぁ~~?!』
はい。ここで僕の存在が知られました。
でも、狸寝入りを続行した僕を、誰か、誉めてくれないだろうか。
◆
――『っはー~~出た出た。はい、お待ちっしたぁ~~』
僕は少し、疲れていたのか。ウトウトとしてしまっていた。
だから、トイレから戻って来た滝澤の声も、どこか夢心地だった。
――『ぅおおォいぃ?? 小津雄っくぅううぅんンん!?』
でも、あと少し。もう少しでいいから。ほんの少し。
僕を覚ましてくれないか。
滝澤に伝えたいことがあるんだ。




