#21 襲撃されるタクシーの中の小津雄
「今まで。観ていた映画そのものの方が――甘いものだって、やっぱりっていうか。創りものの異世界なんだって。思い知ったよ、滝澤」
僕の言葉に、
――『そりゃあ。脚本家の頭の中のフィクションだもんよ。まぁ、実話とかあっても、制作側は平和な世界での創作だしなぁ~~映画ってのは。んで、手前は何を視て来たってのよ。小津雄ちゃんったら』
滝澤がここでようやく、耳を傾けてくれたのが分かった。
アリガトウ、滝澤。
――『今日は仕事は休みだからな、聞いてやるよ。ほら、話せよ!』
◆◇
バン! ババン‼
尾田がハンドルを拳で、何度も、何回も叩いた。
感情の荒ぶりを、そのまま表現している。言葉でいうのなら――《怒り》だ。
『あー~~くっそたれっがァ~~‼』
どうやら言い負かされてしまった仕事は、尾田にとってしたくもない、関わり合いにもなりたくない知り合い相手のものだったようだった。
『つぅか! チャーリスだって分かってんなら受けんなっつぅ~~の‼』
忌々しいと言った口調のまま、アクセル全開でタクシーを全力で突っ走る。
多分ノンブレーキだわ。あっちじゃ、一発免停になんぞ。おい。
しかも、おい。後部座席に僕が乗ってて、寝てるってことをお忘れじゃありませんかね?
おいおいおいおい、尾田さんよぉう!
しかも、この路は、舗装されていない砂利路じゃないか! 山とかじゃ、よくあるけど。タクシーも揺れに揺れて。後部座席で、横たわって寝ているフリをしている僕だって、気持ち悪くなっていった。
っが!
ががが!
(ぅう゛う゛っっっっ‼)
思わずだ。
ドン!
ドドン‼
『!? っと‼ ぉ、客様ぁああ??』
バックミラーだけじゃなくて、運転席から直に僕を、尾田が見てきた。
その視線に、僕は目を強く瞑った。すぅーすぅー~~……なんて寝息を装って吐く。
『寝て、ますよねぇ? っね??』
少し、上擦った言葉に。
「っぐ、ぅうぅう~~」
僕も、どうしょうもなく唸るような、悪夢を見ているかのような寝息を漏らしてみたんだ。
そしたらどうだ。
『! っよ、よかった。寝てますねぇ?』
安堵の息を尾田が吐くと、前を見据え直した。
そして、また。アクセル全開の、ノンブレーキでタクシーを走らせた。
そして、辺りの匂いもきな臭くなってきた。車内も、少し空気が悪くて、息苦しかった。
(なんだってっ。僕は、こんなおかしな場所にいるんだよっ!)
その中、タクシーの向きが変わったようだ。
ダン!
ダダダン‼
(!?)
ダダダンっっっっ‼
弾‼
『っち! 折角、昨日洗車したってのによぉう‼』
タクシーはどこからなのか、何なのか。襲撃されている。
タクシーが激しく左右に揺れることに尾田も舌打ちをしたけど。
怒るポイントは、そこじゃないはずだ。絶対にそこじゃないはずなんじゃないですかねぇ。尾田ぁアっ!
そして、さらにアクセル全開だ。
(どんだけアクセル噴かす気なんだよぉう‼)
揺れに揺らされるタクシーに、いつまで僕も我慢しなきゃなんないのかなって。
正直、キレそうにもなった。
『ダンマルの奴っ! 後でボコる‼』
尾田の奴は、もうすでに、キレているのは明らかだ。
そりゃあ、商売道具が攻撃されてベコベコになってんじゃあ。その気持ちは、何となく分かるよ。
大事なフィギュアが、粗大ごみに出される感覚に近いだろう。多分。
『チャーリスの野郎っっっっ‼ ぶん殴るっっっっ‼』
上手いハンドルさばきで、尾田が攻撃を交わしていくのが分かる。だって、辺りの騒音が、なくなったからだ。
尾田は間違いなくというか。何というか。
(こっちの人間だなっ! あっちの人間の皮を被ってやがんのなっ‼)
僕は間違いなく。尾田は――異世界人だと悟った。
◇◆
「って感じなっ!」
俺が力説をするも、滝澤は。
――『いや。そりゃあ、違うんじゃないのか? 小津雄』
少し、溜めて言葉を紡いだ。その意味合いなんか、僕には分からない。
僕の話しを聞いて、どこで何を思ったのか。
あと少しだけ、もう少しだけでいいから。
一寸ばかし、語り合おう。
「何がだよ。滝澤」




