#18 いつか、覚えていたら話しをしましょう
私がフムクロ父さんに聞いたのは、あまりに衝撃的な顛末だった。
当時も、今も。藤太サンに言うことは出来ない。
「そんなに。酷いことをしたの? ダンマル君のお父さんは」
「ええ。少なくとも、私は残酷だなって思ってますよ。ハジメさん」
◆◇
「いいからっ! 何がどうであろうともっ! 付き合うからっっっっ‼」
「ああ。本当に、いい息子だわぁ~~フジタぁ~~」
にこやかに彼の頭を撫ぜて油断させたまま。勢いよく藤太サンの脳を抜いて、死にかけていたドワーフの心臓を抜き取った。
それを合わせて輪を創ったらしい。
「今日からお前らは一心同体となる。どちらかがじゃなく、両名が思い出し出会って、お互いの《名前》を呼ぶことによって、解除される仕組みだ」
それは、いつ終えるとも知れない――《人生ゲーム》だった。
「解除されたら、《命の制限》が与えられ。《命の限度》を選ぶことが出来。その上、《神になる資格》も得られるっつぅなぁ~~《ハイパーゲーム》な訳よ」
父さんはゲームに細工をしたから。
終わりなんかないんだよ。死に際に父さんが言った言葉が、全ても物語っていて。驚愕した。
『脳は記憶を司り。心臓は肉体を生かす。その機能を無効化にしたんだ、俺はな。記憶出来ない細工を、止まることのない細工をした訳よぉう』
そう笑って。父さんは私に終わることのないゲームの説明書を手渡した。
私に見届けろと、そう意志だったと思う。
生かしたい男は、知らない内に、死ねなくなり。
殺されたい男は、望まない内に、不老不死に。
そんな2人の永遠を見守り続ける男。
それが私だ。
◇◆
(今回で何巡目だったのかな)
――『でさ~~今日はカラオケ行きてぇ~~んだけどぉう? どう?? どぅだよぉう!?』
電話の向こうの彼は陽気だ。
そこがスゴイと思うし、呆れるとも思う時もあるけど。
大概は――羨ましいと思う。
私は、そうそう感情が露に出来ないから。
ころころと、表情が変わる兄が堪らなく可愛いとさえ思っているのだが。
「働いて下さい。カラオケだァ?? 最近は売り上げも散々なんですよ?! これから出費もあるんですからねっ! しっかりと稼いで、頂かないと‼」
――『へぇへぇ! 親になると、性格までも変わっちゃうんですねぇええ!? ケチんぼぅ‼』
私は可愛い日本人の奥さんといい縁があり結婚をした。近く、出産もある。
だから、兄さんには稼いで貰わないと。ついでに、異世界の土産も、実は転売をしている。こっちにいる連中は、ホームシックが多いからね、高く売れるんだ。
いい小遣い稼ぎをさせてもらっているんです。ですが、それはあくまでも、小遣い程度でしかない。巨額となれば、やはりきちんとした収入が必要だ。
だから、こんなにも悲惨な兄にも私は畳みかけるしかないんだ。
私の独りよがりだとも分かってはいるんだ。
誰だって。そう、誰だってだよ。
「なぁ。兄さん、幸せかい?」
――『いきなり。何なんだっるぅの。まぁ、糞みてぇな人生でも。お前達がいるなら、倖せだよ。もちろん♡』
見届ける私は不老不死ではない。いつか、兄よりも早く死ぬだろう。
ただ、その時に。
兄が、その違和感に気づかない様に。もしくは、心を壊さない様に。
折れて砕けて、また、殺戮兵器にならない様にと、心の底から心配だ。
ただ、その時に。
私の家族が、子孫が対抗出来ればいいが。どうだろうか?
民族を皆殺しにした兄だ、短気でキレやすく。繊細な性格と、不可解な人間の典型。
「きめぇ」
何も知らない兄は、今日も、元気だ。
きっと、何遍と。何巡と繰り返しても。
この性格は変わることはないだろう。多分、恐らくは。
私の好きな兄は。ずっと、こうでなくてはならない。
なら、私も。こうでなければならない。
兄をおちょくり、貶し、尻を叩いて急かす。
それが私の仕事であり。父から与えられた任務だ。
――『だーか~~らぁ~~‼ 何なのお前っっっっ‼』
「……カラオケ。そういえば、最近。行ってませんね? ふむ」
――『!? っだ、ダンマルちゃん?!』
耳の鼓膜に響く兄の声は、高く弾んでいる。
目もキラキラと輝かせているに違いない。
「妻に聞いてみましょう。行くと言えば行きましょう。今回、特別にです」
――『ちょっとー今すぐに聞いてくんないかなぁ~』
たまに甘い顔をするのも今回だけですよ。
人生には雨と鞭は必須ですからね。とくに人間相手には。
そんな人間の未来が一重に。
クソくだらない、クソみたいな人生だったとしても。
今在る人生は間違いなく。
上々だ。




