#16 最果ての地の上の…
他人事をこんなにも聞きたがる糞野郎を、乗せたことを後悔をした。
とっとと、目的地に急ぐしかないのは確かだ。
この話しを、その最後を教えることはない。
有耶無耶にして、一生、その最後に黄昏るがいいさ。
「もう少しで。唐沢病院ですよ、お客様」
「尾田ぁ‼ いいから! その続きだっ!」
がっこん!
「――~~っっっ‼」
がっこん!
◆◇
タクシーが進むと、不気味な廃墟が砂に埋もれている様子が見えた。そこに年代を感じた。
いや、時代なのか。むしろ、文明の名残りと言った方が明確なのか。
《17丁目》らしくもない、むしろこんな建築物は――現実世界の技術でしか、地球人にしか出来ないと思った。構造が、その建物の面持ちがそっくり過ぎた。
驚く様子が見えたのか、察したのか偶然なのか。
「人間が。この《17丁目》に住んでいたときの遺跡だ。だから、ここの住民連中は《暗黒時代の遺跡》と呼び、どの種族も足を踏み込まねぇんだよ。ヘタレ共が」
糞野郎の言葉に思わず、
「え?!」
裏返った声が俺から漏れた。
「住んでいたと言っても、小規模の……科学者、異能者、哲学者と名乗った連中だった。一切の害もなく。むしろ、この異世界に建築などの知識を教え、活性化させたが。良く思わない何者かに、惨殺された。それにより生まれたのが、……さっきの《ムクロガツガリ》だ。死ぬに死ねない憐れな、成れの果てだ」
この糞野郎が思い出したいるかのように。
俺へと、ポツポツと、昔あった歴史を教えてくれた。
どうにも、これは死亡フラグにしか聞こえない。
巻き込まれの死に方なんかご免だ。
「連中の悲しみ、怒り、戸惑いが溢れ出て。ここの砂には感情が染み込み、真っ黒になっちまったんだ」
「……感情を吸い込んだ、ですか」
「ああ。お前の世界で言うところの。神様の気まぐれ、いや、検証不能の怪異って現象ってのが合ってるか? 連中が居なくなったこの地区は、今は、錆びれちまって、こぉんな状態だ! ここから学べることもあるってのに。恐れる奴らは、クソ莫迦野郎ばっかりだ!」
喜々と言う糞野郎に、
「……学ぶとは? 一体、どういう意味でですか?」
俺も、低い口調で聞いた。
まるで、俺を狙って俺をここに連れて来て。同じ人間の、俺を殺すかのようだ。ただ、殺されるのは面白くない。
いや、俺は死なない。
俺は勝つ。
「お客様。私に、何か言いたいことでもありませんか?」
俺は負けない。
「何もねぇよ。ほら、走らせろよ。尾田ぁ~~っ!」
ガン!
(またっ!)
ガン!
アクセル全開で、俺はエンジンを唸らせて運転をした。
いつまでも、こんな糞野郎と一緒に居たくなんかないんだよ。
俺も、とっとと帰りたいんだ。お前の運賃を貰ってだよっ。て、俺は胸の内で叫んでいた。
さらに、進むと。
「ここは?」
そこは言わずとも分かる場所だ。
「墓場……?????」
整えられた大量の墓石に、大きな祭壇と、取り囲むように植えられた花が風に揺れている。
真っ黒な砂の上に、神々しくも見えた。
「殺された場所だ。連中のな」
「……え??????」
「ここまで済まなかったな。もしよけりゃあ、一緒に祈ってもらえねぇかな?」
苦笑交じりに、鼻を指先で擦る糞野郎の頬は朱に染まっていて。
一気に、今までの苛立ちが収まった。
「ぁ、はい……分かりました。ドドッギさん」
俺の言葉を聞く返事もそこそこに、ドドッギは花を摘み始めた。その様子に、俺も花を摘んでみようとしたんだけど。近くで見た花は、割と大きくて、茎太い。普通の日本の花とは違って、硬くて、うんともすんとも俺の力程度では、微動にしない。見かねたのか。無言でドドッギが摘んだ。
そして、俺の頭の上に花を乗せた。
「《幸運の花》と呼ばれる希少価値のあるものだ。やる」
俺は頭から花を掴んで、目の前にやった。七つの白い花びらには、何か文字が生き物のように流れるように動いていた。とても、珍しいものに俺の心も弾んだ。
「ここの連中は無駄死にだ。もう、記憶にもない上に、《暗黒時代の遺跡》だの《最果ての地》だのと悪い噂ばかりが広まっていくばかりだ。連中が何をした? ……この異世界に知識を知らせ広めただけだというのにっ。俺らは、なんと惨い真似をしたのか……仕打ちをしただろうかッ‼」
顔を両手で覆い隠して跪くドドッギに、俺は掛ける言葉もなかった。
いや、ここで声を掛けるのが無粋極まりないだろう。
大きな体躯が、小刻みに震えていて。何故が、小さな子供のように見えた。
「お客様? 大丈夫、ですか」
俺も、何も言えずに。そんな軽い言葉しか出なかった。
「殺してくれ……俺を、殺してくれっっっっ‼」
涙と、鼻水で汚れた顔が俺を見上げて。そう叫んでいた。
よく洋画であるような赦しを乞う俳優のように見えた。縋るように俺を、涙目で視ていて。
俺の胸も、はち切れそうだった。
◇◆
ばっくん!
「っつ!」
ばっくん!
「う゛っぐぅ゛!?」
俺の胸が激しく脈立った。それに伴って、激しく吐きそうになってしまう。
それを押し留めて、頬を膨らませる俺に。
「そこの公園で吐いて来たらどうだ? 尾田ぁっ」
運転席を杖で押しつけ、横の公園を知らせた。
顔を横に振る俺に、糞野郎が大きくため息を吐くと。
「運転手よ、命令だ。コンビニに寄って貰えねぇかな?」




