表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

#13 面倒な乗客

「日が暮れる運転してんじゃねえよっ」


「はい。申し訳ありません、お客様」


 今日の乗客は、ダルマが電話受付していたお迎えのじぃさんだ。

 年齢は、そうだな。多分(おそらく)、60歳ぐらいだろう。

 俺が、最も苦手であって、大嫌いな人種(タイプ)だ。

 こういう年配者は、俺みたいな職種を蔑むように、態度も横暴な人間が多い。

 最初に、『お客さん』って言った瞬間に、(なじ)られて、キレられたもんだから。俺も、このじぃさんが降りるまで《お客様》として気を使わないといけない。

 そのストレスは、同じ職種でしか分からないんじゃないだろうか。


 今日は、ダンマルの奴とカラオケに行こうと思う。

 

 その為には、じぃさんを、とっとと唐沢病院に下車させて、一旦帰ろう。

 うん、そうしょうじゃないか。


「それに。このBGMはなんなんだっ! ラジオとかを流したらどうだっ!」

「申し訳ありません、お客様。少し、電波が悪いのか。故障なのか分かりませんが、ラジオが流せないんです、……お先に、お伝えするべきでしたね」

「! 先に言えっっっっ‼」


 がっこん!


「!? って……っつ!」


 がっこん!


 じぃさんが、持っていた杖で、俺の運転席の座席を叩きつけた。その衝撃で、俺の身体も、前のめりになってしまう。何、このじぃさんは死に体のかよ。


「おい! 何か、儂が愉しませようと努力をせんかっ。そうじゃな、……ああ! 何か、このクソみたいな業界でのクソくだらない、クソみてぇな実話を言えよっ!」


 どこまでもクソなクソで糞野郎なじぃさんだ。戦前か、戦後の糞野郎だからか、どこまでも偉そうなで、横柄な態度をとりやがる。

 でも、どこかで俺は、異世界に似た奴を思い出していた。

 はて、確かそいつは――


 ◆◇


 俺が、かけもちをする異世界タクシーには、やっぱりつぅのか、一癖も、二癖もある変わったならず者が多い事、多い事。まぁ、そいつは覚悟の上だったし。その現実離れした空間が、堪らなく好きだ。

「おい。フジタぁ、最近はどぉなんだよ。仕事(タクシー)の方は」

「!?」

「……おいおい。どう言うこったぁ? お前、もうそこそこ、こっちに来て長いだろぉうがよぉ~~」

 フムクロの家で、親父(フムクロ)の武器の手入れをしていた俺に、呆れた口調で言われたもんだから、俺も、言い淀んでしまったし。身体も、大きくビクついてしまった。


「っきょ、今日は本当の休日なんだよっ! あっちだって出勤してて、くたくたなんだよっ! だぁ~~から、こぉうして、のんびりと親父の武器の手入れだって、出来るんじゃねぇかよ」


 確かに、ここ最近、こっちでの出稼ぎは怠けていた。

 あの事件以来、俺の評判は悪い方向に広まっているからにほかならない。

 厄介な奴らしか来なくなって、命の危険も感じてしまったんだ。

 だからって来ないって訳にもいかないのは、親父が最近病気がちで、気が気でないからってのも、言い訳に入るんだろうか。


「まぁ、お前が手入れしてくれた武器は、本当に切れ味があってよくて助かってはいる」


「だろぉう‼ このきめ細かな磨き方は、俺が研究し――」


 ジャキンっ!


 フムクロが俺から、武器でもある剣を奪い取ると。

 俺の左肩に押し当てた。ほんのちょっとでも力が入れば、すっぱり斬れるようになっているってのに。


「何? 親父さ。俺を殺すなのかよ」


「うだうだと、言ってねぇで! お前はお前の任務を遂行しやがれっ! 今日は、金かなんかを受け取って帰らねぇ限り、家にゃあ上がらせねぇかんなっ!?」


「そうですよ。フジタは仕事をして来るべきなんです」


 家にはダンマルもいた。

 まるで、自身の家のようにくつろいでいて、親父の子供、つぅか、俺の弟のような立ち位置になってしまっているんだ。上手く、ピースも埋まった感じだ。


「フムクロの面倒は、私に任せて。君は稼いで来て下さい。そして、何か、お菓子でも買って来るべきです! 巷で話題のお菓子を食べたいです!」


 ダンマルの言い草に、フムクロも苦虫を噛んだ。

 なんとも、言えない顔をして目を閉じていた。

 

 親父の口許は緩んでいるから、まんざらでもないんだろう。


 ◇◆


「《17丁目》か……久しく聞かなかったな。まだ、そんな御伽話を信じるクソ莫迦野郎がいやがるとはなっ! っは、はははは‼ 傑作だなぁアっ‼」


 馬鹿笑いする糞じじい野郎に、俺は苛立った。


(唐沢病院まで、かんなりあるって地獄でしかねぇじゃねぇかよ‼ あ゛~~ァ゛! 最っっっっ悪‼)


 乗客の殆どが、旭川に向かおうとすることに、俺は何かの陰謀を感じた。

 もう、断ろうかとも思うほどに。そこはダンマルとの相談だが。


 俺はただ、のんびりと運転ついでに乗客を拾って、降ろして、気ままに自由に仕事をしたいだけだってのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ