#10 友情と努力に勝利と拉致
「仲間になった。そのダンマルちゃんは? その後も、尾田さんと一緒にいるの??」
俺の「仲間になった」の言葉に、彼女が首を捻って聞いてくる。
赤いグロスの塗られた唇も、テカテカと光って突き出される。
女の人特融の特徴だろうなぁ。俺はその、なんてない仕草が一番、好きだ。
男がやるあざとい真似や、天然系も、可愛いとさえ思う。その気は、もちろんないが。
「ええ。今、一緒に起業をして、現実世界で《個人タクシー》のマネージメントをしてもらっていますよ」
バックミラーで俺は彼女を見た、
「嘘でしょう~~?? なら、写真! 動画! いるなら、声を聞かせて頂戴っ!」
目を細めて、俺を疑う目つきは彼女の本性だ。
隠すことの出来ない、いや、抑えられない性で、恐らくは、彼女が最も醜いと思うであろう顔だ。
「電話はちょっと。ダルマちゃんは繊細で、引っ込み思案の陰キャなので」
「じゃあ。やっぱり、嘘なんだっ。まりなぁ、ショックぅ~~」
俺は、少し、ため息を吐いて。
信号待ちで停まったのを確認して、携帯をタップして、撮り貯めていた画像や、動画を見せた。
「これが……《17丁目》なのっ?!」
「ええ。そうですよ、お客様」
◆◇
ダンマルの奴が条件込みで、フムクロの頼みを了承してダンマルも、俺を自身の藁の家に呼びつけ、少年漫画ならそうだな。ジャンプだ、ジャンプ。友情、努力に正義のテンプレ。その中の、努力を強要させられた。
これ以来、俺はジャンプからの卒業に至ったね。
「馬鹿っ。それは毒薬だっ!」
「知らねえよ! つぅか、参考書とかないのかよ‼ 全っっっっ部、同じに見えんの‼」
「馬鹿っ。そこで氣を感じんだっ!」
「俺ぁ! 少林寺拳法の使い手じゃねぇの‼ 全っっっっ部、人間離れした達人の領域だからっ‼」
毎日が言い合いだった。異界人と地球人。いや、日本人の認識の違いなのかもしれない。
あとは、陰キャ同士の反発ってのもあったのかもしれない。
つぅか。異界人でもない地球人に、何をさせるのかとか。
何を調教してるのだかと、俺は憤りも感じていた。
そこで暴れなかったのは、フムクロの面子を保つ為でもあったんだ。
それでも異世界での食事や、空気に触れまくったからなのか。
何か、色々と。
ある種の《奇蹟》が起こった。
「このカプセルん中に。粉末にした薬物を入れてみたっ。地球じゃ、ありふれたもんだけど、異世界にゃあ、ないだろう? 金とかは、製造ラインとかはお前が考えろなっ、ダンマルちゃん!」
「馬鹿っ。そんなの出来るかっ!」
「まず。手を置きま~~す。からの、悪い氣があるから、体内から抜き取りまぁ~~す。あら、不思議~~傷口はありませ~~ん♡ って、病院ってのを施設とかを設置してだな~~」
「馬鹿っ。そんな、不可解な魔術みてぇなの、誰でも出来ねぇよ!」
少しづつ、言ったことをきちんとこなしていた俺に、喜々としてダンマルも教えてくれたんだ。
アイツと一緒に居る時間は、まるで家族のような雰囲気で心地よかった。
俺が、現実世界に帰る時はいつも、駄々をこねて、俺に残れとごねた。
いつ、来るのかと、口を尖らせた。
そんな時だった。
俺が初めて巻き込まれた――《事件》が起こったのは。
◇◆
「えぇえ?? こ、ここで起こっちゃうのぉう??」
頬に両手を当てて、驚きの表情になった彼女に言いたいことは、なんとなく分からなくもない。
この段階での俺は、英雄に鍛えられ終えた殺戮能力の高い機械に近かったからだ。
傭兵のグォリーと対等に戦えたし、彼を唸らせたこともあったが、結局は、勝敗はついていない。
それは、今も同じだ。彼とも、勝敗がつかないまま。フムクロの死から間もなくして。グォリーもまた、戦場で散った。その彼から送られた手紙の封は開けられない。
きっと俺は、死ぬ瞬間まで開けないと思う。
「はい。起こっちゃいました。奴らの狙いは、希少価値のあるダンマルちゃんでして。拉致をしやがったんですよ」




