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三国ロマンス(1)  作者: かりん
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乱世を終える少女

【この話は、天下の趨勢に関係するし、また関係しない話でもある】

 ここは大漢帝国の王都の中心、かつては天下の権力の中心であった場所である。

 しかし今では、そこに端座している皇帝は只の操り人形に過ぎず、本当の権力者は西涼から来た覇者 —— 董卓である。

【董卓は玉座の脇に座り、貂蝉を抱きかかえている。皇帝の玉座は脇にやられている】

 ハハハハ、今日も面白い芝居だったな!

(階段の下では、髪を振り乱した大臣がひれ伏しており、脇には武器が落ちている。)

 逆賊董卓、お前ろくな死に方はしないぞ!

 いいだろういいだろう、このような気骨のある者は珍しい。わしはお前に一つの機会をやろう。貂蝉や、私の美しい貂蝉や~

 董卓様、またわたくしを使って遊びなさる。

 カッカッカ、私の美しい貂蝉や、こやつらはわしに逆らった罪人だ。こいつらに生きのびるチャンスを与えるか?

 ご冗談を。私の踊りは董卓様を悦ばせる為のものですよ。本当にいつもこのような時にわたくしを使いなさる。

 美しい貂蝉よ、こういう時にお前の踊りを見るのが一番楽しいぞ。

 まあ、そのようにおっしゃるのならば、董卓様の為に一曲躍らせて頂きます。

 董卓様、ご満足いただけましたでしょうか?

(董卓に反逆した大臣は皆床に倒れ、ほぼ闘志を失っている様子。董卓は机を叩いて大笑いする)

 よいぞ、よいぞ!

 それでは、わたくしめは着物を着換えて、董卓様にお酒をお持ちしに参ります

(貂蝉は振り返って下がろうとする。一本の手が突然彼女のくるぶしをつかむ。きらりと光る刃が彼女の方向にすっと伸びる)

 この、はした女が!

(青ざめて)キャー!

(低く唸る)

(脇に鬼のような男が方天画戟を持ち上げて立っている。一振りで刀の光を止め、その勢いで刺客の上半身を串刺しにしている)

 ふぅ・・・将軍、助けてくれてありがとうございます。

 ・・・

 女子はやはり女子やのう。貂蝉や、手加減はいいが、命を失ってはならぬぞ。わしは悲しくなる。

 はい、董卓様。それでは私はここで失礼致します。

 空はすでに暗くなっている。ベッドの前で揺れる蝋燭の火は窓から入る月の光を映している。少女は寝床に端座し、顔には日中の妖艶な様子はなく、少しの憂いを湛えている

 貂蝉や、お前はなぜ義父の私がお前を董卓に献上するかわかるか?

 お義父様、お考えは分かっております。

 貂蝉や、本当に分かっているのか?

 お義父様がお考えなのは漢朝の天下のことでしょう。智では李儒に叶うものはいず、武でも董卓の養子、呂布にかなうものがいない今の状況で、逆賊董卓を懲らしめることが出来る人がいない・・・

 お義父様の考えていることは、孫子の兵法の中にある「美人計」に止まらず、この貂蝉に董卓を刺殺させるか、若しくは「離間の計」を行わせようと考えているのではないでしょうか?

 貂蝉、お前は本当に賢いな・・・しかし、貂蝉や、一旦行けば、周囲が危険なだけでなく、汚名も負わなくてはならないことは分かっているか・・・

 分かっています。お義父様の私に対するご恩は山のように大きなものでございます。またこのことは天下万民の為のことです。汚名など、何を気にすることがありましょう。

 可愛い娘よ・・私は本当に無能だ。大漢の天下を、このようなか弱い女子に全て背負わせるとは。もし今回、董卓と、配下の大将、呂布の間を引裂くことが出来るならば・・・

 呂布・・・ (貂蝉はわずかに眉間に皺を寄せる)

 皆呂布のことを、心身ともに戦魔と化した、人の心を持たない鬼だと思っている。貂蝉や、もし董卓に呂布に対しての疑念の心を起こすことが出来れば、やつの片腕を取り除くことが出来る。

 貂蝉や、何をためらっているのか?

 恐らく、呂布将軍はまだ完全に人の心を失っていないと思います。

(驚いて)何を証拠にそう思うのだ?

 ただの私の直観です・・・

 このようなことは直観に頼ることが出来るのか?!(溜息をついて)まあいい、全ては貂蝉お前の臨機応変な対応に任せる。ただ、何があったとしても、逆賊董卓の力を削ぐことが、第一の任務だぞ。貂蝉や。

 はい、お義父様。分かりました。

(突然侍女が大声で叫び、貂蝉の回想を遮る)

 く、曲者!

 え?あなたは・・・

 ・・・

(門の外では衛兵が門を叩く音が聞こえてくる)

(小さな声で)小梅、人を連れて服を着替えに行きなさい。早く。

 もう夜も遅く皆寝静まっています、大きな声で騒がないでください!

 貂蝉様、お休みのところお騒がせします。ただ、董卓様を刺そうとした刺客がいるので、ご協力頂きたい。

 もし調べる必要があれば、入ってきて調べてください。ただ侍女たちは交代で私に使えており、非番の者はもう早く休んでいます。あまり大きく騒ぐことはしないでください

 貂蝉様が、このようにおっしゃるのだから、さっと調べるぞ。

(衛兵たちは、部屋の中をさっと一通り調べ、何も見つけることはできなかった。兵士たちのリーダーは貂蝉に対して謝った後に隊を率いて去っていった。これを見て屋根裏に隠れていた刺客は飛び降りてきた)

 どうして私を助けた?

 どのような服を着ても、生来の貴人の気を隠すことはできません。ましてや、私が孟徳様をお見掛けしたのは初めてではありません。

 あなた様が董卓様に拝見されているとき、私はいつも近くにいましたので。

(正体を見破られ、曹操は表情を変えた。一瞬のうちに殺気が辺りにみなぎった。貂蝉は微笑み、手に持ったうちわで顔を半分隠した)

 緊張しないでください、あなた様を助けようとしているのであって、引き渡すつもりはありません。

 ふん、お前のような色香を生業にする女をどう信じろというのだ?

 孟徳様、その言い方は私を傷つけます。孟徳様だって今夜あの方を刺殺するその為に、今まで本心を偽り、朝廷ではあの方と長い間付き合っていたのではありませんか?

(曹操は冷たくフンと鼻であしらった。まだ十分に信用していない様子)

 孟徳様が私を信じようとも信じまいとも、今夜は私を信じなくてはなりません。

 今、この屋敷から脱出することは困難だ、それども何か方法があるというのか?

 もちろん。しばらく誰も使っていない秘密の抜け道を知っています。でたらめでないことの証拠に、少し一緒にお送りしましょう。

(二人は守衛を避けて、抜け道の入り口にたどり着く)

 中に怪物が出るという話もあって、以前放置されていました。孟徳様気を付けてくさい。わたくしめが先に行って道を開けます。

 笑わせるな!踊り子に盾になってもらう程軟弱ではないわ。貂蝉、後ろに行け。

 孟徳様、もう少しで出口です。ここで貂蝉は失礼します。

 あなたほどの人物が、どうして逆賊董卓の侍女に甘んじているのか?

 孟徳様、あなたこそどうして素晴らしい前途を捨ててまであの人を暗殺しようとするのですか?

 ・・・分かった、貂蝉・・・その名は覚えておくぞ。

(貂蝉が曹操を見送り、ある一つの建物を通り過ぎようとした時、恐ろしい雄たけびが聞こえてきた・・・)

 これは・・・呂布将軍?

 そうです。聞いたところだと呂布様は戦闘の後いつも発狂するそうです、それはまるで鬼の様で、誰も近づかないとか・・・あ、お嬢様一体何をしているのですか?

 呂布将軍を見に行ってみます。

 ・・・お嬢様、今はその時ではないのでは?

 ・・・小梅、分かっている。心配しないで、私の踊りは正気を取り戻させ、魂を癒すことが出来るわ。それに今はまさに私が必要な時よ。

 呂布将軍、このような深夜に訪れて、お邪魔ではないでしょうか?

(屋内から、唸り声が聞こえてきて、呂布が門を破って出てきて、方天画戟を貂蝉に振り向けた)

 あ!?

 ああああ!!!

(呂布は苦しそうに唸った。この天下無双の猛将と言われる者が、今や狂った獣のようだった。貂蝉の目には少し哀れに見えた)

 将軍、わたくし・・・失礼しました。

(月の光の下で、少女は軽やかに舞を舞った)

 哀れなる乱世の人、籠入りでまだ幸せを得ず。ただよき人と共になりたくも、とても夢幻のことに過ぎず・・・

(歌声が響いたその時、戦いの鬼は突然静かになり、少女の細くて軽い歌声とその舞う姿が周囲に満ちた血の気を消し去った。)

 ・・・

 将軍、落ち着かれたようですね。

(呂布はわずかにうなずいた)

 昼間はわたくしめを助けて頂きありがとうございました。一曲の舞をそのお礼とさせてください。

 もし将軍が気に入ってくれましたら、もしわたくしに何もなければ、貂蝉をどうぞ訪ねて下さい・・・

(貂蝉は呂布にひざまずいて一礼し、ゆっくりと自分の部屋に帰っていった)

 お嬢様、今夜はお疲れ様でした。

 私と一緒に来た人で、昔の呼び方をしているのは小梅だけよ。

 私はお嬢様の考えていることも、何で心中苦しまれているのかもわかります。

 私が心中苦しんでいるって?世の人は、孟徳様と同じように、ただ色香を生業にする、ただ栄華富貴を求め、乱世の中でただ自分の保身だけを求めている女だって、そういう風に私を見ているわ。

 お嬢様・・・

 小梅、私は大丈夫よ。この虎穴に入るとき、世間から唾を吐かれる心の準備はできていたわ。私の行動の是非は後世の人が評価するでしょう。

 お嬢様がそういっても、小梅はそれを聞いてまだ苦しいです。

 あ・・・私もこの世の中で私を理解して、大事にして、好きでいてくれる人が一人いることを願っている。でも、このかりそめの日々を過ごすこの貂蝉の、本当の姿は誰も分かってくれないわ。

 だから、わたしはただ一人、わたしの歌う一曲に本当に耳を傾けてくれる人を求めている・・・

(貂蝉は、ぼーっと机の上の火を眺める)

 皆が、心のない鬼という・・・そうやって言う人が、鬼神に近づきたくないだけなんじゃないかしら? ただ彼が本当に貂蝉に耳を本当に傾けてくれる人だったらいいのに・・・

(それ以降、貂蝉は庭に一人でいる時いつも、あの鬼神のような男はいつも音を立てることもなく、彼女の庭の外に現れるようになっていた。)

(二人の間には壁があり、お互いに見ることはなかった。しかし貂蝉は彼女が一曲を歌い終わると、呂布は静かに去ることを知っていた。)

(数ヶ月後、曹操は董卓討伐の檄文を発した。十八の諸侯は同盟を結び、袁紹を盟主として酸枣に駐軍した)

 曹操、袁紹、公孫讃、孫堅 — ふん、烏合の衆がわしに挑戦するというのか!

 天下の誰も太師様の群雄をひれ伏させ、天下を掌握する雄姿にはかないません。

 ははは、私の美しい貂蝉や、ではわしの雄姿を見てみたいか?

 あら、それは、誰もいない時にまた見させてくださいませ。

(皆が、どっと笑った。呂布はこれまでのように董卓の脇に立ち、戦の神が降臨したかのようだった。彼の視線が貂蝉を横切った時、一瞬止まったことに気づく者はいなかった)

 連合軍は烏合の衆とは言え、侮ってはなりません、慎重にご対応ください。

(面倒くさそうに)分かった分かった、ではまず華雄に先鋒を任せよう。私は虎牢を守ろうぞ。貂蝉はー

 ずっとここにいたら、退屈で死にそうです~

 分かった分かった、貂蝉も虎牢に来て、私の将兵がどんな風に烏合の衆を粉砕するかを見るといい。ははははは!

 太師様、ありがとうございます。

(虎牢関)

(連合軍は、華雄を斬り連戦連勝し、虎牢関に迫っていた。しかし鬼のような呂布を目の前にして手も足も出なかった)

 連合軍は人数は多く、董卓を破りそうです

 お嬢様の苦しい日々はついに終わりそうです。貂蝉さまを思うと私も嬉しいです。

 ・・・

 お嬢様、何を心配しているのですか?

 そんなに早くはないわ。

 それは呂布様がいるからですか?

 お嬢様、聞くところによると、連合軍の中に3人の猛将がいて、呂布将軍と互角の戦いをしているとか。

 小梅、いってみてみましょう。

(虎牢関の外で、三人の英雄が呂布と戦っており、いつまでたっても勝負がつかなかった。曹操は本陣で冷静に観察したいたが、突然馬を前に進めた)

 曹操様、どちらに行かれるのですか?

 最前線だ。

 曹操様のお体はとても大事です、冒険をされないようお願いします!

 私に考えがある。

(前進してくる連合軍の一波が撃退された先に、貂蝉はついに遠くに劉備・関羽・張飛に取り囲まれている呂布を見つけた。)

 貂蝉さま、前方は危険です。いかないようにお願いします。

 うん、ここで見ているだけ。

 あの緑の服をきているのが、華雄を斬ったという関羽、青い服を着ているのが義兄弟の劉備、広宗城を攻略した英雄です。

 連合軍にはまだそのような英雄がいるのね。

 英雄についていうならば、曹操様の旗はあそこです。

 孟徳様・・・

(その時、対陣の中で、呂布が突然髪の毛を抱えてうめいた・・・)

 よくない、呂布将軍はまた発病するわ。

 行って助けましょう

(発狂した戦いの鬼は敵味方関係なく、虎牢関に向けて突進した。脇で見ていた曹操は馬にむち打ち、矢をつがえて弓を引き、呂布に照準を合わせた。)

 だめ、呂布将軍は死んではだめ!

(貂蝉は乱軍に突撃し、発狂した呂布のところに飛んでいき、曹操が放った矢を遮った。痛みの叫びがして、鮮血が少女の腕から流れ落ち、呂布の頬に滴った)

 おああああああ!

 将軍、早く目を覚まして!

(少女の歌声もこの時鬼神の耳の中に届いた。聞いたことのある声が鬼神に少し理性を取り戻させた)

 貂・・・蝉・・・

 呂布様・・・戻ってきて・・・

(少女の手の傷は呂布に力を与えた。彼は貂蝉の腰を抱え、赤兎を駆って味方の陣に戻った。後ろでは虎牢の大門が音を立てて閉まり、連合軍を入れさせなかった。)

 貂蝉・・・なぜ戦の鬼の命を助けるのか?

 私はまた・・・どのくらい寝ていたの?

 お嬢様、既に夜も遅いです。良くなりましたか?

 ・・・うん、少し庭の中で歩きたいわ。新鮮な空気を吸いたいの・・・あなたはここにいなさい。

 お嬢様、あなた様の傷・・・

 大丈夫よ小梅。カナリアを閉じ込めている鳥かごはいつも安全よ、それにこのカナリアは傷ついていて、飛ぶことはできないわ。

(花園の中には誰もいない、侍女たちは言いつけに従って屋内にいる。貂蝉は一人で天の月を見て、手を合わせる)

 神様、もしいるのなら、私の願いを聞いてください・・・ 誰?

 ・・・うん。

 呂布様?なんでここに?

 歌。

 もうその約束は忘れていると思っていました。

 ・・・傷。

(月の光の下、鬼神の顔には珍しく少しの柔和さがあった。彼は貂蝉の手を取って、小さな包をその手のひらに置いた)

 これは・・・?

 薬。

 将軍、わたくしめのことを気にかけてくれてありがとうございます。

(呂布は首を横に振る)

 今日は、いい。また、今度。

(呂布は貂蝉が彼の為に歌おうとするのを遮り、少しの間黙って貂蝉を見て、そしてその場を離れた)

 ・・・もしかして、少し人としての心を取り戻したのでは?誰か盗み聞いている?

 この貂蝉、太師様はあんなにお前を可愛がっていられるのに、太師様を裏切って別の男とできているのか?

 あ、わたくしめがなぜ他の男を引き入れることなどあるでしょうか。あなた達こそ、夜遅くにわたくしめの住むところまで入り込んできて意図が怪しいですね。わたくしが太師様に代わって片づけてしまいましょう。

(呂布と貂蝉が洛陽を後にした後、虎牢関の戦況は緊迫し、急を告げる文章が雨あられのように洛陽に送られてきた。)

 私はお前たちゴミに何の用があろうか?ゴミ!ゴミ!皆全部ゴミだ!

 太師様、気をお静め下さい。今は将軍たちに迎撃の準備をさせる時かと思います。

 美しい貂蝉のいうことには道理があるな。お前たち覚えておけ、今日お前たちの命は貂蝉の情でつながったのだぞ。行け!早く行け!

 それではわたくしめはここで失礼します。

(貂蝉はそのまま退席し、自分の静かな場所に戻ると、呂布が木の陰で待っているのを見つけた)

 呂布将軍。

 うん。

 将軍がここでわたくしめを待っているとは思いませんでした。

 そういわなくていい。

 そういわなくていい?

「わたくしめ」という言い方をしなくていい。

 あ・・・将軍がこのことを気にされるとは思いませんでした。では・・・貂蝉は自分のことを何といえばよいでしょうか?

「わたし」

「わたし」でいいですか?

 ・・・

 将軍、ここにお座りください。丁度新しい曲があります。まだ他の人に聞かせたことがないんですよ。将軍、わたしの一人目の観客になりませんか?

 ・・・

 将軍が行かないのなら、貂蝉は将軍がなりたいと答えたと理解しますね。

(虎牢関はついに連合軍に突破され、董卓は李儒の提案の元、洛陽を放棄し、長安に遷都することを決定した・・・)

 燃やせ!全て燃やせ!

 太師、何をしているのか?やめろ!やめろ!

 誰か!陛下を籠にお載せしろ!わしの命令を伝えろ!洛陽城の官吏と主な家族は皆必ず軍隊とともに長安に移動すること!もしいかずに残るというのならば、全て私が燃やす!燃えて何もなくなった後に何ができるか!

 分かりました!

(洛陽城の火は天を突き、乱れた兵士は勝手に人を焼き殺し、泣き叫ぶ声が絶えることはなかった、地獄のような光景であった・・・)

 恐ろしい・・・お嬢様、西涼兵はこんな風に好き勝手に民衆から略奪したり殺したりするのですね・・・

 小梅、私たち行きましょう・・・

 貂蝉はここまでしかできないのだろうか・・・

(貂蝉は炎に包まれる洛陽城をぼーっと見ていた。呂布は遠くから貂蝉を見て、馬を駆って前にきたが、一滴の涙が少女の目から流れ落ち、着物にそのまま滑り落ちるのを見るだけだった)

 これは一体なに?人々はいったい何を間違ったことをしたの?間違っているのは、天下で戦争を起こしている人であって、この人々は過ちを犯していないのでは?

 彼らの最大の過ちはこの乱世に生まれたということなの? なぜこの貂蝉にこのような光景を見させるの?なぜ?

(呂布はぼっと少女の涙を眺めていた。その涙の粒はまるで線が切れた真珠のようだった。一粒一粒が彼の心を打ち、何かが少しずつ叩き割れるようだった)

 俺・・・貂蝉、俺・・・

 ・・・呂布将軍?

 泣くな、貂蝉、俺・・・

(呂布は低くうめき、突然乱れた兵士の間に飛び込んでいった)

 将・・・軍?

(乱戦の中に飛び込み、貂蝉はすでに鬼神の姿を見失っていた。ただ呂布が言い終わっていないささやき声が、ずっと貂蝉の心の中で繰り返されていた。)

 ・・・呂布様、貂蝉はついにあなたの心の中の一点の光を見つけたのでしょうか?

(董卓は洛陽を焦土にしようとし、天子と文武官たちを強引に長安に移動させようとしていた。しかし勝利を得た連合軍は内部でお互いに牽制しあい、勝利に乗じて追撃しようとしなかった)

(曹操だけが孤軍進撃するも伏兵により惨敗し撤退する。董卓は一息つくチャンスを得、また新たに局面を支配する・・・)

(長安城、太師府)

 お嬢様、太師が戻られます

 分かった。

 美しい貂蝉や、今日は笑顔を見せないのか?

 私が太師様の前で嬉しくないことがありましょうか?

 そういうのは怒っているということだ。こっちへ来なさい私の美しい貂蝉、わしがお前の為に特別に作った場所を見なさい — どうだ?

 鳳・儀・亭? ここは三方向が水に囲まれていて・・・太師はここを私が琴を弾く場所として与えようとお考えなのですか?

 もちろん。私の美しい貂蝉がここで琴を弾くのを見ることは、人生で一番楽しいことだ。

(太師府の外はすさまじい風景が広がっているが、太師府の中は依然として美しく静かである。貂蝉は鮮やかな着物を着て亭中に座った。その手でかるく琴の弦を鳴らすと、美しい音色が響いた)

 はぁ・・・

(溜息をつき、琴の音色は止んだ。少女は池の水面を眺め、涙が落ちる)

 貂・・・蝉・・・

(ちょうど鬼神の降臨を見て、少女は袖の長い部分で顔を隠し涙を拭いた。)

 将軍。

 将軍の見間違えです。わたくしめは・・・・いえ、貂蝉は泣いてなどいません。

(少女が丁度言い終わったとき、呂布の胸に抱かれていた)

 将軍!貂蝉を離してください!もし太師様に見られたらどうします!?

(貂蝉は呂布が更に強く抱いているのを感じた)

 な・・・く・・・な・・・俺・・・お前を連れて・・・行く。

 ・・・将軍、貂蝉は行きます。ここで捕まってしまったら、誰が天下の人々を救うのですか?他に誰か現れるというのですか?

 しかし・・・お前・・・

 貂蝉の涙は私の為ではありません。天下の民衆の為です。

 ・・・

(二人が小声で話していると、一本の宝剣が亭の外から飛んできて、貂蝉の肩の上の軽紗を破いた。)

 この女!わしの息子を誘惑するか?殺してやる!

 違います!

(怒号をあげながら呂布は貂蝉を体の後ろにかばった)

 裏切者!このわしにたてつくのか?すぐにその女の殺さないか!

 貂蝉を!傷つけ!るな!

(呂布は戟をとり董卓に立ち向かう)

 将軍、私があなたを助けます!

 裏切者、裏切者。死ぬといい!

(董卓はほうほうのていで逃げる)

 貂蝉、大丈夫か?なぜ泣いている?

 将軍・・・この涙は嬉しい涙です。将軍、ついに目覚めましたね。

(西暦192年、数年間漢室を蹂躙した董卓はついに王允と呂布の手によって取り除かれた。しかし乱世はまだ終わらなかった・・・)

(長安城の外)

 貂蝉や、本当にあの人と行くのか?

(王允は大幕の外を見た、赤兎馬の上にいる鬼神の姿は彼に恐怖の心を呼び起こした。)

 お義父様、私を心配しないでください。あの人・・・貂蝉が呂布将軍の近くにいれば、彼は心のない鬼神ではありません。

(話している途中に、幕の外の人は馬を降り、入り口の幕を開けて入ってきた。)

 ・・・呂布様?

 貂蝉、行くぞ。

 将軍、少しだけお待ちください。

(貂蝉は王允に向かって恭しくお辞儀をした)

 お義父様、貂蝉はここでお暇します。もしかして今後会う日はないかもしれません。お義父様はお体をお気をつけて、また貂蝉を心配する必要はありません。私は、今誰よりも幸せです。

(少女は話し終わると,心を取り戻した戦いの鬼の腕に戻った。何歩もしないうちに貂蝉が驚きの声を発したかと思うと、呂布に腰を抱えられ、赤兎に飛び乗った)

(王允は二人と一匹の馬が遠くまで行くのを眺めながら、長い間言葉がなかった。)

【あの年、少女が城を傾け、戦の鬼の理性を取り戻させ、呂布の神智を目覚めさせた。このことによって混乱していた天下に更に混乱の変数が加わったとされる】

【しかし誰も知らない。あの時、少女が舞によって鬼の心を奪ってた時、戦の鬼も既に少女の心を捉えていたのだ。】


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