目覚め
「__……お嬢様?あの、本当に大丈夫ですか?」
「……大丈夫、起きたばかりで少しぼうっとしていただけよ。心配してくれてありがとう、シャーフ。」
心配そうに此方を見上げてくる彼の言葉ではっとする。
ベッドの傍の椅子に腰かけ、此方を窺ってくるのは私のたった一人の小さな従者__シャフリヤールを安心させるべく、薄く微笑みながら言葉を告げればほっとしたように彼の表情も和らいだ。
さっきの話から察するに、私は急に倒れた挙句長い間眠っていたのだろう。
目を覚まさない主人をずっと見守って__まだ10歳の小さな従者がどれだけ不安だったか、それを思うと胸が痛む。
しかしながら私も混乱しているのは確か、出来ることなら少し一人になって状況を一度見直したいのだけれど……__
「__……僕、何か温かいものをご準備しますね。」
「え?」
もやもやと考え込んでいた中、小さなため息の後にシャフリヤールが椅子から立ち上がる。
今離席してくれるのはありがたいけれど、何だかタイミングが良すぎない?
思わず間の抜けた声を漏らしてしまった私に、何処か拗ねた様に唇を尖らせながらシャフリヤールが此方を覗き込んでくる。
「まだ本調子じゃないのでしょう?今はゆっくり休んで、きちんと体調を整えて下さい。またいきなり倒れられたんじゃ、僕が旦那様にお咎めを受けますから。」
夜空を閉じ込めた様な深い青色の瞳で私を見つめながら、少しだけ意地悪に、でも私の困惑をくみ取ってくれたような彼の気遣いにじんわりと胸が温かくなる。
何かと言い方は意地っ張りだけれど、彼なりに主人である私を大切に思ってくれているのだろう。
「……そうね。そんなことになって、また貴方に小言を言われるのは御免だわ。」
「僕も言いたくて言ってるんじゃないんですよ。大体お嬢様がいつも……」
「もー分かったわよ!分かったから、早くスープか何か持ってきて!」
折角ほのぼのと温まった雰囲気を小言でぶち壊されないよう、遮るようにして催促をすれば渋々シャフリヤールは部屋を出て行った。
彼の気遣いは分かるけれど、もう少し……あとほんのちょっぴりだけあの小言が減ればもっといいのに。
とはいえ何とか一人になれたのだから、早速状況を整理しなくては。
これまでの記憶と新たに増えた前世の記憶、混在するそれらを何とか頭の中で整頓しながら、私はベッドの傍にあったメモに手を伸ばした。