リザ
その夜、リザと夜が更けるまで話した。
「アマゾネスは実力が全てを決める。強い者が国を統治し法律になる」
ロードは何も言えず聞いていた。
それは1歩間違えたら暗黒政治になる。
ロードは偶然知った父王と税金に苦しむ国民の争いを思い出していた。
「あの日、年に1度の試合があった。私は何時ものように倒していった。そしてその夜…」
リザが悔しそうに唇を噛んだ。
「夜に何があったの?」
「試合に負けた3人が共謀して襲ってきた」
一対一なら負けないが一対三はリザも不利だった。
「脇腹を切られた後の記憶がこの里だった」
「僕が風に呼ばれてリザを見付けたのは朝遅くだよ」
どう考えてもかなりの時間の誤差があった。
『風を使ったのであろう』
横からフォレストが言った。
「風を?」
『従者は【永遠さま】と違い風の王は呼べぬ』
リザの表情が変わった。
「お前はこの星の神を知ってるのか」
リザは腰の剣に手を掛けていた。
『【永遠さま】は我の主』
リザが剣を抜いてフォレストに切り掛かった。
「生かしてはおかぬっ」
「止めてっ」
ロードが止める間もなく、リザはフォレストから吹き飛ばされた。
「リザっ」
急いでリザに走り寄った。
「離せっ、く…」
飛ばされた衝撃で動けないリザは、憎しみのこもる目だけをフォレストに向けていた。
「リザ、何でフォレストに切り掛かったの」
ロードが泣きそうな顔でリザを抱き起こした。
「星の力が足りないと言って、神は私の仲間を半分生け贄に殺した」
「えっ」
驚きからロードもフォレストを見上げた。
犠牲は自分だけだと思い込んでいたロードには、なかりショックを受ける話だった。
『神を名乗るは従者よ』
フォレストが目の前の空間に白い服を着た老人を5人映し出した。
『こやつらであろう』
「顔は知らない。が着ている物は言い伝えと同じだ」
リザが肯定した。
「何で従者が?」
驚きが勝ってつい責める口調になってしまい、ロードはハッとしてぎゅっと体を縮めた。
『天空に神の住みかを作らんと急いだからよ』
「神さまの?【永遠さま】の?」
『違う。【鳳來】を住まわせるはずだっただろうが。奴は転生の流れに戻された』
「その【鳳來】って?」
『話せば長くなる。アマゾネスにはそう言い伝えられておるのか』
フォレストの声は固かった。
「言い伝え?凄く昔みたいに聞こえるよ?」
「宇宙がこの世界を作って直ぐの話だ」
リザが自力で体を支えて言った。
『この星を造ったのは神ではない』
フォレストは星の誕生の話をリザにした。
「ちょっと待ってよ」
リザが驚いて聞き返す。
「それじゃあ聞いてる話と違いすぎるだろ」
「そう仕向けたのさ従者どもがな」
声のする方を振り返れば、そこに風の王がいた。
「フロルは心配ないと教えに来たら、アマゾネスの元女王が居るとはな」
風の王はチロリとリザを見た。
「元だとっ」
「とっくにアマゾネスの女王は変わってるさ」
リザは剣を杖に立ち上がろうとした。
「止めておけ。フォレストなりに加減したようだが、動けないだろ」
風の王があっさり言った。
「昔、この星が産まれ意思を持つまでの間、従者は天空に神を迎える神殿を創ろうとした」
「その贄がアマゾネスだとでも言いたいのか」
リザの声は怒りで震えていた。
「アマゾネスだけじゃない、風の民もだ」
「え?」
思わずロードも驚きの声を上げた。
「従者はこの星に産まれた半分の命を力に変え、天空に神の住みかを造った」
「嘘だっ!半分もの命が消えて言い伝えにもならないはずがあるか!」
風の王は呆れた顔でリザを見た。
「お前はアマゾネスが何故産まれたか知らんのか」
「アマゾネスは力の象徴。世界を征服する」
当然の顔で言うリザを、風の王は少しの間呆れて見ていたが、諭すように教えた。
「アマゾネスと風の民は、産まれたばかりの【永遠さま】を守るため最初の生を受けた」
風の王は淡々と話す。
「それを神を名乗る従者が【永遠さま】に近付けさせなかった」
「何故だ」
リザは風の王を睨みながらも聞いた。
「従者らは産まれたばかりの【永遠さま】ではなく、力を持った【鳳來】を神にしたかったのさ」
「その【鳳來】って?」
風の王は口をつぐんだ。
『話しすぎたな』
フォレストが風の王を見た。
『良い。本来なれば菩薩がロードに語る話であるが、我が話そうぞ』
フォレストが空間に星空を映し出した。
『宇宙に【永遠さま】が誕生する』
ポツリと産まれた星が大きく映し出された。
『【永遠さま】の成長に合わせ命が産まれた』
「星が大きくなってる?」
リザが疑問符を着けて聞いた。
『今でも成長は続いている』
「人にしたら今何歳くらい?」
『6つか7つであろう』
「そんなに若いの」
リザの驚きが声にも表れていた。
『故に空は従者を付けた』
「その従者が天空に神殿を創ろうとした?」
ロードが聞いた。
『この星、【永遠さま】は【鳳來】とつがいの誓いの元に産まれた』
「その【鳳來】って?」
『新たな宇宙になる者であった』
「あった?過去形なの」
ロードの問い掛けにフォレストが頷いた。
「菩薩から転生の流れに戻されたのさ」
それを風の王があっさり答えた。
『宇宙は【鳳來】が【永遠さま】を慈しむ事で宇宙の慈愛を学ばせようとした』
「なのに転生の流れに戻されたの?」
ロードの疑問にリザも頷いた。
『【鳳來】はこの星の命を育む【永遠さま】が許せなかったのであろう』
「…許せないって」
「愚か者の【鳳來】は、【永遠さま】を独り占めしたかったのさ」
後が続かなかったロードの代わりに風の王が言った。
「【鳳來】が【永遠さま】を受け入れていたら、新たな宇宙が産まれ【永遠さま】も苦しまなかった」
ロードの胸を押さえながらの言葉にリザが頷く。
『【永遠さま】は【鳳來】を拒絶した。【永遠さま】は命を育む者として、【鳳來】に慈愛を教える者として生を受けたゆえ、つがいとして産まれてもその手を取る事を自分に許されなかった』
「…それって…【永遠さま】不幸だよ」
「哀れな…」
リザが剣を収めた。
『【永遠さま】のその決断の上にこの星の命はある』
空気がしんとなった。
「何故、従者は【鳳來】を神にしたかったの?」
ロードが考える顔で聞いた。
『圧倒的な力を持っているからよ。目に見えている宇宙を瞬時に消せるほどのな』
「従者にすれば【永遠さま】はたかが星1つ。宇宙を掌握する【鳳來】を神にすればいずれ己も神に、と思っていたんだろう」
「じゃあ今は?守ってくれるはずのアマゾネスは【永遠さま】の側に居ないよ。それに…フォレストも…」
ロードが泣きそうで言葉を続けられなかった。
「俺が居る」
風の民が明るく言った後ロードを見て言葉を改めた。
「【永遠さま】は、ロード、お前に詫びていた。力及ばずお前に辛い頼みをした事を詫びていた」
「謝るのは【永遠さま】じゃなくて【鳳來】じゃないのっ!自分の事しか無くて【永遠さま】の気持ちなんて少しも考えてない」
リザが怒った口調で言った。
「そんなに強い【鳳來】をどうやって転生の流れに乗せられたの?」
「菩薩が説き伏せた」
「菩薩…さま?」
ロードの記憶の中に、その名前もある気がした。
『誰かの中に生まれ変わり、この星を【永遠さま】を見ているだろう』
「【永遠さま】を包めるようになるまで?」
ロードが悲しそうに聞いた。
『分からぬ』
「…悲しいね。母さんは父王が好きで竜のマカウを裏切る結果になってしまった。それと同じなんだよね。【鳳來】は自分だけを見ない【永遠さま】が許せないんだよね」
「愛情は憎しみと背中合わせだと言うからな」
ロードの言葉をリザが受け止めた。
『つがいとして産まれた2人ゆえ、思う気持ちが強い分憎しみも深いやも知れぬ』
「それほど…好きなんだね」
ロードが呟いた。
「この宇宙を壊せる力があるのに、壊さないで転生の流れに乗ったのは、【永遠さま】が好きだから…」
風の王が驚いた顔をロードに向けた。
「何故、思う」
「上手く言えないけど…許したい、は少し言葉が違うけど【鳳來】はそう思ってる気がする。神さまなら転生の流れに乗る必要ないと思うし」
『そうだが』
「頭を冷やす?冷静になる時間が転生の流れに乗って誰かの中に生まれ変わる事じゃないかな」
「【鳳來】が神ならば何故呼び捨てなのだ?」
リザが疑問を口にした。
『【鳳來】は【永遠さま】と結ばれ宇宙になる。今の【鳳來】はその意識のみ』
「体が無くても宇宙を壊せるの!」
リザが驚きの声を出した。
「自分も滅び去るがな」
風の王の言葉は冷たい。