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ミ・ロード  作者: まほろば
必然の出逢い
6/10

アマゾネス



フォレストが2度目に神の元へ戻った日。

命の木の里に空から人が降ってきた。

風に請われて見に行けば、剣を持って鎧を着ているアマゾネスだった。

真っ赤な髪と血だらけの体に驚かされた。

「…大丈夫?」

ロードの問い掛けに剣がぐわんと振り切られた。

辛うじて剣を避けて、ロードは急いでアマゾネスから遠ざかった。

「…失せろ」

「そのままじゃ死んでしまうよ」

「構わぬ!」

「でもここで死なせるわけにはいかないよ」

ロードは困って風に【命の木】まで運んで貰った。

移動の途中、習い覚えたばかりの回復の魔法をアマゾネスに使った。

「…何故助ける」

動けない体で、敵意だけ向けてくるアマゾネスに、ロードは困った顔を見せた。

「この里は神さまの結界に守られてて、入れる人は限られてると思う」

「だから何だっ!」

「神さまはあなたを助けたいから連れてきたんだと」

自信無さげにロードが言った。

「私はアマゾネスだ!アマゾネスの女王だっ!」

「女王さま?」

ロードは一瞬だけ驚いた顔をしたけど、直ぐに笑顔に戻って頷いた。

「話は治ってから聞くよ」

出血が多かったのか、アマゾネスは途中から眠るように静かになった。

『何の騒ぎだ』

竜の長が降りてきた。

「空からアマゾネスが落ちてきて、【命の木】に」

『何故助ける』

「きっとね、僕の剣の先生じゃないかな…」

ロードはアマゾネスを見て言った。

『何故そう思う』

「この人の話でそう感じた。フォレストが戻ればはっきりするんじゃないかな」

ロードは疑問符に近い言い方をした。



『乱暴な届け方をされたようだな』

戻ってきたフォレストが苦笑した。

「僕の剣の先生?」

『そうだ』

「寄越したのは【永遠さま】?」

ロードの中で、【永遠さま】はフォレストの大切な主だから、優しいイメージだった。

それなのに…、ロードは少しがっかりしていた。

『選んだのは【永遠さま】であろうが、送ってきたのは宇宙の従者であろう』

「従者って?」

『宇宙が【永遠さま】の手足の代わりとして、数名寄越した者たちよ』

「…優しくないね」

フォレストも否定しなかった。

『稀にだが、従者の中から新たな星の神が選ばれる事がある。あれらはそれが望みよ』

「…守る手が優しくなければ星が可哀想だ」

ロードは自分の無意識な呟きに気付いていなかった。

『ミ・ロード。お前ならどう治める』

「僕は無理だよ。僕は自分に当てはめてしまうから」

『何故悪い』

「上手くは言えないけど、好い人ばかりなら戦いの神を僕の中に封じようって思わないと思う」

フォレストは驚いたように一瞬だけ目を見開くと、黙ってロードを見下ろした。

「きっと戦いの神も最初は【永遠さま】の近くに居たんじゃないかな」

フォレストが頷いた。

「もしかしたら、戦いの神は【永遠さま】に頼って欲しかったのかもしれない」

『戦いの神が【永遠さま】にだと』

「怒らないで、架空の話だから」

ロードが慌てて訂正した。



アマゾネスが目を覚ましたのはそれから5日目で、少しは冷静になれていた。

「もう大丈夫?」

ロードは少し離れて聞いた。

「ここは何処だ」

「【命の木】がある里」

「【命の木】?神の楽園か」

アマゾネスは不審気に周りを見回した。

「【命の木】は何処だ」

「ここ、僕たちは木の上に居るよ」

「嘘を付け。【命の木】に上るなど有り得るか」

「なら下に降りてみる?」

アマゾネスから距離を空けてロードも降りた。

「ここは…!」

アマゾネスが頭上を見て身構えた。

「敵じゃないよ」

「何故分かるっ!」

「知ってるから」

アマゾネスは驚いた顔で見てきた。

「共に暮らしているのか?」

「ちょっと違うかな。彼たちの場所に1年だけ住まわせて貰ってるんだ」

ロードが素直に接するせいか、アマゾネスの口調も柔らかくなっていった。

「お前、名前は?」

「ロード。あなたは?」

「私はリザリア。リザと呼べ」

「リザ、こんにちは」

ロードは少し考えて『こんにちは』を選んだ。

「戦っていたはずなのに。何故ここに居るんだ?」

「それは分からない。リザは空から降ってきた」

「もう少し上手い嘘を付け」

リザは信用してなかった。

「本当。風が教えてくれて見に行ったらリザが血を流して倒れていて、風に頼んで【命の木】まで運んだ」

「風に頼むだと」

目を細めるリザの髪を風が悪戯した。

「よせっ!」

リザが思い切り振り払って後ろを向いたが、そこには誰も居なかった。

また風がリザの後ろの髪を引っ張る。

何度か繰り返されて、リザも風の存在を認めるしかなくなっていた。

「噂だけだと思っていた」

リザが【命の木】を見上げて言った。

「兎に角助かった礼を言う」

リザは着けている装備を確認して、剣を腰に戻した。

「どうすればここを出られる」

「出たことないから…」

ロードが返事に困って言った。

「食料はどうしてる」

リザが来た時のロードと同じ質問をした。

「食べなくてもお腹空かないよ」

「何だと」

リザの驚いた顔に、最初聞いた話をそのまました。

「驚きだな」

「まだ顔が青いから、【命の木】の側に居なよ」

「私は戻らねばならないんだ。あの裏切り者たちを根絶やしにしてやる」

リザの顔が殺意で歪んだ。

「そう、帰るのか…」

リザが剣の先生になるのは今じゃない?

ロードは心の中で思い始めていた。

出口を探すと言うリザを見送り、ロードはフォレストの元へ戻った。

『止めぬのか』

「リザは憎しみしか見えてないもの」

ロードが諦めの顔で肩をすくめた。

「アマゾネスの国はここから遠いの?」

『人の速さは分からぬが我には瞬きの間よ』

「それじゃ分からないよ」

ロードがクスクス笑ってフォレストに寄り掛かった。

『夜には木に戻る』

「リザが?何で?」

『人に結界は抜けられぬ』

「そうなんだ」

ぼんやりと、ならきっと自分も抜けられない、とロードは思っていた。



夜になって、リザは【命の木】に戻ってきた。

行ってみると、リザは癇癪を起こしていた。

「出られないっ!出る方法は無いのかっ!」

「僕は知らない」

「くそっ!」

草木に八つ当たりしてるリザに、勇気を出して剣を教えてくれないか頼んでみた。

「僕に剣を教えて欲しい」

リザはまじまじとロードの顔を見てから、頭から足までを改めて見てから、大きな声で笑った。

「そんなひょろひょろで剣が持てるのか?」

「だから教えて」

何度頼んでも、リザは笑って本気にしなかった。

「お願い」

「本気なのか?」

しつこいロードにうんざりしながら、リザが聞いた。

「本気。敵わないと思うけど、弱いままは嫌だ」

「誰かと戦う気なのか?」

「戦いたくないけど、戦いの神と」

考えるだけでロードの体が震えた。

「無茶だ。戦いの神には私でも敵わない」

「…それでも戦うしかないんだ。僕はそのために産まれてきたから逃げられない」

ロードは泣き笑いの顔を背けた。

「どうしても戦うのか?」

リザが確かめるように聞いてきた。

ロードは母の事からを少しづつリザに話した。

「黙って言われるまま死ぬ気になってるのか?」

「抗っても無駄だと思う」

「馬鹿らしい!」

リザは強引に振り払う動作をした。

「その運命からは逃げられないんだと思う」

「私なら死ぬまで抵抗してやる」

リザならそうだと思うからロードも頷いた。

「だから教えてよ。運命は変えられなくても、やられっぱなしは嫌だ」

リザはじっとロードを見て言った。

「分かった。教えてやる」



リザはスパルタで、ロードは毎日傷だらけだった。

練習が終わると小川の冷たい水で体を拭いた。

ある日、リザが小川で髪を洗っていた。

見るのは悪い気がして、ロードはそっとその場を立ち去ろうとした。

「ロードか?」

「え、あ、うん」

ついおどおどと返した。

リザは背中を向けたまま聞いてきた。

「母親を恋しいと思うか」

「思うよ。思わない子供は居ないと思う」

「記憶に無い母親でもか」

「うん」

今日は変な事を言うなと思いながら頷いた。

「私には娘がいた」

「女の子?いくつなの?」

「生きていれば5才になる」

「え…生きていればって…」

ロードには突然の話し過ぎて、後ろでおろおろした。

「アマゾネスは2年に1度町へ降り子供を授かる」

「え…」

ロードは動けなくなった。

子を授かる。

その意味は母を見て十分理解できていた。

「産まれた子は女なら育て男は川に流す」

「え?」

驚きでビックリするくらい高い声が出た。

「女の子供は村外れの1ヶ所に集められ、年取ったアマゾネスが育てる」

「夜しか会えないの?」

リザは振り返らず左右に頭を振った。

「母と子としては一生会えぬ」

「え?何で?」

「情が腕を鈍らせる」

ロードの脳裏に恐ろしい仮定が浮かんだ。

まさか、とロードは頭を振って振り払った。

「ロードと剣を交え思い出すのは、顔も知らぬ娘の事ばかりだった」




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