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ミ・ロード  作者: まほろば
過去と今
4/10

出逢い



「僕は1人で大丈夫」

少年は強がりを口にした。

『謝罪も出来ぬ者を空は許さぬ。マカニの子、それは空と我ら竜の決め事』

フロルが焦った顔で謝罪を口にした。

「謝るわ。それで良いんでしょ。ごめんなさい。謝ったわ、これで良いんでしょ」

少年はその場に居るのが嫌になって背中を向けた。

嫌々の謝罪がこんなに気持ちを重くするとか思わなかったから、少年は何かを返す事も出来なかった。

『愚か者』

『我が諭す』

思い余ったようにマカウが言った。

『覚悟はあるのだな』

『ある』

一拍の空白の後、竜の長はマカウに言った。

『マカニは昔お前を裏切った。お前も今マカニを裏切った。我らはお前を認めぬ。フロルと立ち去れ』

マカウの空気が変わった。

フロルも信じられない顔で竜の長を見ていた。

「ここを出されたら生きていけない…」

フロルがマカウの首に嫌々と顔を擦り付けた。

『お前の最後の役目は、運命の日まで【柩の子】を守る事であったはず』

マカウは明らかに動揺していた。

『お前の上から降りもせず。口先だけの謝罪をする愚か者と共に立ち去れ。この地に留まる事は許さぬ』

思わぬ展開に、少年はマカウと竜の長を交互に見た。

「フロルはここでしか暮らせないんでしょ?」

『ここは神が造りし【聖地】。産まれて間もないこの星を清める【命の木】がある場所。醜き心の者は受け入れられぬ』

竜の長の言葉は冷たかった。

少年は返す言葉に詰まった。

フロルの言い方に1番傷付いたのは少年だった。

それでも人をおとしめるのは嫌だから、少年は自分が引いてこの場を収めようとしていた。

『不浄な考えはこの地を汚す。マカウよ、分かるな』

マカウに返す言葉は無かった。

「僕が来た事でマカウとフロルをこの地から追い出してしまったら、僕は死ぬまで後悔する」

少年は顔を歪めて竜の長に言った。

少しの沈黙の後、竜の長が言った。

『マカニの子の願いを叶え、マカウの時が満ちるまでこの地に留まる事を許す』

「ありがとう」

『なれど2つ、条件がある』

少年がホッとしたのもつかの間竜の長が言った。

『1つはこの地のみ、空に戻る事は許さぬ』

マカウが頷いた。

『2つ目は、マカニの子よ竜を呼べ』

「…え?」

少年は間抜けな声を出した。



竜の長に強引に押しきられ、少年は目を閉じた。

自分の心に応えてくれる竜が居るとは思えなくて、少年はただ目を閉じていた。

1年で消える自分が、寂しいからと竜と誓いを交わすのは間違いだ、と心の奥で思っていた。

もうそろそろ良いかと少年が思っていたら、竜のどよめきが上がった。

少年が目を開けて見上げた頭上には、キラキラと竜の長より大きな水晶の竜が日を反射していた。

水晶の竜の胸には赤々と燃える火の羽根が見えた。

静かに降り立った竜は少年を見下ろした。

それまで上空にいた竜たちも降りてきて、竜の長の後ろに並んだ。

『フォレストが』

『まさか…』

降り立った竜たちから驚きの声が上がった。

フォレスト?

竜たちは水晶の竜をそう呼んでいる。

少年はそんな会話を耳にしながらも、目の前の竜に圧倒されて見上げていた。

『我はフォレスト。永遠さまの炎の羽根から産まれ、空を治める者』

名乗られても、少年は見上げるだけだった。

『ミ・ロード。終幕の時まで我がお前を守護する』

周囲から驚きのざわめきが上がる。

『フォレストが』

『なれば【永遠さま】は?』

『御一人か』

竜たちが言ってる【永遠さま】が、少年の心の奥の琴線に触れた。

何処で聞いたのか思い出せないけど、ずっと前から自分は知っている。

この地に来て、その名前を聞いた時は何も感じなかったのに、フォレストを前にしてのその名前は空からの啓示にも似ていた。

少年は笑って首を振った。

少年は竜を呼んでいない。

そう口に出来なかったのは、気持ちの奥底で求めてしまったかも知れない不安があったからだ。

「いらない。あなたには主が居るんでしょ?その胸で燃えてる綺麗な羽根の人なんだよね」

『【永遠さま】は頷かれた』

竜たちからまたどよめきが上がった。

『我に誓いを立てよ』

「ありがとう」

少年は笑って1歩下がった。

「あなたが守るべきなのは僕じゃない」

『ミ・ロード。我がお前に名を与える』

少年はギクッ、と固まって動かなくなった。

『…マカニは名付けなかったのか』

マカウが悔やむように声を落とした。

『神に捧げる子として、神から預かった子として、マカニは自分の子を育ててきたのであろう』

竜の長がマカウを諭すように言った。

『我の…』

『マカウ。お前はフロルを選んだ』

竜の長はフォレストを見た。

『この者は時満ちるまで我らが迎え入れる』

『構わぬ。我はミ・ロードの心に応えここに居る』

少年は【嫌だ】と首を振って後ずさった。

もし、目の前の水晶の竜に心を許してしまえば自分がどうなるか、少年は分かっていたから。



フォレストが少年に手をかざした。

「!…」

髪を撫でられた感触の後、急に髪が軽くなった。

思わず髪を触ろうと上げた手に、肩より短くなった髪が触った。

「…え…」

驚いて見上げた水晶の竜の胸の中で、金の髪の中心に炎の羽根が刺さっていた。

綺麗だ、と思った。

金の海原に赤く燃える羽根が塔のようにあった。

『ミ・ロード』

「…本当…に?」

少年は信じられない様子で水晶の竜を見ていた。

『名を付けよ』

少年は小さく首を振った。

「あなたは【フォレスト】のままでいい。大切な名前を守って」

『【永遠さま】の記憶があるのか?』

「僕は会ったことあるのかな、記憶には無いけど、大切な人なのは何と無く分かるよ」

『【永遠さま】は若きこの星』

「若い?」

少年は水晶の竜の言葉を聞き返した。

『この星は産まれたばかりの若き星』

「…そうなんだ」

『故に星の力も【永遠さま】の力も安定しておらぬ』

少年は自分が何故必要とされたのか分かる気がした。

水晶の竜が言う【永遠さま】では戦いの神を押さえられないから、閉じ込めるための自分なのだと。

『来るが良い』

言葉と同時くらいに体が浮いた。

気が付いたら、少年は水晶の竜の背中にまたがって空を飛んでいた。

あっという間に水晶の竜は高度を上げて、少年の視界に海の青さが広かった。

「綺麗だね…」

『ミ・ロード』

その名前が自分を指しているのだと、少年は最初分からなかった。

『我をフォレストと呼ぶが良い』

「…あなたで」

『我は見捨てぬ』

その言葉に少年の体が震えた。

堪えても少年の固く閉じた口から嗚咽が漏れる。

少年は声を殺して泣き続けた。

何故自分なのか。

死ぬために産まれてきたと知らされても、諦め慣れてるから悲しいとも思わず受け入れられたのに。

フォレストの一言が、必死に閉ざしていた感情の門を押し開けてしまった。

「…怖い」

水晶の竜にしがみついて、少年は本心を吐露した。

【死】を思うと体が震えた。

何も知らず【死】を迎えるなら、この恐怖は生まれなかったかもしれない。

でも、少年は知ってしまっていた。

フロルの矢が少年に【死】の姿を見せてしまった。

もう1度あの衝撃と痛みが自分を襲うと思ったら、気が狂いそうだった。

いっそ寝てる間に殺して欲しい。

【死】の前で怯えて暮らすには少年は脆すぎた。

「…待つのが辛い。1年は長過ぎるよ…」

きっと毎日思い出す。

自分が死ぬ事も、母が全部知ってて産んだ事も。

自分が産まれた意味、死ぬ意味。

教えられた時も泣かなかったのに、今はただ恐怖に飲まれ身が縮む。

「…フォレスト…」

『今は眠れ』



ロードとフォレストの暮らしは静かだった。

命の木が見える位置にある祠で、フォレストの結界に守られてロードは時を過ごす。

ロードの意識が内から外に向かうまで、フォレストは静かに待った。

フォレストの懐で丸くなり、ロードは時を過ごした。

「…フォレスト、フォレスト」

雛が親の体温を求めるように、ロードはフォレストの存在を求めた。

ずっとずっと母に求めていた温もりをフォレストに求めている事すら、ロードは気付いてなかった。

「…後何日?」

『あれから一月も経っておらぬ』

「…まだ一月なのか」

力無く答えるロードは無気力だった。

『ミ・ロード』

フォレストは手の爪の先に火を灯した。

『やってみろ』

「僕は占いは出来るけど、魔法は使えないよ」

ロードは弱く抵抗した。

『竜人の力は継承される』

「継承?母さんの力が?」

『そうだ』

ロードが悲しい顔で笑った。

「子としての存在を否定されたのに…、悲しいね」

『我は二月に1度【永遠さま】に会いに行く』

「…え」

ロードが上体を起こしてフォレストを見た。

怯えがロードの目に滲む。

『【命の木】に与える力を受け取りに行くだけだ』

フォレストは諭すように言った。

「【命の木】に?」

『【命の木】が自力でこの星を清める事が出来るまで、我が力を運ぶ』

「分かった」

ロードは頷いた。

フォレストが不在の間、万一の時に身を守る魔法を覚えろ、とフォレストはロードに言っているのだ。




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