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ミ・ロード  作者: まほろば
終わり
10/10

終幕



その時は予告もなく来た。

1年までまだ1ヶ月あるはずなのに、里の結界は戦いの神にあっさり破られた。

幸いだったのは、戦いの神が率いる兵が結界を抜けられなかった事。

だから、アマゾネスの子等は逃げられた。

里に入れたのが戦いの神だけと風で知って、ロードは震えながら1つ深呼吸した。

「フォレストはここにいて」

ロードは手でフォレストを止めた。

「みっともない姿を見られなくない」

穏やかな顔をフォレストに向けてロードは微笑んだ。

それまでぐじぐじしていた気持ちがサーっと晴れて、やっと今日なんだ、と思えていた。

風に戦いの神の元へ運んで貰う。

戦いの神は【命の木】に向かって走っていた。

風から戦いの神と【命の木】の間に下ろして貰った。

突然空から降りてきたロードに戦いの神が足を止めて睨み付けてきた。

「見覚えのある餓鬼だな」

戦いの神は目を細めてロードを見た。

「フォレストの背中に居た餓鬼か。そこをどけっ」

ロードは静かに『否』と首を振った。

「切り捨てるぞ」

「僕は死ぬために来たんだから平気だよ」

「気持ちの悪い奴だな」

戦いの神が警戒するようにロードを見た。

「僕はあなたの【柩】として産まれた」

「俺の柩?お前気違いか?」

「狂えたら良かったんだけどね」

ロードは諦めの顔を戦いの神に向ける。

焦れた戦いの神がロードに切り付けた。

剣先から辛うじて逃げて、ロードは言った。

「あなたは何を【永遠さま】に望んだの」

優しい口調で問い掛けるロードに戦いの神の動きが止まり、じっと見ていた。

「お前に言っても分かるものか」

「僕は、僕が死ななくちゃならない理由を知りたい」

ロードの言ってる意味が分からないのか、戦いの神は気味悪そうに見返すだけだった。

「僕は、あなたを僕に封じるために産まれてきた」

「そんな話を誰が信じる」

「母は全部分かってて、僕を産んだ。それが【永遠さま】の願いだから」

「嘘だっ!」

戦いの神の声は否定する叫びだった。

「嘘じゃない。ここで暮らしてた母に、父王との間に僕を産むよう頼んだのは【永遠さま】だよ」

戦いの神は息を飲んで動けなくなった。

「その運命を背負って産まれた僕も苦しいけど、そうさせるしかない【永遠さま】はもっと苦しいはず」

戦いの神がガッと目を剥き出しにした。

「あなたはたくさんの人を殺した。それがどれほどの罪になって自分に返ってくるか、分かってても」

「欲しい者は力付くでも奪う」

言った戦いの神から殺意が溢れた。

「【永遠さま】は望んでない」

「【永遠さま】を救えるのは俺だけだ!」

戦いの神が両手を振り回して怒鳴った。

ロードが『否』と首を振った。

「邪魔だっ!」

「【命の木】を倒しても【永遠さま】は来ないよ」

「うるさいっ」

避けたつもりだったのに、右肩を剣が掠めた。

肩がかぁっと熱くなり痛みにしゃがみそうになったけど、不思議とふって痛みがぼやけた。

きっと、フォレストか【永遠さま】が痛みを鈍らせてくれたんだろう。

「【永遠さま】を傷付けたいの?」

「ああ?」

戦いの神は見下すような顔をロードに向けた。

「【永遠さま】を傷付けたのは【鳳來】だ。だから俺が守ると決めた」

「言葉では守るって言ってるのに、何故【永遠さま】を傷付けようとするの?」

「俺の力を見せ付けてやってるんだ。俺を受け入れない【永遠さま】には俺しかいない証明をな」

「【永遠さま】が欲しいと思う手はあなたじゃない」

「黙れっ!」

避けきれなくて、右の二の腕が熱で燃えた。

右腕から滴り落ちた血が、地面に吸い込まれていく。

それは波紋のように地面を浄化して広がって行った。

ああ、そうなのか。

ロードは泣きそうだった。

僕の血がこの星を助けるのなら、戦いの神も、その手の剣も怖くなかった。

生まれ変わってくる母のために、心の全部がそうじゃないけど、そう思うと自分への言い訳に出来た。

ロードは突いてくる戦いの神の剣を避けなかった。

火山の噴火みたいな、お腹から身体中が燃える熱に意識が飛びそうになる。

「…まだ、まだ…」

倒れそうな体を戦いの神の手を掴んで支えた。

戦いの神が剣を引き抜こうとしても、無駄だった。

剣から手を離そうとしても、それも出来なかった。

「お前のせいだな」

「僕じゃ…ない」

ロードは苦しい息で否定した。

させてるのは【永遠さま】だ、と意識の底で思った。

「うっ…く…」

戦いの神の剣を掴んでいた手から、徐々に姿がぼやけて消えていった。

消え掛けている戦いの神とロードが地面に倒れた。

戦いの神が消えたら剣も消えて、そこには息絶えたロードが眠るように倒れていた。



それから時が経ち、天空にロードの骸を守るフォレストの黒い姿があった。

フォレストの前には幼子の姿の【永遠さま】がいた。

『フォレスト。時が無い。彼を転生の流れへ』

【永遠さま】の声をフォレストは頑なに拒んだ。

『フォレスト』

『我を羽根に戻せ。我の心は離れられぬ』

『転生の流れに乗せねばロードの魂は消えてしまう』

戦いの神の魂を転生の流れに乗せた後、フォレストはロードの骸を天空に連れてきていた。

『フォレスト』

『もう遅い。憎しみを抱いた魂は悪にしか進まぬ。なれば今消すのがロードの望み』

『それを決めるのはロードぞ』

諭す【永遠さま】の言葉もフォレストには届かない。

『分かった。閻魔よりこの者の魂貰い受けよう』

フォレストが止める間も無く、【永遠さま】の姿がかき消えた。

自分が【永遠さま】に何をさせたのか、フォレストは【永遠さま】が消えてから気が付いた。

1つの歯車を壊す行いがどれほど【永遠さま】に負担を掛けるのか、知っているだけに己の愚考を責めた。

救いなのは、閻魔が許さないと分かっている事だ。

感情に振り回された己を恥じるフォレストの前に現れたのは、転生の流れを司る門番の閻魔だった。

『【永遠さま】は?』

『姿を御隠しになった』

フォレストの受けた衝撃は強かった。

姿を隠すとは人の姿を解いて姿を消すと言う事だ。

そうなれば誰にも見付けられない。

震えてるフォレストに構わず、閻魔は滅び掛けていた魂を再び肉体へ誘導して植え付けた。

『まさか、ロードの魂を?』

『お前が【永遠さま】に願ったのであろう』

驚くフォレストに閻魔がにべもなく言った。

『【永遠さま】は転生の流れに乗せる期限ギリギリまで待った。それをお前は』

フォレストがハッとして天空に【永遠さま】の気配を探したが、見付からなかった。

御姿を隠した。

閻魔の言葉が、今さらに重くのし掛かった。

『【永遠さま】からの言伝を預かってきておる。これより先はその者と暮らせ』

『待て、我は【永遠さま】の竜だ』

『その【永遠さま】をお前は御独りにした。事が終わっても、その者を選んだ』

フォレストがグッとロードを見下ろす。

『戦いの神に裏切られ、元の風の王に欺かれ、フォレスト、お前までとは』

閻魔が深いため息を吐いた。

『そうではないっ!』

『結果を見るが良い。お前の望んだ結果をな』

閻魔はフォレストが守るロードを見た。

『無理に魂を戻した歪みで、その者は2度と転生の流れには乗れぬ。お前の頼みと言え酷な仕打ちよ』

フォレストは震えながらロードを見下ろした。

こんな結果を望んでいたのではない。

【永遠さま】なら、と奇跡にすがる思いが言わせた言葉だった。

『お前がその者に掛かりきりの間【永遠さま】がどう過ごしていたか、めくらになったお前は知るまい』

フォレストは目を閉じた。

『その者の未来を歪めたのは【永遠さま】だと、お前はその者への情に流され思っていたな』

閻魔の責める口調にフォレストは何も言わない。

『【永遠さま】はお前に罰は与えぬと申されたが、我はそうはいかぬ』

閻魔はフォレストとロードに光の結界を張った。

『時と共に歩け。時の壁を通り抜ける事は許さぬ』

『何故だ!』

フォレストの体が怒りで赤くなった。

『時を戻り、お前はその者と出会う前に戻りたいのだろうが、それを【永遠さま】は御許しにならぬ』

『閻魔!』

ロードを床に降ろそうとするフォレストに、閻魔が手のひらを向けた。

『【永遠さま】が何度転生の流れに乗せろとお前を諭したか覚えておるか?おるまい』

『我は…』

フォレストに動揺が走った。

『【永遠さま】が御一人で生きる道を選ばれたのは、その者の魂を消すのが忍びなかったからよ』

内に秘めた怒りに震える閻魔を、フォレストは正視できなかった。

『黙して孤独を受け入れた【永遠さま】の御辛さ、【永遠さま】が止めなければお前を焼き殺しておる』

閻魔の言葉にフォレストが力尽きた目を天に向けた。

『その者と共に永き時を歩け、死ねぬ苦しみの中生き続けるが良い』

『ロードに罪はない。罪は我独り』

『その者の負の思いを、【永遠さま】が気付かぬと思っておったのではあるまいな。怨念のように【永遠さま】が居なければ、の呟きは我にまで聞こえていた』

フォレストが苦しそうに息を吸い込んだ。

『何時か、許される奇跡が有るやも知れぬ。懺悔の旅を続けるのだな』

閻魔の手の光がフォレストを長身の青年に変えた。

『竜の姿だけでは不自由であろう、と【永遠さま】からの心尽くしよ』




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