ギルド受付嬢的1日
【朝】
受付嬢の朝は早い。
大抵の冒険者はわりと早起きであるため、それよりも早く準備を終わらせておかなければならないからだ。
なので、私の戦闘訓練は日が昇る前の時間から始まる。準備運動として街を出るまでは歩き、顔なじみの門番の人たち(休みの日なんかには差し入れを持っていく。日頃からお世話になっているのだ。)に挨拶をしてから城壁に沿って軽い走り込みを開始。
二週もすると体が温まって来るので、そこからは魔力で全身を強化しながらペースを上げていく。
いい感じに汗をかいてきたら走り込み終わり。今度は門前の邪魔にならないところで武器の素振り。日によって持ち込む武器を変えているが、1番楽しいのは槍を振るっている時間だ。手にしっくりくるし、色々な動きが出来るのでたまらなくいい。
この時、門に詰めている気のいい隊長さんやそこの隊員たちが練習相手になってくれる時がある。これがまたすごく楽しい。特に隊長さん(ダルシムさん、35歳で子どもは2人いる。表情が動いているところを見たことがない。)との模擬戦はついつい力が入ってしまう。
そういえば、模擬戦をしている時によく目を見開いている人がいるけど、そんなに戦う兵士の姿が珍しいのだろうか?
日がすっかり顔を出したのを目安に訓練終了。家に帰宅して水浴びをしてスッキリしたら、いよいよギルドに出勤だ。
朝のギルド。そこは戦場である。
「おい!いい依頼見つけたぞ!コレ受けようぜ!」
「あ、てめぇ!それは俺たちが受けようとしてたヤツだぞ!」
「んなもん早い者勝ちに決まってるだろうが!!」
「あー…頭いてぇ………。」
「はい、ではこちらの依頼は1度、依頼主の方に直接話を伺ってくださいね。」
「クーレオちゃーん、おはよー。この依頼よろしくね。」
依頼というのは原則として受理された次の日の朝から依頼ボードに張り出される。そして、割のいい依頼というのは人気があるものだ。
「このデブが!表に出やがれこの野郎!」
「おーおー!望むところだよこのちび助!今日こそ頭かち割ってやらあ!!」
「あいつ寝坊か?来るの遅いな…。」
「それでは、気を付けて行ってらっしゃいませ。」
「あー!さっきの護衛依頼が誰かに取られてる!?チクショー!!」
「おーい!手が空いてるやついないかー?出来れば弓が使える奴が欲しい!」
そう、お察しの通りだ。この結果が戦争だ。受付嬢としての仕事は、ここに凝縮されているといってもいい。興奮で目が血走った荒くれ者の男たち(女性冒険者がいない訳でもないが、依頼の取り合いに来るのは男性冒険者の方が圧倒的に多い。)を相手するには、こちらもそれ相応の覚悟とエネルギーを要求される。
だが、ここさえ乗り切れば、後は退屈だが疲れるわけではない事務仕事と楽しみな仕事だけなので、気合と根性で乗り切っている。
【昼】
人の波を捌ききり、交代でお昼休憩を取ったらいよいよ受付嬢的メインイベント。午後からの受付業務だ!
午後の受付には!なんと!2つ名持ちの冒険者たちが来る可能性がとても高いのだ!
これぞまさしく、王都クリミアのギルド受付嬢というエリートのみに与えられた特権だ。王都の受付嬢は、大半がこの特権目当てで受付嬢となったと言っても過言ではないだろう。いや、むしろ全員なのかもしれない。
2つ名持ちの冒険者たちの多くはそれ相応の実力を持っているため、依頼なんてより取り見取り。普通の冒険者が敬遠するような「危険だが、それに見合った高額報酬が用意されている依頼」だって軽々こなすし、むしろ選ばずとも依頼主の方から名指しでのお願いが来たりするのだ。なので、朝の一番混むような時間帯は避け、午後からギルドに顔を出しに来る人が多いのだ。
もっとも、2つ名持ちなんてそうホイホイといる訳ではないので、毎日会えるわけでもないし、来たとしても顔なじみのネリアさん(先輩受付嬢。かわいい上に仕事ができるという完璧人間。年齢についてはなぜか誰も触れない。)の受付に行ってしまうため、話ができるなんてことはほとんどない。
だが、それでもいいのだ。「生ける英雄」「会える英雄」「身近な救世主」などと呼ばれる2つ名持ち冒険者。そんな彼らを最も身近に感じいれるのだ。これに勝るものはないだろう。
それに、最近は私にも挨拶をしてくれる人がいるのだ。
この!!私に!!名指しで!!挨拶してくれるのだ!!!!
おっといけない。いえ、ちょっと鼻の奥が熱くなってしまったもので。ちなみに今日は完全に空振りだった。非常に残念である。
【夕方】
空が茜色に染まり始めたら、今日の業務は終了。遅番の子の窓口を1つ残して、後は全部閉めてしまう。
仕事が終わった後は食事という訳ですが、これは毎日バラバラだ。同僚と食べに行くこともあれば、屋台で食べ歩いて済ませたり、お酒をしこたま飲みに繰り出す時もある。
ちなみに、なぜか男性に食事に誘われることはない。大変遺憾である。周りの子たちと同様オシャレにも気をつかい、絶世の美女とまではいかないがそこそこ見れるようになっているはずなのに、冒険者の男性も、街の男性も声をかけてくれないのだ。
もちろん、鬱陶しいのはごめんだが、ここまで声をかけてもらえないとなると女として自信を無くしてしまう…やはり、今どき流行りの「じょし力」というのが足らないのだろうか?
まあ、こんな感じで順調に灰色な仕事終わりを過ごしているので、特に特筆すべき事柄はない。残りは水浴びをして、瞑想をして寝るだけである。
「以上が私の一日です。参考になったでしょうか?」
「え、えぇ、これでいい記事が書けそうです!」
「それはよかった。では、私はまだ仕事が残っているのでこれで…。」
そう言うと、クレラオースは記者に頭を下げ、輝く銀の髪をなびかせながら仕事へと戻っていってしまった。その様子に、再び圧倒されてしまった記者は呆然としながら彼女を見送る。
彼はしばらく見守っていたが、いつまでも意識が戻ってこない記者に諦めのため息をついた。
「…おい、嬢ちゃん?」
「…っは!?ギルドマスター!今回は大変お世話になりました!」
「いや、それは良いんだが、1つ言っておこうと思ってな?」
「え?」
「アレは言っちゃ悪いが特殊例だ。間違っても、題名に【一般的なギルド受付嬢の一日】とか使うなよ?」
「あ、やっぱりそうなんですね。はい、わかりました。」
記者の方も流石にわかっていたらしく、素直にうなずく。
「わかってくれたんならいい。だいたい、朝から戦闘訓練なんてこなす受付嬢なんか一般的に居てたまるか。」
「お昼時には二つ名持ちへの狂信的な愛を語り、夕方は普通かなと思ったら、サラッと瞑想しているなんて言ってましたもんね…というか、魔力持ちなのになんで受付嬢なんてしているんですか?」
「俺も知りたいよそりゃ………。」
再び、ため息がもれる。
王都クリミアの名物色物受付嬢、クレラオース。彼女の生態は、いまだ謎に包まれているのだった。
受付嬢とは戦闘民族