37矜持
「第三王子殿下、お願いがございます」
監禁中のボルタノを見舞うという口実で現れたミリリ・アパルト・エイム子爵令嬢は、衛兵に気づかれないようそっと彼に告げた。
「殿下の脱出に協力します。
ですからどうか私も連れて逃げてくださいませんか?」
「兄上というものがあろうのに、私に愛のささやきとは大胆だな子爵令嬢。
あいにく私にはマリーという愛する…」
「冗談にお付き合いする余裕はございません。
捕縛される前に出頭すれば、私の身はともかく、生家に類が及ぶのは避けられるかと考えた次第です」
子爵令嬢がこの屋敷で生きていられるのは、ひとえに第二王子の寵愛あっての事。
そのアルタインを裏切るようなそぶりを見せたなら、彼女を片付ける口実を探しているであろうベーシス家の手の者に嬉々として始末されるだろう。
その危険を押してでも、彼女は家族を守りたいと考えているのだ。
「殿下も連座で処罰を受けるのと、当人の罪として罪科を上げられるのでは随分違うとはおもうのですが?」
言われてボルタノは膝を打った。
確かに彼女の提案は魅力的だと思ったのだ。
半ば諦めていたのだが、このままマリーの敵として処断されるという事態は本意ではない。
せめてその身を明らかにして最後に彼女に見えたいと思った。
「いいだろうエイム子爵令嬢。
その提案に乗ろう」
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
万雷の歓声でもって王都に向かいいれられたマリーとクベール騎士達だったが、不機嫌なマリーがいつ爆発するかと肝を冷していた。
街中を進む彼らに対し群集が光刃の戦乙女と連呼していたためだった。
「そんなに私を馬鹿にしてたのしいのかしら?!」
正直騎士達はマリーの怒りのポイントを測りかねていた。
どう見ても、いやどう聞いてもマリーを褒め称えているというのに…。
「おお!クベール侯爵令嬢!よくぞ参られた!
ささ、陛下に謁見の準備は整えてありますぞ」
王城まで物資を届けたマリー達を出迎えたのは宰相だった。
マリーはこの男にここまでにこやかに迎えられた事は初めてだったが、正直気色悪い以上の感想は抱けなかった。
「折角ですが宰相閣下。
まだ戦争は終わっていませんわ…幾ら時間の問題といえようとも。
ですから私は父に…クベール侯爵に報告を行い、すぐに部隊に復帰するつもりです」
「なんだと?!
私は今元帥代理として国軍の総帥権をお預かりしている。
その私の指示が受け入れられないと?」
「このたびの戦、あくまでも宰相閣下からの援軍の要請を受け、クベール領軍としてはせ参じました。
そして今はまだ領軍としての作戦行動中です。
ですから、残念ですが宰相閣下、ならびに陛下は私達に直接の命令権はお持ちではない…そう判断しております」
当たり前の話だが、いくら国王や元帥といえども各貴族の所持する軍隊に直接の命令権は持っていない。
非常時に当主の了承を得て国軍に組み込む場合はあるが、今回はそれに当てはまらない。
これまで国が諸侯軍に命令を出す術がなかったからだが…。
つまりはこの戦争は、国対反乱軍ではなく、諸侯軍対反乱軍であったこと示す。
宰相の顔が怒りで真っ赤になった後、現状を把握するにしたがって真っ青になって行くところを物珍しさに眺めていたマリーだったが、彼の後ろから城門に出てきた父子を見てとたんに笑顔に変わった。
「ウィル!お父様!」
「やはり声をかけるのはウィルの方が先かな…」
苦笑いしながら歩み寄って来たクベール侯爵に対し、マリーは軍隊式の礼を取り。
軍人として責務を果たし始めた。
「とり急ぎ軍の損害報告から。
諸侯軍の損害は約2万…歩く事のできる程度の負傷兵を計算に入れると3万は超えます」
これがいかに無茶な数字かは軍事経験のあるものなら理解できよう。
損害3割でも敗走と言っていい数字であるのに、損害が5割を超えてなお敵を打ち破るという事の異常さを。
どういう士気の維持を行えば、ここまで被害を受けてなお継戦ができるのか?
まるで我慢比べで反乱軍に勝利したようなもので、その損害を考えれば決して勝利と胸を張れるようなモノではない。
「騎士の被害は218名、そして…ギャストン・トゥールス・リオンロア侯爵様、西部から諸侯軍を率いて導いてくださったその方が戦死されました」
このとき宰相は、王家が西部貴族に対して致命的で絶望的な"借り"を作ってしまったのを理解した。
ここまでしてくれとは言っていないと言いたかっただろうが、ここまでしないと言う事は王と自分の命を救わないという事に他ならない。
流石にそんな事は口が割けても言えるような事ではなかった。
「かのお方のお力あればこそ王都を奪還できたと、私は愚考いたします」
目を閉じ、まるで冥福を祈る黙祷のように、マリーはしばらく言葉を切った。
「物資的な損害はまだ計算できていません。
反乱軍から接収した物資などもありますから、落ち着くまで辻褄を合わせるのは難しいでしょう。
まあそちらの方はたいした損害にならないでしょうから、後回しでいいと判断いたしました。
なお、貴族家の者で戦死されたのは獅子哮侯爵様だけです。
オランジュ侯爵様に対しては、リシャール・ロシュル・オランジュ侯爵子息のご無事をお伝えください。
…グランシャリオ候爵様は王都にご滞在ではないのですね?じゃあランベルク様の無事をお伝えする相手はいませんね…っと」
マリーは愛馬の手綱を引き寄せ、父に敬礼を行った。
「では私は部隊に復帰いたします」
「待ちたまえクベール侯爵令嬢!」
「あら宰相様どうなされました?」
平然と部隊に戻ると宣言したマリーに今度は宰相が慌てた。
オーリンもいい顔はしていない。
「まさか本当にまた戦場に戻るというのか?!」
「ええ、今そう言いましたが?…何故と聞かれるのでしたら、それが私の義務ですので…侯爵家に産まれたものとしてのね」
慌てる宰相を涼しい眼で見返したマリーだったが、目の端に移った苦い顔のウィルを見て、心中で頭を抱えてしまった…。
ウィルの目の前でこんな事を言うべきではなかった。
このタイミングでウィルと交代とかは流石に言い出しづらい…宰相に嫌味を言うため余計な事をいってしまった。
しかしそんなところに状況をうやむやに出来る救いの神が現れた。
「宰相閣下!」
港湾部を統括する官僚が急使として駆け込んできたのだ。
「どうした?」
「オルドア様が王都の港にお着きです…」
既に反乱軍には王都隣接の港を制圧し続ける兵力もなくなっていた。
「ああ、あいつもかなりの手柄を立ててくれたな…それだけが救いだ」
「それが…」
リッシュオール家の使いはそこで言いよどんだ。
「なんだ?どうした?」
「第三王子殿下を伴ってご帰還された様子で…」
「伴って?捕らえてではなくか?」
「はい…」
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
開放されたばかりの港は、今まさに物資の積み下ろしが行われていた。
それを見てまた宰相は渋い顔を見せた。
王都への補給復帰第一便は西部からの物資でなく、リッシュオールの船団でもたらせたかもしれないと考えたのだが…。
王都周囲の施設の開放は西部軍が行ったわけで、こればかりはオルドアがどんなに手際よく用意していたとしても叶わなかっただろう。
兵力を集めると同時に食料なども集めていたのだろう。
これを補給して元通りとは行かないだろうが、王都の住人の生活も随分改善されるだろう。
なにより港が開放されたという事は、これから水路を使ってどんどん物資が運び込まれるだろう。
「父上!」
一際大きい船の前で何やら荷物を降ろしていた一団からオルドアの声が上がった。
見ればボルタノもそこに同席していて、複雑な顔でその荷物を見守っていたのだが…。
「第三王子で…」
「おお!マリーではないか!」
ボルタノは声をかけようとした元帥を完全に無視して、マリーの前に駆け寄ってきた。
「王都に居たのか!大変だったのでないか?随分な格好をしているな?
もしかして防衛戦に参加していたのか?
無理をしてくれるな!もっと自分の身を大事にしてくれ…」
一気にまくし立てるボルタノの剣幕にマリーは気圧されていた。
「で、殿下…」
マリーはボルタノの事情を全く知らない。
たった今王都入場を果たした所なのだから当然だが。
王都に居るはずのボルタノが外に出ていたという事は、反乱軍に居たかとも考えられるのだが、ボルタノがそんな事をしそうにないのもなんとなく感じる。
何より王都に残っていた人員が全て彼に対して注意を向けていないのだ。
「なんだ、いつもの様に嗜めてはくれんのか?」
ここで初めて、マリーはボルタノがなぜ懲りもせず毎回同じように自分を呼んでいたのか、考えるに至った。
まさか私に諌めて欲しかった?
「第三王子殿下、他家の女性を気軽に相性で呼ぶものではありません」
「うむ、しかしだ、私とお前の仲ではないか?
私の事もボルと呼んでもいいのだぞ?」
そういうボルタノの瞳と言葉には、いつもの嬉しそうな響きは感じられなかった。
「殿下、彼女はどうしましょう…?」
オルドアの問いにボルタノはしばらく天を仰いだ。
「うむ、まずは生家に送り届けてやるべきだと思うぞ…彼女もそれを望んでいるだろう。
あとは私が彼女との約束を果たすだけだ」
「彼女?」
「エイム子爵令嬢だ…私は彼女の手引きでジェンヌを脱出できた」
急ごしらえに棺桶の中には、服を血に濡らし蒼白な…一目で生きていないと解る…ミリリの姿があった。
「脱出の際、背中に矢を受けてな…」
その顔は安らかとは程遠い、悲痛な顔をしていた。
そんな2人の様子を見たマリーはらしくないと重いつつも、聞かずに居れなかった。
「約束…とは?」
「彼女の無実を証言し、エイム子爵家を連座の咎から救うのだ。
もう死罪しか道のない元王子…いや、王子は王子か…の証言なら説得力はあると思うが?」
尊大で無神経。
学校でも王宮でもそう揶揄される13歳の少年は、まるで初めからこうだったかのように王族として、王者として相応しい品格を見せ付けている。
何が彼を変えたのか?あるいは本当のボルタノは昔からこうだったのか?
もしそうだとしたら…彼の人生を捻じ曲げたのは…いったい…。
「どうしたマリー?顔色が悪いぞ?
軍務など危険なことをやっているからではないのか?」
「殿下!殿下の無実は僕とアランが証言できます」
ウィルにとってはボルタノの身柄と、ボルタノがセドリックやアランをどう思っているかは重要な問題だった。
なんだかんだ言ってこの甘ちゃんの侯爵子息はすっかりアランに感情移入してしまっていた。
アランの右腕が上がるようになったら、彼は間違いなく推薦状を受け取ることができるだろう。
「そうか、アランは無事だったか…」
「はい、2人で殿下たちの捜索を行っていたところ、セドリックの…」
「ああ、セドリックと我らが従者たちにはかわいそうな事になった。
私などは放って逃げればよかったのだろうが、まあ奴らは逃がしてくれんだろうが」
「犯人は誰か解りますか?」
「おそらくベーシス家の手のものだろうな。
ジェンヌで監禁されているときに見たわ、しかもあの時はオリオルズの手紙で呼び出されてな」
「やはり主犯はアルメソルダとベーシスか…」
「オリオルズめ、一度も顔を出さなかったわ。
自分は無関係と言いたいのか、後ろめたいのか、そういうところは本当にヤツらしい」
「ジェンヌを落としたと言われましたが、ではベーシス家の者たちは?」
「第ニ王子と王妃と共に後の船で護送されてくる予定だ。
殿下は罪人じゃないという判断で、先にお連れした次第です」
「ふん、確かに私はこの茶番には加担してはいないがな、だがどう見ても母上が加担している以上連座は免れまい。
いざ自分が巻き込まれると連座精度も良し悪しだと解るわ。
この度の反乱も、身内が加担したためにいやおう無しに巻き込まれた者は少なくなかろう」
「でも、殿下は加担されませんでしたよね…?」
そのマリーの質問に、ボルタノの顔が嬉しげに輝いたのは見間違いではあるまい。
「ああ…私にも、死んでもやりたくない事ぐらいはある。
おお、そうだ、担ぎ手がクベール家なら担がれる事に吝かではないぞ?」
「殿下!冗談でもそのような物言いはお控えください」
宰相が顔を青くする。
今回の事、西部貴族の行ったことだったら既に王都は落ちていただろう。
それどころかこれからボルタノを担ぎ上げられてもクーデターはなってしまうだろう。
なによりボルタノの口調が冗談とは聞こえなかったのだ。
「とにかくだ。
この場に宰相がいるなら話は早い。
私とエイム子爵令嬢は賊らに拉致されただけで反乱には加担していない。
もっとも私は連座は免れないだろうがな、エイム子爵令嬢は…これは名誉の戦死だな…彼女のおかげで私は脱出を果たすことができて、私が持ち帰った情報を元にオルドアがジェンヌを奪還できたのだからな。
彼女の功績を考えればエイム子爵家はむしろ賞賛されてしかるべきだろう」
「ほ、本当なのかオルドア!」
「殿下の言うとおりです。
殿下の証言を元にジェンヌの防衛の隙を突きました。
ジェンヌの兵力がほぼ出払っていると聞かなければ、流石にあんな作戦はとれません」
「そうか、お前の奇策ではなかったのか…」
軍務において、解りやすい功績だけを求める指揮官に才能が乏しいと言われるように、解りやすい功績しか評価できない君主はその権威を損なう。
解りやすい一番手柄しか見れないフレドリッツにはやはり軍務の才能は無いのだろう。
多くの諸侯はこの度のオルドアの見事な功績を認めていたのだろうが、フレドリッツはそれすらも解っていなかった。
「わかりました。
エイム子爵家の事はそう取り計りましょう。
しかし殿下のお身柄は…」
「わかってる。
投獄されるつもりで帰って来たのだからな」
「さすがにそこまでは…しかし監禁させていただくことはお許しください」
「当然だ…で、マリー」
気取ったポーズでマリーの方に片腕を差し出すボルタノのらしくないそのポーズの。
「一度ぐらいは面会に来てくれる事を期待してよいのかな?」
その指先が震えているのをマリーは見逃さなかった。
「え、ええ…」
「そうか、ありがたい。
楽しみにしているぞ…」
マリーにはボルタノの一連の態度が強がりにしか思えなくなっていた。
「ウィル、ごめんなさい…お願いがあるの」
「わかっています!
これから侯爵代理代理としてクベール軍に合流します」
ウィルは露骨に浮かれていた。
切望していた従軍の機会が降って沸いたのだ。
「もう反乱軍は睨んでるだけで瓦解するから、余計なことはしない事。
オランジュ軍もリオンロア軍もグランシャリオ軍も、もう戦闘に耐えられる状況じゃないから…どちらにせよ最終戦には参加しない予定よ」
「そうなんですか…」
露骨に消沈したウィルの様子に苦笑して。
「私も別に軍を指揮して…とかはやってないわ。
本当に従軍魔術師に専念していただけよ。
ウィルが私と違って本当にクベール領軍を率いる気があるなら、騎士団長の傍らでしっかり勉強していらっしゃい」
もとより防衛戦用に武装をしていたウィルは、なんとそのまま騎士達と一緒に出陣して行った。
マリーともどもすぐ陣に戻るつもりだった騎士達は、既に準備は終えていたのだが、浮き足立った様子のウィルを心配げに見ていた。
「お父様も、もうクベール領軍は戦闘をする予定ないのですから大丈夫よ」
「いや、私が心配しているのはウィルの事ではないよ。
マリー、君の事だよ」
オーリンは女性関係だけには信頼置けないが、当主として父親としては尊敬しうる気遣いを見せる。
彼はマリーが自責の念で潰れそうになっている事に気づいていた。
「私も驚いている。
まさか第三王子殿下があのような面を隠して…隠していたんだろうね」
マリーがボルタノを毛嫌いしているのはクベール家では周知の事実だ。
そのため家内全体でボルタノは嫌われていたのだが…。
「父上、この度の事、第三王子殿下が連座を免れる事は無理なのでしょうか?」
「難しいね…王がその気なら恩赦をだす為の理由は充分にあるけど…。
国王がそういった面を見て恩赦を出すとは思えない。
スタード家相手ならたいした理由も無しに恩赦は出すだろうけど」
「自分の…息子ですわよね?」
「マリーがそういった"おかしい事"を理解できない子に育ってくれて本当に嬉しいよ。
私も王の気持ちはまったく理解できない。
ただ普通の人間の感性が及ばない人だと理解しているだけさ…」
「私はもしかして取り返しのつかない事をしてしまっていたのではないのでしょうか?」
「それは違うと思うよ。
実際殿下はマリーに嫌われるような事をしてきた訳だしね。
私が思うに、嫌われようとしたいたのかもしれないよ」
「どうしてですか?」
「年頃の男の子はね、好きな子にちょっかいを出して気を引こうつするものさ。
マリーには解らないかもしれないけど、私にはその気持ち解ってしまうんだなぁ」
オーリンは自分の少年時代を思い出していた。
こう見えて彼も初恋の相手とは身分違いで結ばれる事は無かった。
権力を持って迫った翌日には、彼女は職を辞して姿を消してしまったのだ。
あの時ばかりは普段温厚な父に殴られるまで叱られたものだ。
若気の至り…というには未だに後悔がついて回る苦い思い出だ。
その彼女のと同じ愛称になるような名前を娘に付けたのは、妻にも言えない秘密だった。
「好きな娘の気を惹けないなら嫌われたほうがマシ、という気持ちも解らないではないんだよね。
きっと殿下も大人になれば、もっといい方法を思いついたかもしれない。
でも思春期の子供としてはそんな意外な事ではないな、あの王の子供とは思えないぐらい普通の感性をお持ちだと思うよ」
「でも…だったらそれは、そんな殿下が死ぬはめになるのは…」
「それは違うよ。
別に彼が追い詰められて自暴自棄に走ったわけではない。
彼は巻き込まれただけさ。
彼の不幸は両親と、その他の親族に有る。
マリーの所為じゃないよ。
もし公爵が反乱なんか企てなかったときの事を想像してごらん?
きっと殿下は相変わらずマリーにちょっかい出していたとさ…」
不器用な少年はその不器用ゆえに、無神経の仮面を被り続ける事は出来なかった。
きっと彼は今その事を後悔しているだろう。
マリーにできる事は、せめて彼が安らかに逝けるように気をつけてあげる事だけだろうか?
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
「なんだこれは…」
ジェンヌを落とした貴族軍は、一切の動きを見せなかったレ・クリュネを不審に思い。
状況を確認するために調査隊を派遣していた。
そこで彼らが見たものはあまりにも意外な街の状況だった。
「死体はほとんど無いのか…その割には建物の被害が酷いな」
略奪に遭ったにしては物資はそのままで、死体は少ない。
だが人間の仕業とは思えないほど街中は荒らされていた。
「見ろよ、エチュドリール公爵自慢の時計塔が倒れてるぞ」
公爵領邸よりも高く、朝夕の6時と昼の12時に都市近辺まで大鐘を響かせて時を告げていた、名物の時計塔が無残にもへし折れている。
その他街の破壊具合を見れば、とても人間には…たとえ魔術を使っても…実行不可能な酷い有様だった。
「と、とにかくだ…いそいで王都にこの現状を知らせないとならんだろう…。
ここを占領してた反乱軍が逃げるついで…と考えられるのなら楽なのだが」
彼らは二手に分かれて行動を開始した。
一方は王都へこの知らせを急いで、もう一方は崩壊したゴーストタウンと化した交易都市の調査を開始したが。
街に残った部隊はそのまま帰還する事は無かった。
ソレはまだ街中に潜んでいたのだ。
帰還組が見逃されたのは気まぐれに過ぎなかったのだろう。




