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クロニクル アンド マギグラフィ  作者: 根菜類
第一部・マルグリット編
28/68

28出陣

 ズシャアっと雪を掻き分けながら、オリオルズの体は急な坂を転げ落ちる。


「まいったね、どうも…こんなに速攻で山賊に目をつけられるとは流石に…」


 やむなく1人で山越えに挑んだオリオルズは、山道を1日も行かないうちに追跡者に気が付いた。 

 かれらが山賊の類で、人目が届かなくなるのを待って襲撃してくるのだとあたりをつけた。

 ジェンヌからの追跡者ならそんなまどろっこしい事はしないだろう。


 レ・クリュネから出てもすぐに山道に入るわけではなく、街道沿いに農村や馬喰の馬小屋などが点在している。

 タラスクまでの道のりは10日以上もかかるが、実際人の住んでない山道はそのうち1週間ほどの行程になる。

 引き返すに引き消せない、かといってこの近隣の住民は信用できないと、四面楚歌のような常態に陥っていた。

 本来はここら辺まで衛兵が巡視してるのだろうが、解体されたレ・クリュネの衛兵隊はその職務をも停止していた。

 おそらくレ・クリュネの周辺の治安はガタガタだろう。

 近隣の住民もどうやら家に閉じこもっているようだ。

 このまま馬小屋にでも隠れてやり過ごせればいいのだろうけど、隠れた馬小屋が包囲されるようなことになったら目も充てられない。

 せめて馬を買いたいが…。


「悪いが1頭も居ないよ、全部徴発されちまった…こっちも春から仕事もできん有様よ」


 こんな様では本来善良な市民だった住民も、山賊に身をやつすしかない常態だろう。

 レ・クリュネが落ちていた時点で完全に計画は頓挫していた。

 しかしオリオルズからしてみれば、もう後戻りもできない状態だ。

 なんとしても越境するしか生きる道は無い。

 辺境にかくまってくれる家でもあれば話は別なのだが、あいにくそんな貴族家に心当たりは無い。

 危険を冒してでも西端のラシュメーヌか、レ・オルレンヌからオリヴァ王国に帰る船を捜すべきだったか。


「後悔先に立たずとは言うけど、まさか僕がそんな後悔をする破目になるとはね」


 これも父親達の愚かさを測りそこなった自分の見通しの甘さだが、相手を侮って痛い目を見るのはまだ納得できたが、あいてを過大評価して追い詰められるのは納得がいかない。

 とにかく前に進むしかない状況に陥ったオリオルズは、重いザックを背負いなおすと足を速めた。


 山中に分け入ってからしばらくは追跡者の気配を感じなったのだが、ちょうど一番奥地と思われる渓谷沿いの道でとうとう補足されることにとになる。


「まいたと思ったんだけど甘かったか」


 こんな場当たり的な対応でどうにかできるとは思っていなかったが、いま自分がそんな事しか出来ないのが情けなくて悔しかった。

 雪をかけわき先を急ぐが、向こうはなれたもの。

 気づいたときには峰一つ向こうだった人影は、数時間後には同じ峰にまで迫っていた。

 もうすぐ日暮れだという焦りも手伝ってか、気が付いたら街道を反れ、林の中に分け入っていた。


「余剰の食料は3日分。

 運がよければ、タラスク手前の民家で補給はできるだろうけど…まずいね、道に戻れる気はしない」


 土地勘の無い山中で迷う危険性は充分に理解していた。

 理解はしていたが、他に選択肢が無かっただけだ。

 山賊に追い立てられるままに、歩きやするそうなルートを通ったり、足跡を消すために渓流をつたったりしているうちに、とうとう日が暮れてしまった。

 季節がら雪が振らないのが救いだが、雪が降ってくれたら足跡は消せたかもしれない。

 巨岩の影の、地面が露出している場所で毛布に包まって夜明けを待つ。

 当然火を焚けるような常態ではない。


「どうせ夜間は動けないんだから、寝てしまうのも一興だな」


 震えながら固い保存食をバリバリ噛み砕いていると、ふとむき出しの地面に目が行った。

 そのままゆっくりと巨岩を見上げる。


「目印として悪くないんじゃないか?これ…」


 彼はザックから鉈を取り出すと、月明かりのした岩の根元を掘り始めた。


「これでよし」


 持ち出した資産をあらかた袋に詰めると、岩の根元に掘ったあまり深くない穴に収め急いで埋め戻した。

 身を軽くするためと、万が一自分が捕まったとき山賊にこの金をくれてやるのは癪だったからだが、つかまった時に生き残る可能性等も考慮している。

 大金を持ち歩いていたら確実に殺される。

 文無しだったら人買いに売られるぐらいで済むかもしれない。

 あくまでも自分は冷静に物事を判断できるという、なけなしの自負の表れだったのかもしれない。

 だがあいにく運命は彼のはるか上を行っていた。


「おい!居たぞ!」


 うとうととしかけオリオルズの目を覚まさせたのは、カラ訛りのラース語だった。

 咄嗟に跳ね起きて駆け出そうとするも、既にその場は囲まれていた。

 今はまだ暗いから土を掘り起こした跡に気づかれてはいないが、明るくなったら岩陰の地面の色が一部違うなど人目で解るだろう。

 どうせ捕まるにしてもここは不味い!

 ステッキの中の毒針はあと何発あった?

 1人を倒して囲みを抜かられるか?

 この魔道具であの分厚い皮のコートを貫通できるか?

 下卑た笑い顔を浮かべる山賊たちを睨みつけながら、オリオルズは自分の命運が尽きたのを予感した。

 まだ確信しないところがらしいといえるのだが…。

 次の瞬間世界が暗転した。


 もともと僅かな月明かりだけの暗闇だったのだが、一瞬でその僅かな月明かりさえ消え去ったのだ。

 自分の手も見えない濃密な闇の中、回りの山賊どもの慌てる声を聞き、突然自分の目が潰れた訳ではない事はかろうじて判断できた。

 一歩二歩後ずさり、背中に当たる巨岩の感触だけを感じる真の闇の中で、少しでも耳を済ませて状況を確認しようとする。

 これは月が雲に隠れたとかそんな生易しい状況ではない。 

 そして気が付いたのは、山賊の数が減っているらしき常態だった。

 声が、自分を包囲していた10人ほどの山賊の声が、もう5人ほどしか感じないのだ。

 その瞬間オリオルズは自分の命運が尽きたことを今度こそ確信した。



          ◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇



 付いてきた下級貴族たちの軍を見捨ててスィン侯爵領軍が撤退を開始したのは、太陽がオレンジ色に輝きだしたころだった。

 スィン領軍を率いているのは侯爵その人ではなく、かの家の騎士団長であった。

 スィン侯爵本人は穏やかな人間で、本来争いの類は好まないのだが。

 スィン侯爵家はアルメソルダ侯爵姉弟の母親の生家にあたり、連座で処罰される事を脅迫の材料に使われ、半ば強制的に反乱軍に組み込まれたのだった。

 そんな侯爵が自ら軍を率いるとはなく、丸投げされた騎士団長が領軍を率いて参陣していた。

 もとよりこの混成軍は功に流行る下級貴族の要請で構成されたもので、スィン領軍は彼らの歯止め役として中軍を任されたのだ。


 ところがそんなスィン領軍が歯止め役として機能するはずもなく、結局は暴走する下級貴族たちが各個撃破される形となってその大勢は決したのだった。

 こうなれば騎士団長の判断は一つ。

 極力戦力を維持した状態で帰還する事だ。

 全軍で見ればまだ反乱軍のほうが圧倒的に数で勝っているため、2万の雑兵ともいえる下級貴族軍をあっさり見捨てたのだが。

 ギャストンの言うとおり、決断は遅すぎたのだ。

 既に囮に残せる部隊すら残っていないのだから…。


「遊撃隊、斉射後さがれよ!

 騎兵隊、突撃準備!」


 退路に突如現れたクベール軍は、スィン軍の移動を止めるためにその鼻先に一撃を叩き付けた。


「撃て!」


 射撃隊の数自体はそう多くはない、しかし相手の動きを止める分にはそれで充分であった。


「騎兵隊!切り込め!」


 まさしく波状攻撃で波のように押し寄せては引く、クベール騎兵隊の突撃にスィン軍は反撃のタイミングすら取れないで居た。


「ええい、左右から包み込め!

 騎兵など側面を突いてしまえば…」


 まるでそのタイミングを計ったかのように、左手に現れた槍兵部隊が陣形の展開を押しとどめた。


「先の帝国戦の様に出番が無いのは嫌だろう?

 オランジュの長弓部隊の実力を見せ付ける時だ。

 撃って撃って撃ちまくれ!」


 ロッシュの篭城戦では充分にその威力を発揮していたのだが、リシャールはその活躍を見ていなかった。

 クベール、リオンロア、オランジュの3軍は数こそ王軍に劣るが、その質は群を抜いていた。

 特に騎兵のクベール、重歩兵のリオンロア、長弓兵のオランジュは王国に並ぶもの無い練度を誇っていた。

 もちろん部隊には相性があるが、西部同盟軍には戦場を見通す目(マルグリット)が居る。

 相性負けすらそうそう起こりえないのだ。

 むしろ的確に敵の嫌な部分を突いていっている。


 そして3方を囲まれ動きを止められたスィン軍に、攻撃力だけなら3軍最強のリオンロア軍が食いつき、蹂躙を開始したのだった。


「どういう事だ?敵は同数じゃなかったのか?!」


 僅かな損傷で下級貴族軍を蹴散らした西部同盟軍は、質量とも圧倒的に勝り、一方的にスィン領軍を蹂躙していった。

 もはやこれでは敗残兵狩りと変わらない。


「容赦はするな!ここで逃がしたらこやつ等はまた敵として牙をむくぞ!」


 獅子哮侯爵(リオンロア)の戦場に響き渡る掛け声に、味方はいきり立ち、敵は萎縮した。


「一方的ですわね」


「一方的でなくては困る。

 逃げた連中が二度と戦いたいと思うまで、徹底的に叩かねばな。

 依然こちら側が寡兵なのだから」


 ここまで打ち破ってきた敵兵は4万。

 この1万を叩き潰してもまだ敵は5万の大軍である。

 現状の自軍の損失が5千ほどと見られるので、先の戦いと合わせて7千ほど損耗したといえる。

 その7千が全て死者ではないが、少なくともこの戦争の間に回復する見込みは無いだろう。

 2万と少しで5万の反乱軍を敗走させねばならないのだ。

 まだまだ気の抜ける数字ではない。

 敗残兵も多少は本軍に逃げ込んでると計算すれば、敵軍の数はまだまだ5万を超えるだろう。


「日が暮れるまでは手を緩めるなよ!」


 流石に夜間は同士討ちの可能性があるから追撃は控えるようだ。

 マリーの魔術も夜間は効果が大きく減じられる。


「夜間は周囲半リーン(約2km)が精々ですわ」


「それだけ見えれば夜襲もし放題だな…」


 太陽がカラク山脈に隠れようとするころ、戦場では既に大勢は決していた。

 というより、激突前に結果は出ていたのだが…。


「とりあえず、今日はスピノワに凱旋させてもらうとするか…

 まあ、クロノア侯も嫌とは言うまい!」


 目の前で同数の反乱軍をゆうゆう撃破して見せたのだ、ここで受け入れなければ反乱軍に組したとして責められる可能性もあるのだ。

 もはや恫喝だが、西部同盟軍としてもどちらに付くともわからない相手に配慮する余裕もない。

 クロノア侯爵も観念したか、抵抗らしい抵抗もなくスピノワの敷地に入ることが出来た。



「困った…ああ困った」


 ガエル・グリヴ・クロノア侯爵は頭を抱えていた。

 この戦は十中八九反乱軍が勝つと考えていて、反乱軍側に消極的協力を方針に考えていたのだ。

 武力に屈して"仕方なく"反乱軍に付く形を取れれば、各方面に言い訳が立つと思っていたのだ。

 ところが西部屈指の武力を持つ3諸侯家が連合を組んで現れたかと思うと、圧倒的武力で同数の反乱軍を蹴散らしたのを見ると、自分の判断が揺らいでいくのを感じた。

 しかし状況はそれどころではない。

 反乱軍を撃破した件の3軍が堂々とスピノワに入場してきたのだ。

 スピノワは西大街道の始まりの街で、多くの旅人や西方に遠征する軍の一時駐屯地となる。

 それに加えて近年は王都への人口流出が加速しているため、街内に空いたスペースに3万程度の軍なら楽々収容できてしまった。


 これでは完全に西部連合に組する形となり、もし反乱軍が勝ちでもしたら粛清の対象になるだろう。

 ガエルは悩んでいるが、もうこうなったら西部同盟に協力するしか生き残るすべは無いのだ。


「侯爵様、リオンロア侯爵ならびに、クベール侯爵代理、ならびにオランジュ侯爵子息各方々が面会を申し込んでおりますが…」


 会いたくは無い、会いたくは無いが…。


「会うしかなかろう!」


 ガエルの怒鳴り声は八つ当たりであった。


 当の3人は護衛の騎士達とともに迎賓館に通された。

 だが武装し鎧をまとった彼らの物々しい格好は、迎賓館の優雅な内装の中では非常に浮いていた。


「こんな格好でダンスホールとは、落ち着かないね」


「あら、その鎧姿も凛々しくて素敵ですわよ」


「クベールのご令嬢からそう言われるのは光栄だけど、できればお互い礼装でこういう場には立ちたいな」


 リオンロア侯爵からすればこの二人は子供や孫同然のの年齢だ。

 そんな2人の軽口の叩き合いはどうしてもほほえましく感じてしまう。

 侯爵には子供も孫も居るがどうおとなしいと言うか、侯爵の前で萎縮してしまっているようで、神妙な顔で黙っている姿しか見た事がない。

 いまさらながらそれが少し寂しく感じる。

 獅子哮とあだ名され、王国の防衛戦にも数回参陣して、武人としての呼び名も王国一であったが、家族と暖かい時間を過ごした記憶が無い事に気が付いた。

 そうだ、この戦いが終わったら王都にいる孫を抱き上げて、頭をなでてやるのもいい。

 そんな風に思いを馳せてるうちに、クロノア侯爵ガエルが迎賓館に到着した。


「お待たせいたした、いやそのう…」


「単刀直入に用件を言うぞ?」


 西部連合の総指揮官である獅子哮(ギャストン)が威圧感たっぷりにガエルに詰め寄る。


「我ら3軍の補給と休息だ…クロノア領軍にも兵を出して欲しいところだが、やる気の無い部隊など足手まといになりかねん」


 ガエルは兵の提出を求められないと知ると露骨にほっとした態度を取った。

 それを見たマリーは一計を案じ、そっとリシャールに目配せをするとクロノア侯爵の前に進み出た。


「クロノア侯爵様?もしかしてこのまま動かなければスピノワは無事だと…そう勘違いされていませんか?」


「か、勘違いですと?」


 まるで安堵を見透かしたかのようなクベール侯爵令嬢の切り込みに、ガエルは思わずたじろいだ。

 ギャストンとは違う意味で貴族には向いてない人だと、マリーは少し悲しくなった。

 だが彼を救うためにも少し騙してでも力を借りなくてはならない。

 だいたいこれから言う事はほぼ(・・)本当の事なのだし。


「はい、たとえ我々をスピノワに受け入れなくとも、西大街道の拠点であるスピノワは西進を目論む反乱軍が放って置くはずがありません。

 接収…まではされないでしょうが、進軍のために資産資財を根こそぎ持っていかれる事になると思います」


「そ、そんな横暴な!」


「失礼ですがクロノア侯爵様は反乱軍と何か約束などされてますか?」


「そんな事してるわけは無い!」


 もちろん彼の立場ではそう言う他は無い。


「ならばなお更…向こうにして見れば約束もしてない事を守る必要はありませんわよね?」


 ガエルの顔が見る間に青く代わっていく様を見て、約束はしていないものの何そういう仄めかしがあった事を悟る。

 おおかた西部諸侯たちに協力しようものなら解ってるな?…といった感じか。


「それに…もうしわけありませんが、スピノワは守るには、防衛拠点としては不向きな立地。

 西部諸侯が領地に引き上げて反乱軍に対抗するとなった場合…スレナード川を防衛線にするしかありません」


「そ、そんな!スピノワを見捨てるというのか!」


「私にしても、大事なのはヴェンヌとその周囲のクベール領ですので…それを守る為に最も適している防衛拠点がリーヌと言うだけの事」

 

「それは我がオランジュ家にしても同じ事。

 まあ我々は海岸線から河口の防衛も考えなければなりませんが…。

 とするとさらに余裕はありませんね」


「ど、どうしたらいいのだ…」


 マリーが睨んだとおり、反乱軍…正確にはベーシス侯爵なのだが…が西方諸侯に協力しないように圧力をかけていたのだ。

 もしリオンロアなどに協力しようものなら西進むの際にはまず真っ先にスピノワを蹂躙するだろう…と。

 協力しなかった場合はどうするかなど全く言っていない。

 王都に残っていた嫡子の扱いにすら何も言っていなかったのだ。

 今更ながらガエルはそれに気が付いた。


「まあいい、とりあえずスピノワに1日、2日駐留させてもらおう。

 その間に軍の再編成と補給をやらせてもらうぞ」


 ギャストンのその言葉も耳に入らないほど、ガエルは顔色をなくしその場に座り込んだ。

 慌てて側近が助け起すが、彼らの声も耳に入らないようにブツブツと何か呟いている。


「少し脅かしすぎたかしら?」


「しかし言った事は全部本当の事ですからね、あやしいのは王都の決戦に負けた場合我々が無事領地に帰れるか…ぐらいだからね」


「そうですわよね、まあ負ける気は無いのですが」


「それはそうだけどね」


 しばらくクロノア侯爵の様子を見ていたギャストンは、諦めたように大きくため息をつくと二人に向き直った。


「マルグリット嬢には天幕じゃなくて宿を用意してやりたかったが、ガエルの奴があのザマではそうもいかんだろう」


「いいえお気遣いなく。

 戦時中はそんな贅沢はできないと覚悟はいたしてますから」


 リーヌでは兵舎どころか侯爵の屋敷の客間を用意してくれたのだが、それ以外はずっと野営なのだから。

 そういえばと、リーヌの侯爵邸に預けてきた二人の次女の事を思い出した。

 スピノワに駐留できるななら、ここまでは連れてきても良かったかな?そんな事を考えていた。


「とりあえず戻るか」


「はい」



          ◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇



 翌日は各軍で部隊の再編成を行う事になった。

 全軍とも大勝だったといっても被害は少なくない。

 編成しなおし部隊数を減らさなければまともに戦闘継続などできない。

 幸い重傷者はスピノワに置いて行ける算段は付いているので、継戦可能な兵だけを集めて新しい部隊を編成する事ができる。


 騎士団長と相談しながら作業を進めていたマリーの元に、ギャストンからの呼び出しがあったのは夕方近くのことだった。


「どうされたのですか?お二人とも難しい顔をして…」


 天幕の中にはギャストンとリシャール、それと数名の騎士が眉間にシワを寄せて何事か悩んでいた。


「アルバ侯から早馬が届いた。

 アルバ領軍騎兵5千が三日後にスピノワに到着するらしい」


「まあ、朗報ではありませんか?何故皆様そんな…」


「遅いのだよ、合流をまってからスピノワを発つというスケジュールは危険だと僕は思う。

 明日には出発する予定だったのに…」


「待つべきか先に行くべきか、マルグリット嬢の意見も聞きたい。

 呼んだのは報告と…その意見を聞くためだ」


「クベール侯爵令嬢が来る前に多少の意見交換はしたのだけど、どちらも一長一短で決め手にかける。

 何かいい意見はないだろうか?」


 スピノワから王都まで約4日の行程となる。

 当然出発が1日遅れれば到着も1日遅れる訳で、1日到着が遅れたために王都が陥落したという事態になりかねない。

 かといってアルバ領軍を待たず出発した場合、その5千の騎兵の戦力差で戦闘に後れを取ってしまう可能性もある。

 未来が見通せぬ以上、どちらも選びようが無いのが現状であろう。

 ギャストンもリシャールもそれが解ってるから自分の意見を強く言えないのだ。


 マリーは顎に人差し指を当てるいつものクセで、しばらく考えた後。


「とりあえず折衷案に過ぎませんが…。

 予定通り明日出発して王都に向かい、王都について無事を確認したら無理に決戦を待たずにアルバ侯爵を待つというのはいかがでしょう?

 反乱軍にしてもこちらに援軍のアテがある事は知らないのですから、急いで決戦を挑んで来ないとは思います。

 王都から見えるところに布陣すれば、王都の士気も上がるのではないでしょうか?」


 マリーの意見を聞き、暫しの静寂の後リシャールが口を開いた。


「どうも、それ以上の名案は出そうに無いね、僕もクベール侯爵令嬢の意見に賛成しよう」


「そうじゃな、危険も無い事はないが他の案よりは対処しやすかろう。

 何せこちらにはマルグリット嬢の魔術が睨みを利かせてくれているのだから」


「念のため合図の魔術を使える従軍(ゲール)魔術師(マギクラフター)を残していくとしよう。

 アルバ候と合流して王都に向かってもらう」


 かくて翌日の早朝。

 西部諸侯連合2万は決戦の地ゲランデナに向けて、出陣する事となる。


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