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クロニクル アンド マギグラフィ  作者: 根菜類
第一部・マルグリット編
22/68

22騎士

 元が身体を動かす才能があったのか、アイシャはすぐマリーを追い抜いた。

 訓練所の外周を回るときはマリーの後を付いて走っていたが、野山の行軍訓練ではシャンブルに遅れず付いていける。

 もっともシャンブルは狩り半分で獲物を探しながら動いてるため、彼に追いつけた訳ではないのだが。


 マリーが騎士団長から剣を教わるようになると、アイシャはシャンブルにナイフを使った格闘術等を習うようになった。

 侍女に剣を教えるという事を騎士団長が拒否したからだ。


「なかなか筋がいいな、うちの部隊に入らないか?」


「私はマリー様の侍女だから。

 それはお断り」 


「それは残念」


 さして残念そうでもなく、その牙人(ガルー)はそう返答した。

 彼の興味はもとよりアイシャにあったわけではない。


「根性とか真摯さが支配者に必要かといわれると、別にそんな事は無いんだがな…。

 まああれはそういう事じゃなくて意地だよな…意地は必要だな、うん」



         ◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇



 モモ・ピンキー男爵令嬢はあれから元気が無かった。

 マリーの言った事が心に響いたのか、公衆の面前でやり込められたのが聞いたのか、はたまたアレ以来みんなに総スカンを食らっているのが辛いのか?

 とにかくおとなしくなっていた。

 だからと言ってマリー達が平穏無事に過ごせたというわけでもない。

 取り巻きをつれた第三王子(ボルタノ)の襲撃に度々悩まされる事になったからだ。


 これがまた、取り巻きもいやな顔をして付いてくるため、はっきり言って誰も幸せにならないなと一同は頭を抱えている。

 ただひとりボルタノだけはご満悦だった。


 すったもんだあったものの、オリオルズが卒業した後はおおむね平和だった。

 この学園生活が最後の平穏な時だとは流石に思いが及ばなくても仕方なかっただろう。

 自分より、むしろボルタノに対してではあったが。




 王国暦425年 極北の月(12月)。


 マルグリット・ウル・クベールは無事課程を終了し、上級学校を卒業することになった。

 無事卒業式も終え、ボルタノから隠れるように素早く寮に引き上げようとした時だ。

 彼がクベール家一行の前に現れたのは。


「マルグリット・ウル・クベール侯爵令嬢、ならびにウィルレイン・アルフィス・クベール侯爵子息。

 お話…いやお願いがあります」


 アラン・スタードはやや悲壮な憂いを帯びつつも、ハッキリとした態度でそう切り出した。


「兄の事があったので侯爵令嬢にはお話しにくかったのですが、断られるにしても話しておかないと一生後悔すると思い。

 恥を忍んでお話をさせていただきたく、お呼び止めしました」


 マリーはちょっと…いやかなり面食らっていた。

 先入観も大きいだろうが、あの兄の弟がここまできちんと礼節をわきまえているとは全く想定していなかった。

 いつも無言の仏頂面でボルタノに付き従うアランしか知らないマリーにとって、少しオーバーだが悲壮な覚悟で自分たちに向かう彼はすこし新鮮でもあった。


「まずは兄のした事をお詫びさせて頂くことが筋だと思いますので、受け入れていただくには及びませんが、家を代表してお詫びさせていただきます」


「いまさら謝罪とか、どんなお願いがあるか知らないが、いささかムシが良すぎるんじゃないかい?」


 アルウィンの所業を聞き及んでいたウィルにとっては、スタード家はおいそれと許せる相手ではない。

 もっともアルウィン・スタードを受け入れようとか考える貴族がこの国にいるとは到底思えないのだが。

 現在彼は父のコネで近衛騎士団に就職したものの、どの騎士からも従士として受け入れるのを拒否され、父の従士を勤めている。

 肉親の従士を勤めるなど、恥の上塗りとしかいえないのだが。


「ごもっともです侯爵子息。

 それについては言い訳の使用もありません。

 遅くなったのはひとえに私に謝罪に伺う勇気が無かったからです」


「でもいいのかしら?スタード家としては侯爵家(ウチ)に謝罪するのは不本意なのではなくて?」


「父や兄は不本意だと思っているかもしれませんが、不本意だからと言って謝罪をするべき相手にしないのはどうかと…私が言うべきことではないとは思いますが。

 私が侯爵令嬢に謝罪したことが咎められる様なら、それこそスタード家は全貴族を敵に回すことになると思います」


 まともだ!マリーは非常に驚いていた。

 アルバート・スタードを知っているが、あれは王の個人的寵愛だけを頼りに出世した男で、次男のアルウィンよりも多少はマシといったレベルの男だ。

 たいした実績も評価も無しで上級騎士位を受け取ってることから、近衛騎士団員からも影で馬鹿にされている。

 長男のアベニールの事は知らないが、特に噂を聞きつけないところを見ると可も無く不可もなくといった人間ではないか?

 彼が父から上級騎士の位を受け継ぐことになっているが、おそらく王が変われば取り上げられるだろうと噂されている。

 三男のアランも今まで噂は全く聞かなかったが、少なくともこの受け答えができて評価されないのはおかしい。

 よほど父や兄が重石になっているのか、それとも目立たないように爪を隠していたのか?


「それで?僕達にどんなお願いがあるというんだい?」


 ここまでの会話でマリーはかなりアランを評価していた。

 意図は解らないが、ウィルがかなりそっけない、見下すような態度をしているのにも関らず彼の態度は変わらなかった。

 立場上はもちろんそうするべきだろうが、不快なら多少は態度ににじみ出るもの。

 だがアランにそれは見られなかった。


「はい、自分は卒業とともに家を出ようと考えています。

 それで…その際には尊敬するロベール・ディネンセン殿の下で働きたいと切望していまして…」


 なるほど、確かにそれはクベール家の二人には言い出しにくいお願いであろう。


「つまり騎士団長に推薦して欲しいと?」


「いえ、そこまでのお願いは出来ません。

 お二人…侯爵家の方には、私がクベール領軍に就職活動を行う許可いただきたいと」


「それは許可を貰うような事ではないと思うけど?」


「本来ならばそうかもしれませんが、スタード家の者としては…許可がいただけなければ門前払いされても文句は言えない立場にあります。

 ですから領軍に応募する機会だけでもいただきたいのです。

 従士として…いえ、一兵卒としてでもいいのです。

 私は…おそらく騎士としか生きられません、どうせ命を懸ける仕事なら尊敬する上司の下で働きたいと思うのです」


 ここまで聞いてマリーは腑に落ちた。

 アランの就職活動はもう始まってるのだ。


「わかったわ、私の責任で許可を出しましょう」


「ねぇ…姉上!

 勝手に約束しては!」


 ウィルが慌てるのも良くわかる。

 当主である父親(オーリン)の許可なしでそんな事を決めるなど、いくらマリーでも許されることでは無い。

 安請け合いをして後でやっぱりダメだったとか言うわけにもいくまい。


「いいのよ、アルウィンと色々あったのは私だもの。

 私がそれを許しても問題ないでしょう?

 ただ、あくまでもそれはアランに出した許可で、それ以外のスタード家の者にはその限りでは無いけど…それでいいわよね?」


「はい!ありがとうございます」


 これは先物買いだとマリーは判断した。

 騎士としてどうこうと言う事はマリーには解らないが、彼が優秀な指揮官かあるいは外交官になりうると考えたのだ。


「今回の事、あなたの将来性を買っての事よ。

 3年間殿下の隣で私を観察した結果、私からなら許可が下りると判断したんでしょ?」


 アランが息を呑む気配を感じ、まだちょっと詰めが甘いかな?と思うが、自分も似たようなものだと思いなおす。

 今は自分が優位に立ってるから冷静に判断できるのだ。

 将来を賭けた勝負に出てるアランとはプレッシャーが違う。


「どういう事だアラン!?」


「いいのよウィル。

 相手を見て要望を通すって重要なことよ?

 特に戦場では相手を見れる能力は貴重よ」


 しかしマリーのアランに対する査定はまだこれで終わりではなかった。


「ただ…アラン、来年卒業するまでにウィルからも許可を取り付ける事が出来るかしら?

 もしそれができたら、私からディネンセン騎士団長に推薦状も出します」


「本当ですか!?」


「もちろん最終的な判断は騎士団長に委ねることになるけど、門前払いだけは避ける事はできますよ。

 あと1年…殿下の護衛を完遂しながら、ウィルとの約束取り付ける事はできるかしら?」


「姉上…」


「もちろん、ウィルから許可が貰えなかったからと言って今私が出した許可を取り下げるような事はしません。

 あくまでもウィルの判断は別として…それが取れたら推薦状を書きます」


「ありがとうございます。

 きっとご期待にこたえて見せます」


 アランはスタード家では異端の存在だった。

 学生時代上手い事当時の王子…現国王の寵愛を得る事に成功した父アルバートは、騎士とは名ばかりで権力者に擦り寄るさまはまさに太鼓持ちだった。

 彼は騎士の習い…剣に槍、馬術に指揮や兵法などは二の次で、権力者におもねることを第一と考えている。

 平時に武勲を立てにいくのはどうかとも思うが、本来の騎士の仕事に見向きもしないのはいざと言う時その手腕を疑われることになる。

 アランにはそれが我慢できなかった。

 王に忠節を立てるは騎士の誉れであるが、盲従しておべっかを使うのは騎士とはいえない。

 今の平和の時勢に時代錯誤と父は笑うが、そんな父は彼にとって軽蔑の対象以外の何でもなかった。

 上の兄は父のコピーのような男で、王宮で次におもねる相手を物色している。

 下の兄はそれすらもままならず、最初に取り入った第二王子(アルタイン)は王太子レースから脱落し、次の第三王子(ボルタノ)からは疎まれていた。

 当然だ。

 アルウェンがクベール侯爵令嬢に何をしたかは周知の事実となっている。

 そんなアルウェンをボルタノが受け入れるわけは無い、1年間ずっと無視されてアルウィンのプライドはずいぶん擦り切れた事だろう。

 父に溺愛され甘やかされた兄にとって、無視されるよりも辛い事は無い。

 父に放置されて育ったアランにとっては、孤独などむしろ友の様なものなのだが。


 父と真反対に騎士の姿を追い求めていたアランにとって、上級騎士の叙勲を餌に国軍に引き抜きを受けたロベール・ディネンセンがその誘いを一蹴した出来事に感銘を受けた。


「騎士が一度捧げた剣を返すなどありえん」


 父の誘いをそう斬って捨てたディネンセンの話は、憎々しそうな表情で語る父の顔と相い合さって彼の溜まっていた鬱憤をはらしてくれた。

 彼も部門の出だ。

 光刃の(スプラデュール)戦乙女(ヴァルキリエ)の戦唄に胸を熱くしなかったわけではない。

 だがそれ以上に、彼女を支えたであろう騎士の中の騎士にも思いを馳せたのだった。

 類まれなる魔術の才能があろうと、わずか8歳の少女が独力でどれほどの事ができようか?

 国軍もそれを見て引き抜きをかけたのだろうが…。

 それに彼は目撃していたのだ。

 クベール領軍の野営地でマリーが騎士団長にお説教を食らっているところを。

 たとえ主君…の娘であろうとも、正すべきところは正すという姿勢に、彼は真の騎士を見てしまった。


 その瞬間にアランの将来は決まったといっていい。

 もはや国軍に入るつもりは無い。

 ディネンセン騎士団長の元で騎士を目指すこと以上に胸の躍る将来図などもはやなかった。

 幸いクベール侯爵令嬢と侯爵子息とは上級学校の就学次期がかぶる。

 ここは何とか彼らにアピールをして…という皮算用は入学初日に早くも崩れる事となる。

 下の兄が事もあろうに侯爵令嬢に決闘を挑んだというのだ。


 ここまで馬鹿だったのか!


 その話を聞いたときのアランは目の前が真っ暗になった。

 決闘に惨敗した、それはいい、あの兄では光刃の(スプラデュール)戦乙女(ヴァルキリエ)に勝つなどありえないだろう。

 侯爵家のご令嬢に決闘を挑むなどの信じられない愚行をおこなった事だ。

 そんなバカの親族が騎士団に入れて欲しいなどと言い出すどころか、まともに顔を合わせる事すら出来るだろうか?

 一時的に諦めもしたし、他の貴族の騎士団を考えもしたが…ボルタノの傍らでマリーを見てるうちに、もしかしたら?という考えが浮かぶようになった。

 それはマリーの貪欲さである。

 個人の…ではなく、侯爵家に対しての。

 彼女なら侯爵家の利益になると判断したなら、個人の恨みなど飲み込むのではないだろうか?

 そう思って最後の賭けに挑んだ彼は、見事その賭けに勝ったのであった。


 未だクベール侯爵家に剣を捧げるかどうかの決心は付いていないが、それは侯爵家の方でも彼を受け入れると決めたわけではない。

 最初は一平卒としてでも、できれば従士として修行を積み、その間に見極めればいいのだ。

 だが彼はマルグリットやウィルレイン、そしてクベール侯家に忠誠を捧げてるディネンセンを見るに、いずれ自分も侯爵家に剣を捧げるのではないかという予感はあった。



         ◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇



 マリーは予定を先倒しして、歳をまたいでもヴェンヌに帰ることを選択した。

 もう5年も帰ってない故郷に思いを飛ばした事もあり、王都の上屋敷にはウィルが休みのたびに帰るだろう。

 (ジェシカ)(メリヴィエ)を伴って急ぎ帰郷する事になった。


「雪解けまでゆっくりしていったらいいんじゃないかな?」


 本格的に雪が降る前にと、急いで帰郷の支度をするマリーの背中に寂しげな(オーリン)の声が届くが、マリーの決心は固かった。


「メリーの勉強と訓練は急務ですからね、王都では色々な目があってままならないので…。

 それにヴェンヌがどう発展しているのは速く見たいのです」


 結局マリーはオーリンとウィルを置いてさっさと王都を後にした。

 なんとなく急かされてるようか感じがしたのだが、5年間学校に拘束されていたのがようやく開放されたのだ。

 気が急くのも当然だろうと己を納得させた。

 虫の知らせとでもいうのだろうか?マリーのこの判断は後の運命を大きく変えることになる。


 王都を出るマリー達の馬車の列は西大街道を西へ進んだ。

 極北の月も末なこの季節、街道は閑散として行きかう者は少ない。

 もう少し絶てば年越しの準備のため人は増えるのだが…その前にスレナード川は越えたいと思っている。

 外はかなり冷え込むが、新型の馬車の中は暖房も完備しておりかなり快適だった。

 マリーは馬車内のストーブから小さい炭をいくつか取り出すと、金属性の筒に入れ布で包むと外で手綱を握ってる御者に差し入れた。

 御者は恐縮しお礼を言って受け取ると、それを懐にしまった。

 簡単な構造の懐炉であるが、コレを使っているのは西方の人間だけだろう。

 馬車の窓にはまった透明度の高いガラスもヴェンヌの特産品になりつつある。

 

 このように身の回りの小物からその技術力を生かして改善して言ってるクベール領は、工業力では既に他の追随を許さないほど発展している。

 最近ではこのような道具をオリヴァやカラクに輸出まで始めたようだ。

 クベール商会はどんどん力を付けていっている。

 このやり手の叔父(ドローリン)の手腕には、マリーも驚嘆を禁じえない。

 ただこの急速な発展が、東部や中部の貴族たちにかなりの危機感を植え付けていると、そこまで深刻に考えてはいなかった。

 それはオーリンも、マリーもである。

 彼らはそれを驚異と認識するにはあまりにも慣れすぎた。

 領地の産業に力を入れるなど当たり前(・・・・)と考えていたので、それを怠っている連中がどう思うかなど逆に想像できなかったのだ。


 領地から資金を吸い上げ、そして還元しない領主には、クベール家や西部の有力貴族のこのやり方は危機感を覚えるほど異質だったのだ。

 そして理解できないそれは恐怖となって表面化した。

 


         ◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇




 王都の元帥府では国軍の再編成が行われていた。

 これは雪解けのを待って、リモーヌを中心に展開している国境防衛の部隊と交代するため。

 予備役を含め歩兵、騎兵、射撃兵の連隊から派遣兵を選出する。

 これは5年ごとに兵を入れ替えを行っていることで、たまたま今年がそれに当たるだけだ。

 いや、今年がそれに当たるからこそこの計画は実行されたといえる。

 元帥府には多くの貴族や代理人も集まっていた。

 念入りに計画を練るためである。


 彼らは今までアルメソルダ家にベットし続けた貴族たちで、このままアルメソルダ公爵家が沈むようなことがあれば巻き込まれてまとめて没落してしまう連中だ。

 もっともそこまで酷くないが、現状を打破するためにも一枚かもうと考えている貴族もいる。

 東部の貴族の多くは現状のジリ貧状態を覆そうと少なからず足掻いているのだ。

 東部に根を張っているアルメソルダ家が実権を握るだけで持ち返すわけではないが、憎い西部の連中に対して政治的有利を取れば巻き返しの目はあると考えている。

 驚いたことにこんな杜撰(ずさん)な計画に半数近くの諸侯家に、かなりの数の伯爵家や下級貴族が乗っているのだ。

 東西の軋轢や王家の力が弱まっただけでは説明できない何かがあるのだろう?

 なにより、国王がラーリ2世ではこの国に先は無いという焦燥感が駆り立てたのかもしれない。



 ダンネル・スィン・アルメソルダ公爵は追い詰められていた。

 商家や友好貴族から借金がかさみ、政治活動にも支障が出始めていた。

 何より傀儡として活用する予定だったボルタノがダンネルに対して反抗的なのも計算外だった。

 甘やかして取り込んだアルタインと違い、ボルタノはアルタインの予備としてすら扱われていなかった。

 彼は自然ダンネルや王妃(アルジュナ)の言うことを聞かないようになっていた。

 これまでで数少ないボルタノの頼みを聞き届けていれば話は別なのだっただろうが、彼はボルタノを取るに足らないとしてその願いを一蹴してきた。


「なんで私が王妃や公爵の頼みを聞かなければならんのだ?」


 事あることにそう返されて、ダンネルの焦りと怒りは限界に達していた。

 ボルタノにとってはまだ自分を毛嫌いしてるマリーの方が、自分を尊重してくれているとさえ感じている。

 欲目が働いている事は否定できないだろうが。


 ボルタノは叔父であるダンネルも、母であるアルジュナも名前で呼んだ事は無い。

 公爵と王妃としか呼ばない。

 そこまでボルタノとの仲が冷え込んだのは彼を蔑ろにしていたアルメソルダ家の姉弟の所為なのだが、あいにく彼らはそうは考えられなかった。

 このままでは王太子は第一王子(カルアンクス)でほぼ決まりだろうし、万が一ボルタノになったところで自分たちの言う事は聞くまい。

 当初の予定であった傀儡の王を立てての専横政治は完全に絶たれたといっていい。

 かといって既にアルタインを復帰させる目も無い。

 オリオルズの暗躍ですっかり潰されてしまっている。

 オリオルズにとって、父の言うことを聞くアルタインよりも反抗的なボルタノの方が扱いやすいための事だが、残念ながら彼はこれで父の退路を完全に断ってしまっていた。

 そして退路を立たれた伯母や父の動きを見誤っていたのだ。





 王国暦426年 中春の月(4月)。


 

 兵員入れ替えのために王都を出発した国軍3万は、ジェンヌで諸侯軍5万と合流しそのまま王都に向かって進軍を開始した。

 その数、王都周辺の周辺の予備役部隊を取り込み10万にも達しようとしていた。


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