21襲撃
ボルタノがその短剣をどうして魔道具だと気づいたかは定かではない。
柔らかい性質のため刀身に向かない魔術銀、無駄に太くて重い柄等気づく要素は充分にある。
もしかしたらボルタノにはそういった方向の才能もあったのかもしれない。
だが彼はその魔道具の事は誰にも継げず、そっと自分の懐にしまいこんだ。
それがマリーに返却されるのは数年後の事になる。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
あれ以来ウィルも王城には行きたがらなくなり、クベール家は王都の社交界にほとんど顔を出さなくなった。
西方貴族としてはそれほど珍しくはないが、官僚の役職を持っている侯爵家としては色々よくない。
危機感を感じたオーリンはなんとかジェシカに頼み込み、王都に居る間できるだけ多くのお茶会に出席してもらうこととなる。
そこで困ったのはマリーの方だ。
母親は出かける度にマリーを連れて行こうとしたからだ。
人見知りで排他的なマリーは他の貴族家とお近づきにはなりたくなかったのだ。
以前から親しくお付き合いさせて頂いている西方の貴族家は別だが、王都の暮らしが長くなれば長くなるほど東方の連中には近づきたくなくなってくる。
もちろん東部や中部の連中が全て気に食わないというわけではないが、双方に長年にわたって根付いた偏見と悪感情は払拭できないものがあった。
実際マリーは中部貴族に係わりたい家はなかったし、向こうも一方的に利用する意図でしか近づいてこなかった。
彼女がグランシャリオ侯爵家と交流し、中部貴族を見直すのは翌年の事になるのだが、それは武門であるグランシャリオ侯家自体が社交界に欠席しがちな家という事もあった。
東部貴族にしてみれば西部は身の程を知らない田舎物で、西部貴族にしてみれば東部は現実を見れない懐古主義者となる。
東部貴族にとっては西部の中心のような位置になるクベール侯家は目の上のたんこぶだが、かといって完全敵対には踏み切れない魅力的な存在でもあるのだ。
すでにマリーの魔術の才能は周囲に知られることとなっており、彼女の嫁ぎ先一つで今後力関係がどう動くかもわからない。
魔術師の血筋のためという貴族的な大義名分があれば、敵対的な東部の家でもクベール家の恩恵に与る事が出来ると、連日クベール家には縁談やお見合いの話が届くのだが。
クベール家でもっとも貴族的な能力の高いジェシカは、そういったあり難くないお話を持ってくる家を綺麗に避けて社交界をわたっていた。
そんなクベール家には当然夜会のお誘いも舞い込む。
夜会には子供達を連れて行けないので昼に開かれるお茶会よりは招待状は控えめになるが、それでも断りきれないのが何件かあるためその日は両親とも疲れた体に鞭打って出かけたところだった。
クベール侯爵邸は当然王都の一等地に建っている。
その貴族街ともなれば衛兵隊の巡回も行われるし、各貴族の私兵が歩哨に立つ。
夜出歩いても7割程は犯罪に巻き込まれない非常に治安のいい地区だ。
裕福な屋敷なら一晩中明かりが絶えないし、信用できる警備の人間が不審者をブロックするため、よほどの事で無ければ家の者が危険に巻き込まれることはない。
だから侯爵夫妻も自分達の身体の心配だけしつつ夜会に出かけていった。
夜会といっても深夜までかかるわけではない。
夕方から始まって21時ごろまででお開きとなる。
そこから参加者が徐々に退席していき、22時ごろにはよほど親しいメンバーがちょっと居残ってる感じで本日の夜会の愚痴を飛ばしたりしてるのだが…。
つまり参加者は6時から21時過ぎまで家を空ける事になる。
その間護衛の半数近くは当主である侯爵について屋敷を空けるうえ、侍従や侍女も夫妻にお付の者は付いていくわけで、屋敷の住民も大きく数を減らすことになる。
そんないつもより少しだけ静かなクベール侯爵邸の庭で、見慣れない影が揺れた。
1つ、2つ、3つ…。
その影は歩哨を上手に避けて、器用に壁をよじ登り、子煩悩な侯爵があつらえた子供部屋に繋がる東向きのテラスに降り立った。
子供の寝る時間にはやや早い。
目的の部屋がどちら側か、まるで伺うように息を潜めて明かりの消えるのを待つ彼らに少女の声がかけられたのは、侍女がらしきメイドが明かりを消して退室したときだった。
「どちら様かしら?」
押し込む予定の時間にはまだ早かったし、まさか7歳の少女に自分達の潜伏が気づかれるとは思っていない。
動揺を感じつつも知らん顔で聞き流した…まさか自分達の事ではあるまいと。
マリーにしてみてもその反応は助かった。
ついかまをかけるようなノリで声をかけてしまったが、その瞬間に飛び掛られてたら防ぐ術はなかっただろう。
なにより傍らではウィルが寝ている。
明かりが消える前に気づけたのなら、退室するフラウに護衛を呼んでもらう手もあったのだが、彼女が常時展開してる暗視の魔術に彼らがひっかかったのは部屋の明かりが消えたからだ。
マリーは魔術構成を組み立てながら考える。
標的は私だろうか?ウィルだろうか?あるいは両方か?
私だとしたら殺害よりも誘拐かな?…それはウィルも一緒か、|生死問わず《デッド オア アライブ》という指示の可能性もある。
数は視角内で確認できるだけで3人。
逃走経路の確保要員も居るかなと魔術で視角を飛ばしてみるが、光を曲げられる射程内では確認できない。
逆に言えばそういうのが居ても、増援として駆けつける事は無いと結論できる。
そして、ここまで派手に探知系の魔術を使ってるのに反応が無いという事は、侵入者に魔術師は居ないという事だ。
魔術的な迷彩は魔術師に気づかれる可能性があるため使用を控える可能性はあるが、それでも魔術的な警報や探知魔術対策に魔術師を用意するものではなだろうか?
ゆっくりと床を凍結させながらマリーは考える。
それをしてないの魔術師を用意できるほどの力がないか、失敗を前提の使い捨てか、私たちを舐めてるかのどれかだ。
私だったらこの時点で逃走するけど、彼らはどう出る?
決まっている。
この時点で動かないならまだやる気って事だ。
マリーは窓の外、空中に踊る鬼火を作り出すと、それに自分の部屋を指し示させた。
ウチの護衛ならこれで気づいてくれるだろう、あとはベッドの回りに物理障壁を展開して逃走を妨害する目くらましを準備。
そう考えながら部屋の気温が下がったことに気づきウィルに布団をかけてやる。
そのタイミングだった。
彼らの出自は不明だが、人の虚を付くタイミングの取り方はやはプロだったのだろう。
ひとり目は床の氷に足を滑らせ転んだものの、2人目と3人目はその転んだ仲間を踏み台に、ひと跳びでマリー達の居るベッドに迫ったのだ。
最短距離を取りながら低い軌道で迫るものと、天蓋の視角に入り高度を取りつつ迫る者。
彼らの手に光るナイフの光で、これは誘拐ではなく暗殺だとマリーははっきり確信した。
物理障壁の展開は間に合わない。
魔術というものはがんばって構成を工夫しても長時間の継続は難しい。
それは起動や維持に魔力を、明確な意思を込める必要があり、使えば使うほど魔力や体力を消耗するからだ。
意思を持たないマナは急速に拡散して言ってしまう。
だから床を凍結するなど、発動が終了しても効果の残る魔術を優先して物理障壁は準備に留めたのだ。
それが裏目に出た。
相手がマリーを舐めていたように、マリーもまた相手を見くびっていたのだ。
マリーはウィルを抱き寄せるながら、最速で発動できる方法で迎撃を試みるしかなかった。
侵入者を察知してからずっと左手に握っていた短剣を、魔力を螺旋状に流し込みながら賊に向かって闇雲に突き出す。
その魔力は柄の中に収められたリング状の部品に刻まれた魔術図式を伝わり、複雑に設定された複数の魔術構成を同時に発動させる。
触媒である刀身部分の魔術銀を揮発させつつ、光の力場で構成された刃を形成する。
必死に振り回された切っ先は賊の右腕を切り飛ばし、急所をかばおうとかざした左腕ごとその喉を貫き通した。
光刃には物理的に人体を支える力は無く、死体の自重により肩口まで切り上げられて崩れ落ちた。
白いシーツに赤い染みが急速に広がっていく。
高く飛んだほうは、自分の自重で簡単に破壊できるはずの天蓋が完全に凍結しており、完全に天板を割ることができなかった。
片足だけ踏み抜いてはまり込み、ツルツルの天板表面でもがく事になる。
もがきながら割れた板の隙間から、標的が自分に向けて攻撃魔術を弓を引き絞るように構えているのが見えた。
「くそっ!聞いてねぇぞ…」
彼は依頼人を呪った。
子供を殺す簡単な仕事としか聞いていない。
子供を殺すことに別に罪悪感は無いが、それがこんな強力な魔術師とは話が違う。
報酬けちる為だなあの野郎!
それが彼が光の剣が自分の胸に吸い込まれるのを見ながら思った最後の思考だった。
マリーは震える自分の手を呆然と眺めていた。
残った一人は既に退散しているが、おそらく彼の逃走ルートには既に衛兵が集まっているだろう。
生け捕りにすべきだった事は解っている。
だが虚を突かれて目の前まで飛び込まれたとき、恐怖で頭の中が真っ白になった。
よくもまあ練習どうりに魔道具を発動できたと思う。
その男が派手に血を撒き散らしながら倒れた時、マリーの口から漏れたのは悲鳴と嗚咽であった。
ベッドの天蓋に天蓋に一人はまったときも生け捕りなんて頭から飛んでいて、一刻も早くコレを排除しなければという思いに取り付かれていた。
自分は冷静だと思っていた。
自分は肝が据わっていると思っていた。
しかしそんな事は全く無く、いままで本当に危険な目にあった事が無かっただけだったの思い知らされた。
「うっ…えぇぇぇっ」
辛うじて身をよじり、ベッドの外に嘔吐物を吐き落とす。
いままでこんな荒事に触れた事の無い魂では、自分と弟の命がかかったこの場面に冷静で居られるはずも無い。
そんな当たり前の事も理解していなかったのだ。
「ううっ…うえぇえっ、うっ」
駆けつけた衛兵と侍女たちが見たのは、血まみれで泣きながら嘔吐を繰り返すマルグリットと、この騒ぎでも目を覚まさず眠っているウィルレインの姿だった。
最後の一人は包囲を突破できずに自害して果てたそうだ。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
侵入者は侯爵邸の護衛が討ち取ったと発表があったとは、襲撃から2日後の事だ。
まさか幼い侯爵令嬢が暗殺者2名を返り討ちにしたなどと公報したら、また余計な騒ぎを呼ぶだろう。
貴族の魔術師信仰のようなものは根深く、あまりにも強力な魔術師になるとかえって自由を奪われる。
それこそ教会や王家に召し上げという飼い殺しが待ってい兼ねない。
侯爵が身内を守るために事実を隠蔽したとしても責められることではない。
ついで、侯爵令嬢は事件でショックを受けたとして領地療養を発表された。
これはまあ本当の事で、マリーの強い希望もあって彼女は母と弟を伴ってヴェンヌに帰った。
これでまた上屋敷にはオーリン1人が残されることになる。
一方犯人探しであるが、これも成果が上げられなかった。
アルメソルダの積極的な妨害で、犯罪組織のあるであろう裏街に深く斬り込めなかったからである。
おそらく自分の関与の証拠が出るのを恐れたのだろうが、その妨害でかえって周りに自分の関与をアピールすることとなった。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
「ディネンセン騎士団長、お願いがあります」
マリーはクベール侯爵家の騎士団長、ローベール・ディネンセンに面会をすると、いきなりこう切り出した。
「私を鍛えてください」
騎士というの現代で言うところの士官に当たるような立ち居地だ。
王家や貴族から騎士叙勲を受け、彼らの持つ軍事面全体を統括する。
だいたいは貴族の次男三男など家を継げない者が騎士を目指すが、一部では庶民から騎士叙勲を果たすものも居る。
騎士団長ともなると軍の統括者、将軍のような立場といえる。
そんな相手に自分を鍛えろとは、いくら侯爵令嬢のわがままとはいえ相手にしてられないと言うのが本音だろう。
「しかしマルグリット様、あなたは侯爵令嬢だ。
そんなあなたが武術を納める必要など無いと思います」
しかし、まじめなディネンセン騎士団長は優しくそう諭した。
ディネンセン家は代々クベール侯爵の元で騎士を輩出している家の一つで、彼のクベール家に対する忠誠心はかなり高い。
変わり者と領内で敬遠されがちのマリーでも、ちゃんと領主の娘として扱ってくれている。
「わが家の武力を誇るのはあなた方騎士団だというのは重々承知しています。
ですが、この度の襲撃事件で私は自分の無力さを痛感しました。
せめて護衛の方々が駆けつけるまで、自分とウィルの身を守れないといけないでしょう?」
「しかし話ではマルグリット様自ら賊を撃退したと?
それだけのお力があれば問題ないと思いますが…」
「あれがマグレだというのは自分が一番わかっています。
最初は余裕だと思っていました…自分の魔術を過信していたのです。
でも結局自分の身を守ったのは焦って振り回した剣と、ベッドの天蓋です。
それではいけないと思い知りました」
マリーは真剣だった。
あの場で賊を撃退できたのはマグレだと思っているのは本当だ。
何より恐怖で頭が真っ白になり、用意していた構成もぜんぶ吹っ飛んでしまっては、どんなに魔術に自信があろうとその力を発揮する事はできない。
今一番ほしいのは緊急時にも落ち着いて素早く行動取れる精神力と判断力だが、マリーはそんなモノの鍛え方を知らなかった。
「敵を倒す技ではなく、身を守る心構えと技を私に教えてください」
ディネンセン騎士団長はじっとマリーの目を見つめた後。
「解りました。
ただ私も公務がありますので、マルグリット様に付きっ切りと言う訳にはいきませんよ?」
「騎士団長自らのお手を煩わせる必要はありません。
どうか軍からどなたか付けてください」
軍からと言うのは騎士に限らなずと言うことだ。
「解りました。
では、誰かシャンブルを呼んできてくれ」
ディネンセンはふとマリーの覚悟を試してみたくなった。
ここ西部では亜人の差別はほとんど無いとは言え、貴族の回りに亜人がつく事はまず無い。
だから立場で差別されないとはいえ、貴族は亜人に対して抵抗を持っているものがほとんどだ。
さらに王都で暮らしていたマリーならばさらに忌避感は高いだろう。
もし自分に付けられるのが牙人だと解ったらあきらめるのではないか?
「お呼びですか騎士団長?」
シャンブルはクベール領軍で斥候部隊を預かる牙人である。
「ああ、忙しいところ悪いのだが、マルグリット様の戦闘訓練の指導をお前に頼みたい。
とりあえず体力づくりを見て差し上げてくれ。
剣術などは後で私が見よう」
「え!お嬢様の?!俺がですか?」
マリーはまじまじとシャンブルを見つめた。
実のところ牙人と接するのは初めてだ。
「騎士団長」
自分に振り返って声をかけるマリーを見て、騎士団長はこれで諦めてくれるか?
と少し期待していたのだが…。
「彼を正式に私に紹介してはいただけないのですか?」
騎士団長はマリーの侍女に猫耳娘が居るのは知らなかったようだ。
「えー、じゃあ俺から…俺はシャンブルって言います。
見ての通り牙人ですが?」
「そう、よろしくねシャンブル。
私はマルグリット・ウル・クベール…マリーでいいわよ?」
「そ、そんなわけには行きませんよ!
ええ、じゃあ、お嬢様と呼ばせていただきます!
…騎士団長いいんですか?」
「ああ、よろしく頼む…」
騎士団長の思惑は残念ながら外れてしまった。
早速翌日から訓練を始めるというので、早朝から動きやすい服装で訓練所にやってきたマリーをシャンブルが出迎えることとなる。
「そうだなぁ…とりあえずランニングですかね?
訓練所の外周を10週からいきますか」
「10週でいいの?」
「…まずランニングって言われて嫌がったりしないので?」
心底意外そうにシャンブルは尋ねた。
騎士候補だろうが新米兵士だろうが最初はランニングだが、例外なく全員ランニングを馬鹿にして嫌がるからだ。
「だってランニングは体力づくりの基本でしょ?」
「まあ、そうです…お嬢様の体力見たいんで、とりあえず10週走ってください」
「はい!」
10週でいいのか?とか大きな口を叩いたが、残念ながらマリーの体力では10週を走りきることはできなかった。
結局最後の2週は歩くことになる。
「だいたい解りました。
とりあえずクールダウンしましょうか」
「はぁはぁ…解ったって…はぁはぁ…何が?」
もう息が切れて言葉にもならない。
マリーは自分の体力のなさに愕然としていた。
これも篭って魔術の研究や訓練ばかりやってきたツケが回ったのだと思うと悲しくなる。
「お嬢の体力ですよ。
その歳でそれだけ走れればたいしたものですが、危機感を感じるのもわかります。
落ち着いたらストレッチをして少し歩きましょうか?」
「はぁはぁ…歩くって…はぁはぁ…何を?」
「長距離を歩くのもいいもんですよ…特に山歩きとかね」
小弓を片手にズンズン進んでいくシャンブルになんとか付いていくのがやっとで、マリーはもう声も出ない状態だった。
「止まって」
シャンブルの指示で足を止めると、近くの木にもたれかかって息を切らす始末だ。
「ちょっとここで待っててくださいね」
そう言うとシャンブルは弓に矢をつがえ、音も立てず茂みに分け入っていった。
だいたい10分ぐらいだろうか?
しばらくするとシャンブルがウサギ片手に戻ってきた。
「お待たせしました。
じゃあ行きますか」
10分の休憩でまた何とか動くようになった足を引きずりながらなんとか付いていく。
そんな事を数回繰り返し、日暮れ前には侯爵邸まで連れられて戻ってきていた。
「正直ですね、途中でねを上げると思っていたんですよ。
お嬢思ったよりも根性あって関心しましたよ」
シャンブルのそんな言葉に思わず苦笑いするマリーだった。
魔術で体力回復しながら何とか付いて行ったとは言えない。
体力づくりにこれは、はっきり言ってインチキだ。
「明日も同じ時間でいいのかしら?」
「いえ、1日しっかり休息を取ってください。
明後日に今日と同じ時間に訓練所に来て下さい」
「そんあ、大丈夫よ明日…」
「ダメです。
焦ってもいい結果は得られませんよ?
1日しっかり疲れを取って、また今日と同じメニューをこなしましょう。
というか俺も他に仕事があるんで、1日空けていただかないと困るんですが?」
そう言われてはマリーも返す言葉も無い。
明日は1日筋肉痛にさいなまれながら、おとなしく魔術の訓練をやっていよう。
そう思った。
「で、これはいったいどういう事で?」
翌々日訓練所に出向いたシャンブルの前には、マリーともう1人の小柄な猫耳娘が胸を張って立っていた。
「ごめんなさい…この子が、アイシャって言うんだけど…どうしても一緒に行くって聞かなくて。
とりあえず私に付いて来るだけって条件で許したんだけど、まずいかしら?」
敵意さえ浮かぶ目で睨みつけられてシャンブルはたじろいだ。
アイシャはヘトヘトになって帰ってきたマリーの有様に憤慨していた。
彼女にとってマリーは全てであり、そのマリーをあんなになるまで連れまわした嗅ぎ慣れない牙人の臭いに敵意すら抱いていた。
自分の目の黒いうちは決してマリーにひどい事をさせまいと、不退転の決意で同行を申し出たのだ。
「まあいいでしょう…。
じゃあ今日も10週から始めますか」
しかし残念ながらアイシャは初日5週で潰れる事になる。




