2破棄
フランチェスカの侍女アルマも無事エチュドリール公に事の次第を報告し、翌朝一番で戻ってきた。
王立学校でも評判のクベール家のお菓子を食べ損なった事に、たいそう落ち込んでたらしいが。
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翌日、エチュドリール公ドリオードルは朝一の出仕時間にあわせて王城に着く様に馬車を走らせていた。
ドリオードルにとってフランチェスカは目に入れても痛くないほど可愛い末娘である。
それを王家から是非にと第二王子の婚約者に請われ、イヤイヤ差し出したという経緯がある。
将来2人が成人を迎え正式に結婚した時、アルタインを立太子させるという条件でだが…もちろん王家の要請を公爵家が断れるはずも無い…つまりはエチュドリール公爵家から将来の王妃を出すという裏約束になる。
家柄はいいが評判の悪い第二王子になんとか後ろ盾をつけようとした意図だったのだが、残念ながら当のアルタインにはその意図に理解が及ばなかったようだ。
もっとも、たとえ将来の王妃を約束されていようとも、選択権さえあればドリオードルはフランチェスカを差し出しなどしなかったであろう。
それほど第二王子アルタインの、評判と評価は悪かった。
「おそらくフレドリッツの奴の差し金であろう。
ヤツめ…お家騒動を予防するためであろうが気に食わん事よ」
優秀だと評判の第一王子には多く官僚や騎士から支持が集まっている。
爵位の低い第二側室の子である彼は、権力を持つ上級貴族や王族の覚えは悪いものの、庶民や下級貴族から絶大な人気を持つ。
優柔不断な国王が王太子を決めかねてる現状、第一王子の対抗馬として担ぎ上げられた正妃の子であるアルタインであるが、短慮で気分屋である彼は上級貴族にすら評判が悪い。
それをなんとか後ろ盾をつけて王太子にこぎつけようと企んだのは、宰相のリッシュオール公であろう。
母がアルメソルダ公家で妻がエチュドリール公家の者なら王太子としてこれ以上の布陣はないだろう。
しかし、これが第二王子がフランチェスカとの婚約を破棄したとなれば話は別だ。
ただでさえ悪いアルタインの評判は地に落ちるだろうし、エチュドリール公家を味方につけるどころか敵に回す結果になる。
そうなった場合第一王子の対抗馬は正妃の次男である第三王子になるが、彼はまだ10歳であり、18歳の第一王子に対抗するにはさらに強力な後ろ盾が必要となる。
その第二王子も兄ほど酷くは無いもの、やはり評判はよくない。
後ろ盾と期待されたクベール侯爵家との縁談もすげなく断られた経緯があった。
「こうしてみると諸侯家が羨ましいものよ、公家など王家の遠戚としての義務で、娘にいい縁談を選んでやることすらできん」
同乗している家宰に言うとは無く、窓の外を眺めながらひとりごちるドリオードルの眉間には、深いしわが刻まれていた。
この度の事、王家が素直に謝罪してくれればよし、エチュドリール公家としても事を荒立てたくはないし、何より王家の後継者争いなどがおこるのを避けたいのは本当だ。
しかし国王の性格を考えると、そう簡単には事が運ぶことも無いとは解っていた。
第二王子アルタインは、誰よりも父親似であったからだ。
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第二王子とその一党はなんと卒業式には出席しなかった。
もちろん卒業式の出席は上級学校の卒業の条件には入っていない。
卒業式に出ようが出まいが、単位や出席日数さえ足りていれば卒業証書を受け取るのに問題は無い。
というより、王子を留年などさせる度胸のある教師はこの学校にはいない。
ただ彼らが参加しないでよかったと、在校生代表の1人として卒業式に出席していたマルグリッドは思った。
1年生であるマルグリットは卒業生に対して送る言葉を読み上げる事すらなく、爵位のためだけで式に参加を強要されていたのだ。
おかげでつつがなくフランチェスカが卒業式に参加することが出来たからだ。
卒業生も在校生もフランチェスカに同情的で、何かとみんな気遣ってくれているようでホッとしていた。
式の最中はフランチェスカを遠くから見守ることしか出来ない。
成り行きであんな事をしてしまったが、まあ侯爵家の令嬢としてはでき過ぎるぐらい後始末だった。
王家と公家のやり取りにまで口を出すのはやりすぎかとも思うが、あの場に王家に口出しできる立場の者が自分しか居なかったのだから仕方ない。
あれから3日も経つが、未だ婚約の件に対して指示も連絡も無いそうだ。
これはあの婚約破棄騒動はうやむやになったかな?誰も得する人居ないしなと思ってた矢先。
フランチェスカに登城の指示が来たという話を聞いた。
「マリー様、よろしいのですか?」
荷造りをしながら、侍女のフラウが会話をふってきた。
マルグリットは家族だけでなく親しい侍女や執事にも愛称呼びを許している。
これは貴族ではまずありえない事で、どんなに親しい間柄…たとえ乳母のような者でも、せいぜいファーストネームに敬称付きで呼ばせるのが関の山。
なので流石に家の外、家人以外の者が居る場所では控えている。
「なーに?…フランチェスカ様のことなら、もうウチでは何もお手伝いできる事はないわ。
あ、アイシャそれはいいわ、冬休みの間だけだから置いていきましょ。
どうせ来年からもこの部屋使わせていただくんですから」
フラウ、フラウ・オークナーはマルグリットよりも10も年上で、彼女が産まれてすぐからずっとマリーに付いているもっとも気心の知れた侍女で、彼女の姉のような存在でもある。
王国では20歳の未婚の女性というともう行き遅れの部類だが、実家からの縁談を断ってまでマリーの世話をしてくれている。
毎朝髪を編んでくれるのは彼女で、何人かマリー付きの侍女が増えた今でも決してその役割を他に譲りはしない。
それは全寮制の学校に入学してからも変わらず。
同マリー付きの侍女であるアイシャからの再三の要求をも突っぱねている。
「自分の髪をあんな適当に縛ってるうちは、マリー様の髪の毛に手を入れる資格はありません」
というのは、毎朝マリーよりも1時間早く起きて、自分の髪の毛もキッチリとセットしているフラウの言葉である。
「今回の事、あくまでも王家と公爵家のお話ですからね。
そりゃあフランチェスカ様にあんな事をしたアホ王子はどうにかしてやりたくはあるけど…婚約破棄をして王太子の資格無しとなるのって、彼女の、エチュドリール公爵家の立場から見てどうなのか私には判断つかないわ」
使用人と一緒に荷造りという、これまたとんでもない事をやっている。
いろいろな意味でこの方は貴族の範疇を飛び出しているな…とフラウはつくづく思った。
「だいたい私が介入したのも、あの場で私以外に場を収める事の出来る立場の人間がいないって判断したからよ」
簡素なつくりの制服のスカートの膝の部分を払いながら立ち上がる仕草も、貴族の令嬢には見えなかった。
この方は身内しかいないとすぐこれだ…だから、私が付いていなければ、とクベール家の家人はみんなそう思ってることだろう。
「ちょっと不本意だけど、これも貴族の、侯爵家の令嬢としての義務ですからね。
そりゃあ真っ青な顔したフランチェスカ様見てられなかったとか、バカ王子死ねばいいのにとか、そんなことも考えていたけど。
あと折角の卒業パーティを台無しにされた他の卒業生の先輩方の気持ちもね、学生時代の思い出の最後がバカ王子にパーティめちゃくちゃにされるとか悲しいじゃない…」
伏せ目がちな表情に消え入る語尾、付き合いの長いフラウにはこれがマリーの"照れてる"時のサインだと一目でわかる。
なんだ、結局は義侠心というか思いやりで動かれたんだなと、フラウの心は嬉しさと、そんな主人に対する誇りで溢れる。
問題は本人がそれを"かっこわるい事"だと思っている節がある事だ。
たしかに貴族らしくない行動原理だが、貴族らしくないトコロ、貴族以上なトコロがマリーの魅力だと思ってるフラウ…いやクベール家の家人たちからすれば。
本人が"らしくない"と思っていることをした後に恥ずかしさに身悶える所まで含めて、彼女を愛していた。
「さて、こんなところかしらね…アイシャ、悪いんだけど馬車の用意をするように伝えてきて」
侍女に「悪いんだけど」などと付けて指示を出す貴族もマリーぐらいだろう。
彼女に指示を出された猫耳侍女のアイシャはコクリと頷くと、するりと扉を抜け外に走り出した。
「あれは注意しないといけないわね、屋敷ではいいけど学校ではまずいわ」
ついでにすぐ走るところも…とフラウは心の中で付け加える。
アイシャは人間と爪人とのハーフである。
ラース半島にほとんど居ない爪人とのハーフが、なんで王都のスラムに捨てられてたのかは誰も…アイシャ本人も…知らない。
赤い瞳が不吉だと気味悪がられたのか、それとも東部では今なお色濃く残る亜人差別によるものなのか、とにかくアイシャは誰にも助けられずスラムでもう死を待つだけとなっていた。
スラムの近くを通りかかったクベール家の馬車からマリーが飛び降り、死に掛けていたアイシャを抱きかかえて戻って来たときは侯爵夫人は卒倒しそうになっていた。
フラウはその時の事を今でもはっきり覚えている。
『別に可愛そうだとか助けたいだとか思ってません!この子は!私がつれて帰りたいから連れて帰るの!
私は!この子を!連れて行きたいの!』
あの時までかなり無口だったマリーが、涙を浮かべながら必死に両親に訴えかける姿は今も目に浮かぶ。
これが三歳の少女の出来ることなのかと、フラウは衝撃を感じた。
きっとマリー様はあの時アイシャの瞳を見たのだ。
私も直前に見て、無感情に無視してしまったあの空虚で諦めに満ちた赤く揺れるあの瞳を。
私は目を逸らしてしまったが、マリー様はそれを正面から見つめ返し、そして助けようと動いたんだと…。
その少女にマリーはアイシャと名付けた。
あれからマリーはよく喋るようになって、侯爵はよく「あの子を拾って良かった」と言っていた。
マリー様が良く喋るようになったのは、まともに言葉を喋れないアイシャに言葉を教えるためだったと家の者はみんな知っている。
拾われたばかりのアイシャはマリー以外の言うことは聞かなかったから、言葉とこの世界で生きていく事を教えることができるのはマリーだけだったからだ。
未だにアイシャは無口だが、マリー以外の言うことも聞くようになったし、必要ならちゃんと喋る事はできるようになった。
ただやはり行動の元はマリーで、マリーのためだけを考えて動く。
それはまあフラウも同じなので特に問題は無い。
幸い侯爵家内であれば皆と友好的に接してくれている。
マリー様を守るためとかいって格闘術とか短剣の訓練をしてるのはどうかと思うが。
全寮制の王立上級学校に連れてこれる使用人は生徒と同性の二人まで、これは王族でも守らなくてはいけない規則だ。
マリーの侍女はフラウとアイシャで、他に学園内には入れないものの、御者として1人詰めていてくれている。
アイシャが知らせに行ってくれたのは彼に対してで、彼は学園に入れない以上玄関まで自分たちで荷物を運ばなくてはならない。
これが入学とか卒業だと家から応援が呼ばれるのだが…。
「ちょっと多すぎたかしらね?」
「マリー様はあまり服を仕立てられませんから、どうしても移動のたびに服を持ち歩く必要が出てきます。
これを機に何着か作られてはいかがでしょう?」
「フラウは隙さえあれば私に服を作らせようとするわね…お生憎様、お母様の着せ替え人形になるのはまっぴらよ。
来年から学校内は制服だけでいいわね」
「ダメですよ!何を言ってるんですか!
授業終わったのに制服のままなんて、侯爵家の令嬢がやっていい事じゃありません!」
「大丈夫よ、サロンになんか顔出さないから」
「もっといけません!それこそそれはマリー様のダイスキな侯爵家の義務ですよ!
…そんな顔してもダメです」
上目遣いでウルウルさせてるマリーをばっさり切ると、フラウは荷物を運びだした。
マリーも荷物をドア前に集めはするが、外では人目があって荷物を運ぶなんて事はできない。
これは使用人の人数と性別の制限って、荷物制限のためなのかと疑いたくもなる。
特に令嬢は荷物が多いのだ。
ちょうどアイシャが戻ってきて、小さな体に不釣合いなほどの大荷物を抱えてするすると運び始めたため、あっという間に支度は終わった。
「フランチェスカ様のお手伝いできること、まだあったわね…」
密室をいいことに甘えてくるアイシャの頭を撫でながら、マリーはひとりごちた。
そのまま馬車は一路王都の侯爵邸へ向かう。
年末年始はそこで父と過ごすことになる。
今公爵領に居る弟妹達に会えるのは春になるだろう。
自他共に重度のブラコンでシスコンと認めるマルグリットにとって、長い冬になりそうであった。
フランチェスカも寮の部屋を引き払い、公爵邸に戻る準備は進めていた。
このまま卒業ともなれば、王都に用の無い彼女はエチュドリール公家が代官を務める公爵家借領に帰ってしまう可能性すらあったから、その前に決着付ける意味での登城はまあ当然ではある。
国境の街レ・クリュネまでは馬車で早くても五日ほどもかかる。
フランチェスカにレ・クリュネに篭られては色々手間のかかることになるだろう。
このままうやむやにすると思ったら、わざわざ呼び出してどうしたいのか?
呼びつけたところで王家の面目を保って、その上で上から目線で謝罪でもするのならそれなりに丸く収まりそうではある。
まさか本当に婚約破棄なんてするとは思えない。
そんな事をすれば関係者全員不幸になる。
なによりそっちの方が王家の面目丸つぶれだ。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
「普通に考えればそんな馬鹿な話通るわけ無いのだが…」
マルグリットは父であるクベール候オーリンに当然事の顛末を相談してはいた。
年末から年始にかけて自領に帰る生徒は多いが、彼女は父の仕事の関係で王都のクベール邸に帰っていた。
侯爵家の領邸まで馬車で十日ほど…往復すると休みはほとんど潰れてしまう。
「それが通ってしまいかねないのが今の王家の怖いところだ。
マリーも気をつけないといけないぞ、迂闊に王族と変な関りを持つとどんなゴタゴタに巻き込まれるか…。
ただでさえ定期的に登城の要請が来るというのにな」
財務大臣を勤めるオーリンは、日常的に王に謁見をしてるのだろう。
気苦労が透けて見える。
「こんな事なら城勤めなど引き受けるんじゃ無かったよ、せっかく軌道に乗ってる領地経営のほうが大事だ」
「そうは言いますがお父様、リッシュオール公…宰相閣下直々のご依頼だったのではありませんか?」
「ああ、だから断りきれなくてね…中立派のクベール家としては領地に引篭もって居たかったのだが、最近は諸侯派が力を付けて来てるからね。
バランスを取るためにも…嫌だけど仕方なかったんだよ」
心底嫌そうに顔をしかめる。
諸侯家の本家を国政の中心に持ってくるような事はめったにない。
ベルン=ラース王国において古くから広大な領地を持つ諸侯は重要な貴族ではあるが、同時に国内における王家の対抗勢力でもあるのだ。
もし王家が諸侯家に無理な要求や、その取り潰しをもくろんだとしたならば、普段仲の悪い諸侯家は一丸となって国に対抗するだろう。
レビヌ協定の事もあるが、そんな事を見逃せば明日はわが身とも知れないからだ。
計らずとも十四諸侯家は王家の暴走を止めるストッパー的な役割を行ってることになる。
「大事な娘を王族に差し出さなくて済ませるためにも、これぐらいは頑張らないとね」
こういう時はいい父親で侯爵に相応しい男なのだが、近年株を落としまくってる事をマリーは忘れてはいない。
「信頼してますわお父様…女性関係以外は」
「いい話のつもりだったのに、なんでまたそういう事を言うかな…」
いじける父の前に、淹れたてのコーヒーにたっぷりのミルクと砂糖を加えたカップを差し出してあげるのは忘れない。
貴族の令嬢がやることではないが、コーヒーに関してだけマルグリットは決して他の人間に譲ろうとはしない。
焙煎から摘出まで全部自分で…少なくとも自分が口を付ける分は…行う。
本人もこれは自分の我侭であり、拘りだと自覚し公言もしているので、屋敷の者もそれ以上の口出しはし難かった。
なによりマリーより美味しくコーヒーを淹れる事の出来る人間など居なかったというのもある。
料理が趣味と公言するマリーでも、流石に普段の食事まで作るのは許されない。
それは料理人の、使用人の仕事だからだ。
それは貴族に許されることでは無い。
だから彼女が存分に趣味を満喫できるのは主にお茶の時間…お菓子やコーヒー、お茶に限られる。
クベール侯家ではマリーの焼いた菓子は大人気となっていて、家族縁者どころか使用人までも争奪戦が繰り広げられている。
諸侯家令嬢の趣味と言うことで、材料費にお金をかけられるから美味しいと本人は言っているが、舌の肥えた上級学園の生徒たちにも密かな人気となっている。
今日のお茶請けはオレンジのマーマレードを練りこんだケーキだ。
春になってオレンジが収穫できるようになると、たっぷりのフレッシュオレンジを使ったケーキがお茶の時間に並ぶようになる。
これは特にマリーの母であるジェシカの大好物で、毎年ヴェンヌにあるクベール侯爵領邸はオレンジの香りに包まれる。
今年からマリーは学園のためずっと王都に居ることになるので、その季節にあわせて妹連れで王都にやってくるであろう。
「今年はマリーが王都に居てくれるから寂しくなくて嬉しいよ」
娘が自分のために淹れてくれたコーヒーを嬉しそうに口にする姿はただの親馬鹿であろう。
「あらお父様、まさか今更…寂しかったから、などという言い訳をされるのかしら?」
「ぶっ!…ごほっごほんっ」
「あらあら、お咽になって…気をつけてくださいね?」
…本当にお気をつけて…」
自業自得とは解っているが、最愛の娘にチクチク言われるのは辛いだろう。
マリーの怒りが他所に女を作った事ではなく、他所に女を作ったのに子供が生まれるまで家に連れてこなかった事にあると知ってる以上。
もう申し訳無さしか湧き上がらないオーリンであった。
幸いマリーは腹違いの弟妹たちも溺愛している、その愛情をほんの少し自分にも回してくれないものかと思いながら、自分と同じダークブルーの瞳を見つめていた。
(目は自分似だよな?それ以外はジェシー似だが…)
などと考えつつ…。
娘には苦労をかけている。
自分のやらかした事だけではなく、家の事、ウィルの事、ジェシーの事、せめて後は健やかな成長と幸せな結婚をと祈らずにはいられない。
特に二度と戦場などに送るものかと心に誓う。
あれでアルメソルダ公家を完全に敵と認識したオーリンは、軍部の用途不明金を次々に回収して、国の財政安定とともにアルメソルダ家の不可解な収入を完全に絶っていった。
贅沢が骨の髄まで身に付いたあの家は王家から拝借している公爵家借領の代理徴税権や元帥としての収入だけでは辛いだろう…いや、本来は充分すぎるほどの金額ではあるが。
領地からの収入はヴェンヌだけでアルメソルダの総収入を凌駕するだろう。
もっともその収入のほとんどは領内の開発費に使われている。
クベール家の生活はオーリンの財務長官としての収入だけで充分だし、それも貰ってる以上の仕事は確実にやってる自負はある。
領地経営も軍務も名前だけで収入だけ持って行ってるアルメソルダ公とは違うのだ。
領地の方は弟と家宰に任せっぱなしになってしまうのは辛いが、小まめに報告を受け、大まかな指示は出している。
それにマリーもだいぶ手伝ってくれているようだ。
弟の商会からもマリーの手伝いに対して正式な謝礼まで届いてるほどに。
ちょっと出来すぎな娘だな、やっぱり俺に似たのかな?
「なんですかお父様?わたしにチクチクやられてるのにニヤケてるなんて変態ですか?」
チクチクやってる自覚はあるんだな…と愛娘の素直さにまた頬の緩む侯爵であった。
クベール侯爵家がこのように平和に年末を過ごしているなか、静かに事は進行していた。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
フランチェスカが王城に登城した翌々日。
正式にアルタインとの婚約破棄が発表された。