18ボルタノ
「お通ししてください…」
守衛に断りを告げても、彼らが板ばさみで苦しむだけだ。
彼らを苦しめる趣味は無いので、嫌だが入ってもらう他あるまい。
「ここがクベール家が使ってるサロンか!調度品も少なく地味だな!」
我が物顔でサロンに押し入ってきたのは、第三王子とその一党であった。
「これは第三王子殿下、なんの御用でしょうか?」
「なに、今までここは女しか居なかったそうだからな、遠慮していたのだが、今年からウィルも居るのだろう?
だったら私が顔を出しても問題あるまいと思って挨拶に来たまでの事」
無神経なのにそういう所には気が回るのか?!
今日一番の驚きの事実かもしれない。
「ついでにこやつ等を紹介してやろうと思ってな。
オリオルズは知っているだろう?」
王子は半身を半歩下げて後ろの取り巻きたちを返り見た。
オリオルズはいつものニヤニヤ笑いだが、その他の面々は難しい顔をしている。
彼らにとってクベール候家は政敵だと理解しているのだろう。
「こやつはセドリック。
宮廷魔術師長のセルジュの息子だな。
私の警護も担ってくれている」
痩せ型の魔術師は敵意の篭った目でマリーを睨んだ。
マリーからしてみれば彼に恨まれような心当たりはない。
政敵に向ける目にしては感情が篭っているようで気味が悪かった。
なにより本来その敵意を向けられるであろう嫡男のウィルにではなく、マリーに向けられている。
「こやつはアラン。
近衛騎士団長の三男だ。
彼も警護を兼ねている」
「どうも、アラン・スタードと申します。
以後お見知り置きを」
額に縦皺がよってはいるものの、この中では一番敵意を感じさせない。
その場から動かないどころか、礼もせず無言でこちらを睨んだままのセドリックとの違い。
ボルタノの言葉に合わせて優雅に進み出て一礼をし、素早く下がる様は好感が持てた。
顔立ちがアルウィンに似てるから間違いはないのだろうが、それ以外はとても彼の弟とは思えなかった。
「失礼しました…あまりお兄様に似ておられなくてびっくりしました」
唖然とした自分の反応を思わず取り繕ったマリーのその言葉に、アランは初めてその表情を崩した。
「ありがとうございます」
そこはお礼を言うところなのか?と一同は思ったが、アルウィンの顔を思い出し、むしろ納得できた。
どうやら兄弟仲は悪いようだ。
そんな相手を決闘の場に呼ぼうとしていたのかあの馬鹿は。
「そしてザクセン。
同じ侯爵家だから知っているだろう?
ベーシス侯爵家の長男だ…ははは、ウィルと立場が同じだな」
まさかベーシス侯爵家の長子までファーストネームでしか呼ばないとは予想外だ。
言われたほうも面食らってる。
ただアランの挨拶を考えると、フルネームは初めから本人に言わせるつもりなのかもしれない。
いややはり何も考えていないのが正解だろう。
「ザクセン・サルバトール・ベーシスだ。
よろしく」
彼の視線はウィルに向いていた。
まあ無理もない。
家柄も同じ侯爵でかつライバル、当人同士も同じ歳の嫡男同士。
意識するなという方が無理だ。
母親の家柄だけは圧倒的にザクセンの勝ちなのだが、それを鼻にかけるほど小さい人物ではないようだ。
貴族社会的にはマリーの名ばかり先行しウィルの評価は未知数で、彼は自分のライバルを真剣に見極めようとしていたのかもしれない。
こちらもマリーと揉め事をおこしたエリザベートの事には触れないようだ。
「それでお前たち、彼女がクベール侯爵令嬢のマリーだ」
「第三王子殿下、他家の女性を気軽に相性で呼ぶものではありませんよ?」
「ふぅむ、しかし私とお前の仲ではないか?
私の事もボルと呼んでくれてもいいのだぞ?」
「…マルグリット・ウル・クベールです。
どうぞよろしく」
制服のスカート部を軽く摘んで略式で礼を示す。
本来なら嫡男であるウィルを先に紹介するのが正しいのだが、もう一同それぐらいでボルタノに突っ込まない程度には慣れていた。
「それからこやつはウィル、ウィルレインだったかな?
私の幼馴染だ」
「「「「「「えっ?!」」」」」」
「どうかしたか?」
周囲全員から疑問の声を受けたボルタノは、肩眉を上げて答えた。
ボルタノがウィルを幼馴染と認識してるとは意外だ。
確かにウィルはクベール家に引き取られた後、数回王城に上げられていた。
これは侯爵家の嫡子として王家や王城に上がることを許された上級貴族たちにお披露目をするためで、ウィルの立場を明確にして他所の家に対しての牽制の意味もある。
本人は嫌がったが、アルフィスの家名を名乗り始めたのはそれからだ。
母方の家名を持たなかったり名乗れないということは、血筋の半分が確かでないとなる。
下級貴族ならともかく、上級貴族でそれは致命的だ。
ウィルの母親オードリーはまさにそれなのだが…。
その時に1つ年上のボルタノと出合ったのは確かだ。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
当時継承の目のないと言われていたボルタノは、比較的自由に城内をうろついていた。
次期国王に取り入りたい者からも、王家と距離を置きたい者からも相手にされない寂しい幼少期だった。
母親すら第二王子を王位に押し上げる事に集中し、ボルタノに構っていられなかった。
彼の味方と言えるのは乳母だけで、乳兄弟も腹心も用意されず出会う機会も与えられなかった。
迂闊に力を付けさせると兄の妨げになると思われたのだ。
もちろん王族らしく丁重に育てられはした。
人も金も充分にかけられ、欲しい物はたいてい与えられはした。
だがまるで遠巻きにされているような、空虚な隔たりが常にそこにはあった。
産まれたときからそういう扱いをされていたボルタノにとって、王宮とはそういう世界であった。
親子とも、兄弟とも、そういう隔たりのある生き方が王族の常識と思っていた。
第二側室のアンナ・アルジャン・サノワール夫人親子を見るまでは。
息子の地盤を固めようと政治活動に精を出している正妃と違って、アンナ夫人はのんびりな性格であった。
貴族の子女にありがちな交遊会が好きで、よく王宮でもお茶会を開いて貴族の夫人や娘たちを集めていた。
その日も中庭に会場を設え、王都在住の貴族に広く招待状を出し、第一王女の手を引き第四王子を抱き上げてお茶会を開いていた。
たまたま、ほんの偶然であったのだが、ボルタノはその日中庭にあるちょっとした林を探険していた。
彼をお茶会に招待しなかったアンナ夫人を責められまい。
当時から第三王子は尊大で無神経で…そして乱暴者と知られていた。
誰もボルタノには教えてくれなかったのだ「無闇に暴力を振るってはいけません」と…。
相手が大人のうちはいい、所詮5歳児の腕力だ、少しばかり痛いのを我慢すればいい。
だが同じ歳の子供ならどうだろう?もしくは小さい赤ん坊では?
だから多くの貴族はボルタノに子供を会わせるのを嫌がった。
その所為もあり、ボルタノは同年代の子供付き合いを持つ機会さえ失い、ますます人付き合いの経験をなくしていた。
そんな彼が散策中に子供たちの声を聞き付けた。
護衛という名のお目付け役を巻くのは簡単だった。
生垣の二つ三つくぐって見せれば、大人の身体ではおいそれと着いて来れない。
楽しげな笑い声を頼りにボルタノがたどり着いたのは、花壇に囲まれた催し物スペースだった。
はじめは気づかれなかった。
当然だ、母や姉についてきた子供たちが何人も居たのだから。
しかし徐々に気づかれることになる。
その場に居るものの多くは王子の顔を当然知っていたのだから。
年長者から口数が消えていくと、その空気を察したか子供たちからも声が消えていった。
ボルタノがアンナ夫人の前に何気なく近寄ってきた時には、すでに会場は静まり返っていた。
たかが5歳の少年に大げさかと思うが、相手は王子で正妃の息子である。
順位だけを見れば側室であるアンナ夫人よりも上となれば、だれも公然ととがめる事はできない。
迂闊に傷つけようなものなら、気位の高いアルジュナ正妃にどんな因縁を付けられるかも解らない。
何気なく延ばされたボルタノの手が、アンナ夫人の腕の中に居るアーノルドの腕を掴んだとき、夫人の口から小さい悲鳴が漏れた事は仕方の無い事だろう。
ボルタノにしても特に悪意があったわけではない。
アンナ夫人の腕に収まる見慣れない存在に興味を引かれただけだった。
夫人が時折いとおしそうに頬をなでたり、あやしたり笑いかけたり、時には頬ずりしたり。
そんな事をされる存在は一体なんだろう?と気になって確かめてみたかっただけだ。
彼は母に抱いてもらった事も、笑いかけてもらった事も無かったので、本当にソレが何なのか理解していなかったのだから。
だが幸いにして、その腕に力が入る事は無かった。
横から伸びてきた小さな腕がボルタノの腕を押さえつけたのだから。
「ダメでしょ!赤ちゃんに乱暴したら!」
ボルタノは不思議そうにその少女を眺めた。
彼女はボルタノを手を取ると、顔を覗き込みながら続けた。
「赤ちゃんはね、強く握ったり叩いたりしたら怪我をしちゃうの。
男の子なんだから、自分より小さい子は守ってあげないといけないのよ」
何を言われているか当時は理解できていなかっただろう。
「赤ちゃん?」
「そう赤ちゃん」
「コレは赤ちゃんというのか…いいな」
うらやましいといった意味の呟きだったのだろうが、彼女はそう取らなかったようだ。
満足げに微笑むと、ボルタノの頭を少々乱暴に撫で回した。
周囲から息を呑む気配が広がる。
彼女は、マルグリットはボルタノの顔を知らなかった。
ただアンナ夫人の顔色からただ事でないと察して動いたに過ぎない。
彼女にしてはボルタノも守るべき自分より小さい子の1人で、乱暴しないように気をつけて扱ったのだが、周りはそうは見なかったようだ。
「お前、名はなんと言うのだ?」
当人を差し置いて回りに緊張が走る。
王子に無礼を働いておいて名を尋ねられると言う事は…と、みなが最悪の事を考えたのはわかる。
特に間一髪で救われたと思ってるアンナ夫人は見るからに緊張の色を濃くしている。
「私?私の名は…」
「マリー!」
「お母様?」
マリーは振り返ると真っ青な顔のジェシカを訝しそうに見ると首をかしげた。
「そうか、マリーというのか…」
満足げに頷くと、ボルタノはその場を後にした。
好奇心は満足したし、新たに欲しいモノができた。
今までも欲しい物は強請れば何でも与えられてきた。
今回もソレが手に入ることを疑いもせず。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
「なぜだ?!何故マリーを連れて来れない!?」
「お許しください殿下、幾ら王家の力を持っても成し難い事もあるのです。
侯爵家に対してあまり無下にも要求を通す事は難しいかと…どうぞご理解ください」
「そんな事…今まで教えてくれなかったではないか!」
ボルタノがマリーに執着を持ったのはおそらくこの瞬間だったのであろう。
本気で欲して、初めて手に入らなかったものが彼女だったのだ。
最初のころはただの意地だったのかもしれない。
だがソレは徐々にマリー本人に対する執着に代わっていった。
特に彼女がウィルに対する笑顔と、頻繁に頭をぐしぐし撫でるのを見ると心がざわつく。
自分はまだ1回しかやってもらった事がないのに!…と。
マリーを独占しているウィルに意地悪もした。
幸い?ウィルはマリーと違って頻繁に城に上がっていたので、見つけるのはさほど難しくなかった。
ウィルと居ればまたマリーに会えるのではという思いもあり、見つけるたびに絡んでいっていた。
虐めるばかりでもなかったためか、それほど露骨に避けられはしなかったのだが、彼がマリーからもらったという誕生日プレゼントを見たときは自分を抑えられなかった。
普段は申し訳なさそうにあまり姉の話題をしないウィルが、嬉しさを隠し切れずに舞い上がってるのを見たとき。
思わずそれを取り上げていた。
嫉妬による癇癪だったと自覚しているが、そのマリーが作ったという魔道具を見ていたらどうしてもコレが欲しくなって返すことができなかった。
その時のウィルの絶望に歪んだ顔は、ボルタノに言いようの無い後味の悪さを残した。
彼は初めて権力を振るい何かを奪う事と、その苦さを学んだ。
それまでは自分が何かを得る代わりに、何かを失う者の顔など見たことが無かったから…。
その後のマリーの怒りの表情と、自分に対する拒絶はボルタノの心を深く傷つけた。
怒りも、拒絶も、今まで正面から叩き付けられた事の無かった感情で、己がした事された事を痛みとして心に刻むことの助けとなった。
これはボルタノが決して聡明とは言えないかも知れないが、決して感性が歪んでいない事の証だ。
きっとボルタノはマリーとウィルとの係わりだけで人間と言うものを学んでいったのだ。
彼はマリーたちから離れない為に、その怒りと拒絶に気づかないふりをした。
その視線から目を反らす為に大きく胸を張った。
彼の代名詞とされる尊大と無神経は、繊細な彼が己の心を守る為に、己の心を回りに悟られないための鎧であった。
踏み込むのも、踏み込まれるのも、もう怖くてできなかったから…。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
「ウィルレイン・アルフィス・クベールです。
よろしくお願いします」
入学前に練習したとおりに礼を返すウィルを眺め、マリーは心の中で満足げに何回も頷いていた。
その中でボルタノがらしくなく目を伏せているのに気づいたのはオリオルズだけだったろう。
その感情だけはマリーに気づかれてはいけないと、半ば本能的にボルタノは感じていた。
マリーが余所余所しくなったのはたぶん自分がウィルに当たった事が関係してると、今にしてボルタノは気がついていた。
だがあの日、マリーがウィルの代わりに出陣すると聞いて居ても立っても居られなくなったのだ。
実際はオーリンの代わりの出陣なのだが、そんな細かいことはどうでもよかった。
マリーの出陣を止めようと父にも叔父にも掛け合ったが無駄だった。
クベール侯爵に掛け合おうと公爵邸に赴いたときにウィルに会い、思わず当たってしまった。
ただ弟と言うだけで愛を独占して、当たり前のように守ってもらえるウィルに対する妬みと憎しみが、感情を抑える事を学んでこなかったボルタノを突き動かして止まない。
ボルタノはそっと懐の短剣を握りしめた。
自分がそれを扱えないのは解っている。
自分にも魔術の才能はあるにはあるが、それはそう強くない。
さらに特に家庭教師を付けられてもいないボルタノには、それを磨く機会すら与えられていなかった。
そう考えると本当は自分には何も与えられていなかったのだと気づく。
母も兄も、父も、自分には目を向けてくれない…今更家族の愛を欲してなどいないが。
マリーもその目はウィルにばかり向いているように見える。
だったらコレぐらい自分の物にしてもいいだろう?
部屋で1人その魔道具を弄りながらそう考えていた。
これの存在がバレたらたぶん宰相や元帥に取り上げられるだろう。
今王家はクベール候家に魔術で大きく差をつけられつつある。
彼らは少しでもその差を埋めるべく奮闘しているのだ。
宰相は取り込む方に、元帥は排除するほうに。
ボルタノはできれば宰相の方向性で行ってほしいが、もう自分は王太子に乗り出す気は無い。
母や叔父の思惑になど乗りたくないというのが一番の理由だ。
叶うなら王族を辞める事すらきっと辞さないだろう。
もちろん王家と言う守りの無くなったボルタノは生きていけないだろうが、本人はそこまで考えていない。
とにかくなんでも投げ出したいだけだ。
らしくなく、本当に欲しいものも半ば諦めている。
たとえ手段を選ばずマリーと結ばれたとしても、きっと彼女の愛は得られないだろう。
頭の悪い自分にはマリーの愛を得る術など思いもつかない。
自分にできる事は、周りと上手くやっていくためにできる事は、諦めることだけだ。
だから今日も諦めよう。
せめて学園に居る間は彼女の側に居続ける為に。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
王国の西側に連なるカラク山脈には多くの鉱脈が眠っているという。
その鉱脈を見つけようと多くの山師たちが奥に分け入っては、帰ってこないことが多い。
人の生存圏を出たらそこは自然の領域で、猛獣や魔獣など人間に害をなす存在が闊歩しているからだ。
無事下山できたとしても、たいがい空振りに終わるのだが…。
だが一攫千金を夢見るものや、継ぐべき土地や権利を持たない次男坊や三男坊が毎年少なくない人数山に挑む。
万が一金脈でも見つけでもしたら一生遊んで暮らせるどころか、子孫に資産を残してやることすらできる。
そんな山師の一団がベルン=ラース王国でも最も険しい山々、ミュリエレ湖の北側の連峰に登っていた。
王都からもその威容を眺めることのできる最高峰ディノクレスを仰ぎ見つつ、手時かな場所にキャンプを作ると。
早速近隣の川や地質を調査し始めた。
と言っても彼らは別にその道のプロではない。
鉱脈の気配をさぐる簡単な方法を教わるのに、なけなしの資財を支払って背水の決意で挑んだ素人集団である。
川で金属の粒…できれば砂金…を探し、岩を割って中の色を確認したり、その程度の調査しかできない。
ただそれでも鉱脈らしい情報を持ち帰れば若干の金にはなるはずだった。
仲間の1人が鉱石のサンプルを探しているうちに、岩壁の向こうに空洞らしきものを見つけたのだ。
別に洞窟が目的ではないが、洞くつの奥の鉱石を採集できるかもしれないというのはそこそこ魅力的な話だった。
中間達が集まり小型の鶴嘴で岩を叩くこと半日、ようやく大人1人が入れる程度の穴が開いた。
中では風が動いていて、もしかするとどこかに通じているかもしれないと思わせた。
二人ほど松明片手に恐る恐る中に入っていったが、一向に帰ってこなかった。
リーダーは悩んだ。
中に命に係わる危険があるかもしれない、助けに行くべきか見捨てるべきか?
結局彼らは様子を見に行くことにした。
何かあったら即逃げられるように蔦で延長したロープをたらしながら、入口の見張りに2名だけ残して。
その彼らも帰ってこなかったとき、入口の見張りは撤収する決心しかねていた。
ここまで何の成果も上がっていないのだ、このまま山を降りても一文無しで野垂れ死にしかねない。
意を決して持てるだけの明かりを持っておっかなびっくり奥に進んだ彼らが見たものは、途中で切断されたロープの切れ端と、ランタンの明かりでも照らせない濃密な"わだかまる闇"だった。
2人のうち1人が声も上げずに止みに飲まれるまで、もうひとりはあっけに取られて立ちすくんでいた。
1人になった山師は悲鳴を上げて出口に向かって走ろうとしたが、彼ができたのは悲鳴を上げることまでだった。
うるさい侵入者を排除したソレはゆっくりと出口に向かって移動していったが、外の明るさに怯んでまた奥にもどっていった。
外に出るには何か足りないものがある。
これらは思ったより美味しかった。
特に最後のヤツが発した恐怖は今までかんじた事の無いごちそうだった。
外に出ればもっともっと恐怖の感情を味わえるのかな?
ソレは外の光に耐えるように己の身体を再構築し始めた。
太古の記憶を頼り、原始の姿を模索し、より密度の高い身体へと…。
麓の村は何事も無く、帰ってこない山師たちの事を気にする者は誰もいなかった。




