16属性
料理長が18個の小鉢を盆に並べ、等間隔に冷蔵庫の中に並べていく。
それを満足げに眺めたマリーは小さく頷くと、くるりと振り返った。
「よし、じゃあ次は…」
その顔がニヤリと笑ったのを皆が見ていた。
「ウィルを連れてこないとね!」
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
マリーが帰宅したと聞いても、ウィルは出迎えに行く事ができなかった。
こんな事ではいけないと心の中では思っているのだが、一度避けだしてしまうとどうも顔を合わせ難い。
避けていれば姉に見限られないとか嫌われないなどあるはずも無い、それどころかかえって嫌われかねない。
解ってはいるんだと心の中で呟くが、それが行動に反映される事は無かった。
ベッドに横になったり、ソファーに座りなおしたり、夕食の席に呼ばれた時どうゆう言い訳で断ろうかと考えたり。
無駄に時間を過ごしていた。
あれから時間がたったが、姉が顔を出す気配も無い。
それがホッとしたような、寂しいような、モンモンとした気分にどうも落ち着かないでいた。
だがその暇と静寂の空間は。
「ウィル、入るわよ!」
その言葉とドンという衝撃とともに、部屋のドアが蹴り開かれた事により破られることになる。
「お、おねぇ…姉上!」
「…うーん、ウィルももう王立学校に入学する年だし、私の呼び方は改めたほうがいいのかしら?」
ウィルの聞きなれない姉上呼びに怪訝な顔はしたものの、マリーはさして気にした様子も無く部屋の中にそのまま入ってきた。
「そんな事よりなんで蹴破って入ってきたんですか?!」
「あら、そんなのメリーを抱いていて両手が塞がってたからに決まっているじゃない」
「るじゃない」
マリーに抱き上げられた澄ました金色の瞳が、じっとウィルを見つめていた。
ウィルはメリヴィエのこの金色の瞳が苦手であった。
あまり活動的ではないメリーが黙ってこちらを見つめていると、なにか見透かされているような気がする。
「そういう話じゃないんだけど…」
ジェシカとメリヴィエは春から王都の侯爵邸に来ている。
ソレまであまりマリーに接する機会のなかったメリーは、最初こそ人見知りしてたものの。
毎週家に帰ってはお菓子を貢いだり、本を読んでくれたり、寝かしつけたりと涙ぐましい努力を重ねてたマリーに今ではすっかり懐いていた。
マリーにしても、赤ん坊のころあれだけ尽くした溺愛する妹に、戦争だ学校だと引き離されている間に嫌われたのではたまったものではない。
「それで…何か御用ですか?」
まあ顔を見に来た辺りだろうなと、ウィルは予想をつけていた。
用が無いと言うならいくら姉でも追い返す事は難しくない。
「あら、用ならあるわよ?」
しかしウィルの安易な予想をマリーはキッパリと否定した。
「貴方の魔術で新作のお菓子の仕上げを手伝ってもらおうと思ったの」
顔にかかっていたメリーの髪の毛を、指で分けてあげながら事も無げに告げるマリーに。
ドアを蹴り破ってまで押入る用事じゃないよな…とウィルは呆れながらも心の中で突っ込みを入れる。
「魔術ならねえ…姉上の方が出来るでしょう?」
「そうね、まだウィルには負けられないわね。
…でも今回は別よ、残念ながら私に火の属性適正はないもの」
「はないもの」
胸を張ってそう宣言するマリーの姿が幼いころと重なり。
姉は魔術に関してはだけは決して譲らなかったな、となんとなく懐かしさや憧憬を感じた。
「ほら、お父様が帰ってくる前に完成させなきゃいけないんだから」
手伝ってくれと頼む者の態度ではないが、ウィルは以前と変わらないマリーの強引なノリに若干の安心感を得ていた。
幼いころよりこうやって自分の手を引っ張り駆け回っていたのだ。
もしかしたら今回も自分のウジウジした悩みを察して、姉の方から歩み寄って来てくれたのかと一瞬思いもしたが。
「ほら、なにボサってしてるのよ、早くしなさい!」
「やくしなさい!」
姉妹にステレオで言われると、本当にただお菓子作りを手伝わせたいだけのような気もしてきた。
ストレートなマリーの髪とちがってウェーブのかかったメリーの髪は絡まりやすいのか、頻繁にマリーが指で直してあげすとくすぐったそうにその手にじゃれる。
どう見ても貴族の仲のいい姉妹だが、4歳のメリーを12歳のマリーが軽々と抱き上げてるとこには若干の違和感を感じる。
「姉上、重くないんですか?」
自分ならメリーぐらい楽々抱き上げる事はできるとは解ってはいるが、姉がそれをやっていると何か釈然としない。
「あら、ウィル。
レディに重いなんて失礼ね」
「つれいね」
最近メリーは何が面白いのか、マリーの言葉尻だけよく真似をする。
女性陣に言わせるとそれがたまらなく可愛いらしいのだが、ウィルには良く解らない。
今までマリー中心だった侯爵家が徐々にメリー中心に移っていくようで面白くなかった。
当のマリーまでメリーにメロメロで、事あるごとに構うものだからウィルのイラつきもひとしおだ。
ようは彼はメリーに嫉妬しているのだが、本人はまだそこまで自覚していない。
ウィルの中心はマリーだった。
だから自分のいる世界の中心もマリーであるべきだという変なこだわりがあるのだ。
「料理長、準備はできているかしら?
…あら、お忙しいのにごめんなさいね」
マリーは厨房に入ると、夕食の準備の指示を次々とばしていた料理長に声をかけた。
「いえ、いいんですよ。
マリー様があれをどうするのか、俺も興味ありますから」
そう言うと料理長は手早く冷蔵庫からカスタードの入った小鉢を取り出し、テーブルに並べていく。
「じゃあメリー、また後でね」
マリーは小さい手で自分の首にしがみ付いているメリーの頬に優しくキスをすると、妹を静かに下におろし侍女に預けた。
「さあ、始めましょうか」
マリーは腕まくりしながらテーブルに近づくと、砂糖の壷を取り出した。
砂糖は高価な貴重品である。
ラース半島では育たない作物から作られるそうで、南方には大きな畑があるとか。
産地ではそれほどの価格ではないそうだけど、長距離を船で運び、数カ国を巡るとどんどん価格が膨れ上がり。
元の価格の数倍から数十倍の値段になってしまうそうだ。
当然庶民の口には入らない。
砂糖をふんだんに使えるのもまた貴族の特権といえる。
「甜菜があれば…」
そのマリーの小さな呟きは騒がしい厨房の雑踏に飲まれて消えた。
砂糖を二すくいほど小鉢の上にかけると、マリーはウィルに向き直り。
「この砂糖をあなたの火の魔術で焦がして欲しいの。
いい、強すぎてはダメよ?
カスタードと砂糖が苦過ぎない程度に焦げ付かせて、香りと味わいを出す最後の重要な仕上げなのよ!
…幸い18個もあるから、1個か2個は失敗してもいいわ。
その分は私が責任を持て食べてあげる。
聞いてるの?ウィル?」
つまりこれは火力制御の練習をさせたいんだな?と、ウィルは推察した。
ウィルの得意な属性は雷だが、雷属性の適応者は火と風の属性も持つ事がほとんどだ。
これは雷は火と風が融合して生まれる属性と推察されており、雷、氷、木、鉄の4属性持ちが稀な存在とされる大きな理由と言われている。
当然ウィルも得意とは言いがたいが、火や風の属性も扱える。
氷使いのマリーが水と風も扱えるのと同じ事だ。
それでもウィルは雷の次に火の属性は得意ではあるのだが…。
「炎を形成しながら、風でそれを煽るのよ。
炎を小鉢に吹き付ける感じでね…くれぐれも火力と風力に気をつけて…弱すぎるぐらいから初めて徐々に力を上げていくといいわ」
横で指示を出しながらプレッシャーをかけるマリーを横目に、なんだかんだいって彼女に逆らえないウィルは覚悟を決めて魔術構成を組みだした。
2属性同時使用というのは思いのほか難しい。
右手と左手で違うことをするようなもので、充分な練習と集中力が必要となる。
マリーはそれを事も無げに使いこなしているが、ウィルはまだその領域には達していない。
案の定一つ目の小鉢は炎に包まれ中まで丸焦げになってしまった。
「これは…さすがに食べれないわよね」
「止めてください!マリー様が食べられるぐらいなら俺が」
二つ目はなかなか炎が表面まで届かないで、結局マリーのストップが入った。
「せっかく冷やしたのに温まっちゃうから、これはまた後で…冷蔵庫に入れておくわね」
小鉢を冷蔵庫にしまったマリーは、腰に手を当てとがめる様にウィルに迫った。
「ウィル、魔術の練習怠っていたんじゃない?」
正直言えば剣術などにかまけて怠っていた。
体を動かしていると嫌なことを忘れることができたが、魔術に集中しているとどうしても姉の顔が浮かび、そのままネガティブな妄想に押し流されてしまうのだ。
「まあ、ウィルにはもっと大事なことあるから、魔術にばかり感けてられないってのは判るわ」
見慣れた姉の表情。
幼いころからウィルに対して先生ぶって何か教え導くとき、よくこの顔をしていた。
「政治や経済を学んで、お父様の跡を継ぐ力を付けなくてはならないものね。
でもね、貴族として自分の身を守る程度の力は無くてはならないと思うの。
それが剣であり魔術であれ、できればどちらもある程度できた方が安心ね」
そう言うとマリーは手近の燭台を手に取ると小鉢に近づけ、素早く構成を組み上げ魔力を開放した。
蝋燭の炎から鋭い炎の舌が伸び小鉢の表面を数回舐める。
適度に焦げ目がついたその表面からは、カラメルの香ばしさとブランデーの残り香と、加熱されたカスタードの甘い香りが渾然となって食欲を刺激する香りが沸き立った。
「グゥ~~~ッ」
「アイシャ…」
フラウが派手にお腹を鳴らしたアイシャを見て額に手を当てた。
「なるほど、これだけいい匂いがするならば、洋酒も、上面を焦がしたことにも納得ですな。
この手法を他の料理にも利用できないか?」
料理長が興味深そうに小鉢を覗き込む。
だがウィルは1人戦慄していた。
今マリーがとんでもない事をしたのに、みな気づいていない。
「ね、姉さん…」
驚きで顔色を失ったウィルが、改めたはずの姉の呼び方も忘れ咄嗟に疑問を吐き出した。
「今、炎の魔術を!」
この場で1人魔術の知識が深いウィルだけが気が付いた。
「使ってないわよ?」
「でも今!」
マリーのもつ魔力の属性は光と氷、そして水と風だけのはずだ。
火の属性を隠し持っていたなら今更それを明かす意味が解らない。
持ってない属性の魔術を行使できるとなれば、それこそ人間業ではない。
「私が使ったのは風の魔術だけよ。
風の魔術だけでも上手に炎を煽れればこのぐらいは出来るわ。
コツは風の中にある炎に親和性のある酸…って、これはいいわ。
さあ、これを参考にしてもう一回お願い」
風の魔術で炎を増幅するなど想像もしたことが無かった。
魔術の相性と構成でここまでの事をやってのけるマリーの魔術に、ウィルは今更ながら驚きを隠せなかった。
姉は事あるごとにウィルの才能は私より上と言うが、こんな事を見せられたのではとてもその言葉を信じる事はできない。
自分はあとどれだけ努力すれば魔術で姉に並ぶことができるのか?
もうこれだけでウィルを不貞腐れさせるのに充分だった。
「必要ないでしょう…。
姉さん自分で出来るんだから、僕が下手な魔術で失敗作なんて作る必要はない」
「あらダメよ」
振り絞るようにもらした声を、事も無げにばっさりと切り捨てられる。
「私はね、ウィルと合作でこのお菓子完成させたいの。
私とウィルの2人で作ったこのお菓子をみんなで食べてもらいたいの。
そしてね、2人で作りましたって胸を張りたいのよ」
「そんなの姉さんのわがままでしょう?」
「そうよ?
私はわがままなの…知らなかった?」
ウィルは絶句した。
今まで理詰めとか、回りを気遣って行動しているように見えた姉からこんな言葉が聞かれるとは。
「だからね、今みたいにウィル避けられているのは嫌なの、我慢できないの。
もうウィルは学校に上がる歳だから、姉にベタベタされるのは嫌なのは分かるわ。
でもね、だからといって避けられているのには、わがままな私は我慢できないのよ」
ウィルは腹の奥がズンッと冷たくなっていくような感覚を味わった。
自分は姉に会うのが怖くて避けていたが、それが姉をはじめ家族のみなにどんな思いを与えていたか考えていただろうか?
見回せばメリヴィエをはじめ侍女の面々が心配そうにこちらを伺っている。
アイシャにいたっては敵意に溢れた目でウィルを睨んでさえ居る。
「貴方が何も言わないって事は言いたくない事もあるのでしょう。
だから私は何も聞かないわ。
でも、このお菓子を2人で作る事は絶対に譲らないから、そのつもりでね」
ウィルの肩を押さえて小鉢に向きなおさせると、背中を一発叩いて気合を入れてあげる。
「炎と風の出力調整を同時にやろうとするからダメなのよ。
私がやったみたいに風だけで操作するか、逆に風は吹き付けるだけで炎で火力を調節するといいわ」
もう逃げ場は無い。
だが不思議と焦燥感や絶望は無かった。
何も聞かないといってくれたマリーの言葉に救われた気がした。
姉はなんだかんだいってまた自分に逃げ道をくれたのだ。
「マリーはウィルに甘すぎる!」
そう苦い顔をする父が思い浮かんだ。
全くその通りだと我ながら思う。
そう思いながら…慎重に構成を組み上げ、強めのに魔力を撃ち込み炎を形成する。
同時に細く早い風の流れ組み上げ、それを炎に重ねる。
ガスバーナーなどウィルは見たこと無いだろう、だがその噴出される青い炎はまさしくそれであった。
ウィルは慎重に炎の先を延ばしながら、その先端で砂糖を乗せた小鉢の表面をなでる。
そうすると先ほどのマリーが行ったときのように、甘い匂いが立ち上った。
心なしかマリーのときよりも香りが強いかもしれない。
「やっぱり火力が強いほうがいい香りになるわね」
ウィルの仕事を確認したマリーは満足げに頷いた。
「私の術じゃ、あの温度が限界だから…
じゃあウィル、のこり14個ちゃっちゃとやっちゃいなさい」
テーブルの向こうではメリーがウィルの真似をして、手を合わせむにゃむにゃやっている。
それを微笑ましそうに見ていたマリーの目が、一瞬驚愕に見開かれたのに気づいたのはフラウだけだった。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
マリーとウィル(と料理長)が作ったクレームブリュレは家族に非常に好評だった。
父《オーリン》がブランデーを使われた事に若干不満げではあったが、マリーとウィルが二人で作ったと聞くとすぐ相好を崩した。
オーリンとて子供たちの事を心配していないわけではない。
だが彼は弟と二人だけの兄弟だったため、女が混じった兄弟の気持ちは解らず手を出しかねていた。
メリーもクレームブリュレをいたく気に入り、食後のデザートとして出されたにもかかわらずお代わりまでした。
その2個目を妹に提供したのはマリーで、やはり彼女は弟妹に甘いのである。
ウィルとしてもわだかまりの様なモノが完全に無くなった訳ではない。
たった一回向き合っただけで綺麗になるほど人間の心は単純ではないし、数年積もった忸怩たる思いはそう簡単には拭えない。
しかしマリーのさっぱりした対応に幾分心が楽になったのは事実で、何かもうどうでもいいやという気持ちになっていた。
このまま姉が嫁に行くまで…あるいは一生振り回される覚悟はできた。
もっとも今更だったなと自嘲する。
幼いころ姉に救われた時からたぶん決まっていたのだろう。
姉にはそういうネガティブな気持ちを吹き飛ばす力があるのだろう。
その力に救われたのだから。
クレームブリュレは屋敷の他の使用人たちにも振舞われる事になった。
そちらは料理長のお手製だが、金属製の箆を熱して焼きごての要領で手早く焦がしを付けていく手際はマリーをも感嘆せしめた。
魔術など無くても文化は育ち、広がるんだという人間の力を見た気がした。
◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇
「お父様お話が…」
食事の後しばらく家族で談笑したあと、書斎に入ろうとするオーリンをマリーが呼び止めた。
娘の発する戸惑いのような気配を察したオーリンは、彼女を黙って書斎に招きいれた。
「何かあったのかな?」
「何かあったわけでは無いのですが…メリーの事です」
オーリンは娘が妹を溺愛しているのを知っている。
そのマリーが何か言いよどむのだから、心中穏やかではいられない。
「メリーは複数属性持ちです。
それも3つや4つではないくらいの」
「なんだと?!」
「見えただけで2つ、私が感じた…共鳴した属性は4つ。
最低でも6つの属性を持っていると思われます」
マリーが4つの属性を持っているのでも充分な規格外で、ウィルのように3つの属性持ちも非常に稀だ。
それが最低6つと言われたら過去の記録に見つかるかどうかすらあやしい。
もしそんな事が知られたら、体面や力関係すら無視して確保に動きだす組織は少なくないだろう。
そんな稀有な能力を持っている人物を有しているだけでかなりの権威に繋がるのだから。
一番ありえそうなのは王家か公爵家に無理やり嫁がせる事だ。
第四王子は7歳、メリヴィエと3歳差だから年は充分釣り合う。
もしくは教会。
聖女認定を行って強引に修道院に召し上げることぐらいはする。
特に西部では教会の力は弱い。
これを気に足場を広げようとしてくるのは想像に難くない。
実際マリーが幼いころ、王都での発言権上昇を餌にマリーを召し上げようとしたほどだ。
よほどマリーの光属性が欲しかったらしいが、これはオーリンが突っぱねた。
教会内でも対応にかなり揉めたようで、幸い西部での布教活動推進派が権威派を征し、なんとかマリーの事は諦めさせる事ができた。
西部推進派に少なからず資金を注ぎ込んで、彼らを後押ししたのはおそらくオーリンだっただろう。
戦争の後また接触してきたが、その時はマリー本人が蹴った。
他にも外国の王族貴族も黙って居ないだろう。
それだけ複数属性持ちの価値は高い。
複数属性持ちの子は高確率で属性持ちという事もあるし、事実クベール候家の血筋がそれを証明している。
魔術師が数人いても戦争で勝てるなどと言う事は無いが、政略結婚における血筋と言う意味では絶大な効果があるのだ。
「しかしまいったな…よもや私の子供たちにこれほど複数属性持ちが出るとは。
メリーの事はとりあえず秘密にするしかないだろうな。
それにしても6属性か」
「最低6属性ですわ。
光、火、風、水、雷、氷…聖女認定待った無しです。
これで闇まで持っていたら、教会秘伝の複合魔術ふたつまで使える可能性出てきますもの」
「教会対策がいちばん厄介だよ。
権威に対する欲求が強すぎる…権威に権力も資金もついて来るんだし、そういう物かもしれないが」
マリーが幼いころ散々教会とやりあったオーリンがため息をつく。
一人娘を出せるかというオーリンの対応に、じゃあ教会から養子を提供しますという、クベール家にまったく益の無い交換条件を出されたときには唖然とした。
そんな要請が通りとか本気で考えているのか教会は?
「メリーの魔術の教師は私が勤めます。
魔術の口止めに対してはお父様の方からもご協力ねがいます」
「もちろんだよ」
メリヴィエに闇属性もある事が判明したのは数週間後だった。
それも魔力の素質もウィルすら陵駕する、奇跡といえるほどの規格外の存在であることも…。
なんて足癖の悪い…。
ウィルもちょっとグダグダし過ぎだ。




