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剣聖と神様の異世界旅。  作者: 小麦粉吹雪
一章
6/7

五話 私、お花摘みしてます。

 


 菫さんの試し撃ちが終わり中、時計を確認すると五十五分になっていた。そろそろ門番さんは戻らないとまずい時間だ。すごい迷惑かけてる私たちが言えた話じゃないけど。そのことを伝えると、

 

「あぁ、もうそのような時間でしたか。すいません、もう仕事の方に戻らなければなりません。本当は一緒について行きたかったのですが…」

 

 深く頭を下げた。上げた顔からは申し訳ない、という気持ちをひしひしと感じた。

 一緒に、か。本当にこの人はどこまで人がいいんだ。元の世界にいたときにこんな人、ほんの少ししか見たことない。眩しすぎるよ、私には。

 

「仕方ないわ、仕事だし。私たちは大丈夫よ、本当にありがとう。貴方が最初の異世界人で本当に良かった、心からそう思うわ」

 

 感謝の気持ちを言葉に出すと、王様から褒められたみたいに喜んでいた。私、只の女子高———違ったわ、普通の女子は熊を殴り倒せないわ、普通じゃなかったや。ははっ。

 キラキラした笑顔の四十台の門番さんと対照的に私の心は普通じゃないことを再確認してちょっぴりブルーになった。撃った矢を回収してきた菫さんが不思議そうに私と門番さんの顔を交互に見比べて、?マークを浮かべていたのが可愛かったのですぐに立ち直せた。



 さて、試し撃ちを終わったことだしクエストに行きましょう。出発あるのみ。草原の方へ足を向け、いざ出陣と走ろうとすると、

 

「ちょっと待ってください文さん、あなた武器持ってないですよね。」

「お待ちください、せめて何か一つ武器を…。」

 

 止められた。あ、そういえば持ってなかったや。うっかり、うっかり。

 

「「うっかりじゃないですよ!」」

 

 怒られた。


「…はあ、あからさまに落ち込まないでください」

「こちらをお使いください」

 

 門番さんが私に手渡したものは、鞘に入った剣。装飾は最低限にとどめられていて、私は嫌いじゃない。それにしてもいつの間に用意していたんだか。門番さんは門番さんの剣は持ってるし、いったいどこから。ま、いっか。

 抜いてみてもいいかと聞くと、もちろんとの答えが聞けたので、二人がある程度離れたのを確認して、鞘から抜く。

 どうやら丁寧に手入れされていたのか両刃の剣身は綺麗だ。長さは目測で70センチ程度、重さはわかんないけど私が片手でぶんぶん振り回せるぐらいには軽い。切れ味の方は、さっき軽く振り回したときスパスパ草が切れてたのが確認できたので問題なし、多分。いざというときは鈍器にすればよし。


 

 今度こそ門番さんから依頼書の写しをもらい出発した私たちは、六本目となる癒し花を回収しリュックサックにしまう。街道沿いに歩き、依頼書に書かれている特徴をヒントに、特徴すべてに当てはまる物があれば、少し街道から外れ、取って街道に戻るを繰り返している。今のところ平和を満喫中である。

 一度時計を確認する。時計の針は午前九時五十分ほどを指していた。門番さんと別れたときは二分か三分ぐらいだったのを覚えている。———まあこのペースなら夕方までには間に合うだろう。

 今回の採取している癒し花、一本につき80フィルで買い取ってくれると説明されたが、問題の入国料は一人1500フィル。十九本で1520フィルなので、今のペース、約八分に一本の状態だと、約二時間半ぐらいかかる。私たち二人分のお金を稼がなければならぬので、五時間ぐらいは草原をふらふらしながら、花集めをすることになる。あと五時間歩き回ってお花を摘む楽なお仕事です。

 これが魔物を狩る仕事だったらと思うと、門番さんには感謝してもしきれないわ。

 

「文さん、一つ聞きたいことがあるのですが」

「どうしたの?」

「アレ、どうします?」


 アレって何ぞや、と聞こうとする前に指で指し示されたので、その方向へ視線を移す。かろうじて見えるところに、大量の緑子供に囲まれおそらく苦戦している人間三人が見えた。

 菫さんに視線を戻すと、ほっとけないと顔に書いている。もう一度戦っている方を見ると、緑子供の方は素早いのか、人間が攻撃を当てられないでいて、スタミナを消耗させられている。

 あのままでは体力が無くなり、そこを袋叩きにされるだろう。それはちょっと見たくない。同じ人間が殺される現場を見るだけってのは、想像するだけで嫌。ということで、


「如何にかしてあげましょう。」

 



 鎧を着た男が緑子供(ゴブリン)に横薙ぎに剣を振るう。しかし、危なげなく避けられる。そこに追撃でもう一人の男が矢を撃つが、それも容易に避ける。ギギと言葉でない鳴き声を発すると、一瞬で距離を詰め、二人の後ろにいた白のローブを着た女に木でできた棍棒で殴りかかる。が、何か見えない壁に阻まれ攻撃は当たらず、怯む。その隙を逃さずゴブリンに掌を向け魔法を放つ。


「≪ファイア≫!」


 呪文を唱えると、掌の先から炎が目の前のゴブリンに襲い掛かる。流石に回避が間に合わず火達磨になり、その場に倒れた。だが、まだ気は抜けない。三人の周囲には数十体のゴブリンがいるからだ。


「これで、四体目か…」

 

 鎧を着た男———ジャックが苦虫を噛み潰した表情で呟く。戦闘を始めてから五分、いつものゴブリンなら、一太刀で終わる。一体どうして———

 思考はそこで途切れる。次のゴブリンがジャック目がけ棍棒を振りかざしたのだ。慌てて左手のバックラーで受け止める。急いで構えたため、衝撃を流せず直接ズンと、左手に衝撃が走る。


「ぐ、おっ…!」


 骨がミシミシと音を立てる。


「ジャック!」


 ジャックの名を叫び、もう一人の男、ダリルが二撃目を放とうとしているゴブリンの頭に向け、ナイフを投げる。ナイフに気が付き、攻撃を中断しバックステップで回避する。

 ナイフが当たりはしなかったものの、あのままでは確実にジャックの左手が砕けていた。それはなんとか回避できた。ナイフを放っておきそのまま攻撃されていたら、と思うと背筋が凍る。


「大丈夫!?」


 白いローブの女、レナが魔法で応戦しながら二人に近づく。先ほどの障壁のようなもので何とか棍棒を防ぎ魔法で攻撃する形を取っているが、四体目がやられてから避けられてしまっている。

 徐々に囲いが狭くなり、三人背中合わせになってしまう。


「畜生、ここでゴブリンに殺されるってのかよ!」


 少しずつ近づいてくるゴブリン達にダリルが上ずった悪態をつき、やけになって手持ちの投げナイフをありったけ投げる。だがそれらは容易に避けられるか、棍棒で切り払う、もとい殴り払われていた。その様子を見てゴブリン達はギャギャギャ、と気味の悪い笑い声を上げる。


「一体どうすればいいの…?私たちどうなるの?」



 笑い声が何とか閉じ込めてきた恐怖があふれ出させる。レナの顔は青褪め、体は震えてしまっている。


「二人とも落ち着け!何か、何か突破できる方法があるはずだ!」


 ジャックは思考する。しかし目の前に迫る死に、半分パニックに陥っている頭ではまともな策は練れない。

 群れの中の一匹が叫ぶ。それに合わせ他のゴブリン達が叫ぶ。そして、三人に向け棍棒を構える。

 ———こんなところで、終わるのか?そんなの、嫌だ!まだ、俺は———

 人間の思いなど知ったことではない、そう言うように棍棒が振りかざされる。もう少しでやって来る死神の一撃に思わず目を閉じる。

 刹那、風が強く吹いたと思うと、ゴブリン達の叫びが耳に入って来る。だが痛みがやってこない。


「危ないところだったわね」


 知らない女の声。恐る恐る目を開けると、大量のゴブリンの死体と見た事の無い服を身に纏った女が自分達の前に立っていた。

 


 いやあ、危ないところだった。何とか全力でダッシュして邪魔なゴブリン全部斬って間に合わせたけど、予想通り三人とも苦戦していたね。本当ギリギリだった。鎧の人は左腕折れてるし、弓持ってる人と白いローブ着てる人は青褪めてるし、ローブの方は泣いてるし。


「気を付けてくれ、このゴブリン達、通常よりかなり厄介だ!」


 鎧の人が注意してくれてるけど、通常を知らないから何とも言えないのよね。それにしてもゴブリンか。ファンタジーだなあ。ま、それは置いといて。


「そう、ありがとう。とりあえず逃げて?」


 この三人がいると斬りづらい。来る途中で道ができたから、そこから逃げてもらおう。


「わ、分かった!二人とも、逃げるぞ!」

「すまねえ!」

「…うん!」


 うーん、鎧の人この三人のリーダーなのかな。話が早くて助かる。鎧の人が二人を連れて逃げてくれた。それを追いかけようとする奴らももちろん出てくるけど、


「はいはーい、逃げる人追わなーい。頭吹き飛ぶよ?」


 一匹一匹丁寧にヘッドショットで菫さんが処理してくれる。たまに二枚抜きしてるのが怖い所。

 さて、目の前のゴブリン達は、突然ゴブリンが輪切りにされたことによる驚きの余り、他が固まってるのよね。さっき斬ったのは十七匹。ていうか多くない?まだ五十匹ぐらいいるっぽいのよね。

 でも、量は関係ないか。斬ればいいし。


「ギギャーー!」

「煩い」


 全く突然背後から飛び掛かるんじゃないよ、縦に真っ二つになるよ?勢い余って二つに分かれた体が前に飛んで行って前の奴らに当たってるし。

 それにしてもこいつら血が出ないな。しかも少し時間が経つと死体が消えてる。何か白いもやもやしたものと尖った角みたいなのを残して。…ドロップアイテム的な奴?

 まあ、いっか。兎に角戦闘に集中、集中。

 いつまで経ってもやってこないどころか、後ろに下がっていってるのでこっちから攻める。

 まず目の前のを袈裟に斬る。斬り返しでもう一体。踏み込んで斬り上げてさらに一体。どんどん確実に斬って斬る。時に蹴って、踏み台にして。時に棍棒を奪って殴って、投げたり。時に菫さんの狙撃が飛んで来たり。特に危なげなく戦闘は続いた。

 

 

「ラストォ!」


 逃げようとしていた最後の一体を落ちているナイフをを思いっきり頭に向かって投げて戦闘終了。

 周りを見渡すと白いもやもやと死体だらけになっていた。けど血の匂いはしない。なんだか変な感じがするわ。

 さて、菫さんのところへ戻って花集め再開しなきゃ。

 今の時刻は午前十時二十六分。少し急がなきゃね。

 

 

やっぱり文は普通じゃなかった。

『白いもやもや』の正体とゴブリンから血が出ない理由は後々出てきます。


8月29日 戦闘終了後の時間の修正

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