三話 私、問題だらけです。
菫が城壁の前でずっとポカンとしていたのは、
城壁の大きさにびっくりしていたのと、話しかけてきた異世界の人と文が普通にわかる言語(日本語)で
話していたからでした。
文はまだ気づいていません。
「『ステータスカード、オープン』」
呪文を唱えて六回目。若干涙目になっている菫さんの手にやっと『ステータスカード』が出現した。形は変わらず握っても問題なし。どうやら成功したようだ。出した本人はやっと出せたことに安堵の息を吐いていた。
アドバイスのようなものをしようとは思ったけど、こういうのはヒント無しの手探りでやってみるのが楽しい、と菫さんに止められた。わかるわ。
「よかった、このまま出せなかったらどうしようかと。」
「ま、成功したしいいじゃない。それで門番さん、『ステータスカード』をそっちに渡せばいいのかしら。」
「あぁ、そうだ。そうしてもらわないと町の中に入れることが出来ないからな。まだ『ステータスカード』が普及してなかった頃、書類審査で問題なかった奴が、実は魔人でした、何てことがあったらしくて、それから『ステータスカード』と提出と確認することが義務付けられた。その時カードの登録も義務になって、今は国の予算から出してるから無料で作れるようになった。」
まあ、書類の方が面倒だったから俺らとしては万々歳だったがな、と門番さんは笑っていた。
それは義務にもなるか。その国が今の話からはどうなったかはわからないけれど、相当パニクったんだろう。その時魔人は心の中で、どす黒い笑いを浮かべていたんでしょう。
それにしてもタダか。運が良かった、もし要求されていたらかなり不味かった。ここがどんなルールの下で動いているのかわからない以上、何時何処で騙され、私たちが知らないタブーに触れるか、わからない。これから慎重に動くことを心掛けたほうが身のためになる。
この世界は私がいた世界じゃない。
『ステータスカード』を渡し、問題なしと返され、礼を言うと、
「そういえば私たち、お金持っていませんよね…。」
菫さんが重大な問題に気付いた。
「…そうねぇ、通貨の名前も知らないし。」
そう、金がない。無一文。大体の異世界に行く小説って日本のお金使えないから、第一の問題としてお金が挙げられるパターンが多い気がする。そのパターンに綺麗に嵌まっているわけなのだけど。
「お前らは一体どこから来たんだ。その服といい、常識の知らなさ具合といい。お前たちの職業は旅人となってはいたが、いろいろ知らなさすぎないか?」
疑問はもっともである。だが、ここで正直に異世界から来ましたと言ったところで頭の病気を疑われるだけだ。だが嘘をついてその場をしのいだとして、今後はその嘘を真実にするために動いていかなければならなくなり、行動に制限がかかる。あと、良心が痛む。
…ここは正直に答えておいて精神異常を疑われるほうがマシか。
菫さんに今考えたことを耳打ちする。少し考えたあと、了承の声をもらったので話すことにした。ほんの十数分間の話を。
「実は私たち異世界から来たの。」
「…申し訳ございませんでした。」
反応は全く予想していないものだった。最初は眉唾な話を聞いているような顔をしていたが、携帯や教科書を見せると申し訳ない、と謝られた。
「え、あ、いや――」
「疑ってすいません。あまりにとんちんかんな事だったもの疑わずには話を聞けませんでした。」
おそらく私たちへの謝罪の言葉と共に頭を下げられた。
えぇ、どう言うことだ。私の予想だとコイツヤベェとかアタマダイジョブ?と言われるのを想定していたから、むしろやりずらい。突然の敬語ほどやりずらいものはない。めんどい。
「とにかく頭を上げてください。」
「———わかりました。」
よかった、頭を下げられたままじゃ話しずらい。菫さん、ナイス。…門番さん、尊敬しています、って視線を向けるのはやめましょうか。
とにかく今、私達は問題が山積みだ。さらにその問題が何がどう問題なのかすらわからないものが多い。やっちゃいけない事とか、常識とかね。ここら辺は後々知識をつけて解決するしかない。
で、だ。今直面している問題は、お金だ。この後入国する流れになると思うのだけど、入国料を取られるはず。しかし、金を持っていない。ここのお金と私たちの使っている円は使えないはず。紙幣を渡しても破られるのがオチだろう。
この世界の通貨を知る必要がある。…門番さんに聞くか、話しずらいけど。
「あー、門番さん。聞きたいことがある——」
「先ほどの通貨のお話でしょうか、私でよろしければ、喜んでお答えします!」
…時間かかりそう。めんどい。
質問を今か今かと待ち構えている門番さんを見て、次は異世界から来た、というのは本当に信頼できる人間だけにしようと、心に誓った。