二話 私、入国審査中です。
「私達の事?」
「はっはっ、他に誰がいるってんだ。実は見えない何かがいるなんて、無しだぜ」
俺幽霊とか苦手なんだよ、と目の前の男性は頭を掻いた。知らんがな。どうやら私たちに用があるようだ。男性の後ろの方に視線を動かすと、中世ファンタジーとかに出そうな鉄の門があった。そしてそこにはもう一人目の前の男と一緒の装備に人が門の左側に立っている。
「それにしてもお前ら、奇妙な格好だな。しかも武器を持っていない。いくらここが『始まりの草原』だからって、危ないぞ」
「あぁ、そうだったんだ」
「そうだったんだって、お前さんよ…」
と、驚かれた。
ほう、この草原ってそんな名前だったのね、って違うわ。実際危なかったとは思う。さっきまで歩いていた所で『危険』に運良く会わなかっただけだ。が移動を歩いていた時、遠目に『緑の子供ぐらいの何か』が五、六体でギィーギィー騒いでいた。棍棒のようなものを振り回し、近くにいた牛達を一発で、一匹一匹、殴り殺していた。あれが私たちに来ていたら、武器も何もない私たちは、なすすべなく棍棒の錆(?)になっていたはずだ。
棍棒がコマ送りのように見えていたから、難しい話なんだけどね。
「まあ、無事ならいい。で、国内に入るんだろう。簡単な入国審査を受けてもらわないと入れれないから、受けてもらうが。…そっちの嬢ちゃん大丈夫か?ずっと口開けてまんまだが」
…まだ戻ってきていなかったのね、菫さん。
「また、やってしまいました…」
ハァと溜息を吐き俯く菫さん。私の中での菫さんの評価は『命の恩人だけどポンコツ可愛い』となっています。株価が急上昇中である。
「まあ、うちの城壁は他と比べてもデカいからな。仕方ねえよ。他にも嬢ちゃんみたいなのはいたからな」
今私たちがいるのは鉄門の中。大丈夫、ワープミスったわけではないので。実は鉄門をくぐると正面に同じ鉄門があり、横に銀行みたいな窓口があってそこで入国審査をするぞい、とのこと。門は綺麗に光をシャットアウトしていて、覗き窓からの光と明かりだけなのでちょっとくらい。
「さて、あんたら『ステータスカード』は持ってるか?」
「「『ステータスカード』?」」
「…待て、知らないのか?」
「もち」
なんだい、そのファンタジーなお名前のアイテムは。私、気になるぜよ。
一方門番さんは驚き、少し待ってろ、と言って後ろの方へ行ってしまった。
「そいつは登録者のステータスを記録することのできる『ステータスカード』だ。このカードを見るだけで種族、職業、犯罪履歴などが簡単にわかる。登録方法は簡単で、血を一滴垂らすだけだ」
あいよ、と一枚ずつ手のひらサイズの何も彫られていない鉄板を渡される。
こやつが件の『ステータスカード』ですか。菫さんの方を見ると、早く試させろと言わんばかりに目をキラキラさせている。表情コロコロ変わるなあ。
少し引いている門番さんからナイフを受け取り、指先を薄く切り、血を落とす。
なんで門番さんは目を覆っているんですかね、ナイフ置いとくよ?
あと菫さん最初じゃないからって残念そうな顔をしない。
カードの表面が波打ち始める。しばらく待っていると波が収まっていくと同時に光を放ち始めた。
目が、痛いですな。というか知ってたな、門番さん。
だんだん光が収まり、元の明るさに戻ったのを確認しカードの方を見ると、そこにはさっきまであったカードが無くなっていた。…なんかやっちゃった?恐る恐る門番さんの方を見る。
「カードが無くなってしまいました」
「いやこれで良いんだ嬢ちゃん。『ステータスカード』は一度登録するとそれ以降は体内から自由に取り出しが可能になる。出すにはカードが出てくるイメージを強く持って『ステータスカード、オープン』と唱えればいい。そうするとこんなふうにカードが出てくる」
呪文を唱えた門番さんの右手にはいつの間にかさっきの鉄板を緑に塗ったようなカードが乗っていた。登録者のなにかで色が変わるのかな。
それにしてもついに来ましたか呪文。ほんの少しずつファンタジーな言葉が出てはいたけれど、ドンと来ましたよ。
さてやってみましょうか。まずはカードが出てくるイメージを強く持つ。出てくるってことはカードが私の体内にあるってことになるけれども、実際体内にあるとすると…大惨事である。
なので別の形に変化した後体内、もしくは私の何かに入っており、カードという形にのみ外に出せるというもの。あとはカード型の何かを実際に出して呪文を唱えて『ステータスカード』というアイテム名を付ける、といった予想。
このどちらかの予想で魔法が発動すればいいのだけど。
まずは一つ目の予想でやってみましょう。
……これどうするんだ。体内のどこかにあるならいいけど、私の体以外、魂とかにあるといわれると、勘でやるしかない。いったんこれはスルーね。
じゃ二つ目でやろうか、これならまだできる気がする。元の世界でマナとかに近いと思う『気』を操っていたことがある。あ、これ独学ね。テストに出ますん。
目を瞑り気を右手に集める。ゆっくりと右手を前に出して手の掌の上でカードの形に気を動かす。そして唱える――
「『ステータスカード、オープン』」
目を開き、掌の上を見る。そこには金で縁取られた黒のカードが浮いていた。
っしゃあ、成功したわベイベー!ヒャーッハァー!
おっと落ち着こうか。初めての魔法が成功したのが嬉しすぎてつい。でも頬が緩むのが抑えれないわ、無理だ。もう少しだから菫さん、待って、
私の『ステータスカード』を取って、何か書かれているか見る。
…?何も書かれてない。
「もしか――」
<<スキル『メニュー閲覧』を獲得しました。>>
…この機械のAIみたいな声は何だ。魂が同化していた時の菫さんみたいに頭の中に響く。
「ん、ああステータスを見たいのか。『ステータスカード』をよく見てたら頭の中に登録者の情報が見れるんだ。」
「いや、…ありがとう。」
「私も登録したいです。」
「おう、すまんな。ほらよ、嬢ちゃん。」
隣で菫さんがナイフを受け取り『ステータスカード』を作っている間にさっきの言葉を考える。
スキル、メニュー閲覧を獲得。
試してみる、か。まずは脳内で『メニュー閲覧』とイメージ。
<<メニュー、オープン。>>
先ほどの声と一緒に目の前に半透明のメニューが。ほう、これは私を混乱させようとしているのかな、ん?
はっはっこんなので混乱するわけがないじゃないですかやーだー。
…二人には見えていないみたい。今は閉じて、あとで調べよう。多分右上の×を押せば、よし消えた。触った感覚があるのが恐ろしいわ。
ついでに私のステータスを確認してみる。
神宮寺文
称号:次元を超えし者
種族:人間
性別:女性
職業:放浪者
犯罪履歴:無し
…これからどうしようかなあ、ホント。