0008ページ『休息』
※『0011ページ』まで投稿していたものを『0007ページ 溢れる疑問』までにまとめています。短いお話を一つにまとめただけですので話自体の削除はしていません。
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ホグゾン家のキッチンは中流貴族の屋敷よりも調理器具が充実している。いや、もしかしたら上流貴族よりも揃っているかもしれない。そこら辺に売っている極普通の釜や分厚い目玉焼きが作れる小さなフライパンもあれば、一人前から百人前の料理が作れる魔法の鍋やプロの料理人が使う物まである。これらの品々は調理を愛したホグゾン家の者達の収集品であり遺品でもあるが、その数は歴代の当主達でさえ把握できずにいる。
そんな大量にある道具の中から使用する物だけを探すというのは手間の掛かる大変な作業である。それが他の家ならばの話だが――――。
ホグゾン家には家宝といわれる品がある。初代当主が手にいれた食器棚だがそんじょそこらにあるものとは大きく異なり、細かな意匠が施された家具は国宝級と言っても可笑しくない見た目をしている。しかし、それだけに価値があるのではない。
使う道具名を呟き、引き出しを開ければそこには先ほど口にした品が現れる。片付ける時は収納し閉めれば消えるという魔法の家具である。
同じ仕組みかは不明であるが同様に収納ができる小さなカバン等は王国内でも取引されている。ただ、見かけよりも大量に持ち運べるだけで数には上限があるのに対しホグゾン家の家宝にはそれがない。それは歴代の収集品が証明している。が、これからも続くかは不明である。
ロイは今、使用する予定がないと思っていた大人数用の道具の数々に感謝していた。ニグルが大食いであることは理解している。故に数より量を重視した結果、台所には大皿に山盛りの料理が三皿できあがっていた。
更に何か簡単な物を作ろうかと思案していれば、バタバタと慌ただしい音が近づいてきた。――――と、思いきや何故か遠のいてまた戻ってくる。
「ご飯~~~~!!!!」
叫んで走ってきたニグルの顔を見てロイは驚いた。
先程までの肌が嘘のように白い肌に変わっていたのだ。まさか汚れで肌の色が変わっているなど予想もしていなかった。
梳かれた髪は腰まであり、まだぽたぽたと水気を含んでいる。身に纏っている生成り色のワンピースは赤い服の下に着ていたものだろう。洞窟で時々スカートの裾から同じ色の布が見えていた。
ちぐはぐに留められたボタンは慌て具合を物語ってくる。
「アレホドイッタノニ体モ拭カズ服モ着ズ上ガッタ途端ニ走リダストハ……」
「あぁ。だから、一回近づいたのに遠のいたんだな。お疲れ様…って、おいっ!」
見れば、ニグルの髪から零れた小さな水滴を覆い隠すように一線の水後がハクの後ろには続いていた。
「そうか~。そうだよな。四足歩行だからタオルなんて使えないよなぁ。あっ、ちょ、待てっ!体の水滴を飛ばそうとするなよ」
「フッ。貴方ノイウコトニ従ウ必要ハアリマセン」
「作った料理が水浸しになって、まずくなってもいいなら俺は何も言わないが?」
瞬間、ニグルが勢いよく振り返りハクを見た。
「………………………………チッ。仕方ナイデスネ」
「乾かす道具は脱衣場にあるから来た水たまりの上を歩いて戻ってくれ」
「フッ。何故、貴方ノ言ウコトヲ聞カナケレバイケナイノデスカ」
「デザート作らないからな」
「ハク兄」
「………………………」
「に、睨んでも同じだぞっ」
「ハク兄!」
「………………………」
大人しくUターンし、作った道の上を無言で歩くハクの後にニグルとロイは続いた。
「しまった。服も洗っておけばよかったな」
「問題ない」
「そうか?でも……そうだな。まるで洗濯したみたいに綺麗だな」
「洗った!」
「ん?」
「この服、特別。脱いで振れば瞬く間に洗濯から乾燥までできる。泥まみれでも一瞬で綺麗」
「ん!?着た者の大きさに変わる魔法の服は知っているが、そんな服があるなんて知らなかった」
「ふふふん。ニグルおしゃれ」
先頭を歩くハクはバッと振り向いた。
誇らしげに言いきるニグルを見て何も言わないが『うちの子、可愛いだろ』と語っているようにしか見えなかった。
一緒に脱衣所に入ると一時間ほど前に案内した時とは打って変わってバスタオルや水滴があちこちに飛び散っている。扉を開けた瞬間目に入ってきた変わりように驚き言葉がでなかったが、最優先すべきはこの光景を作った原因だと思考を切り替え動く。
ニグルに新しいバスタオルを渡し髪の水気をとらせ、ハクには浴室で水を飛ばすように指示した。その間ロイは飛び散った水滴を拭いて片付ける。
改めて身なりを整え終えるとロイはダイニングルームへと案内した。
「お腹減った。何故、さっきの部屋じゃない!?」
「まぁ、そう、慌てるな」
そう言いつつロイが指を鳴らせば十人以上腰かけられる長テーブルの上に一瞬にして三つの山が並んだ。
一つ目は緑色の山に黄色や赤、橙や紫といった鮮やかな色が差し込まれ全体を白いオリジナルドレッシングにより飾りつけられた。特盛り野菜の山。
二つ目は頂上からふわふわとろとろの卵が大半を覆うが麓では橙色のライスが光輝く。特大オムライスの山。
三つ目は見上げるほど積み重ねられた巨大ステーキが肉特有の芳ばしい香りを放ち鼻腔をくすぐる。特大盛り肉の山。――――ならぬ、特大盛り肉の塔。
「どうだ?料理がすぐ出せるように調理場と魔方陣で繋げているんだ。これなら途中で盛り付けを崩すこともなく広い部屋で楽しんで貰えるだろ」
改めて見ると……子どもの食べる量ではない。だが、大人十人いても完食できると思えない特大品をニグルは狼狽えるどころか瞳をキラキラと輝かせて見ている。
「凄い!凄い!!凄いぞっ!!!」
「喜んでもらえて何よりだ」
「食べていい?食べていいよね!?」
「あぁ。冷めないうちに食べてくれ」
「よしっ‼」
はむはむ、むしゃむしゃ、はむはむはむ。
「ニグル、シッカリ噛ンデ食ベナサイ」
はむはむはむはむはむ、むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ、はむはむはむはむはむ。
「うん。うまっ!ウマっ!!ウマいっ!!!ハク兄。お肉、食べる?」
「………………」
「いらない?」
「……。少シダケ頂キマス」
葛藤の末、口にすることにしたハクが気になりそっと窺えば不満はないようでロイは安心した。
「喜んでもらえて何よりだ。肉にはホグゾン家秘伝調合ミックススパイスを使用したため臭みもなく食べることができる。時間がなかった為にもう一手間加えられなかったのが残念だが…………また、同じ食材で料理する機会ってもらえるか?渡された食材の数々は購入したのか?」
「ぅん?買ってない。美味しそうな草があったら採る。肉があったら狩る。また作るなら集める」
「買う?いや、狩るか!?いや、しかし、俺も本でしか見たことないから間違ってるかもしれないが、その…今食べてるのはドラゴンの肉……だよな?」
「よくわかった。一人で散歩してる時にいきなりアースドラゴンが現れた。だから偶然手に入った」
「偶然!?いやいや、偶然の使い方おかしいだろ‼一対一でドラゴンと遭遇したら即逃走というのが一般的な選択だ。その言い方だと『生肉が出現したっ!』と聞こえるんだが、そんなことないだろ。――――言っている自分でもまさかとは思うんだが…………倒したんだな」
「フッ。ニグルノコトガ分カッテキタミタイデスネ」
「ドラゴンなんて出現率は低いが倒すのはAランク冒険者が最低二十人いないと難しいという話だぞ」
「Aランク?」
「あ~。ギルドを知らないのか」
首を傾げるニグルの両手にはナイフとフォークで突き刺された肉が持たれている。先程から顔と似合わない豪快さに苦笑するもロイは話を進める。
「冒険者ギルドといって国を問わずに所属することができる組合がある。入るとA~Fまでのランクをつけられるが、新人はFランクからスタートらしい。詳しく知りたいならギルドの人に聞いてくれ。で、このランク付けはモンスターにも適用されている。A~E級までつけられているが、A級の上にS級、SS級、SSS級というのがある。ドラゴンは最低でもS級だ。同ランク冒険者と同級モンスターが一対一なら互角という目安でクエストを選ぶんだそうだ。ちなみにランクと級で言い方が違うのは紛らわしいからだそうだ」
「ふーん。興味ない」
「まだ短い付き合いだが、そういうと思ったよ」
「ナルホド。己ノ力量二合ワセテ選ブコトニヨリ死亡率ヤクエスト失敗ガ減ルトイウ仕組ミデスカ。人間社会ハ面倒デスネ」
「ハクの方が理解しているというのも変な不思議な感じだな……」
「私ノ名ヲ気安ク呼バナイデイタダキタイ」
「じゃ、なんて呼べばいいんだ?兄様?」
「死ニタイノデスカ」
「すみません。調子にのりました」
「――――マァ、イイデショウ。コレカラ長イ付キ合イニナリソウデスシ『ハク』ト呼ブコトヲ許可シマス。……ハァ。私デナケレバ瞬殺サレテマシタヨ」
疑問形のはずが疑問形に聞こえない上に今まで以上の眼光の鋭さに恐怖を感じた。本能で瞬時に九十度のお辞儀と謝罪を口にしたが、そうしなければ命はなかったかもしれない。自分の咄嗟の対応に内心拍手喝采の嵐が起きていた。
「『私でなければ』って?」
「ソノウチ会ウデショウガ私ノ双子ノ兄ハ気性ガ激シイノデ死ニタクナケレバ言動ニ注意シテクダサイ」
「気を付けるが、もしもの時は助けて欲しい…なぁ」
フッ。
鼻で笑われた現状、期待が出来ないことがわかった。しかし、今は未来に期待するしかない。とりあえず、食事に夢中でなければニグルが助けてくれると信じておこう。
「さて、料理が無くならないうちに約束の品を作りにいくか」
正直このまま話し続けていたかったがそうもいかないらしい。
一つ空になった皿を背にしロイは再び調理場へと戻っていった。
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