0007ページ『溢れる疑問』
こんばんは(*´□`)ノ
目的地に一体どのような用事があるのか思案するも寧ろ疑問が増えていく。入学するために向かっているというのが一番自然ではあるが、それだとまた新たな疑問が生まれてくる。試験は一年に一度行われ今年はすでに終わっている。試験日を間違っているのかそれとも別の用事なのか――――。
グリノワール王立魔導学院の入学試験は王国一のエリート魔導学院というだけありとても難しい。男女共に十四歳以上から受験資格を持てるが、本来であれば合格できないホグゾン家の者が入学を許されているようにいくつかの例外はある。その内の一つに特に秀でた者は年齢や入学試験日を問わずに入学を許可するという制度が存在する。無論、通常の何倍も難しい為、過去を振り返っても片手で数えられる人数しか合格者はおらず皆、後に名を馳せた者たちばかりである。最近の合格者といっても四百年程前に主席卒業した大魔女リリア・ルーナ以来いない。それ程の難関なのである。
実際に魔法を使った所を目にしたわけではないが、ニグルの外見と実年齢が一緒ならば優秀であることは間違いな。通常の試験ならば入学もできていただろう。だが、特例で合格できるほどの実力者なのかと問われればロイでは判断がつかなかった。それに仮に特例制度により入学しようとしてもまたも新たな疑問が生まれてくる。
グリノワール王立魔導学院は全寮制であり王侯貴族であっても入学者は寮に入らなくてはならないと規則で決まっている。入寮時、伴うのが許されているのは使い魔一匹のみでありメイドや執事といった側付きの者たちも連れてくることはできない。どうしても必要なら学生として共に在学しなければならないという徹底ぶりであり、力なき者は学院に入れない仕組みとなっている。これは王国に住まう者ならば知らないはずがない常識である。
つまり料理人と一緒に行こうというのはロイに出会わなければ無理な話であり、またも新たな疑問が生まれる。いくら考えても納得する答えは出て来ない。
ふと顔を上げれば、いつの間にか真横にはハクがおり顔を覗き込んできていた。その近さに驚いたものの目が合うとハクはすぐに顔を離した。
辺りを見ればいつの間にか荷物は片付けられていた。残っているのは焚火の後だけである。
「サテ、料理人モ見ツカリマシタシ貴方ノ体調二問題ガナイノナラソロソロ出発シマショウカ」
「ちょっと考え事をしていて気づかなかった。手伝わずにすまない」
「私の荷物。だから気にするな」
「ありがとう。…………教えてほしいんだが、学院に行く理由は何だ?入学試験も終わっているのに目的がさっぱりわからない」
「別ニ我々ハ試験ノタメニ向カッテイルノデハアリマセン。色々質問シタイコトガアルノハ分カリマスガ、トリアエズ今ハココカラ離レルコトガ先決デス。次ノ休憩場所……近クニ町ガアッタハズデスノデソコニ着イタラ貴方ガ聞キキタイコトヲ可能ナ範囲デ答エマショウ」
「この近くといえば俺の実家がある町だ。散らかしたまま来てしまったから汚いが気にしないようならそこで休憩しないか?」
「ソノ申シ出ハアリガタイノデ、オ言葉ニ甘エサセテ頂キマス。……トイウコトハ、アノ干シ肉ハマダ町ニ――――リュゼリア領ノ自宅ニアリマスカ?」
「まだ完成してなくて置いてきた分はあるが…………。それがどうかしたのか?」
「コレハ行ケルカモシレマセンネ。ニグル、アノ干シ肉ガマダアッタラ欲シイデスカ?」
ニグルは少し離れた場所で一人フードを整え身だしなみを整えていた。
「ロイの肉?今、お腹いっぱい。けど、欲しい」
「別にやる分にはいいがまだ完成してない状態の肉だぞ」
「くれるのか!ありがとう。問題ない」
「ニグル。コノ男ノ家ニマダアルソウデス。条件モ多分、揃ッテイルト思イマス。三人デスガデキマスカ?」
「うん!お腹いっぱい。大丈夫」
ニグルは背負おうとしていた大きな本を地面に置いて、ページを開いていく。そんな彼女の傍にハクは寄る。好奇心に勝てなかったロイもまた同じく近寄って本を覗き込んだ。
「???何をしようとしている?」
「目ヲ瞑ッテオイテ下サイ。イイトイウマデ決シテ開ケテハイケマセン。サモナケレバ命ノ保証ハデキマセン」
ハクを見れば既に目を閉じていた。ロイはいう通りにした。
「我が半身である汝に命じる。ニグルの名の元、我が願いを叶えよ。『刹那の旅人』」
瞬間、目を閉じていても分かるくらいの光に包まれたがそれはだんだん弱まっていく。
通常の明るさに戻った頃に声を掛けられ目を開けると、そこにはロイのよく知る光景が広がっていた。先程まで洞窟にいたのに今は自宅の台所にいる。
「!!?これは一体……。あれは魔導書だったのか?いや、だが、あの大きさ……それに呪文が……くそっ。わからん。一体どういうことだ」
「約束通リ答エラレル範囲デオ話シシマスガ、トリアエズオ茶ニシマセンカ」
グゥ~~~~~~~~~~~~~。
つい先ほど『お腹がいっぱい』と言っていたのが嘘かのようにまたしてもニグルのお腹は鳴った。まるで賛成と言っているようなタイミングの良さに空気を読む別の生き物ではないのかとなかば本気で思ってしまう。短い時間ではあるがニグルのお腹が減った状態ではハクが話してくれないのはわかっている。
時計を見ればおやつの時間だ。すぐに用意できる物ならばお菓子がある。さっそくロイはティータイムの準備に取り掛かった。
戸棚から茶器を取り出す際に他の食器が目についた。使い慣れた皿の数々。小さな傷やかけ具合がここが自宅であると立証してくる。
だが、瞬間移動など夢物語級の魔法である。実在するなど聞いたこともないのに経験までしては先程から思考が追い付かずロイの頭はクエスチョンで一杯であった。
作りおきしていたクッキーを山積みにしトレーに乗せる間、ニグルとハクは出入口近くの床に座り込み大人しく待っていた。その間、お腹だけはひたすら喋り続けている。
準備が終わり客間に案内しようと出入口に近づく途中でロイは足を止めた。思わず顔をしかめてしまったのは仕方ないだろう。今まで寒さで鼻が麻痺して気づかなかったが、ニグルとハクから野性味溢れ過ぎる臭いが漂ってくるのだ。
「ちょっと聞きたいんだが……」
「ん、何だ?私の食事より大切なことか?」
「折角見ツケタ料理人ガイナクナッテシマウノハ避ケタイデスネ。命ガ惜シイナラ話ノ前二手二持ッテイル品ヲニグル二渡スコトヲオ勧メシマス」
ただならぬ雰囲気を感じハクが冗談で言った訳ではないことはわかる。素直に息を止め手渡すと再び先程の位置に戻った。
渡した途端にニグルは凄い勢いで平らげていく。
その姿を見てロイはまるで野生動物の世話をしているような気分になってきた。だが、思ったことをそのまま口にすれば横にいる本物の獣に何されるかわからない気がしてならなかった。
「…………。風呂に入ってないのか?」
「風呂なんて嫌いだ」
「…………。つまりしばらく入っていないということだな?」
「ソウデスネ。本来デアレバ積モッタ雪デ綺麗ニスルハズデシタガ吹雪イテイマシタノデ結界ヲ張ッテカラソノママデスネ」
「よしっ!風呂に入るぞ」
「嫌だ!!!水なんて嫌いだ」
「―――――――風呂に入っている間に食事を用意しておくといえばどうだ?正直な話、お前たちがいるとその匂いで料理もちゃんと作れないんだよ」
「食事!用意!!本当だな!?」
「あぁ、嘘なんかつかない」
「わかった。入る」
「ちょっと待て。湯を溜めてくるから」
ニグルの操作方法はわかってきたが隣にいるハクの顔が険しくなってきている気がし急いでその場を離れた。
準備を終えて戻ってくれば大量にあったクッキーは一欠けらも見当たらなかったが、その変わりに大量の食材が置かれていた。
「全テスキニ使ッテモラッテケッコウデス。礼モ言ワナクテケッコウデス」
礼を言えば噛み砕くと語る眼力で睨んでくるが用意して貰った身としては大変助かる。冷たい態度ではあるがこんなことをされては一連の行動が可愛く思えて仕方がない。その為、笑いそうになり素っ気ない返事をするのが難しかった。
風呂場に案内し、一応お湯の出し方等を説明する。
「ここを押すとお湯がでるから、自分にいい温度に合うように調整してから使ってくれ」
「温かい!?水じゃない。水じゃない」
「冷たい方がいいのか?」
「違う。温かい水、浴びたことない」
「はぁ!?」
「マァ、森デノ暮ラシデスカラネェ」
「これならお風呂嫌わない」
「そりゃ~今までの風呂が寒い中での冷たい水浴びなら……好きになんてなれないよなぁ。って、まだ服脱ぐな!!」
急いで服を脱ぎ出すニグルの行動に驚くもロイは慌て背中を向けた。
耳まで真っ赤に染めたロイの背中をニグルは首を傾げて見つめる。その光景を横目にハクは溜め息をついた。
「ニグル。レディガ男ノ前デ裸ニナロウトスルモノデハアリマセン」
「何故だ?ハク兄も雄」
「私ハ例外ダカライインデス。人間ノ男ガ問題デス」
「???よくわからないがわかった?」
「ニグルニハ羞恥心トイウモノガアリマセンカラ仕方アリマセンネ……トイウ訳デ急イデ料理ニ向カッテ下サイ。ア、着替エハ大丈夫デスガタオルダケ用意シテモラッテイイデスカ?」
「わ、わ、わかった。あ!?体を洗うのは緑の瓶。髪は黒い瓶を使ってくれ。じゃ、料理しに行くけど何かあれば呼んでくれ。タオルはあとでそこに置いておく」
伝えるべきことだけ早口でいうとロイは慌ててその場からいなくなった。
お読み頂きありがとうございました(*´ω`*)
呪文は造語ですので悪しからず!
刹那の旅人→瞬間(ロシア語)、旅人(現代ギリシャ語)




