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0005ページ『青年と少女と悲報』

こんばんは!

 「食われるぞーー!!」という声が洞窟内に反響する中、青年と少女は見詰め合う。――――が、次の瞬間には少女は思いっきり頭突きを食らわせていた。


 「痛っ!!」


 「命の恩人に対して失礼っ!!」


 「え?…え?……え?」


 あまりにも間抜けな声であるが今しがた目覚めたばかりでは仕方がない。額を押さえのたうち回る姿は実に痛そうに見えるが、この動きに他の意図があるなど仮に大勢の人間に囲まれていたとしても勘づく者はいないだろう。

 痛みは確かにある。しかし、それが今だ生きている実感をひしひしと伝え思考を冷静にさせていく。体の具合を確認しつつ状況を整理する脳内では先程の会話が流れていた。とりあえず凍死は回避したが、これから危害を加えられる可能性もある。いざとなれば逃げださなければならない覚悟を決め青年は回想する。

 身の危険を感じ飛び起きてみれば、そこにいたのは十に満ちるかというくらいの赤茶髪のおさげの少女であった。凍死せずに済んだのは喜ばしいが、いくら目を瞑っていたとはいえ倍近く年が離れているだろう子に恐怖を感じたのは恥ずかしい。しかし、その少女が寝込んでいる男の腰に触れているのは疑問である。先程、感じた温もりの正体はわかったがやはりこの状況は理解できず青年は困惑するばかりであった。


 「お腹が減ったから食べようとしただけ」


 「俺を?」


 「なんで、その考え?手持ちのお肉を焼いたけど失敗した」


 少女がフライパンに目をやると青年も同じく視線を送った。灰と化した物体が何であったかは言われなければわからない。どうやってこんなにしてしまえたのかこれまた理解できず眉間の皺が深くなる。


 「……で、最終手段をとることにした。本当は了解を得るために目覚めるまで待つつもりだった。でも、我慢の限界。お前の荷物から食料を取ろうとした。ハク兄がお肉の匂いがするっていってたからその中にあること確実」


 確かに腰に下げたポーチには干し肉が入っていた。しかし、それが人の嗅覚でわかるかといえば新たな疑問が青年を襲う。


 「ハク兄?」


 「あぁ!自己紹介まだだった。私、ニグル。あっちがハク。私の兄」


 「っ!!?白い狼!?兄!!?」


 紹介された先には人よりも大きい白狼が青年を睨みつけていた。


 「ジロジロ見ナイデイタダキタイ。不愉快デス」


 「しゃべった!!?」


 「ハク兄しゃべるの当たり前。自己紹介した。状況も説明した。もうお肉貰っていい?」


 説明することなく事実のみを言われても困るだけだが、下手に質問して不快感を抱かせても得策とはいえない。下手したら新鮮な食料になってしまう可能性だってあるのだから。

 金狼帝はその名の通り美しい金毛の狼だという。人の言葉を理解し話すという彼の息子だとするのが一番納得できると青年は結論づけた。


 ググ~~~~~~~~~。


 ニグルのお腹が鳴り響き催促する。


 「あぁ!失礼した。俺の名前はロイ・ホグゾン。助けてもらって感謝する」 


 挨拶しつつロイはポーチごと手渡した。ニグルは大急ぎで中身を取り出し干し肉に次々噛みついていく。その勢いに驚きつつもロイは落ち着かない。先程までは凍死しそうだったが、今は狼に食べられる可能性がでてきた。とりあえず満腹にしておけば安全かと思いニグル経由で伝えるが断られてしまった。どうすれば食べてもらえるかと思案するが一向にいい案がでてこない。


 「……サッキカラソワソワシテ落チ着カナイ人間デスネ」


 食料として心配されているかはさておき、嫌悪されていると思っていたロイにとってはハクから声を掛けてくるとは予想外だった。


 「チラチラコチラヲ見ナイデイタダキタイ。貴方ヲ食ベル気ハアリマセンカラ安心シテ下サイ。ソモソモソノツモリナラ目覚メナンテ待タズニ最初カラ食ベテマスヨ」


 確かにその通りである。いつもなら冷静に対応できることも今は驚きの連発で整理できない。だが、口では悪態をついていても気を配ってくる様が人間みたいで可笑しくてつい笑ってしまう。


 「くくっ。失礼した。確かに言う通りだ。改めて礼を言わせてくれ。俺をここまで運んできてくれてありがとう」


 初めて言葉を話す狼に会ったというのに早くも慣れて会話をしている自分がロイは可笑しかった。元々は金狼帝に会う心づもりでいたのだ。その予行練習だと思えばたいしたことではない。

 しかし、途端にハクは不機嫌になった。


 「勘違イシナイデイタダキタイ。貴方ヲココマデ運ンデ来タノモ瀕死ノ状態カラ助ケタノモ全テニグルガシタコトデス。私ハ何モシテイマセン」


 「彼女が!?嘘だろ!!?この体格差で俺を運ぶなんて――――魔法か!?しかし、回復状態からしてこっちには高位回復魔法を使っているんじゃないか?――――いや、まだ子どもなのにそんなことできるはず……」


 実際に助けられた身としては「ない」とは言い切れなかった。

 グリノワール王国において平民の呪文所持数ニに対し、貴族は三が普通である。更にいえば、身分に関係なく優秀な者しか入れないとされるグリノワール王立魔導学院の卒業生でさえ呪文所持数四の者は百年に一人の逸材といえる。大半の者は三であり、これだけ聞くと貴族と学院生の所持数が同じでありながら優秀と言われことに疑問を持つ者もいるだろう。しかし、これには歴然とした威力の差がある。魔法の威力は下から低位魔法、中位魔法、高位魔法と三段階で評価される。そもそもグリノワール王立魔導学院とは所持する魔法をより強くするために創立された学院であり、魔導を極め魔法をコントロールするというのが学院の考え方だ。

 ニグルの力全てを図ることはできないがロイの状態を見るに瞬時に回復したことが容易に考えられる。先程、懐中時計を確認したが気を失ってそれほど経ってもいなかった。高位魔法が既に使えるのならば、彼女の実力はグリノワール王立魔導学院に在籍していてもおかしくないと断言できる。

 ロイが改めてニグルを見ると、彼女もこちらを困った顔で見ていた。


 「?」


 何故そんな表情をされるのかわからない。


 「無くなった…」


 何を言われたのかわからず、首を傾げる。


 「無くなった。干し肉」


 再び言われた言葉にロイは思わず目を見開いた。手渡したポーチに入っていた干し肉は三ヶ月分である。好きなだけ食べて貰っていいと思ったからそのまま渡したが、まさか完食してしまうとは思ってもみなかった。助けて貰った手前文句は言えないが困った。この雪で食料不足は由々しき事態である。


 「一度家に戻るしかないか。それよりそんなに食べて腹は大丈夫なのか?」


 「まだ、お腹減ってる」


 「……」


 言葉がでないとはまさにこのことだった。横目でハクを見るが呑気に欠伸をしている。


 「ニグル、マダサッキノ肉ガ残ッテマスヨ」


 「……ロイ・ホグゾン。お前、料理できるか?」


 ニグルはフライパンの近くに置いた生肉を指差し問いかける。

 あの豪雪ならしばらくは止まないだろう。ならば返答は決まっている。


 「あぁ!俺の一族は料理が得意なんだ。調味料もあるから安心して任せろ」


 ロイは早速、調理に取り掛かった。放置されたフライパンを綺麗にするとバックからいくつかの小瓶を取りだし肉にかけ、焼いていく。

 途端、美味しそうな匂いが辺りに漂った。すぐに一つでき上がり、また新たに焼いていく。その間ニグルには完成した肉を渡した。


 「うまっ!何これ何これ!!?お肉だけどお肉じゃない!!!」


 「ニグル、落チ着イテクダサイ」


 「だって、だって!ハク兄も食べてっ!」


 ニグルはハクの口に調理したばかりの肉を半ば無理やり詰め込んでいく。


 「!!?……確カニ美味シイデスガ…………貴方ハドコニ行クツモリダッタノデスカ?」


 突然話を振られたロイはまだ肉を焼いており目を離さず答える。


 「金狼帝の森だ」


 「何ヲシニ?」


 「数年前に金狼帝の森に行くという置き手紙だけを残していなくなった伯父に聞きたいことがあり探しに来た」


 「伯父ノ名ハ?」


 「何故そんなことまで聞く?」


 調理が終わったロイは顔を上げ、訝しんで質問をした。


 「私タチハソノ森カラ来マシタ。言ッテ損ハナイト思イマスヨ」


 「ガウディッド・ロベグール・ホグゾン。それが伯父の名だ」


 「ヤハリアノ男ノ血族デスカ」


 「え!?ハク兄、知ってるの!!?」


 「……ニグル、何ヲ言ッテイルンデスカ。貴女モヨク知ル人物デスヨ」

 「え?そんな名前の人間なんて知らない」


 ロイは横目でハクを見るがその眉間には皺がよっておりニグルの言葉を不思議がっているのがありありとわかった。


 「――――アァ。ソウイエバ、愛称デ呼ンデイマシタカラ知ラナイノモ仕方ガアリマセンネ。ガンジィノコトデスヨ」


 「えっ!?ガンじぃ!ガンじぃの血縁者だったのか!!なんだ、なんだ、そうだったのか」


 ニグルは一人納得しロイの背中をバンバン叩く。

 痛みはないが急に親密度が増した年下からのスキンシップにロイから苦笑が漏れた。だが、とりあえず今はそんなことより情報を得る方が先決だ。


 「叔父のことを知っているなら居場所を教えてほしい」


 「別ニイイデスガ行ッテモモウ会エマセンヨ」


 「何故だ?」


 「数日前ニ亡」


 「何だと!?」


 「病気デシタ。私タチノ旅ノ目的ノ一ツハ親族ヘノ報告デシタノデ、コレデ一ツ達成デス」


 予測していなかった言葉にロイは言葉を失った。


 「遺体ハ本人ノ希望デコチラデ火葬シマシタ。灰モ残ッテイマセン。アト一ツ頼マレタノガ一族最後ノ一人ニ遺品ヲ渡シテホシイトイウコトデシタ。――――ニグル渡シテ下サイ」


 ニグルはハクが持っている荷物の中からをいわれた物を取り出しロイに差し出した。渡れたのは幼き頃に何度も目にしたことのある叔父がいつも身に付けていた品だった。この世に一つしかないホグゾン家の家宝にして当主の指輪。

 受け取った黒い石がはめ込まれた仰々しいシルバーリングは無機質な冷たさを放ち持ち主がいないことを伝えてくる。

 じわじわと体温を奪い熱を持っていく指輪と同じくロイは徐々に叔父の死を受け入れた。そうして、頬に何度も流れる温もりを感じながら唯一の肉親を弔った。

お読み頂きありがとうございました!

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