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0003ページ『空腹』

こんばんは!

 パチパチと小気味いい焚き火の音が洞窟内に響く。

 先程まで瀕死の状態だった男は今は嘘のように寝息をたてている。ニグルとハクはとりあえずこの男の目覚めを待つことにしたが、ここで問題が一つ。ニグルはもう我慢の限界であった。先程からお腹が存在感をこの上なくアピールしてくる。


 グ~~~~。グ~~~~~~。グ~~~~~~~~。


 「ハク兄。もう無理~。お腹が減りすぎて自我を保てない~~。に~く~、に~く~、お~に~く~」


 「……干シ肉ハモウアリマセンガ、生肉ナラアリマス」


 「生肉……。私、焼かないと食べれない?」


 「ソウデスネ」


 即答されたニグルが怨めしげに睨むとハクは耐えきれずに言葉を紡いだ。


 「急ナ出立ダッタノデ作リオキシテイタ干シ肉ガソンナニ無カッタノデス。アト少シデ近クノ領地二着ク予定デシタシ……」


 「はぁ~。仕方ない。焼く。……お肉、どこ?」


 「痛マナイヨウニ保冷ポシェットニ入レテイマス。コレニ入レルト1ヶ月ハモツソウデス」


 「へ~。でもハク兄、荷物持ってない」


 「邪魔ナノデ直シマシタ」


 ハクが短く吠えすると目の前に横長く白い書が現れた。

 宙に浮かぶ本は横30㎝、縦10㎝程の大きさである。よく表装を見れば白地に斑紋のある大理石でできていることがわかる。細やかな彫刻が施され、美術品といっても過言ではない。その中央には金字で『白銀の書』と書かれている。


 「汝ノ主、ハクノ名ニオイテ命ジル」


 空中に浮かんだ本はパラパラと勝手にページをめくっていく。


 『時の扉(テュラノス)


 呪文を唱えるとあるページを開いたままピタリと静止し光りだす。

 瞬間、中からポシェットが飛び出してきた。

 主の願いを聞き、役目を終えた魔導書は未だに宙に漂っている。まるで、忠犬のようだがハクがまた吠えると一瞬にして姿を消した。


 「ハク兄の魔導書、相変わらず綺麗」 


 「使エル魔法ハコレダケデスガネ」


 「旅には便利だからいい。私がいるから困ることない」


 「逆ニ困ルコトガ増エナイヨウニ願ッテマス」


 「むっ、失礼!まっ、安心して旅を楽しもう」


 ニグルはポシェットを拾い中身をだす。中から布に包まれた肉を出しながらその鮮度に感心する。


 「よくこんな物が家にあった」


 「借リマシタ。チナミニ必要二ナルダロウトフライパンモ持タサレマシタ」


 「さすが、ベルじぃ」


 「横二キーホルダーガツイテイマス。ソレノ取ッ手ヲ持ッテ三回振ッテ下サイ」


 ハクのいう通りポシェットには手のひらサイズのフライパンのキーホルダーがついていた。ニグルは言われた通り取っ手を持ち振ると人が使えるサイズに変化していった。


 「凄い!凄い!!凄い!!!何これ、何これ」


 「旅人用ノ調理道具ラシイデス。ニグル振リ回サナイヨウニシテ下サイ」


 振るたびにフライパンは小・中・大・小・中・大と大きさを変えていく。一時的にニグルのテンションは上がったが、お腹は以前と催促の抗議を忘れなかった。


 グ~~~。ググ~~~~~~。ググググ~~~~~~~。


 「……焼こう」


 お腹に促され、ニグルは肉を焼くことにした。


 「ハク兄。火力弱い?」


 「料理ナンテシタコトナイノデワカリマセン」


 「私もベルじぃに任せっぱなしだったからわかんない。マッチの火じゃダメなのかなぁ。でも、おいしい匂いもジュ~~~っていう音もしない。……仕方がない。使うか」


 ハクが止める間もなくニグルは火の魔法を使った。


 「あーーー!?私の、私のお肉が~!!」


 「ニグル。落チ着キナサイ」


 「だって!だって!!」


 視線の先には見るも無残な肉がある。正確には肉だった物であるが、今はフライパンと同色の炭と化していた。


 「ソウナル運命ダッタト諦メナサイ」


 「嫌っ!まだ食べてない。こうなれば、あの男の――――」

お読みいただき、ありがとうございました!


時の扉(テュラノス)→クロノス(時の神)テュラー(古代ギリシャ語)

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