0001ページ『彼女』
白。白。白。
地上に積もった雪と新たに降る雪は強風により混ざり合い上から下まで一色で覆われている。
そんな中、鮮やかな赤を身に纏った少女は歩む。その姿はまるで白紙の上に落とされた血のようで目を釘付けにされるが、注目すべき点はそこではない。防寒具など一切纏わずフード付きワンピースだけで銀世界を歩く姿は目を疑ってしまう格好である。しかも荷物は背中が隠れる程大きな本を鎖で縛り背負っているだけだ。明らかに雪山を舐めているか自殺願望者としかいえない装備である。
「ハクにぃ~。お腹減った!もうダメ!!乗せて~」
隣を歩く白狼の毛は雪と同化するほど美しい毛並みをしている。そんなハクの体毛を無遠慮に引っ張り、少女は大人の男性を三人位乗せれそうな背中にうつ伏せに乗った。
「どこかで休も~」
「ニグル。ソノママ顔ヲ伏セテイナサイ。近クニ洞窟ガアルノデソチラニ向カイマス」
とりあえずハクは休息をすべく進むことにした。
しばらく歩くと先ほどまで吹雪いていた雪は嘘のように落ち着いた。しかし、だからと言ってニグルが歩き出す気配はない。ハクの背中にしっかりしがみつき一人気楽に雪景色を眺めている。
「二グル。向コウカラ肉ノ匂イガシマス」
グ~~~~~。
鼻をひくつかせながら話すハクに対し二グルはしゃべるより先にお腹の音で返答した。
「ハク兄、お肉~。おいしいお肉~」
「今、匂イノ元二向カッテマス」
「お肉、お肉、おいしいお肉~♪」
「……二グル。少シ静カニシテホシイデス」
「お肉が私を呼んでいると思ったらついつい。あ、ごめん。ハク兄の毛にヨダレついた。でも、凍ったから大丈夫」
ハクは少しだけ顔を振り向かせ睨むが、ニグルは悪びれもせずただ笑顔を返してきた。これにハクは弱かった。反論する気も失せ、ため息をついて何でも許してしまうのがいつものパターンだ。
「ハァ~。後デ綺麗ニシテ下サイネ」
「え~。大丈夫。ハク兄の毛、白いから輝いて綺麗に見える」
反省していない態度にもう一睨みすると観念したように今度はニグルがため息をついた。
「はぁ~。わかった、わかった」
そうこう話している間にもハクは地上に鼻を近づけ匂いの元を追っていたが、しばらくすると歩くのを止めた。
「ニグル。コノ男カラ肉ノ匂イガシマス」
「え?」
ハクの背中から身を乗り出し覗き込むと前足の近くには半分以上を雪で覆われた一人の人間が倒れていた。防寒された格好からは見ただけで性別は分からないが、どうやら匂いでかぎ分けたらしい。
「まさか、その死体のおいしい香りとかいわない?さすがに生肉は勘弁」
「!?人肉ヲ食ベル気デスカ!?」
「いや、食べないよ。本で共食いは病気になる可能性があるって読んだ。……ハク兄は食べない?」
「道徳的二問題ダト思イマスヨ。私ハ食ベマセン。ニグルノ同族ヲ食ベレマセン」
狼であるハクが人であるニグルに道徳を説くのもおかしなことであるが、言われた本人は首を傾げている。
「コノ男ノ持ッテイル荷物ノ中ニ干シ肉ガアルト思イマス」
そういいつつハクは男に積もった雪を鼻や前足を器用に使い払っていく。その過程でハクはあることに気付いた。
「ニグル。……微弱デスガマダ生キテマス。ドウシマス?」
「え~、めんど~。けど、仕方ない。助けてあげる。もしかしたら、私の求め人かもしれない」
「ソレハ勘デスカ?」
「うん、そう」
「デハ助ケナケレケバナリマセンネ。ニグルノ勘ガ間違ッタコトハアリマセンカラ」
ニグルはハクの背中から降り、瀕死の男に近寄った。
「じゃ、ハク兄。背負って」
「嫌デス」
「なんで!?」
「人ノ香リナンテ体ニツケタクアリマセン」
「私、乗せてくれる」
「ニグルハ特別デス」
「……仕方ない」
ニグルはおもむろに背中に背負った本へと手を伸ばした。
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