『時守の森に初雪が降った日』
クリスマスということで……
ーー季節は冬。
時守の森に昨晩遅くから降り始めた雪は、一夜明けた今朝、太陽の光をキラキラと反射する、一面の銀世界を作り出していた。
「おお~!雪だー!クイド、ヴェン、こっちこいよ!」
初雪にはしゃぎ回るカイルは、大声をあげて二人を呼ぶ。
「……。なんであいつは、あんなに元気なんだよ…うぅ、さみぃ」
「…子供は風の子と言うだろう」
「意味が違ぇよ、ヴェン」
積もった雪を見た途端に、ろくな防寒具を持たずに飛び出していったカイルに、呆れた溜め息をついたクイドとヴェンは、塔の暖炉で暖をとっていた。
「おはようございます、皆さん」
「ん?ああ。おはよう、嬢ちゃん」
「…お早う、お嬢」
扉を軋ませながら、部屋に入ってきたアリアは、部屋の中を見て首をかしげた。
「?…あの、カイルさんは?」
「ん、アイツなら、あそこにいるぜ」
ほら、と顎で窓の外を指したクイドは、呆れた顔だった。
「…何か、カイルに用か?」
「いえ、そうじゃなくて…。
皆さん、今日はなんの日か知っていますか?」
ヴェンの問いに即答で否定したアリアは、どこか機嫌良さ気に尋ねた。
そしてーー
「いや……。なんかあったか?」
「…特段、なかったと思うが」
クイドとヴェンの答えに、衝撃を受けた。
「ま、まさか…。今の世の中では、『クリスマス』はないというの……!?」
「「『クリスマス』…?」」
崩れ落ちたアリアに、首をかしげた二人。
その態度に、嘘ではないと感じたのだろう。
アリアは、普段のキャラとはうって変わって、マシンガンのように話し出した。
「『クリスマス』ですよ!夜の間に、赤い服を着た『サンタクロース』っていう白いひげのおじいさんが、世界中のいい子のお家にプレゼントを届けにくるんです!子供達の一大イベントじゃないですか!」
「『サンタクロース』…?何故プレゼントを…?」
「…子供にプレゼント…。子供好きなおじいさんなのか?いや、そもそも世界中にプレゼントを届ける…?可能なのか…?」
「いや、そもそも『クリスマス』とやらがどうかしたのか、嬢ちゃん?」
クイドに話しを振られたアリアはーー。
あまりにもいい加減な大人達の様子に、キレかけていた。
「ふふ、ふふふ。うふふフフフフ」
「じ、嬢ちゃん?」
「そうよ、『クリスマス』を知らないなら、知ってもらえばいいんじゃない。
私ったら、何を迷っていたんでしょう」
「…お嬢?冷静に、な?」
「十分過ぎる程に冷静ですよ?うふふフフ」
アリアが暴走しかけた、その時。
「おーい、アリアちゃんもこっち来いよー!」
「はっ!わ、私は何を…?」
「でかした、カイル!」
「……ふぅ。」
カイルの声に正気に戻ったアリアは、外を見て歓声をあげた。
…その際、やたらと疲れているクイドとヴェンが居たとか。
「わぁ!雪が、また…!『ホワイトクリスマス』ですね!」
「ん?あぁ、また降ってきたのか…。
通りでさっみぃわけだ。」
「…『ホワイトクリスマス』とやらが何の意味かは知らないが…。お嬢が嬉しそうなら、それでいい」
「……。ヴェン、それ意味判って言ってるのか?」
「……?」
「天然かよ…」
「うー、楽しかったー!」
「うぉ!おまっ、カイル!体冷え過ぎだ!」
外からやっと帰ってきたカイルの体は冷え切っていて。
それに気付いたクイドは、暖炉の前にカイルを座らせ、毛布を被せた。
「クイドさん、お風呂沸きましたよ。
はやくカイルさんを…」
カイルが戻って来てから、速攻で部屋から出ていったアリアは、カイルのためにお風呂を沸かしに行っていた。
「あぁ。ありがとうな、嬢ちゃん」
「お安い御用です。
…あ、ヴェンさん」
「…何か、用か?」
クイドがカイルを風呂場に連れて行ったのを見届けたアリアは、一人残ったヴェンに向き直った。
「申し訳ないんですが、薪割りお願いしても良いですか?お風呂沸かしたら、なくなってしまって…」
「…構わない」
「ありがとうございます」
申し訳なさそうなアリアに、ぶっきらぼうに返したヴェン。
しかしアリアに頼られたからか、その顔はどこか嬉しそうだ。
頭を下げたアリアに首を横に振ったヴェンは、腰を折って頭を下げた。
「…礼を言うのはこちらだ。風呂、感謝する」
「はわわ…。あ、頭を上げてください!大したことじゃありませんから…!」
頭を下げたヴェンに動揺したアリアは、ヴェンの頭を上げさせると、部屋から追い出した。
「ふぅ。……さて、急がないとね」
一人部屋に残ったアリアは気合いを入れると、素早く動き始めた。
「ん、よし」
十数分後。
部屋は、まったく別の部屋のように様変わりしていた。
部屋中に装飾が施され、主に赤と緑、稀に白を使って飾られたその部屋の中心には、大きなモミの木。
これでもかという程飾られたモミの木のてっぺんには、黄色い大きな星の飾り。
そう。
「『クリスマスツリー』完成ー!」
ふぅ、と息を吐くアリア。
部屋を見渡し、満足気に頷く。
そしてーー
ギィィィーー
バァン
「ぅお!?」
「ッ!?」
「…!!」
三人が帰ってきて、部屋の扉を開けた、その時。
暗い部屋の中で、何かが破裂する音が響いた。
それぞれ反応した三人は、音の発生源ーーアリアを見た。
「ふふっ、『メリークリスマス』!
皆さん、今日は楽しみましょう!」
その声と共に、部屋に灯りが灯される。
思わず息を呑んだ三人。
目の前には、装飾が施されて様変わりした部屋の中。
置かれていたテーブルにはテーブルクロスが掛けられ、その上にはーー
「いただきまーす!」
「やめんかバカイル!!」
「っ、痛ってー!」
「…自業自得だ」
なんてコントが直ぐ様繰り広げられた程の、数々のご馳走。
全員が用意されていた椅子に座り、これまた用意されていたワインの入ったグラスを掲げる。
「それでは……『メリークリスマス』!」
「「『メリークリスマス』!」」
「…『メリークリスマス』」
『メリークリスマス』の意味を理解していない三人だが、楽しげなアリアの様子に、空気を読んだらしい。
部屋の中に、グラス同士が微かに触れ合う音が響いたーー
そこから先は、よくあるクリスマスパーティーと同じ。
「こら、バカイル!俺の肉盗るんじゃねぇ!」
「はぐはぐ…」
「クイドさん…。私の分のお肉、あげようかな…?」
「…放っておけ。いつもの事だ」
「ふふっ。そうですね」
楽しげな声が、止むことなく響いていた。
ーーその後。
カ「はぐはぐ…。ん?あれ?」
ク「どうした、バカイル」
カ「いや……。シスターは?」
ア・ク・ヴ「「「…………あ”」」」
シスター「今頃、皆さんは楽しくパーティーをしているのでしょうか……」
そう言って、肩を落としたシスターがいたとか。
……シスター、影薄すぎ!