『もし彼らがアリアの料理を食べたら』
三人称に挑戦。
グツグツ…
丁寧に下拵えされた食材が、美味しそうなシチューになって煮込まれている。
石造りの塔の厨房には、美味しそうないいにおいが漂っていた。
「…よし。完成!」
厨房で満足気な声をあげるのは、エプロンを着けたアリア。
その手に持っているのは、お玉。
シチューを作る手際は文句の言いようがない程、手慣れて無駄がなかった。
「皆さーん、できましたよー。」
「りょーかい、今行く!」
聞こえてきた足音は三人分。
言わずと知れたクイド、カイル、ヴェンのものだ。
アリアはエプロンを脱いで畳み、上機嫌で鼻唄を歌っていた。
ギィィ…
扉が軋む音にアリアが目を向けると、三人の姿。
待ちきれないといった様子の三人(特にカイル)に苦笑したアリアは、湯気のたつ美味しそうなシチューを、机の上に置いた。
「おー!旨そう!」
「…頂きます。」
「悪いな、嬢ちゃん。」
「気にしないでください、クイドさん。…いただきます。」
手際よく四人の前に置かれたシチュー。
美味しそうな香りのするそれを、四人は食べ始めてーー
悶絶、した。
「!?ごふっ…。辛れぇっ!?」
「!?げふっ…。苦っ!?」
「!?…けほ…。これは…甘い…いや、酸っぱい…?」
…どんな味なのか、非常に気になるが…。
食べたいとは思えないな…。(←酷い)
「あれ?皆さんどうしました?」
「嬢ちゃん!?なんで平然としてるんだ!?」
ただ一人を除いて。
結局、アリアの料理は即刻三人の手によって処分された。
今四人は、カイル(実は料理上手。)の作ったグラタンを食べている。
「そんなにダメでしたか?あのシチュー…。」
「あー、川の向こうに死んだはずのお祖母ちゃんが見えた…。なんだ、あれ。…幻覚か?」
「駄目というか、無理だな。あとカイル、多分それ三途の川な。間違っても川渡るなよ。」
「…自覚無しとは、恐ろしいな…。」
残念そうなアリアに、三人は容赦ない。
…死にかけるシチューって、何それ怖い。
「とりあえず嬢ちゃん、料理禁止な。」
「そんなっ。…クイドさんまで、シスター達と同じこと言うなんて…。」
「…待て、お嬢。シスター達と同じ…?」
「?シスターと、『時の一族の国』のみんな(特に母親)ですけど…。」
「「「……。(アリアちゃん/嬢ちゃん/お嬢)。今後一切料理禁止。」」」
冗談抜きで自分達の命が懸かっている三人は、アリアに対して容赦しない。
結局、渋々料理しないと約束したアリアに、三人は大きく安堵の息を吐いたという。
ーー後日。
「何で!?」
「お菓子は見た目通りなのか…。」
「…旨い。不思議だ…。」
「……。これって褒められてないよね、私…。」
アリアはお菓子に限り、プロ級の腕を持つと判明した。
確かに不思議だ…。(←やっぱ酷い)
ありがとうございました。