「コスチュームチェンジ !」
「ほ、ほんとになんでもいいの!?」
やさぐれうさぎに詰め寄るように思わず身を乗り出してしまう。
やさぐれうさぎはその短い腕を組み、大きく頷いた。
「勿論どんな願いでもいいぞ。ただ無事に悪魔を倒して、天界を救ってくれる事が絶対条件だ」
「う、うん、あ、あのっ…ちょっとの間だけでいいから大きくなりたいの!」
私のずっと憧れていた夢…。
それは"大人になること"。
おねいと同じくらいの身長になって、隼人と肩を並べて歩きたい…。
そうしたら隼人に子供扱いされずに、ちゃんと"女の子"として扱って貰えるのかな…?
だから私はずっと早く大人になりたいと思ってたんだ…。
「おうっ、勿論いいぜ。これで交渉成立だな」
やさぐれうさぎはあっさりと私のお願いをオッケーしてくれた。あまりにもあっさりしているものだから、ちょっと拍子ぬけしちゃう。
やさぐれうさぎは今度は愛美を見つめて問い掛ける。
「お前の願いは何だ?」
「私のお願いごとは…そうですね…」
愛美は何かを考えるように少しうつむいたけど、すぐに満面の笑顔になって答える。
「私のお願いはみっちゃんと、ずっと仲良しで一緒にいることです」
天使のような笑顔を浮かべて、その小さくて白い手で私の手をぎゅっと握ってきた。
天使みたいな笑顔で面と向かって、そんなことを言われたら照れるじゃない。
私は少し恥ずかしくて、愛美から目を反らしてしまう。
「そ、そんなの当たり前でしょ!お願いとかしなくても、私と愛美はずっと仲良しなんだから…」
「はいっ、私とみっちゃんはずっとずっと仲良しです!」
「お前らなぁ…オレの前でイチャつくのはやめろよ」
やさぐれうさぎの一言に愛美は「あらあら」とのんきな声を上げて、ぎゅっと握っていた私の手を少し名残惜しそうに離した。
するとやさぐれうさぎはコホンと軽く咳払いをすると、何やら後ろからモゾモゾと何かを取り出す仕草をする。
「まぁどっちとも交渉成立ってことだな。とりあえずお前らにはこれを渡しておくぜ」
そしてやさぐれうさぎが、どこからか取り出したものは星形のチャームが付いたチェックの赤と淡い水色のリボン。
「まぁ、もしかして手品ですか?凄いですね!」
と、目をキラキラと輝かせる愛美。
ちがうわ、これは手品じゃなくて…。
「このリボン、商店街の雑貨屋さんでセールで売ってたのでしょ!?
私この前見たもん。半年以上も売れ残ってたのを買ってどうする気!?」
「お前らなぁっ、失礼すぎるだろ!手品だとかセール品だとかよ!
これはちゃんとした力が込められてるんだっ。試しに髪に付けてみろ!」
顔を真っ赤にしてふがふがと鼻息を荒くして怒るやさぐれうさぎに言われた通り、私と愛美はリボンをそーっと受け取って、それぞれの髪に結んだの。
私はおさげ髪の右側に赤いチェックのリボンを、愛美はサラサラの髪のよこに小さく結んであるみつあみに青いチェックのリボンを結んでみたけど、特に何も感じないし、何も起こらない。
やっぱりただのセール品のリボンなんじゃないの?…あやしいー。
私がやさぐれうさぎを疑いの目で見ると、やさぐれうさぎは誇らしげにふふんっと鼻息をすすった。
「敵が現れた時にそいつをほどくと、変身出来るんだぜ?
しかもっ!戦闘服以外にも色々な衣装に着替えることが出来る優れものよっ。
これでどこかに潜入して、悪魔を探すこともラクラクってことよ。どーだ、すげーだろ?」
「では、今この場所でも色々なコスチュームに着替えられるということですか?
私試してみたいですっ。やりましょ、みっちゃん!」
愛美はすっごくノリノリみたいだけど…衣装を変えて潜入捜査なんて、探偵や刑事じゃないんだから…。
でもこのリボンがセール品じゃないってことを証明するためにも、今ここで試しておいた方がいいわよねっ。
「ちなみに衣装を変えたい時は"コスチュームチェンジ"って言わないとダメだぞ」
「じゃあ、愛美、いくわよっ」
「はい、いきます」
私達は頷き合うと同時に髪に結んだリボンをほどいた……。
「コスチュームチェンジ !」