1 前世を語る息子を持った母
「M先生へ
はじめまして。高校生の息子を持つ母です。
息子は悩ましいことに、最近「前世の仲間を探しにいく」と言って勉強もせずふらふらと出歩いています。
先日など、近所の可愛いと評判のRさんに「君の前世が俺の恋人である姫だった」と言い出して、つきまとっているようです。Rさんは迷惑だからどうにかしてくれと私に言ってきますが、何度息子にやめるように言い聞かせても全く聞いてくれません。
どうにかしたいのですが、夫も亡くなり力では息子に敵わず、こうして手紙を差し上げる次第となった訳です。
先生、私はどうすればいいのでしょうか。
前世を語る息子を持った母より」
* * * * * * * * * *
「やあはじめまして! どんな悩みも解決するM先生の相談所の広告を見て手紙をくれたんだね! ありがとう!
さて、息子さんには困ったものだね。ここは先生に任せなさい。
では息子さんにこの手紙を読むように言ってくれたまえ! 君の悩みは解決するだろう。
『息子くんへ
君は前世の仲間を探しているらしいね。だがちょっと待って欲しい。
前世の君には仲間は一人もいなかったよ。たったの一人もね!
まったくの独りぼっちだ、安心したまえ!
もちろん彼女もいないし友達もいないし、寂しく一人で死んだんだ。
今の君と全く一緒だね、AHAHAHA!
よって君が探そうとしている前世の仲間なんてこの世のどこにもいないよ! 無駄なことをするのはやめたまえ。
ああ、そうそうRさんだけど君の学校の生徒会長と付き合っているから、もちろん君のことは道ばたの石コロくらいにしか思っていないみたいだよ!
さあ妄想に苛まれる日はこれで終わりだ、君の悩みも解決だね!
おっと、お礼はいらないよ! 君たちの悩みが解決できたなら先生はとっても満足だからね!』
M先生より 」
母より「M先生 息子はRさんにつきまとうのはやめたみたいなのですが、部屋に引きこもったまま出てこなくなってしまいました」
「……悩みは解決したのに、また新たな悩みか。人間というのは悩みが尽きぬものなのだな」
くるくると指先でペンを回しながら魔王は言うと、手紙を閉じて新しい悩み相談の手紙を開くのであった。