2話
高校時代から付き合っていた凌太と別れたのは、大学生活を半年過ぎた秋頃。
一人暮らしの凌太のアパートに置きっぱなしにしていたスーツケースを取りに行った時に目にした浮気現場。
連絡をせずに合鍵で突然入るのはいつもの事で、何の躊躇もなく凌太の部屋に入った途端。
「え?あなた、誰?」
「……は?」
凌太とソファに並んで寄り添っている可愛い女の子に驚かれてしまった。
思わず部屋を間違えたのかとも思ったけれど、まさしく凌太がいて、二人は手もつないでいて。
誤解するまでもなく、二人はいい感じで。
その瞬間思ったのは、二人がヤってる時に遭遇しなくて良かったって事。
意外に冷静だったのは、どこかでその兆候を感じていたからかもしれない。
いつかこんな日がくるかなと、内心感じていたからかな。
「……スーツケース取りにきたんだけど。ちょうどいいや。私のもの詰めて持って帰るわ。
しばらくガサガサやるけど気にしないで」
淡々とそう言って、凌太の顔も見ず、おろおろする女の子は無視して。
部屋に置いていた私物をスーツケースに詰めた。
『で?沙耶は何も聞かないの?』
低い凌太の声が私に届いた。
ああ、こんなに緊張してる声って、私に告白してくれた時以来だな。やっぱり、好きだな、この声も凌太も。
でも、目の前で並ぶ二人を見ると、どうしても私は邪魔な存在にしか感じられないし。
『最近、その彼女が今つけてる香水のにおいが凌太からしてたから。何となく浮気してるかなって思ってたから。
……私の事、飽きた?好きじゃなくなった?』
苦笑しながらそう言うしかできなかった。心は荒れて、寂しくて、凌太とこれからも一緒にいたかったけれど。
不安そうにしている彼女と、その彼女と寄り添う凌太を見ると、もう無理だってわかった。
『俺は……沙耶に飽きてなんかない。好きだ』
はっきりと言い切る残酷な言葉に、凌太の隣の彼女の顔は苦しげに歪んだ。唇をかみしめて俯いて、震えてた。
本当に、凌太が好きなんだな。
私も好きだけど、凌太が浮気した現実を受け入れながら、付き合えるほど強くはない。
『私の事好きなら、どうして今その彼女と手をつないでるのかな……。
私は私一人を愛してくれる人じゃなきゃ無理。……さよならだよ』
人間は、本当に悲しすぎてつらすぎると、涙も出ない。
落ち着いた見た目を捨てきれないまま、相変わらず何も言わずに強い視線を私に向ける凌太に背を向けて、
『合鍵、ここに置いておくから。……私の部屋の鍵も返して』
そう言ったけど、凌太は首を横に振って拒否した。
まるで私が悪いように責める歪んだ表情を向けられて、これ以上言っても無理だと、長い付き合いで察した私は、小さくため息をついて、そのまま部屋を出た。
ドアを閉める瞬間、凌太の隣の女の子が泣き出す声が聞こえて、私の涙腺は更に強張って泣けなくなった。
それはそれはつらい瞬間だった。
今から7年前の秋の事だった。