19話
凌太の裏切りのおかげで恋愛に臆病にもなったし、私の中にくすぶっている凌太への未練を断ち切る術すらなかったせいか、前進することができなかった私の日常。
ようやく凌太の存在を私の中から払拭して、前進しなきゃと弱々しいながらも、前向きになった時。
襲われた私は、再び暗い殻の中に閉じこもってしまった。
ううん、前よりも固い固い殻の中に閉じこもって未来を悲観していた。
事務所に侵入して若菜さんに大けがを負わせた犯人の恋人から刺された私。
私が秘書として担当していた弁護士さんに相談をしていた男性が、私に恋心を抱いたけれど、それをやんわりと断っていた私を憎むようになっての凶行。
私を狙っていたのに、結局は若菜さんが巻き添えをくらってしまった。
そして、警察に捕まった犯人の恋人からの逆恨みはまっすぐ私に向けられて、憎しみに満ちた彼女の視線と共に、私は刺された。
その瞬間、妊娠はおろか、結婚すら望めない未来を押し付けられたんだ。
刺された傷の回復は意外に早かったけれど、つらい未来を過ごす事に変わりはなかった。
将来妊娠する事を諦めきれない私は、退院後も婦人科であらゆる検査を受けて、妊娠への可能性を探っていたけれど。
『妊娠しづらい』
という結果に変わりはなかった。
100%妊娠が無理だというわけではないけれど、可能性はかなり低いという結果。
ほんの少しの期待を持って検査を受けていた私を打ちのめすには十分な結果で、その日病院からどうやって帰ったのか思い出せないくらいだ。
千絵おばさんが側についていてくれて、医師からの話に涙を浮かべた事を覚えているだけ。
あ、そう言えば、
『私が事務所に就職させたせいで、こんな目に遭わせてごめんね』
と震える声で言っていた事も記憶にある。
そして、その記憶を最後に、私は自分で自分の手首を切りつけた。
左手に残る白い傷跡は、そんな私のしでかした罪を責め続ける。
キッチンで倒れている私を発見した千絵おばさんは、狂ったように泣き叫んで救急車を呼び、私は再び入院する事になった。
幸い命を取り留めた私に、何度も何度も『ごめんね、ごめんね』と言って謝る千絵おばさんが小さく見えて、哀しくて、ようやく私は自分が犯した事の申し訳なさを自覚した。
千絵おばさんは、私しか身内がいない。私にとっても千絵おばさんだけ。
そんな私が自ら命を絶とうとしたんだ、ショックに違いない。
切なく涙する千絵おばさんのおかげで、生きて行こうと思った。たとえ、結婚すらできない身体でも、千絵おばさんを悲しませないためだけに生きて行こうと決めた。
悲しい未来は考えず、ただ生きるだけ。何も求めない。生きるだけ。
眠って、食事をして、仕事をして。
それだけでいい。
私が生きていれば、千絵おばさんが悲しまない。
過去の苦しさも、未来への悲観も全て考えずに。
生きるだけ。それだけでいい。
左手の傷跡に縛られて、そんな事しか考えられなくなった私を、千絵おばさんが悲しげに私を見つめている事に気づかない振りをして。