1話
おそらく私が恋愛に憧れを持たなくなったのは、今目の前にいる男のせいだろうと思う。
ここ一年、当たり前のように私の部屋にやってくる凌太のわがままに振り回されている。
高校時代に付き合っていたとはいえ、卒業して半年ほどで凌太の浮気が発覚して決別。
それ以来会う事もなく過ごしていた私の平穏を奪い去り、まるでずっと一緒にいたかのように目の前にいるこの男。
「明日休みだし、どっか行くか?どうせ暇なんだろ?」
お風呂からあがって、濡れたままの髪を無駄に見せつけながら笑ってる。
どうして我が家のお風呂に入る?
どうして自分の家に帰らない?
何度も聞いたのに、そのたびに流される私の質問は空中分解。
聞く事すら諦めてしまったけれど、今となれば、最初からそれを見越していたかのように思う。
なし崩しのように私の部屋にやってくる凌太を追い返す事ができないままに、日々のため息ばかりが増える。
「明日は無理。予定があるから今夜はとっとと帰ってちょうだい。私、明日は早いから」
「ふーん、珍しいな。沙耶にも予定はあるんだな。いつも俺の側にいて楽しそうにしてるのに、突然どうした?」
「……あのねえ、いつ私があんたの側で楽しそうにしてたって?
うっとおしいから早くどっかに行けって何度も言ったでしょ?
どこまで自分勝手でやな男なんだ」
単なる元カレのくせに、図々しい。
私にだってあんた以外と過ごす休日の予定くらいあるんだからね。
「今日はこのまま帰ってちょうだい」
大きなため息とともに言った言葉に、凌太はにやりと笑っただけで、
「どうせ、明日も俺たちは一緒に過ごすんだよ。
だって、沙耶の明日の予定って見合いだろ?
その相手って俺だもん。行先一緒なんだから、一緒に行こう。な」
「はあ?あんた、何言ってるのっ」
私の大きな声は、部屋中に響いて、私一人が慌てている。
目の前の凌太は、落ち着いた様子でくすくす笑って……。
「さ、明日の為に早く寝ようぜ」
それが自然な事のように私の手を引いて寝室へ向かう凌太の背中を茫然と見ながら。
ただただ、心で呟いてた。
な、なんでこうなる?