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天上を目指す者  作者: 水平線
第一章
9/19

バベルのある町(装備購入編)


 次の日、宿を出た二人はまず不動産屋へと向かった。


「広さはどうでもいいんですけど、なるべくバベルに近くて、なおかつ安い部屋探してるんですけど」

「そーですねー……ここなんかどうですか? 値段はまあまあですが、家具がついて商店街も近いですから日々の買物も便利ですよ」

「おっと、大事な条件を忘れてた。隣に巨乳の女性は必須です。例え、人妻だろうとおばあちゃんでもいいです。あ、だからと言って未婚の女性やロリで巨乳な少女を蔑ろにしてるわけじゃありませんよ? とにかく隣人は巨乳の女性でお願いします」

「……そういうのはうちでは取り扱ってないです」

「じゃあアーク、違う不動産屋に行こうか」

「これのことは無視していい。そこは二人で住めるのか?」

「はい。2LDKのお部屋ですので問題ないかと思います。お部屋を見に行きますか?」

「めんどいからいい。そこに決める」


 すごく適当に部屋を決める。とゆーかアークにしてみればレオナルドの言う条件に当てはまるような部屋を探していてはそれだけで日が暮れそうだと思ったのだ。もちろん面倒だというのも大きな理由の一つである。

 とんとんと話は進み、大家とも話をつけて二人はグロリアでの住み処を手に入れた。

 二人が一緒に住むことにしたのは一重にお金の節約に過ぎない。元々二人はお互い相手が勝手に自分のベッドで眠っていようともそれを少しどけて横で眠れるくらいの仲なので一緒に住むことに異議などない。

 ただ、レオナルドの談では稼げるようになったら別々に住もうということだ。理由としてはさすがに野郎二人暮らしのところに女性を連れ込んで色々出来ないことが第一に挙げられ、第二にもし目覚めたら困るということらしい。何が目覚めるのかは口を固く閉ざして語らないが、それはアークも嫌だった。


「アーク! 勝手に決めんなよ」

「お前、隣に巨乳が住んでたらぜってー覗き穴空けるだろうが。修理費払うの嫌だし」

「修理費はオレが払うに決まってんだろ」

「えっとウッドスフィア君、まずは覗き穴を空けないようにね」

「大丈夫です。生活音でもそこそこイケますから」


 大家の言葉はエリス村の変態の名を欲しいままにしたレオナルドには届かない。レオナルドは村一番の巨乳を持つラフラ(五十二歳。夫と二人の子持ち。次男はレオナルドの一つ上)の家の壁に三日間不眠不休で張り付いて正確にラフラの放つ生活の音のみを聞き分けてずっと聞いていた経験を持つのだ。途中何度もアークがどぎつい手段で制止しようと聞き入れることはなかった。そう考えるならば気弱そうな外見の中年男性である大家にはこいつを止めることなど出来まいと内心アークは冷静に分析している。




 大家と共に部屋に行き、鍵を預かったあと荷物を置いて二人は町へと繰り出す。

 まずはアークのスキルカードを作りにいくために町の武器屋へと向かうことにする。ついでに二人の武器も購入する心算だ。


「んで、アークはどんな武器を使うつもりなんだ」

「槍」

「なんだ決めてんのかよ」

「なんとなくな」


 あの夢の続きを見てからというもの、アークは自身が使用する武器は槍にすると心に決めていた。

 ただ夢で使っていたからというだけでそうと決めたわけではない。色々考えた結果、自分に最も適しているだろうと思い、判断したのだ。


「そーゆうレオはどうすんだ?」

「オレ? オレはフィーリング?」


 対してレオナルドは全然決めていなかった。物語の英雄は槍使いであり、お伽話の騎士と言えば歴戦の剣士だ。だが、レオナルドには合わないような気がしていた。


「武器なんて今じゃあんまり見る機会すらないからな。自分に合った物がなんなのか知る機会はなかったしな。まあ、英雄様のおかげであり、英雄様のせいでもある」


 数百年前、大陸は三つの国に分かれて日々戦争をしていた。

 一つは人間の国、もう一つは獣人族の国、そして最後の一つは魔霊族の国。

 だが、現代にまで語り継がれる物語では魔霊族の英雄がその戦争を収める。

 英雄は第四の勢力として人間、獣人族、魔霊族、そして聖天族の四種族を率い彼の国の尽くを打ち破る。

 そして、英雄は勢いそのままに天上の国へと至った。

 英雄なくした大陸の国々は戦争でそれぞれのトップを亡くし、休戦のために和平へと動き始める。

 後にその動きは時間をかけて国の統合へと変わっていき、大陸は平和になった。


 人々は知らないだろう。

 英雄と呼ばれる男が戦を始めた理由が、たまたま昼寝をしていた場所の近くで大規模な戦いがあり、その音で気分を害したからといって行われたことを。

 そしてお気に入りの配下の一人に「貴方なら神すらも越えられるのでしょうね」と言われて天上の国を目指したことを――




◇◇◇




 武器屋についてとりあえず色々見て回ると言ったレオナルドと店内で別れる。

 武器屋はグロリア最大の規模を持つと言われる『ブルームーン』という店を選んだ。初心者から中級者向けの多種多様な武器を店内に陳列している。店の広さは最大規模というだけあって、中々に広い。三階建ての建物は階層別に初心者、中級者、上級者と分かれている。一つの階層がアークが昨日行ったレストランの倍くらいの面積あった。ただ、上級者用はお得意様だけにVIPとして三階にて普通は手が出ないような値段の武器を物色することができるようになっている。

 そんな中、一階にいる店員の一人を捕まえてアークがスキルカードを作りたいと言うと、店員は笑顔でアークを一階にある別室へと連れていった。


「こちらが当店で扱っているスキルカードの素材となっております」


 そう言って店員が出してきたのは金、銀、銅、鉄を始めとした十七種類の金属。

 そのひとつひとつに対しての説明を丁寧にしようとする店員の言葉をアークは遮る。


「金貨一枚で出来るものをよこせ」


 これから武器や防具など諸々必要になるであろう物をおおよそで計算し、アークは出せる上限をまず言う。


「それでしたらこのロジウムなんかがよろしいかと思います」


 そうして示されたのは銀白色の金属。自身の髪の色とよく似たそれは正に自分に相応しいのではないかと思ったアークは即決でそれに決める。


「では、金属を精製してスキルカードを作成しますのでこちらの注射器で少しばかり血を抜かせていただきます」

「ああ」


 アークは袖を捲って腕を突き出す。

 スキルカードは持ち主との繋がりがなければその機能を発揮できない。繋がりとはこの場合、同じ血が流れるということになる。

 スキルカードは金属でありながら血が通っているのだ。そしてその繋がりでもって持ち主の持つスキルをその身に映すのだ。

 スキルカードの製法は古来から脈々と受け継がれている。ただ習得は難しく、スキルカードを作れる者は大陸に百人ほどしかいない。その多くがグロリアに集まっており、また、その多くが弟子をとってスキルカードの製法を後世に伝えようとしている。


「はい、もうよろしいですよ」


 注射器一杯に血を抜かれたところで針を抜かれ、消毒液に浸した綿を渡される。それで先程まで注射器の針が刺さっていた箇所を押さえながらアークは立ち上がる。


「どれくらいでできる?」

「出来上がりには半日ほどかかります」

「なら金を先に払っておく。ついでに店の中も物色するが、それに飽きた時にまだ出来てないようなら違う店で時間を潰して来る」

「店内をご案内させましょうか?」

「いや、いい。切れの悪い糞みたいに尻について廻られるのは不快だ」

「わかりました。何かあれば近くの店員にお申しつけ下さい」


 アークは部屋から出てそのまま二階へと上がる。自身の武器を探すためだ。

 一階の物は初心者用だけあってどれも安いが、それだけに頼りない。

 二階でアークが目的の武器を探していているとある区画に槍が並べられていた。一階の乱雑に纏めて置かれている物とは違い、一本一本がケースに入れられて並べられている光景にこうまで違うかと初級と中級という差を感じる。値段自体も一階の物とは桁が一つ違う。

 その中の一本にアークは目をつける。

 木目のような模様のある金属を穂先に持つ槍。値段はスキルカードに支払った三倍はある。アークは一目でそれが気に入った。


「おい」


 店員を呼び付ける。すぐさま声に反応して店員が駆け付けた。ブルームーンはそれを必要としない客にはついて歩いたり、説明等はしない。だが、求められればすぐさま応じる。それを信条としていた。


「いかがなさいましたか?」

「こいつを貰う」


 アークは先程目をつけた槍を指差す。


「お目が高いです。こちらはダマスカスの槍と言いまして、折れず、曲がらずを信条として作り上げられた一品でございます」

「御託はいいからさっさとよこせ」

「はい、ただいま……ではお会計はこちらでお願いします」


 そして会計を済ませてアークは穂先を布で包んだ槍を肩に掛けるようにして持ちながら一階に降りてレオナルドの姿を探す。

 すると斧の並ぶ棚の前で頭を悩ませているレオナルドを見つけた。


「斧にするのか?」

「ん? おっ、アークはもう武器を買ったのか! お前はいっつも即断即決だねぇ〜。スキルカードは?」

「出来上がりまで半日かかるらしい」

「ま、当然だわな」

「それより」

「ん。これなら使い慣れてるし、何より一撃必殺って感じがしないか?」


 雪は降らないが、エリス村にも冬はある。その時の暖は暖炉で薪を燃やしてとる。日々の料理においては近年は魔晶板による加熱装置に取って代わってしまったが、暖炉に関しては未だに健在で、レオナルドは十二の時から毎年のように薪割りをしていた。


 ちなみに魔晶板とは、現代において利便化された炊事用機器や電灯等多数の機械というものを動かすためのエネルギーの基である。また、粉にして田畑に蒔けば作物の成長をリスクなしに早める作用もある。これを手に入れることが出来るのはバベルの中だけだ。魔獣を倒した後に残るものが魔晶板である。その名の通り魔導の力の篭った水晶の板であり、純度によって色が変わる。また、これこそがバベルにおける恵みの一つでもある。


 

「オレは今な、値段の安いのを買うか、出せる値段ギリギリの物を買うか、気に入ったのを買うかで迷ってんだよ」

「気に入ったの買えよ」

「あ、やっぱお前もそう思う? んじゃそうしよっと」


 アークが背中を押したことで簡単にレオナルドは結論を出す。もしかしたら既に心の中では決まってたのかもとアークは思う。

 レオナルドが購入した斧はソルジャーアックスというちょっと重量のある鉄製の斧。初心者用が立ち並ぶ一階の商品の中でも割りと中級者寄りの代物で、一階にある斧の中では二番目に高い代物だ。

 あいついい買物したなぁとアークは親友が会計を済ませてくるのを待った。




 まだ、スキルカードが出来上がるまでは時間がかかるということで二人は昼食と防具を見るためにブルームーンから出た。

 そこらにある屋台から目についたものを買って食しながら防具屋に向けて歩いていると嫌でも目に入る巨大な建物が目に入った。

 そこは周りの建物よりも頭一つほど高く、荘厳な佇まいをしている。


「あれは何の店だ?」

「知らん。でも何か高そうだな?」

「まあ、どうでもいいか。とりあえず防具が先だ」

「行ってみないのかアーク?」

「縁があればな。今日はない」

「まあな」


 二人は店の前を素通りする。完全に興味を失った二人は店の看板すら目にしなかったがそこにはこう書かれていた。

『スキルのお店 ノア』




◇◇◇




「ふぃ〜、いい買物したぜ〜。な、アーク」

「なんか……なんかだな」


 防具屋での買物を終えた二人が店から出てくる。

 レオナルドの顔は被った鉄兜のせいで目と口しか見ることができない。アークはそれを見ながら言葉にし難い複雑な胸中を吐き出す。

 アークとレオナルドの姿はレオナルドの被る鉄兜をのぞけば全く一緒だった。鉄の鎧一式。重量型の戦士においては登竜門ともいえる装備だ。これは二人同じのを買うなら値引きしてやると言う店主の言葉に飛びついたレオナルドが齎した結果である。

 別に鉄の鎧が悪いわけではなく、この都市において最も近しい存在とお揃いの格好なのがなんとなくアークは嫌だった。故に最後の抵抗とばかりに兜だけは拒否し、変わりに額部分にチタンの合金が仕込まれた鉢巻きをしていた。


「ぷっ、鎧に鉢巻きってダサ……」

「んな変な兜つけて悦に浸ってる方がダセえよ」

「…………」

「…………」


 しばし睨み合う二人。


「……どっちもダセえってことにしようぜ」

「だな。そろそろスキルカードも出来る頃だろ」

「んじゃ行きますか」




 帰りがけにブルームーンへ寄ってアークは自身のスキルカードを受け取る。

 銀白色のそのカードと言うよりは薄い金属のプレートというべきものを手に取った瞬間、ドクンと心臓が大きく脈動するのをアークは感じた。

 そして次の瞬間、アークのスキルカードに文字が浮かび上がった。


《新たなスキルを得た》

【スキル名】吸血(ケガ・体力の微回復、吸血相手のスキルを一人につき一度だけランダムで得ることができる)




 今回はウィキ〇ディアさんに頼らせていただきました。

 それとダマスカスってのは都市の名前由来だよってツッコミはなしでどうかお願いします(響きがいいですよね……ダマスカス)


(補足)

作者の中では

銀>ロジウム>銅と思っております。



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