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天上を目指す者  作者: 水平線
第一章
15/19

再会

 それから三日後の昼。

 アディエルとガルダの二人はついにグロリアの街へと辿り着いた。

 アディエルにとっては初めての都会であり、ガルダにとっては実に十五年ぶりであった。


「いやー、変わってないなぁ」

「お父さんの感想はどうでもいいです。兄さんを探しましょう」

「探すってグロリアの街をかい?」

「いえ、バベルの入口を張り込みます。確実に通るでしょうし」


 そう言ってアディエルはバベルへと向かって歩き出す。


「待ちなさいアディ。確かにバベルで待ってればいつかは来るだろうが、バベルに挑戦する者なら中で数日過ごすこともざらだ。最悪何日も見張らなければならなくなる」

「ならどうするんですか?」

「聞き込みだよ。一人一人声をかけて大まかな行動範囲を絞り込むんだ」


 なんでもないことのように断言するガルダの姿に、アディエルは不審な目を向ける。

 グロリアの人口はエリス村の何百倍単位で存在する。その中のたった二人を見つけるためにアディエルとガルダの二人だけで聞き込みをするのは無謀とも言える話だ。


「心配はいらないよ」


 ガルダはそう言ってアディエルに微笑みかける。しかし、次に心持ち沈んだ表情になってしまう。


「あの二人がタッグを組んで目立ってないわけない。特にある特定の人物達にはね」


 ガルダの言わんとしている意図。それがアディエルにも伝わる。ああ、と納得したようにアディエルは周りを見渡す。


「胸の大きい女の人に聞き込みすればすぐにわかりそうですね」







「はぁ……予想以上にはっちゃけてますね、あの変態は……」

「父さんとしてはわりと予想通りというか、むしろ少ない的な?」


 聞き込みの結果、約半数の女性がレオナルドに声をかけられていた。傍には銀髪の口の悪い美少年がいたという証言もあり、ほぼ本人だと断定できた。

 また、声をかけられた場所もあまり広い範囲には散らばっていないので、行動範囲も推察出来ている。

 その中でアディエルとガルダは目撃証言などが多数挙がった店へと向かっている。

 店の名前は『セミヤー』。アークとレオナルドがグロリアに辿り着いた日から通う店である。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると黒を基調としたミニスカートの制服の店員が出迎える。その制服にアディエルは目を奪われてしまう。


(可愛い……)


 アディがそう思っていると、獣人族の少女アイラが駆け寄ってきた。


「お待たせして申し訳ございません。お客様は二名でのご来店ですか?」

「は、はいっ」


 多少どもりながら答える。


「当店のご利用は初めてでしょうか?」

「あ、はい。あ、あのっ! 聞きたいことがあるんですけど……」


 アディエルはいきなり本題を切り出す。


「どうされました?」

「こちらのお店に銀髪の男の子と茶髪の変態がよく来るって聞いたんですけど?」


 そうアディエルが言うと、それまで笑顔だったアイラの表情の一切が消える。


「……あの二人ですか」

「はい、実は銀髪の男の子はおそらく私の兄なんです。黙って村から出ていったので探してまして……」

「兄?」

「聞き込みした結果、こちらのお店での目撃者が何名かいましたもので」

「ふぅ〜ん……まあ、その二人なら毎日来るわよ」

「本当ですか」

「ええ。だから待ってれば今日も来ると思うわ。ただし、店の中で待つならお客として待ってて下さいね」

「それはもちろん」


 アイラがアディエルとガルダの二人を席へと案内して店のシステムの説明をする。アディエルはアイラの説明を頷きながら真剣に聞いている。


「なんか、あいつの妹って気がしないわね。あいつは口を開けば悪態ばっかなのに」

「息子がご迷惑おかけして申し訳ありません」

「あ、いえ。息子さんは一応他のお客様には迷惑はあまりかけてませんから。問題は一緒にいる茶髪ですね。あいつのいやらしい目線に店員とお客様が不快に感じてます」

「あの変態はとりあえず包丁でサクッと刺せばいいと思います」

「えっ……」


 笑顔でサラっと怖いことを言うアディエルにアイラは先の言葉が詰まってしまう。冗談だとは思うが、目が本気すぎた。


「アディ、何度も言うけどアークは自分の意思で出ていったんだからね?」

「すいません。つい本音が……」


 ガルダの言葉にアディエルは微笑みながら言い繕う。


「あ、えっと……ご注文のお飲み物お持ちしますんでお料理はお好きな物をどうぞご自分でお取り下さい」


 場から逃れるようにアイラが去っていく。

 

「さて、父さんは料理を取りにいこうかな。アディは?」

「私は座ってます」

「なら、アディの分も父さんが持ってくることにしよう」


 そう言ってガルダが席から立って料理の並ぶコーナーへと歩いていく。その背中を眺めながらアディエルは一つため息をつく。


「……女の子多いな」


 店内を見渡せば店員、お客共々ほとんどが女の子だ。レオナルドの趣向だろうが、そこにアークが入り浸っているのも何だか許せなかった。


「お待たせしました。アイスコーヒーとアイスティーです」


 そこへ飲み物を持ったアイラがやってきた。


「あの、兄さんは特定の女性とか出来ました?」

「え……いえ、プライベート知ってるまで親しくないんで……」

「そうですか」


 アイスティーを口へと運ぶ。知らず知らずに喉が渇いていたのか、アイスティーが染み入るようにアディエルの喉を潤していく。


「気になるの?」

「え?」

「いや、あいつの女性関係」

「兄妹ですし、そりゃ気になります」

「あたしは一人っ子だから分かんないけど、兄弟ってそういうものなの?」

「他はどうか知りません。でも、私達は双子ですから」

「双子? うっそ、似てないっ! 確かに貴女は美少女だし、あいつも顔はいいけど……」


 そう言いながらアイラはアディエルを上から下までジロジロと眺める。


「やっぱ似てない」

「よく言われます」


 似てないと言われること自体は村にいるときでさえ散々言われてきた。真面目なアディエルと不真面目なアーク。髪の色から顔の作りまで二人は全く似ていない。唯一と言っていい共通点はお互いがお互いを大事にしていることだろう。


「ねえ、あいつってさ、昔からあんな感じなの?」

「あんな感じ、ですか?」

「人を小ばかにした感じ」


 言われて納得してしまう。アークは年上だろうと誰だろうとへりくだったりしない。何故かいつも一段高いところから見下ろす感じで人に応対する。


「そうですね。兄さんは認めた者にしか優しくしないんですよ」


 もちろんその中にアディエル自身も入っている。むしろ筆頭がアディエルだという自信があった。


「あの茶髪は?」

「……あの変態にもなぜか優しいんですよね」


 アディエルはアークがレオナルドと仲良くしている理由がアディエルのことを女として見ていないからということを知らない。アディエルが気付いた時、アークはすでにアディエルに匹敵するくらいにレオナルドに優しかった。


「まあ、あの二人って結構不思議よね。茶髪があれじゃなかったらホモ疑惑がかかるくらいには仲良いわよね」

「……兄さんが男同士で肌と肌のぶつかり合いを毎晩繰り広げている……そんな馬鹿なっ!」


 勢いよくアディエルが立ち上がる。急に立ち上がったアディエルにビックリしたのかアイラの尻尾がピンと逆立つ。


「別にそうだと言ってるわけじゃなくて、そう見えるくらいに仲良いよねって……」

「そんな非生産的な道に兄さんを堕とすなんて……あの変態マジで殺す……」

「やばい。このままじゃ店内で殺人事件が起こりそう……」

「うちの娘はどうしたのかな?」


 アイラがどうやってアディエルを宥めようと考えていると皿に山ほど料理を載せてガルダが戻ってくる。


「あ、いえ、えっと……」


 アディエルの様子は自分に責任があることだと思い、アイラは口ごもる。


「まあ、いいや。アディ、これ美味しそうだよ。あとね、ケーキとか甘い物もいっぱいあったよ。とりあえず、これを食べてみなさい」


 次々と皿をテーブルに並べる。アディエルはそれに目もくれず何かをブツブツと呟いているが、ガルダがフォークで料理を口元に運ぶと条件反射なのかそれを口に入れて租借する。

 すると、若干暗い色を見せていた瞳に光が戻り、目が驚きに見開かれる。


「……美味しい」


 感慨が詰まったようにアディエルが呟く。


「だよね。父さんもつい摘んで食べちゃったよ」

「す、すいません。これ作ったシェフに直接この喜びを伝えたいのですが、呼んでいただけますか? いえ、やっぱり私が自分で行きます。厨房へ案内して下さい」


 キラキラとした表情になったアディエルの姿にアイラは自分の両親が作った料理が人をここまで喜ばせたことが嬉しくもあったが、同時に苦笑いを浮かべる。

 そしてアディエルに向けて言う。


「さっき言ったこと訂正するわ。あなた、あいつと似てる」


 顔や性格は似てなかろうと深いところで二人はよく似ていた。




◇◇




 アディエルとガルダが入店して大分時間が経った。エリス村なら人々が家に入って寝る準備をする時間だというのに、窓の外の景色は夜の闇が街灯の光によって取り払われ、未だに多くの人が行き交っている。


「来ませんね……」


 何個目になるか分からないケーキをフォークで差しながらアディエルが呟く。


「まあ、毎日来るからと言って今日も来るとは限らなかったね」


 ガルダは娘の呟きに答えるながら追加で注文したホットコーヒーを啜る。すでにガルダはお腹いっぱいなのだが、同じだけ食べて更にケーキを食す娘の姿に甘い物は別腹って本当なんだなと感心している。


「とりあえず、今日は閉店時間まで粘りましょう。ケーキ取ってきます」

「まだ食べるの?」

「お父さんもいりますか?」

「アディが食べてるのを見てるだけで十分だよ」

「では、私の分だけ……」


 そう言ってアディエルが立ち上がった時、その声は聞こえてきた。


「巨乳席を大至急用意してくれ。奴が来る前に早くっ!」


 その声にアディエルが店の入口を見ると見覚えのある茶髪の男がアイラに話しかけている。

 その姿を見た瞬間アディエルはその男の周囲を見回すが、男はただ一人だ。アディエルは男に向かって駆け出した。



「早くしないと奴が……アークがふと見つけた激辛の店で超絶鬼辛ディナーコースをオレだけ食わされるんだ。早く巨乳の席へごあんなぶほっ!」


 頬への強烈な衝撃に茶髪の男、レオナルドは壁へと吹き飛ばされる。


「痛って〜、なんなん……だ……」


 衝撃の原因を見ようとしたレオナルドはその人物を見て、驚きに身を固める。


「お久しぶりです。変態」


 アディエルはレオナルドを殴った手をまるで病原菌に触れたかのように丹念に着ている服で擦りながら再会の挨拶をする。

 

「再会の挨拶にしちゃ過激じゃね?」

「はあ?」

「あ、いえ……つーかマジかよ。アークの予想は当たりか」

「その兄さんは何処ですか?」

「ああ、もうすぐ来ると思う。ところで、アディちゃんのお胸は成長した?」


 他の人間から見たら凄まじい威圧感を放つアディエルの姿にレオナルドは飄々としている。


「もう一発いきますか?」

「目測では……一ミリメトルは成長してんね」

「よし、殴る」

「……アディ?」


 殴ると言いつつ、脚に力を込めて蹴りの体勢になったアディエルに待ち望んでいた者の声がかかる。

 アディが声の主を見るとそこには無表情ながら若干驚いた様子のアークがいた。


「兄さんっ!」


 その姿を見た瞬間に全てを忘れ、アディエルはアークに抱き着く。


「久しぶりだな」

「……うん」

「泣いてんのか?」

「誰のせいだと思ってるのよ……ばか……兄さんのばか……」


 アディエルはアークの言葉に涙混じりに呟き、抱き着く手により一層の力を込めた。



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