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天上を目指す者  作者: 水平線
第一章
12/19

アークの特技


 それから一行が進むにつれて、殺人猿(キラーエイプ)を始めとして色々な魔獣が目の前に現れた。

 固く長い一本の角を持つ一角兎(ホーンラビット)、赤い体毛の狼である赤狼(レッドウルフ)、巨大な蟻の姿の蟻戦士(アントウォーリア)等色々な魔獣と出会い、戦った。

 そのいずれもまずは、間合いの広いアークが槍で攻撃し、相手に毒を与える。そして効果が表れたところでレオナルドやリヴェイラなどが武器で仕留め、魔導系スキルをいくつか習得しているフレイは後方からの支援や威力の高いスキルで敵を仕留めていった。


「やば、うちらちょー相性良くないですか?」

「ピッタリはまるって感じなんですけど?」


 少女二人がうまく行き過ぎる戦闘に喜びの声をあげる。


「まあ、悪くないかもね。巨乳じゃないからイマイチやる気をどうのこうのしてくれる役割はしてくれないけど」

「勘違いしてんじゃねえよ×××が。あんま調子乗ってると魔獣の餌にすんぞ」


 対して男達、特にアークの反応は冷たい。いや、冷たいのではない。その言葉には無数の棘があるのだ。


「言葉が辛辣過ぎるんですけど?」

「これが噂のツンデレって奴?」

「アークはデレると凄いよ……絶対に逃げられない状況を作ってその人の嫌いな食い物を目の前に置いて、嫌々それを食べる姿を恍惚の表情で見つめてくれるんだぜ?」


 かつて自分が遭遇したアークが妹を可愛がってる姿を思い出しながら話して聞かせる。


「性格悪すぎなんですけど?」

「とゆーかデレてそれですか!?」

「最もデレてる相手にはこうなるんだよ。それからオレレベルに対するデレだと起こしに来たと称してバケツに張った水の中にオレの頭を突っ込むくらいで済む。目を覚まして暴れようともギリギリまで解放されないんだ……しかもアークが笑ってるのが水の中でもわかるんだよな」


 次にレオナルドが語るのは今朝の出来事である。実際こんなことされても友人関係を解消しようとは全くレオナルドは思っていない。ある意味それが当たり前になってしまっているのだ。


「が、頑張って下さい」

「あんたを応援するんですけど?」

「いや、今日のは軽いから単なる笑い話だって」


 哀れに思って励ましたのに軽い調子で返すレオナルドに内心賛辞を送り、少女二人は彼の評価を上げた。そしてアークに対しては仲良くなるのは無理ではないかという思いから少しずつ評価を落としていくのだった。

 だが、アークは戦闘になると一行の中で最も頼りとされていた。

 アークが一番年が下なのだが、命令されると逆らえない。そんな空気になってしまうのだ。


「あれも魔獣か?」


 アークが前方を指差す。そこには大きな花が二輪ちょこちょこと歩き回っている。


「あれは……森林の捕食者(グリーンイーター)だな」

「色が毒々しすぎるんですけど?」


 森林の捕食者(グリーンイーター)の花びらは紫に赤の斑模様をしており、自然界に同じ色合いの物が自生していても絶対摘み取るなんて考えはおきそうになかった。


「部屋に飾りてぇ……」


 アークの言葉に少女二人は一斉にアークの顔を見る。こいつ、やっぱり頭がおかしいといわんばかりの表情だ。


「ダメ。アーク、お兄さんは許しませんよ?」

「わかってるよ。さて……」


 突然アークはバックパックを漁りだす。

そしてバックパックから手を取り出した時には、赤い球のような物を握っていた。


「それは?」

「レオ」


 説明するのが面倒だったのかアークは説明役をレオナルドに丸投げする。レオナルドはそれに仕方ない奴だと思いながら少女達にアークが持つ球の説明をする。


「あれは爆裂玉って言って、中に火薬が詰まっていて起動させてから何かしらの衝撃が伝わると小規模な爆発をおこすんだ」

「ば、爆発ですか?」

「うん。でも爆発範囲はせいぜい半径ニ、三メトルだし、一番安い奴だから威力も低い。ただ、一階層の魔獣くらいだったら爆発に巻き込めば死んじゃうだろうけど」


 それならば爆裂玉をたくさん持ってバベルに入ればいいと誰もが思うだろうが、かつてそれを実行しようとして誤爆し、周囲の者数十名を巻き添えにした者がいたために、一人三つまでと所有制限がかけられている。

 また、購入出来る店もグロリアではアーク達が道具を揃えた雑貨屋のみである。


「んで、アーク。それを使うのか?」

「どんなもんか試したい。あいつら鈍そうだしな」

「そっか、んじゃ見つからんうちに隠れるか」


 すでに物陰に身を潜めていた一行は生い茂る木々の中へと更に身を隠す。

 そして森林の捕食者(グリーンイーター)達に見つからないように静かに近づいていった。


「ここらでいいだろ」


 十分に近づいたと判断したアーク達は立ち止まる。

 そしてアークは手に持っていた爆裂玉を一度強く握りしめる。すると、爆裂玉が赤い光を点滅しだす。

 それをアークは森林の捕食者(グリーンイーター)に向かって投擲した。二匹を巻き込むために定めた狙いは丁度真ん中当たりの地面。

 爆裂玉が地面に触れた瞬間、点滅していた光が一瞬強く輝き、次に轟音とともに訪れた熱を持った風が一行の肌を撫でた。

 爆発があったと思える場所にはすでに何もない。いや、爆発跡には二枚の白い魔晶板が残っている。


「すご……」

「ちょー便利なアイテムなんですけど?」

「ここまでとは思わんかった」


 感嘆の声を上げる三人とは違い、アークはイマイチ不満気な顔をしていたが、やがてその表情を崩すと


「まあ、安物だからこんなもんか」


 と呟いた。

 爆裂玉は一番安い品でさえ、一つでアーク達の部屋の家賃半月分するのだが、そんなことは意に返していなかった。


 そして魔晶板を回収してさらに先へと進む。魔晶板は基本的に全てアークかレオナルドが持っていた。それは全部纏めて回収してから後で換金した時に分配するというアークの提案から決めたことだ。ただ、そこにどんな思惑があるのかアーク以外の者はまだ知る由もなかった。



「うん? ねえ、あれって……」


 しばらく行ったところでリヴェイラがとある物を発見した。

 それは一メトル四方の大きさの木箱。


「宝箱だ」


 レオナルドはそう言うと宝箱へと向けて走っていく。それにアーク以外の二人も続いて行った。


「まさか最初の探索で見つけられるとは運がいいなオレ達」

「早く開けましょう」

「中が気になってしょうがないんですけど?」


 宝箱とはバベルの内部に不定期に現れる文字通りに宝の入った箱だ。どこにいつ現れるかは完全にランダムで、中に入っている品も全く使えない物から実用的な物まで様々な物が入っている。

 これもまたバベルが齎す恵みのひとつであると言われている。


「ちょっと待てよ……うん? 開かない……鍵がかかってやがる」

「嘘っ!?」

「ぐっ……ダメ。持ち上げることすら出来ないんですけど?」


 宝箱はその場から動かすことは出来ない。故に箱のまま持って帰って、バベルの外て解錠することも不可能だ。解錠の技術など持たない少女二人はせっかく出会えた幸運を見逃すしかないのかとすでに諦めムードだ。だが、レオナルドは違った。


「ついにきたか……マエストロっ! 鍵開け会のマエストロ、出番です」


 レオナルドは後ろからゆっくり近づいてきていた少年に呼びかけた。


「マエストロ?」

「どういう意味か気になるんですけど?」

「ふっふっふ……アークはな、故郷の村で妹に声をかけた男の家へと不法侵入すること二十七回の鍵開けの大ベテランなんだ。鍵変えても平気で家に入っていくアークをオレは密かにマエストロと呼んでいるんだ」


 完全に犯罪じゃないかと思いながら、少女達の中のアークの評価がまた一つ下がる。


「マエストロ、お願いします」

「壊しゃいいじゃん」


 めんどくさそうにアークが投げやりに言う。


「つーかバベルの宝箱は壊せないって教えただろ?」

「そうだったか?」

「そうなんだよ」

「んじゃまあ、やりますか」


 そう言ってアークは鎧の中に手を入れて何やらゴソゴソと懐をまさぐると特殊な器具を取り出した。

 そしてそれらを鍵穴に入れてカチャカチャと動かす。

 不意にパキンッと音が鳴ったところでアークはその手を止めた。


「開いたぞ」

「はやっ! 十秒かかってないじゃん」

「こんな単純な構造で時間なんかかかるわけねえだろ。むしろもっと早く出来た」

「有り得ないんですけど?」

「さっすがマエストロ。とゆーことでご開帳〜」


 宝箱の中に入っていたのは鞘に入ったダガーが一丁だけだ。それが何か特殊な力を持っていそうなら問題はないのだが、特に何の力も感じないダガーだ。


「うち、これを武器屋で見た記憶がある。短剣コーナーで一番か二番目にやっすい奴」

「期待ハズレもいいとこなんですけど?」

「う〜ん……期待してしまっただけに流石にこれはへこむな」


 三人の落胆の色は結構大きい。


「じゃあ俺に寄越せ。つーか鍵を開けたのは俺なんだからまず俺に所有権があるだろ」

「ほらよ」


 レオナルドからダガーを渡されアークはそれをしげしげと見てみる。しかし、アークの目にもそれは何の変哲もないものに映る。

 アークは毒の入った瓶をバックパックから取り出し、その毒を刃に塗り込み、また鞘にしまって腰に下げる。


「レオ、今日はもう戻ろう」

「だな。ほら二人共、落ち込まないで立ちな。早くしないと置いてっちゃうよ」


 レオナルドの言葉に少女達も立ち上がり先を歩くアーク達の後ろについて歩いた。





 行きと違って帰りは出会う魔獣の数は少なかった。それでも全くというわけではなく、大体行きの半分くらいのエンカウント率といったところだ。

 しかし、それもあと少しで出口というところで不意にアークが立ち止まる。


「敵か?」


 レオナルドがその背に声をかける。アークはそれに答えずに上を、正確には樹木の上を見ている。そしてその視線は次第に後ろの方へと向かい、停止する。


「ここまでやるのか」


 アークが呟く。そしてアークの視線を追っていたレオナルドもまたそれに気付く。

 見上げた木にはどこを見ても殺人猿(キラーエイプ)がいる。そして道の先には十を超える殺人猿(キラーエイプ)が道を通行止めにし、背後もまた同様に無数の殺人猿(キラーエイプ)によって道が遮られていた。


「ヤバいな……ボス猿のお気に入りの部下でも殺しちまったのかもしれない」

「これじゃ逃げられませんよっ!?」

「死にたくないんですけど?」

「ひの、ふの、みい……目測およそ四十ってとこか」


 アークは恐慌する三人を尻目に冷静にこれからの戦いに対して頭を働かせていくのだった――



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